魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です 作:元掃除道具
①
魔法の森は湿気の影響でキノコがよく採れる。食用に適さない物もあるけど、美味しい物もたくさんあるのだ。
私も魔理沙も、ここに来てからすっかりキノコが大好きになった。
見た目はちょっとグロテスクだけど、料理したら見た目なんて関係ないもんね。
私たちはお肉よりキノコだ! いや、魔理沙はお肉の方が好きかもしれないけど。
「ふんふんふ~ん♪」
魔法の森の中で、瘴気を避けながら籠にどんどんキノコを放り込んでいく。
胸に下げたミニ八卦炉が瘴気を除ける魔法できらきらしていて、薄暗い森の中でもその光が心強い。
「ふう、さーて」
そろそろ籠がいっぱいになってきた。一息ついて水筒からお水を飲む。
独り言が多くなってしまうのは、周囲に人の声がないからだ。
獣も寄り付かない魔法の森は、キノコの瘴気を克服できない生き物にとっては過酷な環境だ。
妖精さえも生まれないからとても静かで、暗闇が濃いから恐怖を紛らわせるために自然と独り言が多くなってしまう。
「……らんらんら~ん♪」
もう慣れたとはいえ、明かりが無いととても怖い。
もう慣れたけど、やっぱり一人でキノコ狩りしていると少しだけ怖い。
がさっと葉が音を立てたのを聞き、思わず飛び上がってそちらを見る。
胸に下げたミニ八卦炉で光を照らすけど、光の中には相変わらず木々とキノコだけ。
「……そろそろ帰るかなー」
たまに、自分の想像で余計に暗闇が怖くなったりする。
例えば大きな茸が人の顔に見えたり、急に動き出したりはしないだろうか、なんて想像したりしてしまう。
「……そんなことないさ~♪ うっそさー♪」
よいしょっと声を出しながら籠を背負い、足早に帰路に就く。
がっさがっさと落ち葉を踏みしめ、帰り道をミニ八卦炉で照らしながらずんずん進む。
「ふ、ふんふんふ~ん♪」
少し息が上がるけど、気にせずどんどん進んでいく。
なんだか、急に後ろが怖くなってきた。
やっぱりさっき、なにかいたんじゃないだろうか。
振り返ったときには私の真後ろで、恐ろしいものが待ち構えているんじゃないだろうか。
「らんらーんら~ん♪」
空を飛べたら早いんだけど、一度ひとりで飛んでいる時に落ちてから、魔理沙の前以外では飛行を禁止されている。
無理して飛んだ私が悪いのだけど、こういう時こそ魔法の力ですぐに家に帰りたい。
「……」
風の音が人の声に聞こえ、足を止める。
ドキドキと心臓が早鐘を打ち、着物の背中がじっとりと汗ばんでいく。
もしかしたら怖い目に遭うかもしれないけど、もし迷い人だったらと思うと、確かめないわけにはいかないのだ。
体調を崩した人か妖怪かもしれない。もしかしたら、私が知っているヒトかもしれない。
「……だ、だれかいるんですかー……?」
ゆっくりと振り返り、八卦炉の明かりを向ける。
相変わらず魔法の森は暗く、静かで。朽ちそうな木々と、野生のキノコばかりが目に映る。
「……な、な~んだだれもいな」
「あの」
「うひぃぃい!!」
「わ、ごめんなさい」
▽▲
私達魔法使いが魔法の森に住んでいるのは、そのキノコの胞子が魔力を高めるのに役に立つからだ。
魔法の森に住んでいるのは、魔理沙と私、それにアリスだけではなく、他にも数人の魔法使いが住んでいるらしい。
らしいというのは、他に誰がいるのかを知らないからだ。
「落ち着いた?」
「……はい」
すっかり腰が抜けてしまった私を、その女の子は椅子みたいに腰かけられる倒木まで肩を貸してくれた。
「あなたも森に住む魔法使いだったのね。よかったわ、迷っている里の人間かと思ったのよ」
「あ、はは……」
曖昧に笑って、水筒のお水を飲む。
灰色のコートに赤いスカーフ、大きな藁の傘を被った女の子だ。
長い黒髪を2つのおさげ髪にして、腰の辺りまで伸ばしている。
笠とスカーフには難しい漢字なのか梵字なのか、読めないよくわからないものが書いてある。
にこにこと優しそうな笑みで、整った顔立ちに豊かな耳たぶが可愛らしい。
「魔理沙に似ているね。あなたが魔理亞?」
「あ、おねえ……姉を知っているんですか?」
どうやら魔理沙の知り合いみたいだ。
まったく見ず知らずの相手ではないとわかり、少しだけ安心する。
「あの魔法人間……魔理沙はちょっと有名人だからね」
「はぁ、そうなんですね。あの」
ちょっと言い淀み、じーっと相手の方を見つめてみる。
うん? と首を傾げる姿は私とあまり大きさも変わらないのだけど、さっきから普通に空を飛んだり物を浮かせたり、きっと見た目通りの年齢ではない魔法使いなのだろうと思う。
「あの……霧雨魔理亞です」
「うん、知っているわよ? ……ああ、なるほど。私は
矢田寺さんというらしいその子は、あまりうまく話せないこちらを気遣ってかすぐに察して自己紹介をしてくれた。
うんうん、と腕を組みながら頷く姿はやっぱり、私とそう変わらない年齢に見える。
「改めて、さっきはごめんね。驚かせるつもりはなかったの、本当よ」
「あ、あの全然、大丈夫なんでそれは、はい。こちらこそ、その、すみませんでした」
しどろもどろになりながら頭を下げると、不思議そうに見られていることに気が付いた。
「やっぱり魔理沙とは全然違うのね。いや、聞いていたけれど実際に見ると不思議な気分」
ほっぺたに手を添えてなんだか所帯じみた仕草をしている成美さんが、改めてじーっとみつめてくる。
う、っとその視線に居心地の悪さを感じると、慌ててまた手をあげて謝って来た。
「キノコ狩りの最中だったの?」
「は、はい。キノコ、好きです。私も魔理沙も、いっぱい食べます」
「ああ、そうよね。うん、いっぱい食べて。うふふ、なんだか本当に不思議。顔は似ているのにねぇ」
微笑ましそうな視線で、やっぱり見た目とは全然違う年上の妖怪っぽさを感じる。
「私もこのあたりに住んでいるから、ご近所さんとして仲良くしてね。あ、私はあなたの事食べないから、安心して!」
力強く胸を叩く成美さんに、私は曖昧に笑って答えるしかできなかった。
▽▲
「あー、魔法地蔵だよ」
家に帰ってから魔理沙に成美さんのことを伝えると、また難しい本を読みながらこちらに視線も上げずに答えた。
「魔法地蔵?」
「あー。地蔵菩薩とか神霊の類じゃないぞ。そこらにある地蔵の一体で石像だな。ゴーレムみたいなものだ」
「ご、ゴーレム……?」
さっきからあまり意味を理解できず、馬鹿みたいに言葉を繰り返すだけになってしまっている。
籠からキノコを取り出して選別しながら思い返してみるけど、成美さんは石像っぽくないと思う。
肩を貸してくれた時に触れた体は柔らかくて、普通の人間と変わらないように感じた。
「魔法使いなんだから石像じゃないけど、あれは地蔵だからなー。そりゃ人間は食わないだろう」
「ふぅん。そうなんだ」
とりあえず納得したフリをして、心の中で『成美さんは安全』と書き留めておく。
「だけど魔法使いだからなー。人間のことなんてなんとも思ってないぜ」
「えぇえ、そうなんだ」
すぐ付け加えられたので、総じて『魔法使いはこわい』としておく。
「お姉ちゃんも、魔法使いじゃないの?」
「あー? 私はほら、人間の魔法使いだから」
視線をあげた魔理沙が、こちらをちらりと見てまた本に目を戻す。
「家族にはしっかりと情がある魔法使いさ」
「ほんとかなー。それなら、頑張って取って来たキノコの選別を手伝ってほしいなー」
「……その中でも、特に妹に甘い魔法使いさ」
言ってひょいっと指先で何か書くように動かすと、選別前のキノコが空中でフワフワと動いた。
何個かポポポっと光ると、魔理沙の机にすーっと動いていく。
「うん、これは魔法効果が高いキノコたち。あとは知らん。頑張れよ魔理亞」
「もーっ! 全然甘くないじゃん!」
結局、毒があるかの選別は手伝ってくれないのだった。
もちろん採取するときに毒キノコは避けているけど、中には食用そっくりの毒キノコもあるからしっかり選別しないといけないのに。
「毒キノコ食べても知らないよ?」
「妹の盛った毒なら皿まで食うのが姉の役目だぜ」
「怖い事言うなぁ……」
冗談を言い合って、すこし笑う。
魔理沙もふふっと微笑んだ後に、そうだ、ともう一度こちら見ながら声を掛けてきた。
「また霊夢がごはん作りに来いってさ」
「え? 別に、いつでも作りに行くけど」
「あー。ほら、あいつもあれで忙しいからさ。丁度今くらいがいい時期なんじゃないか?」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ今日にでも、さっそく行こうかな」
「あー……。いや、今日はダメだ。私が忙しい」
目線を逸らしながら魔理沙がまた本に向き直り、完全に顔を隠されてしまう。
む、とすこし意地になり、ぽいっとキノコを放って魔理沙にずいずいっと近づいていく。
「別に、魔理沙が忙しくても私は大丈夫なんだけど!」
「魔理亞が大丈夫でも関係ないだろ。あと、お姉ちゃんって言えよな」
本で顔を隠した魔理沙が、不満げに口をへの字にしながらこちらを見もしないで否定してくる。
いよいよ意地になった私は、魔理沙が座る椅子へ無理やり一緒に腰かけてグッと迫った。
「私も、そろそろひとりで空を飛べると思わない?」
「思わない。いいからキノコの選別でもしてろって」
「もー! 絶対大丈夫だって! もし危なくなっても、神社の方だったら霊夢が助けてくれ」
「だめだ」
ぐっと腕を掴まれて引き寄せられる。
「お前は危ない目に遭うな」
真剣な目で、じっと見つめられる。
▽▲
箒で空を飛ぶことが出来るようになったころ、私は一度箒から落ちたことがある。
空を飛ぶのが楽しくて、自分の魔力の限界をまだ把握できていなかった頃だ。
「すごいよお姉ちゃん! そらがこんなにちか」
ぐるんっと目が上を向いたことは、なんとなく感覚としてわかった。
ふっと意識を手放して、次に目を覚ました時には霊夢と魔理沙が覗き込んでいた。
ポロポロと大粒の涙を流す魔理沙に、泣き止んで欲しくて笑いかけたことを覚えている。
だけど肩がやけに熱くて、顔が歪んで上手く笑えなかった。
――体は治る。だけどその時に負った傷は思ったよりも根深くて、私は未だにひとりで空を飛ぶことが出来ない。
▽▲
「お前は危ない目に遭うな」
真剣な表情の魔理沙が、じっと私を心配しながら腕を掴んでいる。
純粋に私の身を案じる、姉の視線の前に私は言葉を失くしてしまった。
私が箒から落ちて、もう結構な時間が経っている。
魔理沙の傍であれば一緒に飛ぶことを許されて、少しづつ慣れてきた、はずだ。
だけど姉は、私以上にあの時の事を気にしている。
「……わかったよ、もちろん無茶なことはしないってば!」
腕を掴まれたまま、努めて明るい声で気にしていないと装う。
「お姉ちゃんが大丈夫そうって思うまで、私は1人で飛ばないよ!」
心に昏い悦びが広がっていく。
私は自由に空を飛ぶことが出来ないけれど、姉はなによりもそれを気に掛けてくれている。
いけないことだ。この人を縛り付けているみたいで、私に拘らせているみたいで。
だけど、それでも魔理沙が私を心から心配するたびに、私の心は喜びを覚えずにいられないのだ。
ぎりっと掴まれた腕が僅かに痛みを訴える。
服の下で、きっと気が付かれないだろうけど、それは痕を残すだろう。
魔法の才能に恵まれた姉と違い、普通の人間である私は体も弱く、うまく全身に魔力を巡らせることもできない。
強く掴んだ。その程度の事が、青黒い痕になって刻まれていく。
「……っ! わ、悪い! 大丈夫か?」
表情に出てしまったのか、魔理沙は慌てて腕を離すと掴んでいた腕を擦りだす。
だけど気が付かれてはいけない。魔理沙の妹なのだから、きっとそのうちうまく魔力を使えるはずだ。こういう接触でも怪我なんてしないで、平気になっていくはずだから。
遠慮なんてしてほしくない私は、痛みを無視して笑みを浮かべる。
「もー、そんなに強く掴んだら痛いよ! わかったから! じゃあ、いつなら神社に行けるの?」
ほっと安心した顔の魔理沙を見て、ひそかに浮かんだ脂汗を隠すように首をフルフルと振った。
長い前髪の隙間から、こちらの表情を伺えないように作った防壁で今日も私は平気なふりを続けていく。
魔理亞ちゃんのイメージは、魔理沙にそっくりだけど
・前髪長め
・三つ編み無し
・多分地味目な服
くらいしか考えてません。
※転生主は天空璋を知りません。