魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です 作:元掃除道具
魔法の森にある洋風の小さな一軒家。ファンシーで可愛らしい見た目のそこは人形使い、アリスの住む家だ。
私達が住む家と同じくらい周囲は明るく、瘴気が取り払われた明るい陽光を受けるその場所は、森の中にありながらも外と変わらない環境が保たれている。
家の裏手では人形たちが畑を耕し、自家製の野菜や小麦を育てていて、中にはお茶の葉なんかも。
柵に囲われた小さな畜舎もあるのに、匂いがしないのも魔法のおかげだ。
環境を魔法で整え、修練をしながら嗜好品を作り出すのは只の趣味らしい。
「それじゃ、確認してみましょうか」
「お、お願いします」
私達が魔法の森に住んでからずっとお世話になっている魔法使いで、色とりどりの魔法を使いこなす本物の、種族としての魔法使い。
「……どうでしょう?」
恩人であり、先生でもある。
まさに魔女! といったような大きな釜を使った実験だとかを好む魔理沙とは違って、まずは理論の構築、それから実験をするアリスは流石都会派だ。
「うん、いい出来だわ。ホント、姉とは違って優秀ねぇ」
まあ、魔法の才能が悲しいくらいしかない私にとっては、お料理や家事全般の先生なのだけど。
実家では引きこもり生活が長く、碌に生活能力の無かった私が人並みに色々なことを熟せるようになったのはアリスのおかげなのだ。
「えへ、よかった。上海ちゃん、お手伝いありがとう」
傍に浮いてお手伝いをしてくれていた上海人形にお礼を言うと、両手をあげて答えてくれる。
本当にアリスが操っているのか、偶に疑ってしまう位生き生きとした動きが可愛らしい。もしかしたらもう自律的に動いているのかも。
私が縫い上げた刺繍を確認しながら、「魔理亞はこっち方面で生きていけるわね」なんて言ってくれる。
白いハンカチに名前と花柄。大きな装飾ではないけど、初めてにしては中々うまくいっているんじゃないだろうか。ひと針ひと針に時間が掛かり、これを人形たちに縫い上げさせているアリスの器用さは流石人間離れしている。
カーテンやテーブルクロスに施された刺繍を見て、いつかできたらいいなぁと益々尊敬。
「疲れたでしょう、お茶にしましょうか」
「うん。あ! 魔理沙のご飯を作りに戻らないといけないから、暗くなる前には戻らないと、なんだけど」
「どうせ今頃は神社で酒盛りしてるんでしょう? 構わなくていいのよ」
魔理沙はよく博麗神社の宴会に出かける。妖怪たちが参加するそれは結構危ないみたいだ。
私も参加してみたいのだけど、まだ自衛することも儘ならないので、せめて弾幕ごっこで並みの妖怪に勝てるくらいにはならないと。
それと、そもそもあまりお酒が好きではない私が行っても、あまり楽しめないらしい。
「この前、山の神様からお酒を貰ってくるって息巻いてたからなあ。どうせ呑んで帰ってくるだろうけど、飲み会の後はお腹減るって言ってたし」
「適当なものでいいでしょ、そんなやつ」
「う、でも、可哀そうじゃない?」
「全然。……はぁ。それじゃあ私がお土産を持たせてあげるから、夕飯くらいは付き合いなさい」
「あ、ありがとう! うふふ、アリスのご飯好きだよ」
こういうとき、アリスが優しいのを私は知っている。
実は私や魔理沙の事を気に掛けてくれているのだ、その人となりを知っている私は素直にその好意に甘えさせてもらうのだ。
「そう。まあ私にとっては娯楽なのだけど、褒められて悪い気はしないわね」
「ねえ、今日は何を作ってくれるの? なにか、お手伝いしようか?」
「魔理亞が採って来たキノコがあるから、それでシチューにする? それか、ピザを焼いてもいいわね」
「やったぁ! 魔理沙はお米派だから、普段はパンを食べないんだ。だからアリスの家で食べるパンは楽しみだなぁ」
「……ふふっ」
捨食の術を会得しているアリスにとって食事は必需品ではなく、あくまで嗜好品や習慣のものでしかないのだ。だけどその趣味はアリスの人間味を増していて、一緒に食事をするのはとても楽しい。
上海人形が私のと自分のエプロンを取って来てくれて、一緒に着ける。
髪紐を貸してもらったのでそれで後ろに縛って準備をしていると、先にキッチンへ向かったアリスがひょいっと顔を出してこちらを見て笑った。
「いつでもうちに来たら良いわ。上海達もあなたの事を気に入っているし、人間ひとりの世話くらい私にとっては負担じゃないのだし」
「うーん、でも甘やかされ過ぎたら、独り立ちできないし」
「大丈夫よ。私、お人形の飾り付けとか結構好きなのよね」
「え、どういうこと?」
「だから、大丈夫よ」
時々アリスは私と会話の速度が一緒じゃない気がする。
そういう時はふぅん? と適当に頷いて、まあ、そういうときが来たらね、と曖昧に濁すのだ。
▽▲
神社では夕暮れ、陽が沈み、薄暗くなる境内に鬼火が灯っていた。
「なぁ、あうん。妹の様子はわかったが、魔理沙のやつが妹に甘々だっていうのはまだ聞いてないぞ」
饒舌に語る狛犬のあうんに、鬼の萃香が空いた盃を振りながら、ふと気が付いたと声をあげる。
「そうだなぁ、そこが面白い所だろうに」
「まあまあ、神奈子様。順を追って聞いていきましょうよ」
山の神、神奈子が囃し立て、風祝の早苗がそれを宥める。
酒の入った宴会ではよくあることだが、じっと人の話なんて聞いていられないもの達はすでに最初の頃程の興味を失くしていた。
あうんの周りにはすでにこの3人だけが、続きを聞かせろと催促してくる。
あうん自身はあまり関りのない妖怪たちだったが、気持ちよく話が出来ているのは聞き上手な皆のおかげだ。
それに普段はあまり呑まない自身が、勧められるままについついお酒を口に運んでしまうのは、無限に酒を注いでくる鬼のせいでもある。
ちらりと霊夢と魔理沙の方を見て、こちらに気が付いていない様子ならつい口を滑らせても問題ないか、と思ってしまうのは、仕方のない事なのだ。
▽▲
はい、ええと。
そうですね、魔理亞ちゃんを可愛い可愛いってしている魔理沙さんの話ですよね。
これは霊夢さんにもすこし掛かってくるのですが、それではその先の話もしますね。
「あ、終わったんだ」
「おう! まあ2連勝なんて早々されないぜ。これでまた勝率は五分五分だな」
「ちぇっ。なんでそこらの妖怪よりも強いんだか」
私はゆったり撫でられてまどろんでいました。
はっと意識を取り戻した時には丁度おふたりが弾幕ごっこを終えて、居間に戻ってくる時の事です。
「おいあうん! どけどけ、なにをひとの妹の膝で、呑気にしているんだお前」
魔理沙さんが乱暴に私の首根っこを掴んでぽいっと廊下に放り、それで一気に意識を取り戻しました。
「あ、あうんちゃ……! だめだよ魔理沙」
「うっ。乱暴って言っても、こいつ犬猫じゃないんだから全然平気だって」
「それでもダメだってば。魔理沙が乱暴にするの、見たくないよ」
「わ、悪い悪い。気を付けるって!」
そんなやりとりが聞こえ、本当に少しも痛くなかったのですぐに立ち上がると魔理沙さんに恨めしそうな目で見られました。
魔理沙さんったら、妹の前ではきちんという事を聞くんです。
なんだか姉妹というよりも、そういう力関係と言うんでしょうか。それが姉妹というより、なんというか別の形といいますか。まあ親密な様子ですけど、不思議に思った覚えがあります。夫婦っぽいなぁと。はい。
「なにしてんのよ、さっさと手でも洗ってきなさい。魔理亞、今日のご飯は?」
「炊き込みご飯と、沢で取れたお魚、あとはお野菜の煮物だよ。すこし牡丹肉も入っていてね、これ肉じゃがって言うんだけど、玉ねぎと人参も美味しいよ。あんまり豪華じゃないけど、だんだんお料理もできるようになってるでしょ?」
「まだ食べてないから、わかんないわ」
こちらも気のせいかもしれませんが、普段の霊夢さんより少しだけ刺々しくないというか。
すこし柔らかい雰囲気を感じまして。
だって、普段なら「まあまあね」って適当に言うだけじゃないですか。
「どうしたの、あうん? 変な顔して」
「あ、いえいえ! 全然変な顔なんてしてないですよっ。私も手伝ったんですよ霊夢さん!」
「ふぅん。こいつ、邪魔じゃなかった?」
なんて失礼な!
魔理亞ちゃんに霊夢さんがそう言って私を指し示すと、魔理亞ちゃんは「ううん、助かったよ」と嬉しそうにはにかみます。
私は勝ち誇って胸を張ると、調子に乗るなと霊夢さんには冷たく言われてしまいました。
食事は穏やかに進み、魔理亞ちゃんが何度もお代わりを聞いてくるので、霊夢さんは普段よりたくさん食べていたような気がします。
「なんか、普段家で作るより手が込んでないか?」
「そんなことないよっ。あ、でも今日はあうんちゃんが手伝ってくれたから、いつもより美味しいのかも?」
「えっへんっ! そうなんです、お手伝い頑張ったんですからっ!」
「すっかり炊事が上手になったわねぇ。これは教える人が上手かったんだわ」
「えへへ、最初に教えてくれた霊夢のお陰かも」
ふうっと一息ついてから、魔理亞ちゃんがお茶を淹れに土間へ向かいました。
「ふぅ~、すっかり食べ過ぎたぜ!」
「あー、毎日勝手にごはんが出てくるあんたが羨ましいわぁ」
「わははっ! 持つべきものは妹だなぁ」
ごろりとそのまま、おふたりが畳に転がります。
私も魔理亞ちゃんのあとを付いて土間に向かいましたが、声は耳に入ってきました。
「魔理亞だけうちに住んでくれないかしら?」
「こんな妖怪神社に妹はやれんなぁ」
「あんたの家も大概魔境よ」
「うちはいいんだよ、私が守ってやれるんだから」
魔理沙さんは大事にしているんだなぁと、人間同士の情の深さにほっこりしながら土間に入ると、お湯を沸かしながら魔理亞ちゃんがこちらに振り返ってまた笑いかけてきます。
「あうんちゃんも休んでて良いんだよ?」
「いえいえっ。お手伝いしますよ、魔理亞さん」
「あ、そうだ。その……私も、敬称とかいらないよ」
「え?」
「だって、魔理亞“さん”ってなんか変だもん。私も、普通に呼んで欲しいなぁ」
多分、ずっと気にしていたのを「そうだ」なんて、今更気になりました~みたいに取り繕って言ったんだと思います。
だって、ちらちらと足元を見ながらこちらの様子を伺う姿は、なんだかすごく勇気を振り絞っている様子でしたから。
「えぇっと、じゃあ……魔理亞ちゃんっ!」
「う、うんっ! うふふ、あうんちゃん!」
「魔理亞ちゃん!」
「あうんちゃん!」
暫くそんな様子ではしゃぎまして。え? いらない? そうですか。それは失礼しました。
ええと、ちがうんです。ここで言いたいのって、イチャイチャしているとかそう言う事じゃなくて……。
そう、不思議な魅力があるんですね。私も神霊の端くれ、人間の『畏れ』とか『恐れ』、『信仰』などは感じ取れます。
で、ですね。魔理亞さんって、少し不思議だなぁって。
これは見た方が早いんですけど『好意』があるんですよ!
こちらの存在を信じて疑わず、能力や異能を恐れ敬い、そして間違いなく好意を抱いているんです。
とにかく、不思議なんですっ!
「お茶淹れて来たよ。これ、緑茶じゃなくて薬草茶だけど」
「なんの匂いだ……。カモミール?」
「すごい、よくわかるね。消化に良いらしいんだけど、あんまり美味しくないかも」
湯気を立てる湯飲みからは爽やかなお花の香。
普段とは違う匂いに、どれどれと飲んだみんなの顔が強張りました。
酸味、苦み。匂いくらいの甘さを想像していた私達に襲い来るそれら、私と霊夢さんは言葉を失くしてしまったと思います。
おそらく、想定していたものとは違ったのでしょう。
「……う、お、美味しくないね……。ごめんね、か、片付ける……」
魔理亞ちゃんも苦そうに顔を歪めて、恥ずかしそうに茶器を下げようとしました。
「おい勝手に下げるな。まだ飲んでるだろ」
それを魔理沙さんが制止しました。
「うぅ、でも、美味しくないよ」
「あー? 確かに苦いな、魔法薬みたいな味だ」
「だ、だよね。ごめん、片付けるから湯飲み出して」
「なんだと?」
ぐいーっと、熱いだろうお茶を一気に飲み干して魔理沙さんは平然とした顔で、急須に入っているお茶を全部湯飲みに入れました。
「妹が作ったものを残す姉がいるかよ。私の役目だ、特権だ。飲みたくないなら飲むなよな。全部私のものだぜ」
▽▲
「きゃ~! なんだか情熱的ぃっ!!」
「ですよねっ! その、なんというか、女性に言うのが正しいのかわかりませんけどっ!
早苗が顔を隠しながら頬に手をあて、いやんいやんと身をくねらせる。
同じように顔を赤くしているあうんが熱弁し、ふたりは一頻りはしゃいで酒を呑み、能天気に笑った。
「あはははっ! そりゃあ確かに、可愛がっているのがよくわかる話だなぁ!」
話に満足しながら萃香が笑い、腕を組みながら考え事をしている山の神、神奈子の肩に手を回す。
「なあおい、神奈子。そんなに気になるなら、実際に会えば良いじゃないか」
「そうは言うがな。魔理沙のその過保護を振り切って普通に会うのにも、なかなか骨が折れるというか」
「なぁんだ、そんなこと? あはは、私たちがなにを遠慮する必要があるんだって」
酒臭い息を吐き出し、すっかり萃香もその『魔理亞』に会って見てみたいと、より正確には『魔理亞を前にした魔理沙』を見てみたいと思ってしまった。
「なぁ山の神。最近私達って、大人しすぎるんじゃないか?」
「ほう、それはなにか。なにか企みでも?」
「いぃや! ない!」
「ないんだよなぁ。そうだよなぁ」
「だけど、まだ暴れたいやつらがいるだろう?」
目立ちたがりな秘神。天界の暇人。最弱の逆襲者。永遠の有閑人。
ぱっと上げるだけで乗ってくるやつらがゴロゴロといる。
「やりたいと思ったことを、どうして遠慮する必要がある?」
萃香は、もうすっかりすべて知った気になっていた幻想郷の、身近なところから現れた謎の存在に好奇心を刺激されていた。
「おい鬼」
対して、秩序を担う人間の守護者の側面も持った山の神。
神奈子はなみなみと注がれた酒の入った升を、かっと一息で飲み干して萃香を睨みつけた。
「良いこと言うなぁお前」
にっと笑みを浮かべ、差し出された手をぐっと握る。
「最近、祭りが足りないと思っていたんだよ」
ふたり、がははと笑い酒を交わす。
この様子は、静かにじっと見つめていた火焔猫燐によって地底にも齎されることになる。
ギリ週一投稿を守った!