魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です   作:元掃除道具

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週一投稿(1日遅れ)




 お寺の朝は早い。

 朝は夜明け前に起き門を開けて境内の掃除、日が昇るころには門下生の妖怪たちが各々寺にやってきて朝の勤行(ごんぎょう)

 その後に朝食を摂るまでがどんな日でも変わらない一連の流れだ。

 私は妖怪の山から通っているので、門が開いてから挨拶をして中に入り、一緒に掃除や朝食の準備を手伝っている。

 

「あの、今日は魔理亞ちゃんいないんですか?」

 

 昨日一緒に境内の掃除をしていたチョコチョコと動く人間の姿が見えず、周囲を見回しながらその姿を探すがどうも見つけられない。

 事情を知っていそうなのといえば聖様だ。すぐにその姿を見つけられたので声を掛けると、いつも通りの笑顔で聖様は少し屈んで目を合わせながら答えてくれた。

 

「魔理亞は昨日、慣れない環境で緊張していたんでしょうね。ごはんまではゆっくりさせてあげようと思いまして、まだぐっすりお休みしていますよ」

「あ、そうなんですね。よかった!」

 

 寝坊していると聞いて、まだ帰ったのではないとわかりほっと息を吐く。

 真面目そうな子だからあまりイメージできなかったが、人間だから寝坊くらいはするか。その様子を想像すると、なんだか面白く思えた。

 

「朝ごはんの準備をした後、わたし、起こしに行きますよ! 魔理亞はどこで寝ているんですか?」

「そうですか、それじゃあお願いしようかしら」

 

 聖様が自室の場所を教えてくれて「寝起きであまり驚かさないであげてね」と残して一輪さんと一緒にお堂へ入っていく。

 

「いいなぁ、一緒に寝ているんだ」

 

 聖様と一緒の魔理亞に向けてか、魔理亞と一緒の聖様に向けてか、すこし羨ましく思いながら竹ぼうきを動かして独り言ち、掃いた落ち葉がひらひらと舞うのを目で追う。

 と、不自然に揺れる落ち葉がぽんっと音を立てて煙を吐いた。

 

「うわっ、なんだぁ!」

「ふぅん。また居候が増えたのかしら?」

 

 煙の晴れた先、正体不明の声が落ち葉のあった場所から聞こえてくる。

 

「ぬ、ぬえさん? 帰っていたんですか?」

 

 赤と青の特徴的な形の羽根。鉱物を思わせるような硬質的な光の反射をしながら、ふにゃりと柔らかく動くそれら。赤い鎌のようなものと、青い矢印じみたもの。

 黒く短い髪に黒い装束はその特徴的な羽根をより際立たせて、小さな体なのに大きく感じる存在感。

 

「話に出ていた寝坊助が、坊主の聖と床を共にしている仲なの? それって、すごく面白そうな気がするんだけど」

 

 正体不明の封獣ぬえさんが足を宙に放り投げ、浮かびながらこちらを見て真っ赤な目を楽し気に歪めた。

 

 ▽▲

 

 夢見の良い日の朝は、少しだけぼーっとしてしまう。

 知らない天井、ベッドでもないお布団のなか。

 

「……和室だ」

 

 段々意識が覚醒していくと、ここが命蓮寺の白蓮様の私室だと思い出してくる。

 まるい嵌め込み窓からは朝の陽ざしが差し込んでいて、室内に人の気配はない。

 

「……あれ?」

 

 独り言が増えたのは普段の魔法の森探索の影響だ。

 目を二、三度瞬かせてから、慌ててお布団を跳ねのけて起きるとやっぱり変わらず外はもうすっかり明るい。

 

「あ、あー……!」

 

 しまった! お世話になっている身で、寝坊なんて仕様もない事を!

 

 急いで布団を畳み、布団を仕舞う場所がわからず一瞬迷うが、ええいと気合を入れて襖を開けて廊下に飛び出した。

 

「お、っとぉ。魔理……魔理亞。どうしたんですか、そんなに慌てて」

 

 とにかく白蓮様のところに行って、寝坊の件を謝らないと!

 人の気配がする方に駆けて行こうとして、曲がり角で人にぶつかって私はその衝撃に目を瞑った。

 

「あ、あ……! ご、ごめんなさい。あわてていて……!」

 

 虎柄の腰布を身に着けた、背の大きな女性の方だ。

 荘厳な法衣を身に着けたその方が落ち着かせるように肩に手を置いて宥めて下さる。

 

「ああ、落ち着いてください。どうどう。夏とはいえそんな薄着で、朝から慌てることはありませんよ。ほら、深呼吸して」

 

 言われるがままに呼吸を整え、改めて見上げてその顔が目に入った。

 

「と、寅丸様……! ご、ごめんなさい!」

 

 金色の髪にところどころ黒が混じる特徴的な髪色。頭の上に蓮を模した髪飾り。

 毘沙門天の弟子にして代理という、妖怪でありながら信仰を受ける妖獣。

 寅丸(とらまる)(しょう)様が、きりっとした目を少し細めて気遣わし気にこちらを見下ろしていた。

 

「あの、すみませんでしたっ。起きたら白蓮様がいなくて! あの、私、朝のお掃除の時間を聞いていたのに、寝ちゃっていて! さっき起きたんですけど、もう朝でっ」

「聖を探しているのですか? 本堂で勤行の時間ですので、そちらに行くと良いですよ。……ふむ。ですがその前に着替えるのが宜しいでしょう」

 

 言って、寅丸様が法衣の長い袖で私の周囲をふわっと覆い隠してくる。

 

「そんな肌着同然の姿、他のモノに見られるのは困るでしょう。年頃の娘なのですから、気を付けないといけませんよ」

 

 言われてから自分の姿を見下ろすと、寝間着として借りている浴衣がはだけている。

 慌てて飛び出したので自分の姿を考えていなかった。たしかに肌着も同然というか、ほとんど裸だ。

 意識していなかったのだけど、言われると急に恥ずかしく羞恥が耳まで熱を灯していく。言葉を飲み込んで俯くと、寅丸様がその袖で周囲を隠しながら「ほらほら、いきますよ」と私の肩を押して白蓮様の私室に引き返した。

 

 動転していたとはいえ、お見苦しいものを見せてしまった。大人しく一緒に引き返しながら小さくお礼を言うと、きりっとした顔をほころばせて笑ってくださった。

 

「着替えはありますか?」

「は、はい。荷物の中に……」

「それならば良かった。魔理亞は小さいので、その寝間着は少し大きいみたいですね」

 

 確かに少し大きく、袖や丈も余っている。

 だけど貸してくれた方の気遣いが嬉しかったので、昨日はお風呂上りに少し舞い上がってしまった。

 

 爽やかな水色に、波の意匠が施された上質な布地。

 元々が宝船のお寺だからか、貸してくれた妖怪の好みなのか。可愛らしい見た目がとても気に入っていたのだけど、サイズが合っていないからバタバタとあわただしく動いてはだけてしまった。

 

「手伝いは必要ですか?」

「い、いえ! あの、そんなに幼くありませんので……」

「ああ、そうでしたか。すみません、馬鹿にしている訳ではないのですよ?」

「は、はい」

「むしろ少し大きいくらいが似合っていて、とても良いのではないでしょうか」

 

 ちらりと後ろの寅丸様を振り返って見上げる。冗談を言っているのか、本気なのか解らなない。

 

「あの……ありがとうございます?」

「あははっ! 本当に魔理沙とは違いますね。いえ、うん。良い意味です」

 

 白蓮様の部屋の前まで連れられると、寅丸様が立ち止まり、先に襖をぱっと開け放つ。

 

「ぬえっ! なにをしているんですか?」

「げ、星……!」

 

 室内は少しだけ荒らされていた。

 畳んだ布団が放り投げられ、私の荷物の鞄からは着替えが散乱している。

 

「ぁ、え、あなたは……?」

 

 昨日、白蓮様に紹介された中にはいなかったので気になっていたのだ。

 ついにこの命蓮寺、いや星蓮船で出会う妖怪たち全員に会うことが出来た!

 

「あなたが聖と同衾している人間? ふーん。魔理沙の妹っていうのは本当みたいね、見た目はそっくり」

 

 枕に胡坐をかいて腰かけながらこちらを見上げ、腕を組んでいる小さな正体不明。

 真っ赤な瞳が楽し気に歪められている。

 

「だけどお前はとても弱そうだ。なんで皆、こんな普通の人間を招き入れているんだか」

 

 正体不明の悍ましい恐怖、封獣(ほうじゅう)ぬえが笑顔のままこちらに威嚇するようにくっくっくと声をあげた。

 

 〇

 

 おまけ 初日の御風呂について。

 

 ●

 

 夏の陽は長いとはいえ、長い廊下の拭き掃除をしているとそれだけであっという間に夜が来た。

 命蓮寺は朝が早く、妖怪たちしかいないここでも夕方には門を閉める。そのあとは門下生だけでお経を読んだり、普段よりも少し早めに夕ご飯を食べたあとはもうお風呂に入る時間だ。

 

 お寺では一日の汚れをしっかりと洗い流すことも大切な仕事で、門下生の妖怪たちもみんな御風呂に入る。

 七病を除き、七福が得られるという考えだそうだけど、そういう事とは関係なくお風呂は気持ちが良いから私も大賛成。

 偶に面倒がって洗面台で頭を洗うだけで済ませる姉に聞かせてあげたいような教えだ。

 

 皆がお風呂に入るので、大きなお風呂場と小さなお風呂場のふたつがある。

 私が昨日お寺に来た時は夜遅くだったので、家で湯浴みを済ませた後だった。なので、今日初めてお風呂場を使わせてもらうことになる。

 

「私は星と用事がありますので、お風呂はうちの船長と一緒に入ってもらいましょうか。うちで一番、水の扱いに慣れているんですよ」

 

 白蓮様がお夕飯の席でそういうと、話を聞いていなかったのか、村紗さんがぶーっと息を拭き出す。

 

「ひ、聖。私は聞いていないんだけど……」

「そうでした。ね、お願いしてもいいですか?」

「それって、事前に聞くものじゃないの?」

 

 村紗さんは、ぷくっと頬を膨らませて白蓮様を見ると、私の方もちらりと見てもう一度白蓮様を見る。

 

「だめ、でしょうか」

 

 うーん、と首を傾げる白蓮様に、うぅっと村紗さんが慄いてからため息を吐いて「これも信頼されている証ね」と呟いた。

 

 朝や昼に比べて、夜は各々用事があるようで私たちは三人でお夕飯を摂っていた。

 お寺と言ったら精進料理! というイメージだったのだけど、普段から森で菜食生活をしている私にとっては普段通りの食事と変わらないように思える。もしかしたら、白蓮様が私に気を遣って普通の食事を用意してくれているのかも。

 

「あの、場所だけ教えてくれたら一人でも大丈夫ですよ?」

 

 そーっと手をあげながら差し挟むと、ふたりは顔を見合わせる。

 うんっと村紗さんが頷くと、ふたり揃ってこちらを見た。

 

「魔理亞が良くても、周りが大変だからやめた方が良いよ」

「門下生たちはまだ修行中の身。魔が差すこともあり得ますから」

 

 やっぱり幻想郷は危険がいっぱいなんだ。

 少し緩んでいた気を張って、この人たちの周りから離れないようにしよう、と改めて気を付けることにした。

 

 ▽▲

 

 ばしゃり。

 湯が音を立て、目の前の子供の頭を濡らす。

 

 ばしゃり。

 息を止めてぐっと瞑った目が固く閉じられているのを見ていると、本能に近い部分が獣のように唸り声をあげ、だらりと粘性の欲望が蓋をした心の奥底から顔を出す。

 

「む、村紗さん……?」

「んー? どうかした?」

 

 人間の子供が、目をつぶったまま不安そうに声をあげ、裸のまま不安そうにその背を震わせた。

 

「もう、お湯掛けなくて大丈夫だと思うんですけど……あっうっ! ……っぷぅ。あの、泡も流れたと思うんですけど」

「……そーお? それじゃ、ゆっくりお湯に浸かって百数えるんだよー」

 

 私が聖の信頼を裏切ることはない。

 ただの船幽霊からこの船の船長になることが出来たのは、偏に聖の信頼があってこそ。その恩義を感じる心が私を私としている。

 

 ふぅーっと一息ついて、桶を置いて湯船に向かう魔理亞を見送る。

 そのまま私も体にお湯を浴びてわしゃわしゃとスポンジに泡を立て、風呂椅子に座った。

 

「あ、背中……」

「背中?」

「はい、あの……。な、流しましょうか」

 

 長い前髪をかき上げ、普段隠されている顔が露わになっているとやはり魔理沙に似ている。金色の髪に同じ色の眼は特徴的で、自信が無さそうにオドオドとしている様子は魔理沙と様子が違い過ぎて一目で別人だとわかる。

 親切をしっかりと受け取りそれを返そうとする心魂が善良な子供だ。

 

 その眼からはこちらへの興味と、溢れんばかりの好意を感じる。

 

 思えば最初に見た時から、魔理亞はやけに私に対して好意的だ。それは私に対してだけではなく、周囲の妖怪たちや聖に対しても同じようであるんだけど。

 その境遇の詳細は聞いていないが、人にも妖怪にも関わらずに生きて来たという希少性。

 そこから周囲の色々なものに好奇心を持っているのだと思っていたが、好意的である理由はよくわからない。

 

「あははっ! いや、大丈夫大丈夫! 気持ちだけ貰っておくよ!」

 

 私がもしこの船の船長じゃなかったら、聖と出会わず人の肉や精神をくらう妖怪のままだったら欲望のままに食べてしまいたくなる。今でもこの人間は水に沈む時にはどんな顔をするのかな、とか余計なことも考えてしまいそうだ。

 私に強固な意志がないと危ないくらい無防備で、まるで仙人のように、いやそれと比べ物にならないくらいにその肉に、魂に魅力を感じる。

 

「っふぅ~……。魔理亞、命蓮寺はどう? へんな奴はいない?」

 

 適当に体を洗い、ざぶんと一緒の湯船に浸かると端っこのほうで遠慮がちに体を縮めている魔理亞に体を寄せて表面上でも会話を続ける。

 このまま湯船に頭を沈めて息も吸えない水の底に沈めてみたら、どんな顔をするかなぁ。

 

「みなさん、とても親切にしてくれて。あの、とっても良い所ですね」

 

 ふにゃりと頬を上気させながら笑みを浮かべる姿は年相応だ。

 

「そりゃよかった。なにか困ったら遠慮なく声を掛けてね」

 

 聖は魔理沙のことを気に入っているから、その妹のこともすっかり気に入っている様子だ。

 傍目から見ていると母と娘のように、ちょこちょこと後ろを付いて歩く様は微笑ましい。

 

 水鉄砲で顔にお湯を掛け、ケラケラと私の妖怪としての凶暴性に蓋をして安全なふりを続けて笑う。

 一輪が「命蓮寺の試練ね」なんて難しそうな顔をしていたのを思い出し、その意味を噛み締めながら表面上の会話を続けていく。

 

 ばしゃり。

 お湯が目の前の子供の顔を濡らし、慌てて顔を覆うその子の頭に手をあてる。

 

 この手は下ろさない。

 ゆっくりと撫でてやり、聖の信頼に応えるため、妖怪は心の奥に本能を隠して笑った。

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