魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です 作:元掃除道具
博麗神社はいつもと変わらない不思議な賑やかさで、今日も妖精や妖怪が居座っていた。
人間の里ではその様子を指して『妖怪神社』なんて呼ばれている。巫女として霊夢も少しは気に掛けているのに、本人のやる気のなさで特に対策もせず、今では山の神様に随分信仰を取られている始末だ。
それでも不思議な居心地の良さを作っているのは霊夢本人の人徳の為せる業か。
「おーい、霊夢ー! 来たぜー!」
ふらーっと飛んで適当に声を掛けて石畳に降り立つと、箒を手に適当に掃除をしていた霊夢が「なんだ、魔理沙か」と小さく呟いてまた興味なさげに掃除を続けている。
良いのかな、そんな態度で!
相変わらずの様子に、こちらはちょっと得意げになって胸を張る。
「なんだとはご挨拶だなぁ。ちょっと良い酒が手に入ったんだ、付き合えよ!」
言って、魔法で拡張したスカートのポケットからずるーっと取り出したるは一升瓶。
件の山の神様が『幻想郷には本物の日本酒がない』だなんて言っているのを聞き、それじゃあ外にはさぞや立派な酒があるんだろうと、蔵に忍び込んで数本拝借して来たのだ。
「あら気が利くお土産。どうしたのよ?」
「ちょっと山の神様に本物の日本酒ってやつを教えてもらいたくてな。借りて来たんだ」
「いいわね、たしか戸棚に乾物が」
「やったぜ!」
さすが話の分かるやつ。
手に入れた経緯を言っても変わらない霊夢は、いそいそと箒を仕舞って縁側から母屋に入っていく。
私もその後をついて行き、適当に靴を放り投げて縁側から廊下に上がる。
縁側には黒猫のお燐が丸くなっていて、よおっと声を掛けると猫のまま欠伸で返事が返ってきた。
「へえ、偶には地上に来てみるもんだな。お酒と聞いちゃあ黙ってられないよ」
風がつむじを巻き、中心で右手をあげながらいつの間にか酔いどれの鬼なんかもやって来た。
コソコソと木の陰からこちらを伺う3妖精なんかもいて、やっぱり一升じゃ足りないよなと、数本借りてきた先見を褒めたい気持ちだ。
「おい魔理沙。持っていくのは構わんが、吞むのなら私も混ぜろ」
奥の分社から、いそいそとこちらに来る件の山の神、神奈子も。
別に酒を拝借したことを怒っている様子じゃないので、どうも本命はもっと奥にあったのかも。
掴まされたのは安い酒なのかもしれない。ちぇっ。
「あら、コップ足りないじゃない」
霊夢が戻ってくる頃には燐も人の形になり、神奈子を追って来たのか早苗まで。
「いつものことだなぁ」
気が付けば宴会を開く様な規模だ。
あっという間に人妖問わず集まり、好き勝手に寛ぎながら手前で呑んでいる奴なんかもいる。
「まったく。あ、誰か肴持ってきなさいよ! 人間も食べられるやつ!」
▽▲
「なんだお前、妹なんかいたのか」
「あー、言ってなかったか?」
「聞いてないぞ。しかしお前、そんなんで姉なのか、恐れ入ったなぁ」
「どーいう意味だ!」
宵も暮れはじめ、空は暗く鬼火の明かりが一層博麗神社を妖怪神社らしくしていく頃。
霊夢と話していた私の後ろから、萃香が酒臭い息を吐き出して寄り掛かってくる。
「だって、お前に似た妹なんだろう? 手癖の悪い奴が、ふたりもいるなんてなぁ」
「うるせー。妹は、見た目は似てるけど私とは全然違うっての!」
「はーん? 嘘じゃなさそうだなぁ」
「あはは! 確かにだいぶ違うわねえ!」
意図的にではないが、なんとなく妖怪たちには妹の話をしていなかった。
それは聞かれないから言っていないというだけで、深い意味があるものじゃないのだけれど。
酒が入って上機嫌な霊夢がケラケラと笑って私の肩をバシバシと叩く。
「霊夢は会ったことあるのか? なあ、どんな妹なんだ? というか、こいつ妹の前だとどうなるんだ?」
萃香が良い肴を見つけたと、話の深堀をしてくるのは単純な興味からだろう。
あまり良い気がしないのは、コイツが人攫いの鬼だからだろうか。
「うるせーなぁ、普通だよ!」
「あはははは!」
私が大声を出し、霊夢がその様子をみてげらげらと笑う。
萃香はおおう、と少し怯んだ様子で小さく「おいおい、ムキになるなよ」なんて言っている。
「萃香、魔理沙は妹の事で揶揄ったら面倒くさいわよ」
「うーん、揶揄うつもりはなかったんだがこれは虎の尾だったか? しかし、これでコイツひとの姉なのかよ」
「なんだ、妹がいる? 魔理沙に?」
「ああ、面倒な奴が増えたぜ」
やいのやいのと声を掛けてくるのは神奈子だ。
肘でこちらを突きながら、おう聞かせろよと絡んでくる。
「私、見たことあるわよ! 魔法の森でキノコを採ってたわ!」
サニーミルクが、はい! っと手をあげてそれに応じる。
「神社の木に住む前は、私達も結構遊んでたわね! 魔理沙だと思ったんだけど、全然違う人間で! こっちが驚かされたわ」
「そうねー。臆病で弱くて、うふふ、とっても感情豊かな人間だったわねぇ」
ルナチャイルドとスターサファイアも同じように口々に勝手なことを言い、それを聞いていた早苗がへえー! っと声を漏らす。
「知らなかったなー。魔理沙さんに見た目は似ているの?」
「ええ、そっくり!」
「だけど、ちょっと前髪を長くして顔を隠しているのかな?」
「見た目だけで、あっちはものすごい弱気ねー」
「ふぅん、あたいも見てみていなぁ」
口々に勝手なことを言うやつらを放置して、升に入れた酒をぐいーっと飲み干す。
言うだけあって、外の世界の酒は幻想郷で飲む酒よりもずっと飲みやすく、確かに美味い。
神奈子の蘊蓄を聞き流しながら上機嫌な霊夢に寄り掛かると、酒臭い息を吐きながら「なによ」なんて文句を言うので、こちらも「なんだよ」と、つい喧嘩腰になる。
「まってください! 喧嘩はダメですよっ」
ふわふわの緑の髪が、私と霊夢の間に割って入るように仲裁してくる。
一本角が無遠慮に突き出されて、私と霊夢は慌てて飛び退く。危うく角が突き刺さりそうだった。
「霊夢さん、魔理沙さんは魔理亞ちゃんのことを話したくなかったんですよっ! だから勝手に話されて、ちょっとご機嫌斜めなんですね」
「あぶないなぁ! 突き刺す気かよっ!」
「なによ。言ってほしくないなんて言われてないから、わからないじゃない!」
あうんの奴が霊夢を宥めるのに反発してしまったが、そうか私は妹の話を他の奴にしたくなかったのか、と冷静に受け止めている自分もいる。
「わかるじゃないですか! 魔理沙さんったら、魔理亞ちゃんのことすっごく可愛い可愛いってしてますもん!」
へぇ~! と重なる音声が大きくなり、霊夢と揃って耳を塞ぐ羽目になった。
▽▲
夏に起こった四季異変からしばらく後の、まだ朝夕だけがじんわりと寒いような季節の節目の頃でしょうか。
例の如く異変解決を成し遂げた霊夢さんたちはしばらくの間大人しく、思い出したようにまた騒がしくなりました。
お夕飯を掛けて弾幕ごっこを行い、魔理沙さんが負けた次の日に、その人が来たのです。
「あ、あの、妹の魔理亞です。……狛犬なんていたんだね、知らなかったなぁ」
「私も知らなかったのよねぇ。勝手に棲みついてたのよこいつ」
「えぇ……。本当に神社の狛犬なんだよね?」
「もちろんですよっ! 霊夢さんがいない間に神社を守っていたり、大活躍なんですからっ!」
魔理沙さんにそっくりなのは顔だけで、魔理沙さんに比べて地味な装いだなーと思いました。
その顔も前髪を長くして半分隠すようにしていたので、失礼ですがより一層、なんだか暗い人間だなーと思ったことも覚えています。
「霊夢、ひさしぶり。なんか、少し痩せた? もしかしてあんまり食べてない?」
「別にそんなことは無いけど、心配ならもっと頻繁にごはん作りに来ても良いのよ」
「うん。お姉ちゃんに頼んでみようかなあ」
「駄目だ。頻繁にうちの外に出るのは危ないし、ここは妖怪神社なんだぜ?」
「あんたも頻繁に来るくせに、難癖付けないで貰える? 言っとくけど、あんたもうちの治安を乱す妖怪みたいなもんだからね」
「なんだと?」
「なによ文句?」
霊夢さん相手には普通にお話しされるので、いわゆる人見知りなのかと納得しました。
前の日に霊夢さんが人払いをしていたのはこの人に配慮していたんだなぁなんて、意外と心遣いのできる霊夢さんに少し驚きもして。
「その、
「あうんって呼んでください、魔理亞さんも!」
「あ、あうんさん……」
「私、敬称なんていりませんよ! ふつうに呼んでくれたら嬉しいですっ」
「じゃ、じゃあ……あうんちゃん」
「はいっ!」
「……ふふっ。あうんちゃん」
お夕飯を作りに来てくれたというその人は、すこし話をしていくなかで魔理沙さんとは色々な部分が違うんだなぁと思ったのを覚えています。
「魔理亞さんは弾幕ごっこしないんですか?」
「あー、あはは。私、ひとりで空飛べないから」
そういえば来るときも魔理沙さんの箒の後ろに乗って来ていたなと思い出し、もしかして何か事情があるのかと、それ以上は聞かないようにしました。
ごはんの支度をしている間に霊夢さんと魔理沙さんは外で弾幕ごっこをしていたので、私は魔理亞ちゃんのお手伝いをしていたのです。
「あうんちゃんも弾幕ごっこできるの?」
「もちろんですっ。あまり上手じゃないですけど、神社を守護する狛犬ですからね!」
「へえ、すごいなぁ。……全然知らなかった」
私の事を最初は不思議そうに見ていたので、そもそもあまり妖怪や神霊を見たことがないのかもと思いました。
魔理沙さんの妹と聞いていたので、もっと破天荒な人なのかと思ったのに、全然印象が違いますよね。
そのうち慣れて来てくれたのか、どんどんお話ししてくれるようになっていったのが心を開いてくれたみたいで嬉しかったです。
私も神霊ですからね、多少人間の信仰心というか、心の機微を感じとる力はあります。
そう、魔理亞ちゃんから感じたのは……。私の事を少し怖がっているのかな、という感じ。ですがすぐに、こっちが恥ずかしくなるくらい私に対して好意を抱いているのを感じました。
えへへ、そうです。人気者なんです!
「あまり妖怪とかを見たことがないんですか?」
「う、うん。魔法の森に住んでるから。色々見てみたいんだけど、おねえちゃんが、危ないから少し自衛を覚えてからにしようなって言ってくれてて」
照れ臭そうに笑って、魔理沙さんのことも話してくださいました。
魔理沙さんのことも本当に大事そうに大事そうに、そりゃあもう宝物をこっそり見せる子女のように話されるので、聞いているこちらが照れてしまいます。
「お姉さんに大事にされているんですね」
と、私が少しからかい目的で声を掛けると。
「うんっ! 大事!」
ときらきらの笑顔で返されたときは羨ましく思ったものです。
私は神聖なものを守護する神霊ですから、こう、むくむくっと守護欲といいますか。
え、いえ。
別に不埒な思いはありませんよ、魔理沙さんや霊夢さんとは違います!
あ、これは言葉の綾というものです!
とにかく、箱入りのお嬢さんだなあという印象ですね。
暫くはそうしてお話をしながらごはんの準備をしました。
そうそう、そういえば大きな犬を触りたいという話も聞いたんです。
確か、狛犬は玉ねぎを食べることが出来るのか、とか。そういう文脈で話をしていた時に。
少し前には魔法の森に大きな犬がいて、怖い犬だけど優しかった、触らせてくれた、みたいな話を聞いた時だったと思います。
「仕方ありませんねぇ。それじゃあ、どうぞ!」
と私が頭を差し出しても、戸惑われてしまってこっちが戸惑い返しました。
だって、犬を触りたいっていったから頭を差し出したのに、不思議ですよね?
「えっと……撫でても良いの?」
「はい! もちろんです!」
あ、もちろんごはんの準備が終わって、あとはおふたりの弾幕ごっこが終わるのを待っている時間ですよ。
手も洗って、お茶を淹れて、ゆったりしていたので今かと思い差し出しました。
「うわぁ、もふもふっ」
「うふふ、はい! 自慢の毛並みです!」
そーっと差し出す手は恐る恐ると言った感じで、優しく触れてくるのでこちらから頭を擦り付けました。
感動しているような声を出してナデナデされるので、私も嬉しくて。
段々遠慮しなくなってくると、手漉きで毛並みを整えたり、無意識なのか鼻歌を口ずさんだり。
あまり長く生きていませんが、心地良さで意識がまどろむまで撫でられたのは初めてでした。
すぐにおふたりの弾幕ごっこが終わってしまい残念に思ったものです。また撫でてもらいたいですね!
▽▲
「へぇ。そりゃあ確かに魔理沙とは全然違うなぁ」
「おい、不埒な思いってどういうことだ?」
「狛犬を撫でるとは豪胆……いや、こいつが変なだけか?」
酒が入り宴もたけなわ、やいのやいのとあうんの話に鬼や神が興味を示している頃。
その話題の妹は、魔法の森に住む魔女アリスの家で静かなお茶会を楽しんでいたとか。
※転生主は天空璋を知りません。
あうんちゃんの話はもう少しだけ続きます。
週一更新予定、もしかしたらもう少し早いかも?