パチリと目を覚ます。
気道に入った血がゴボゴボと音を出しながら呼吸の邪魔をする。
とても苦しい。
とにかく血を吐いた。
気道に溜まった血や…………どこの血だろうかこれ…………
気道を確保しても息をする度にゴロゴロと音がする。
多分肺に血が入っているのだろう。
とてもうるさい。
どうやら僕は生きているらしい。
診療所は辺り一面血だらけ。
きっと猟奇殺人とか起きたらこういう現場になるんだろうなぁと。
改めて僕は自分の体を見直す。
右足はグチャグチャ、右腕は無いしお腹の傷も塞がっていない。
でも内臓は治ってる感じがする。
片目は潰れて見えないし、もう片方も辛うじてといった感じ。
色々やられた割には結構無事じゃない? 凄いね僕。
「こんなの化け物じゃん」
誰か喋った!? ……僕か……
一応再び周りを見渡すも誰も見つけられなかった。
恐らくラスラトの暴走を見た瞬間逃げたのだろう。当たり前だ。
一体僕はどれくらいの間嬲られ続けたのだろうか。
部屋に散らばる血の量はどう考えても1人分じゃない。
「あ、腕あった」
と立とうとした瞬間、グチャっとした音と共に骨盤あたりが折れた。
いや折れたと言うより割れてどこかの筋肉に刺さったのかな。
仕方がないから匍匐前進で僕は僕の腕らしきものの元に向かう。
まだ凝固せず、生暖かい血の海は気持ち悪くて仕方がない。
そういえば台風の後の学校のグラウンドがこのくらいの深さの湖だったっけ…………
しばらく芋虫のように這いずり回った後、何とか身体を起こしベット台に寄りかかる。
落ちていた腕をくっつけようにも上手く出来ない。
疲れや魔力不足もあるが恐らくどちらの切断面もズタズタだからであろう。
段々と魔力の回復が感じられ身体を外側から治していく。
今の僕に内側から綺麗に治す余裕はない。
とりあえず外側だけ、立てればいいのだ。
僕は家に帰らなくてはいけない。
…………足が治った。
立ってみるとまた変な音と共にバランスが崩れる。どこかしらの骨がまた筋肉に刺さっているのだろう。
ただ歩けるならどうってこと無い。
たまたまそこにあった白い何かを杖がわりに僕は何とか出口に向かって歩く。
そこで僕は見つけてしまった。
「…………シャノ……」
顔が潰され絶命したシャノだった。
折角立てたのに膝から力が抜けまた不格好に倒れ込んでしまった。
「えぇ? おかしいよ……何でシャノが……」
「そっか…………僕のせいか……」
もう枯れ果てたと思っていた涙がどんどんと溢れてくる。
自責の念がひたすら僕を殴り続けてきておかしくなりそうだ。
「ごめんなさい……ごめん……ごめん……なさい…………」
ただただ謝った。
謝っても許されることはないと分かっていながらただただ謝った。
ひとしきり泣いた後僕はどうにか立ち上がった。
…………僕は帰るんだ…………
この診療所から家までは徒歩で5分ほど。
なのに今の僕には地の果てのように感じる。
どんなに足を踏み出しても進んだ感じがまるでしない。
…………こんな化け物にまた幸せな生活を送る権利なんてあるのだろうか…………
やめろ、考えるな。
僕は家に帰るんだ。
そうして僕はやっとのことで家に到着し、扉を開け床に寝転ぶ。
安心した途端僕の脳裏に先程の暴力という言葉さえ易しく感じる何かの記憶がフラッシュバックする。
……ダメなやつだこれ………………
心臓は激しく鼓動し、まだ塞がっていないお腹の傷から血がどんどん溢れ出す。
トクトク、トクトクと血が流れていく。
僕はまた動けなくなってしまった。
頭の中で切られ裂かれて潰される感覚が延々とループする。
僕は部屋の角で蹲るしか出来なかった。
こうしてこの記憶のループが終わるのをただただ耐えるしかない。これはそういうものなんだ。
あぁ……やっぱり死んだ方がいいよ僕…………せっかく幸せな気持ちで死ねたのに………………
耐え続けたおかげで少しずつ意識が正常になってきた。
「血が…………汚しちゃった……落ちるかなこれ…………」
なんて言葉が自然と口から出た。
なんだよ僕、生きる気満々じゃん。
それでいいんだよそれで。
そんなことを考えていたら家の扉が開いた。
月明かりのせいで顔が見えず、ついつい自分を守るように身体を腕で覆ってしまったが、よく見るとそれはサルサだった。
「あ…………サルサ……ごめん……床…………血……汚しちゃった…………」
僕、サルサのそんな顔見たくなかったよ。