人を治さばベッドが二つ   作:あいいろのふとん

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第12話 天使を拾ったあの日

 初めてシオの目を見た時、綺麗だと思った。

 別に顔がどうこうじゃない。

 優しくて純粋で真っ直ぐで……アタシなんかが言い表せるモノじゃない。

 

 それでも初めは面倒なことになったな、なんて思ってた。

 いつものように少ししたら追い出すか勝手に消えればいいと。

 だけれどこの子は働き者で、家は狭くなったが居心地は悪くなかった。

 

 臨時で組んだパーティーの全滅をギルドに伝え、怪我をしているという斥候にも会いに行った。

 何度も何度も謝った。

 見捨てた卑怯者と言われようが謝り続けた。

 もしシオがいなかったら逃げ続けていたかもしれない。

 

 この斥候も自分なりに調べ、アタシが満身創痍でダンジョンから出ていったということを知ったらしく、もう二度と顔を見せるなという条件で許しを貰うことができた。

 

 その日からアタシは酷く不安定になった。

 ヘソクリで生活はできてたから良かったものの夜中にアタシが見捨てた彼らが夢に出てくるようになった。

 何度も何度も何度も。

 その度に飛び起きて。眠れない夜を早く明けろと願う。

 そんな日々が続いた。

 

 だがいつも床で寝ていたシオと寝るようになってからはそれがピタリと病んだ。

 シオは小さくてとても温《ぬく》い。

 衣服越しでもじんわりとした熱が伝わってくる。

 アタシはなぜだかそれだけで泣きそうになった。

 

 気付いたら朝になっている。

 悪夢に魘され夜中に飛び起きることも無くなっていた。

 

 シオは既に買い出しから戻っており

「今日は野菜が安かった」、「屋台のじいさんが卵を1個まけてくれた」

 みたいな日常を、本当に、あまりに楽しそうに話す。

 シオの頭に手を置きながら聞いた。ずっと聞いていられた。

 

 シオの髪は柔らかくて少し癖があって、触りすぎると止めてと言われるが、それまでは一生触り続けてクシャクシャにしてやる。

 

 これが幸せなんだな、と勝手に感じた。

 今でも感じているがな。

 

 この生活を続けるためには働かなきゃいけない。

 

 その日からアタシは冒険者に戻った。

 と言っても今までのようにスリリングな依頼ではなく堅実なものを。

 家に帰ると掃除を終え机に伏しているシオを見る度にアタシは生まれて初めて心の底から生きたいと思った。

 生きなきゃと思った。

 

 一緒に暮らし始めてから1ヶ月、シオが急に仕事を見つけたと言い度肝を抜かれた。

 

「はぁ? え、今なんて言った?」

 

「だから、ラスラトファミリーの死にかけ幹部を見つけたからそいつを使って診療所を開く許可を貰った」

 

「はァァァァァァァ?!」

 

 多分アタシは生まれて初めて本気で怒った。

 もし死んだらどうするんだ、と。

 どうして何も言わなかったのか、と。

 それはもう自分でも泣きそうになるくらい怒った。

 

 シオもまさかそこまで言われると思っていなかったのか震えて謝りだした。

 

「ごめんシオ、そういうつもりじゃないんだ、ただ本当に心配で心配で……」

 

「うん……僕も……何も言わずに…………ごめん……」

 

 ラスラト、鏖虐(おうぎゃく)のラスラト。

 この辺りのスラムを取り仕切る暴力の王。心配しない訳が無い。

 だがマフィアとはいえラスラト以外は住民に手を出すことは少なく友好的だ。

 夜の店の経営や診療所で教会から客を奪う。

 傭兵的な仕事も請け負い、最近は他のマフィアを吸収しデカくなりつつある。

 

 それでもどうしたって心配が勝つ。

 

 ただこの子はよく分からないがちゃっかりしておりどこからか手に入れた本物の魔術契約書を持っていた。

 アタシも内容を見たが上納金の利率が少し高いと思った以外は待遇は悪くはない。

 

 確かに治癒士(ヒーラー)の類は奴隷などになると極端に治癒能力が下がる。

 そのため厳しい契約で縛ることが難しい奴らではある。

 それにしてもスラムマフィアに対しどんな交渉をしたらこんなことになるのやら。

 

「んー、性病で死にかけてる幹部を使って辺り一帯にこの病気をばら撒くって言ったらいけた。

 今ここで治癒士である僕を殺すか、それとも幹部を1人救って更に僕で儲けるか」

 

「はァァァァァァァ?!」

 

 アタシはまた怒った。

 

 __________

 

「にしてもあの魔術契約書、結婚とかに使うやつだろ? どこで手に入れた?」

 

「僕が治したシャノってやつがさ、こいつめちゃくちゃ女遊び激しいの。それでもし上手くいった時のために持ってたんだって」

 

「はぁぁ? キッショ! 

 シオ、悪いこと言わないからそいつとつるんじゃダメだよ?」

 

「ごめん、なんか親友になっちゃった」

 

 

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