魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です   作:元掃除道具

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 人間の里のはずれに命蓮寺というお寺がある。私たちが人間の里に住んでいた頃にはなかったのだけど、魔理沙たちが異変を解決していく中で『(ひじり)白蓮(びゃくれん)』という聖人が復活し、その復活のために魔界へ向かった宝船がお寺になった。

 宝船が空を飛んでいる時は壮観だったようだ。人間の里でも宝船が寺になったということで、ありがたい徳のある建物として縁起物を好む町人たちが信仰している。

 

 私はその宝船が飛んでいる姿は見たことがないので、今のお寺も好きだけど一度は見てみたかった。

 家の周辺には厳重に結界が施してあって、船が飛んでいる時に家の周りでは何も見えなかった。すべて終わった後に宝探しをしたという魔理沙から話を聞いた時は、残念な気持ちになったのを覚えている。

 

 その命蓮寺の住職、白蓮さんは私のイメージしているお坊さんとは見た目が全然違うお方だ。

 毛先に向けて色が抜けていく不思議な髪色の女性で、頭頂部の青みがかった紫の髪と毛先の白っぽい茶色で全く違う色に変わっていく。

 西洋のドレスのような服装も住職らしくない感じがするけれど、この人にはよく似合っていてとても自然に見える。

 建物の雰囲気も、周りの妖怪たちの修行風景も全部この人が作り出している。だからか、奇抜にも思える服装や髪の色に違和感を感じることはない。

 

 多分私がイメージしているお坊さんっていうのは前世知識なのかもしれない。そもそも幻想郷にはお坊さんなんていないし、本で読んだこともないのだから。

 

「魔理亞、不便はありませんか?」

 

 朝、廊下の拭き掃除をしていた私に、ニコニコと笑みを浮かべた白蓮様が話し掛けてくる。

 私は慌てて姿勢を正しながら服装に乱れがないか確認し、失礼にならないように緊張しながら言葉を探した。

 

「え、ええ。とても良くして頂いています。あ、ありがとうございます白蓮様」

 

 客人だからと最初は何もさせてもらえなかったのだけれど、何もしないのは落ち着かないので、頼み込んで妖怪たちと一緒にお手伝いをさせてもらっている。

 命蓮寺の廊下は長くて掃除のし甲斐があるのだ。ひとりで楽しくお掃除をしていたので、浮かれている姿をみられていたら少し恥ずかしい。

 

 魔理沙たちが畜生界という賽の河原から通じる別の世界に行ったのはつい昨日の事。

 

 畜生界の動物霊が幻想郷に攻め込んでくるらしい。それを聞いた魔理沙たちは、先んじて手を打つのだと情報を持って来た動物霊たちを連れて出かけて行った。

 どうせだったら、その動物霊達も見たかったなぁ。

 元々は幻想郷の動物霊たちで、仲間を裏切ってでも幻想郷の為になりたいだなんて、とっても健気だ。

 オオカミとかカワウソ、オオワシの幽霊と魔理沙からは聞いた。動物は好きだ。お化けでもきっと平気だと思うんだけど、霊夢も魔理沙も、最後まで私には会わせてくれなかった。

 

 幽霊に対して家の守りは不安らしく、魔理沙が白蓮様に頼んで、私は昨日からこうしてお寺に預けられている。

 

 魔理沙たちの事は心配だけど、ひとりで空を飛ぶことも儘ならない私が一緒について行くわけにはいかない。

 姉が悩み考えて頼み込んでくれたのだ。私にできることは、預け先のお寺で迷惑を掛けず大人しく無事を祈ることくらいだ。

 

 既に私の前世知識は役に立たず、どんどん知らない異変に魔理沙たちは関わっていく。

 宝船の話は知っていたけど、その後お寺になっている様子なんかは知らなかった。今、私が生きている世界は私の知識なんて関係なく、その先も絶え間なく続いていくのだ。

 嬉しいことだけど、せっかくこの面白い世界で自由に表に出ることが出来ないのは少し歯がゆくもある。

 

「ふふ、魔理亞。あなたはお客人なのですから、白蓮様なんて呼ばず、気軽に『白蓮』と、そう呼んでいいんですよ?」

「う、ぁ、その……」

 

 うまく言葉を返せないのが恥ずかしい。

 いい加減普通にお話ができるように慣れていきたいのだけど、性分なので中々直せない。

 

「魔理沙もそう呼びますし、ね?」

「びゃ、びゃくれん、さま……」

「ふふ、ごめんなさい。急で、少しいじわるでしたね」

 

 白蓮様は魔法使いとして、私たちの先達だ。

 それがこんなに気軽に接してくれて、悪戯っぽく見た目相応に可愛らしく笑うので、慣れていないこっちはドキドキして普段以上に上手く言葉が出てこない。

 

「いけない、いけない。こんな様子ばかりでは皆にも悪いわ。だけど、いつでも呼び捨てにしていいんですからね?」

「は、はい……!」

 

 手に持つ雑巾を顔の前にかざして顔を隠しながら、そーっと上の方から白蓮様を伺う。

 失礼な態度になってしまった。ぞ、雑巾だもんねコレ。

 私の態度を気にした風もなく、白蓮様は口元に手をあてて可憐に笑うと軽やかに襖を開けて室内に入る。

 

「私はこの部屋にいます。なにかあれば声を掛けてください。あと、星やナズーリン、一輪に村紗、みんなもきっと良くしてくれる筈ですから。うちにいる間はどうぞ寛いでいってね」

「は、はい……ありがとうございます」

 

 結局いつも通りモゴモゴと口を動かして、目線を逸らしながらあまり良い態度でお礼を言えなかった。

 襖が締まり、白蓮様の姿が見えなくなるとようやく力が抜ける。

 

「……っふぅ。き、緊張するぅ~」

 

 なんて言ったって、あまり関りのない中で唐突に出て来た『東方』の聖白蓮だ。

 所謂『原作キャラクター』に会えたのは数えるほどしかないので、普通の妖怪や人間に会うよりもずっと緊張してしまう。

 実際に見ると、すごい。綺麗だし、可愛いし、ああ語彙が足りない。

 めちゃくちゃ顔が整っていらっしゃるし、オーラみたいなのがキラキラしていて凄いのだ。

 泊まらせてくれているお部屋も白蓮様と一緒のお部屋なので、本当に畏れ多いというかなんというか。

 

「魔理沙のことは心配だけど、このお寺に来られたのは嬉しいな……!」

「なーに、独り言?」

「うひゃあ!」

 

 いつの間に傍に居たのか、真後ろから声を掛けられて飛び上がって後ろを振り返る。

 

「あはっ、『うひゃあ!』だって!」

「や、やめてよ響子ちゃん……!」

「うふふ、ごめんごめん!」

 

 そっくりの声でやまびこ返しに私の悲鳴を聞かされ、かーっと恥ずかしくなってまた雑巾を顔の前にかざして隠す。

 その様子を見ながらケラケラ笑うのは、竹箒を手にこちらを見下ろす響子ちゃん。

 お寺にいる妖怪のひとりで、出家している訳じゃないから妖怪の山からお寺に通っているらしい。

 

 肩までの長さでゆるっとウェーブした青緑っぽい髪色に、特徴的なのは大きな獣耳。茶色に、すこし斑に白が混じった犬みたいなたれ耳だ。

 赤みの強い薄ピンク、あずき色というのだろうか。そういう色のワンピースで、ボタンに髪と同じ色の花のような装飾が付いたお洒落さん。

 

「おはようございます! 魔理亞ちゃん!」

「お、おは、おはようございます、響子ちゃん」

 

 幽谷(かそだに)響子ちゃんという妖怪は、やまびこの妖怪だ。

 お寺に来てから何かと世話を焼いてくれる妖怪で、やまびこにも妖怪がいるのはとても幻想郷らしくて素敵だと思う。

 

「魔理亞ちゃん、廊下の雑巾がけはどこまで終わったの?」

 

 ぐいぐいと親密に接してくれて、知り合って間もないのにとても良くしてくれる。

 なにより幼い容姿が威圧感を感じなくてありがたい。

 なんていったって、このお寺にはお姉さんたちが多すぎるのだ。

 

「あ、向こうと、ここの廊下は終わったよ」

「よーし、それじゃ向こうはまだだよね。一緒にやろ!」

「う、うんっ!」

 

 ニコニコと笑って手伝ってくれる響子ちゃんは、原作にいる皆よりも緊張しなくて接しやすくて助かる。このお寺にいる間、響子ちゃんは私にとっての清涼剤だった。

 

 ▽▲

 

 山彦は自然現象だ、なんて不届き者たちが私たちの存在意義を消滅させようとしている昨今。

 随分素直に『山彦の妖怪』の存在を信じた魔理亞ちゃんは、目をパチパチと瞬かせて驚きながら言葉を繰り返した。

 

「や……やまびこの妖怪なんだね? さすがに、やまびこくらい私もわかるよ」

「そう! そうよ! 山に向かってやっほーって言ったら、私が声を返しているのよ!」

 

 力強く肯定して、その手を握る。

 心の機微を感じる妖怪にとっては、言葉以上に魔理亞ちゃんの心の寄せ方は印象的だ。

 存在否定を跳ねのける拠り所を見つけたような気持ちだ。

 

 小さな手は人間らしく柔くあたたかい、すこし力を入れたら壊れてしまいそうなか弱さ。

 妖怪として強い力を持っている私じゃないのに、気を付けないと握りつぶしてしまいそうだった。

 

「読経妖怪じゃないのよ、私は山彦! 試しにほら、叫んでみてよ!」

「お、お寺の中なのに……!?」

 

 こらっと後ろから声が聞こえ、同時に頭に衝撃。

 

「響子。お客様を困らせないの」

 

 いてて、と頭を抑えながら振り返ると、モクモクの雲に御鬚のついた顔。握った拳で小突いたつもりなのだろうが、なにせ大きな拳なので衝撃が大きかった。

 御鬚の生えた顔の雲、その向こうで尼僧の格好をしている一輪さんが、腰に手をあてながらこちらを注意している。

 

「ご、ごめんなさい! つい!」

「う、ううん全然、大丈夫っ」

 

 慌てて魔理亞ちゃんにも謝ると、気にしていないと慌てていてお互いにペコペコと頭を下げ合ってしまった。

 笑ってくれて、すこし打ち解けてくれた様子が嬉しい。だけど同時に、触れてしまった手の弱さに不安を感じる。

 

「姐さんの客は私らにとっても大事なお客様よ。なにか困ることがあったら遠慮なく言ってね」

 

 一輪さんは片手をあげて笑みを浮かべると、妖怪だらけで怖いでしょうし、と付け加える。

 魔理亞ちゃんがごにょごにょとお礼を言って深々と頭を下げ、その様子がやけに畏まったものだったから、私も一輪さんも笑ってしまった。

 その時にちらっと見えた前髪の奥、好奇心の光るキラキラの眼には、なんだか私への態度との違いを感じた。

 なんだかこう言葉にし難いのだけど、初対面の相手に対して憧憬を抱いているような。うーん、初対面の筈なのよね?

 

「楽にしてって、私が言うのは変かな。そんなに怖がらなくても、私たちはあなたを食べたりしないから安心してよ」

「あ、そうね。怖くないから、大丈夫だからね!」

 

 力強く胸を叩き、一輪さんが言うのに私も同調して頷く。

 

「あ、ありがとうございますっ。その、これからお世話になります!」

 

 長い前髪で顔を隠している事と話している印象の違いから、魔理沙さんと全く別の人間にしか思えない。

 気配は確かに似ているのだけど、今では決定的に違うと思えて面白い。

 

「……本当に、魔理沙に似ているのに全然違うわねぇ」

 

 一輪さんも同じように思ったのか、まじまじと魔理亞ちゃんを見つめながらへぇーっと驚きを含んだ息を吐く。

 

「えへっ、似てますか? うふふ、嬉しいです」

 

 頬を抑えながらニコニコと笑う魔理亞ちゃんは、たしかに大まかに見た目は似ている。

 細かな差はあるけれど、最初の印象としては魔理沙さんを幼くした感じ。

 でも話をしていて感じるのは、まったく別人のそれだ。人間の姉妹という概念は難しい。妖怪や妖精、神々のように能力が似通っていればわかりやすいのに。

 

「魔理亞ー、どこにいるんですかー?」

「あ、姐さんが呼んでるよ。魔理亞、行ってきな」

「は、はいっ。あの、また後でお話ししてくれますか?」

「うん? ああ、もちろんさ! あははっ、いつでも歓迎だよ。ほら、いってきなよ」

「ありがとうございますっ!」

 

 ぱたぱたと足音を立てて「白蓮様ーっ」と声を出しながら魔理亞が廊下の向こうに姿を消すまで見送り、一輪さんが肩を竦める。

 

「一輪さん、ありがとうございました! すみません、つい興奮して……!」

「ああ、良いって良いって。貴方も気を付けなさいね」

 

 腕を組んでいる一輪さんが少し難しそうな顔をしているので、気になって見上げていると視線に気が付いたのか、ああ、と声を出して腕を解く。

 

「うーん、これから寺の妖怪たちは大変だろうねぇ」

「大変って、なにがですか?」

 

 以前と比べて、お寺は居候も含めて妖怪たちが増えた。

 人間も同じだけ通う人が増え、白蓮様のおかげで付き合いもうまくいっていると思う。

 今更寺にひとりやふたり人間が増えたところで、なにか問題は起こるだろうか。

 

「私は捨食しているから平気だけど、あんな風に欲を煽る人間が傍に居るとねぇ。抑えるのがひとつ試練だよ」

 

 言って一輪さんは再び言い含めるように、私は平気だけどね。と繰り返す。

 欲を煽る? いまいちピンとこない私が首を傾げていると、そのうちわかるさと言って曖昧に誤魔化されてしまった。

 

 ▽▲

 

 夜になり夕餉と入浴を済ませると、白蓮様の自室で私は寝間着に着替えて一日の様子を聞いてもらっていた。

 

「あの魔理沙が神妙な顔をして頼みごとをしてきたときには驚きと同じだけ、なんだか嬉しく思いました」

 

 変わらずニコニコと笑みを浮かべた白蓮様がゆっくりと話を聞いてくれて、ひと段落してからそういう風に口を開く。

 寝間着に着替えていても相変わらず不思議な髪色のおかげか、なんだか周囲がキラキラと光っているように見える。

 

「大切な姉妹なのですね。私にも、弟がいましたので。大切にしたい気持ちはとても良くわかります」

 

 独り言のように言い、どこか遠くを見ているその眼には懐かしむような、羨ましがるような色が見て取れる。

 その表情から、きっともうこの世界にはいないのだろう、ということも。

 弟さんかぁ。白蓮様の背景はあまり知らないのだけど、母性というか姉性というか、溢れんばかりに優しさを向けられていたんだろうなぁ。

 

「白蓮様、お姉さんって感じがしますものね」

「それは嬉しいわ。ふふ。でも、私の事は魔理亞たちのおばあちゃんって思ってくれて良いんですよ?」

「お、おばあ……?」

 

 そうだ、この方も魔法使いだから見た目よりもずっと高齢なのだった。

 弟さんがいたとしても、ずーっと昔のことを思い出すように話されるわけだね。

 白蓮様からすると私達も子供、いやもっと幼く見えているんだろうか。

 

「実際にまだまだ子供じゃないですか。背伸びを覚えたお姉ちゃんと、体が弱くて引っ込み思案な妹ちゃん」

「えぅ、こ……声に出してました?」

「いいえ、顔に書いてありますよ」

 

 くすくすと口元に手をあてて笑われてしまい、羞恥が顔に上っていくのを自覚する。

 他愛ないお話の中で日中感じていた不安が少しづつ消えていくのを感じる。その頼り甲斐や大きな優しさから、お寺の皆が白蓮様を慕うのもよくわかる。

 

 命蓮寺のみんなは温かくて、まるで家族のような集まりだ。

 魔理沙の無事を不安に思っている私に、色々と気を遣ってくれているのがわかって、その優しさにたくさん触れさせてもらった。

 今日は色々な人たちと会えたのが楽しくてうれしくて、私は少し浮かれてしまっている。

 

「お、おばあちゃん……」

「あら?」

 

 だからか、なんだか少し普段よりも大胆に口が滑った。

 

「あ、なんでも……ないです」

「……はい、おばあちゃんですよ」

 

 にっこりと笑みを浮かべた白蓮様が両手を広げてこちらを招く。

 恥ずかしくなって俯いてしまうと、体中をふんわりと白檀の香りに包まれた。

 

「うふふ、魔理沙とは違う可愛らしさですね。魔理亞、今日はこのままおばあちゃんと一緒の布団で寝ましょうか?」

「う、わぁ……」

 

 抱きしめられていると気が付いて、再び思考が停止する。

 

「はぁ~、なんて小さいんでしょう。あなたが良ければ、魔理沙も一緒にお寺で暮らしてくださっていいのに……」

「あうあうあうあう」

 

 

 

 こんなの落ち着いて眠れるわけないと思っていたのに、あっという間に私は意識を落としてしまいました。

 とてもあたたかくてなんだか落ち着く良い匂いがして、朝は少し寝坊してしまいました。




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