人を治さばベッドが二つ   作:あいいろのふとん

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第2話

 3ヶ月前、僕はこの裏闘技場のスタッフとして雇われた。

 

 ミストリア、ここは貴族などの支援者(パトロン)を持つ剣士や魔術師といった輩が己の力試しをする場だ。 いつだって悲しいかな、人間は力をつけるとそれを()相手に試してみたくなるものなのだ。

 

 貴族含め様々な人種が日々娯楽を求めここにやってくる。 僕達の仕事は貴族のもてなしから闘技場の修理、賭博の管理など多岐に渡る。その中で僕たちはこっそり情報を集めたり集めなかったり……誰かの独り言に何となく従ったり………していなかったりする。

 

 内容が内容だけにここのスタッフの数は少ない。というのもここで働ける人間というのは基本的に家族や恋人がおらず、裏の事情を理解し、その上で何かしらの技能がある、というのが条件になってくる。

 

 だが、何か事情がない限りそういう方々はもっとお日様の当たる所で働いているものだ。

 

 あの日、スリムリンから出た僕は失意の中、ただサルサ言葉だけを足がかりに道を歩いていた。毎日泣いては泣き疲れ、また泣いての繰り返し。そんな日が何日も続いた。

 

 毎日毎日、とにかく進んでは休み、進んでは休むを繰り返す。心身ともに疲れ果て、森の中で何も対策せずに眠りこけてしまった。

 

 …………もう魔物にでも食われてしまえばいいのに、意識が落ちる前にそう思ったことだけは覚えている。 生きる気力が無かったためか、或いは未だに治らぬ心の傷のためか、いつの間にか僕は手持ちの武器や装備品を全て奪われた状態で馬車に乗せられていた。

 

 周りを見渡せば若い男女、いや少年少女と言うべき子たちがみすぼらしい恰好、そして鎖で繋がれている。……その子たちが奴隷であることに気づくのにそう時間は掛からなかった。

 

 正直大して焦りは無かった。まだ奴隷契約を押し付けられたわけでも無い上に鉄の手錠なんて今の僕ならその気になればいつでも抜け出せる。唯一気に入らないことがあるとすれば、それは収納持ちをカモフラージュするために背負っていた僕の荷物の食糧を勝手に食べられているということだけだ。

 

 食糧を盗られて怒るということは僕はまだ生きたいのだろうか。いや、生きる気力が無くても腹は減る。僕たち人間はそういう生き物だ。

 

 突然馬車が急ブレーキで止まる。

 

「ガキ共、飯だ。」

 

 赤髪に紫の目という何とも異世界感溢れる大男が馬車の扉を開け、子供たちに食事を投げ渡していく。今更驚きはしないがこの世界の人間の髪や目の色は果たしてどのような原理でこうなっているのだろうか。

 

「ねぇ、これ僕の食糧だよね?」

 

「うるせぇ、森の中でバカみてぇに眠りこけてんのが悪ぃんだ。 てめぇはこれから一生奴隷として生きていくんだよ。まぁなんだ、てめぇは面がいいからな。物好きに高く売れるだろうよ。」

 と大男は言う。

 

 その言い草はこちらの無知を嘲笑うようなもので、この時の僕はなぜだか少しだけ意趣返しがしたくなった。決して僕は人前でこんな行動をする人間では無い……と信じてはいるがこのときは色々とおかしくなっていたのだ。

 

「……こういうこと?」

 

 僕は口の前で指のわっかを作り舌を通す。まぁあれだ、とある行為を示すサインみたいなものだ。

 

「んだよ経験済みかよ。つまんねぇな。」

 

 僕の隣に座る男の子は会話の意味が分からないらしく、さっきからポカンとしている。純粋すぎて泣きそう。

 

「父親に仕込まれたんだ、それだけだよ。」

 

 目を逸らすように隣のピュアピュアの赤髪の男の子のほうを向く。

 

「……君これ食べな、食欲無いんだ、あげる。」

 

「え?あ、おう?」

と彼は戸惑いながら僕から受け取ったものを腹に収めていく。

 

 ………あれだな、小さい子……と言っても僕と背丈は変わらないが。そういう子が一生懸命食べる姿というのは、何というかとても微笑ましい。彼女が食事中手を止め、僕をずっと見つめていたのはこういう感情があったのだろうか。頬杖を突きながらぼーっと見つめていたら顔を背けられてしまった。ごめんて。

 

 あまりに暇すぎたため、結局僕はご飯をあげた赤髪の男の子に話しかける。

 

「君名前は?」

 

「…… 俺は…… ティル。」

 

 彼は少し間を置きながら答えた。

 

「そっか、僕はシオって言うんだ、よろしく」

と手を差し出す。

 

「あ、あぁ……」

 

 彼は戸惑いながらも握手に応じた。

 

「ねぇ、ティルはどうして捕まってるの?」

 と尋ねる。

 

「……奴隷だから…」

 

 いやそういうんじゃなくて……

 

「そいつらはなぁ、親に売られたんだよ。」

 

 奴隷商が横から口を挟んでくる。

 

「親?」

 

「そうさ、金がなかったんだろうな、ガキを売ってその金で飯を食うんだよ。」

 

「…… 随分と愉快そうだけれど、それ見てて楽しいの?」

 

「はっ!あぁ、面白いぜ? 世の中弱肉強食。このガキ共は親の因果を支払ってんだ。」

 と奴隷商は言う。

 

 ………なんだか、モヤモヤする……

 分かってるさ、この気持ちは偽善って言うんだ。

 

 結局その日は馬車に揺られながら4人の子共たちと話した。

 僕は夜になっても眠れず、今は護衛の男とだべっている。

 

「てめぇ、ンでそんなに余裕そうなんだ?」

 

「秘密だよ、てかさ気になってたんだけどおじさん冒険者じゃないでしょ。」

 

「っは、良くわかったな。」

 

「冒険者はそんなに血なまぐさくないよ。傭兵でしょ? 僕も一時期そういうところで働いてたからさ。」

 

「ほぅ、慰み者でもやってたのか?まぁ俺はてめぇみたいなガキには興味ねぇがな。」

 

「違うけど…… 訂正めんどいからそれでいいよ。どうしようもないやつも多かったけど、みんなみんな新顔の僕に良くしてくれて………あのスラムは寒くて臭くて最悪だったけど、でもとても暖かかったんだ………」

 

 僕は思わず蹲る。こうしているとなんだか嫌なものから目を逸らせる気がするんだ。

 

 しばらくして顔を上げる。自分の体温で少し暖まった顔に当たる夜風が少し気持ちいい。

 

「そういえば……この奴隷商もしかして裏?」

 

「そうだ。」

 

「うーっわ最悪……でもないか。」

 

「なんか言ったか?」

 

「何でもない。」

 

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