人を治さばベッドが二つ   作:あいいろのふとん

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第1章
第1話


「こんにちはジークリンデ様、シュカ様。今日も良い天気ですね。」

 

「やぁ子猫ちゃん、今日はアリアに会いに来たんだ。案内してくれるかい?」

 

「ええもちろん、コートお持ちします。」

 

「ありがとう、子猫ちゃんは気が利くね。」

 

「シュカ様も。」

 

「すまない。」

 

 二人のコートを受けとり、今の僕の雇い主でありこの裏闘技場の主であるアリアの部屋を目指す。ここはミストリアと呼ばれる裏闘技場、そのスタッフである僕達が住み込みで働く居住スペースだ。

 

 地下空間にアリの巣の様に張り巡らされた廊下を進んでいくと目的の部屋についた。

 

「アリア様、ジークリンデ様がいらっしゃいました。」

 

「あぁ、了解した。」

 

 ドアをノックするとすぐに返事が返ってきて中に通される。中にはウェーブのかかった朱色の髪の美女が腰を折って待っている。彼女がこの施設の主、そして僕の雇い主でもあるアリア・グランギニョルである。

 

「リンスフォード公爵、ようこそいらっしゃいました。」

 

「アリア、こんな深いところにわざわざ来たんだ。楽にしろ。」

 

「それではお言葉に甘えて。で、今日はなんの御用ですか?」

 

「ああ、うちの若いのに有望な奴がいてね。出来れば1週間以内にねじ込めないかい?」

 

 これは闘技場に出したい奴がいるから割り込みさせてくれないか、と言っているのだ。いや、これは最早お願いなどではなく…

 

「相変わらずの無茶ぶりですねぇ。まぁいつものことなので問題ありませんよ。で、いつがご希望で?」

 

「明日だ。」

 

「………明日、ですか…」

 

 さすがは貴族の当主だ。こちらの事情なんて考慮する気は無いらしい。ただ彼女はうちに来る貴族の中ではまともな方だ。こうして事前にアポを取って相談に来るだけマシ。

 

「はぁ……仕方ないですね、対戦を組み直しますので少々お時間を頂ければ。」

 

「助かる。恩に着るぞ。」

 

「それとだな、これは何回目か既に忘れてしまったが……」

 

「子猫ちゃんをくれないか?」

 

「……やはりそう来ましたか。以前もお話した通り、コーリは我々の大事な仲間です。それにこんな便利な子、易々と手放せるわけないじゃないですか。」

 

「アリア様……そんなに僕のことを……」

 

「コーリ、黙りなさい。」

 

「はーい。」

 

 アリア様はこんな軽口を叩いても気にしない素晴らしい上司だ。

 

「ま、そう言われると思ってはいたがね。では明日、また来るよ。」

 

「くれぐれも、できるだけ早めにお越しください、いやあの本当にマジでお願いします。」

 

「ハハッ、分かってるさ。」

 

「ジークリンデ様、お送りします。」

 

 僕が掛けたコートを持ち二人を送る準備に取り掛かろうとした途端

「コーリ、待ちなさい。貴方は仕事があるからここに残りなさい。お二人は別の者に送らせるわ。」

 

「?分かりました。」

 

 こうして彼女の部屋に僕とアリア様と二人っきりになる。

 

「まぁそこにかけなさい。楽にしていいわ。」

 

「はい。」

 

「あなたもここに来て3ヶ月ね。どう?仕事には慣れた?」

 

「ええ、皆さんとても個性的ですが良くしてくれてます。」

 

「まだクマは……あまり取れてないわね。ちゃんと眠れてる?」

 

「…………」

 

 僕は愛想笑いを返すことしか出来ない。事実あまり眠れてはいないが、こうして仕事を貰えているだけ有難いのだ。辛い時はいっぱい動いて、身体が勝手にシャットダウンするのを待つ、これが僕にとっての最適解だ。

 

「……まぁいいわ、あなたはここに来て日が浅い。慣れないことも多いでしょう。だから必要なことがあれば言いなさい。」

 

「ありがとうございます。」

 

「……それと……」

 

「?」

 

「私は決してあなたの境遇を哀れだとは思わないし、憐れみもしないわ。けれど、不憫に思うくらいは許して欲しいわね。」

 

「……」

 

 ……感謝はすれど……その優しさは時に毒になる。

 

「私は貴方を決して手放しはしないから。……返事は?」

 

「……はい。」

 

「堅い話はここまで!今日はこれでもつまんでなさい。」

 

 アリア様は立ち上がり、棚から何かを取り出して机に置いた。

 

 あれは……マカロンだ!

 

「君は細いんだから、甘い物食べないと持たないわよ。」

 

 彼女はそう言って椅子に戻り、自分の分のマカロンを手に取り食べ始めた。僕もそれを口に運ぶ。

 

 ……おいしい。だけれど、なぜだか心がズキズキと痛む。

 

「美味しいでしょ?」

 

「……はい。」

 

 一瞬、彼女が少し悲しそうな顔をしたような気がした。

 

「じゃあ私は仕事に出るわ。」

 

 アリア様はそう言って席を立つ。

 

「……この部屋は誰も入れないから。用が済むまで居ていいわ。」

 

 彼女は僕の頭を軽く叩いてから部屋を出た。

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