人を治さばベッドが二つ   作:あいいろのふとん

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第5話

「そしたら契約書は後で作るとして、うちの紹介からね!」

 

 そうして案内されるがまま進むと、大きな鉄製の扉があった。その扉の中はまるで前世の集合住宅のように通路の両側にまたもや無数の扉。どうやらここが居住スペースらしい。

 

 アリアさんはその内のひとつのドアをノックして入る。中からは埃と嗅いだことのない薬品、そして布の匂いがした。

 

「アンバー、いる?」

 

「え?団長?ちょ、ちょっと待って!!まだ入ってこないで!」

 と慌てたような声。

 

「またぁ?。」

 ドアが少し開きその隙間からアンバーと呼ばれる女性が顔をのぞかせる。

 

「もう、団長!いつも言ってるけどノックしてって!」

 

「したじゃない。はい、この子が久しぶりの新入り、シオ・コーリ君です。はい、じゃあ中入るわよ。」

 

「え?新入り?……あ、可愛い……」

 と驚いた顔のままアンバーは僕達を部屋に入れる。

 

「私はアンバー・アルケ。このミストリアの服飾全般を担っているわ。」

 

「シオ・コーリです、よろしくお願いします。」

 

「アンバー、確か使ってない制服あったでしょう?この子のサイズに合うのあるかしら。」

 

「それならちょうど2着ありますよ!」

 と言いながらどこか嬉しそうに奥へ引っ込む。

 

「それじゃあ私は契約書作ってくるから、あとは任せるわ。」

 そう言い残しアリアさんは部屋を出た。

 

 ここは彼女の作業部屋らしく、仕立て台にミシン?のようなもの、それに大量の布や糸が置いてあるのが見える。そして部屋の中央のテーブルには細かい裁縫道具。僕はそこに座るよう促され、素直に従うとアンバーさんは僕の後ろに回り採寸を始める。

 

「えっと、それじゃあまずは……胸囲測るね?」

 とアンバーさんはメジャーで僕の身体を計っていく。

 

 途中「えぇ細っそ」とか聞こえたが無視することにする。

 

「うん、大体わかった。」と言い彼女は作業台に戻ると何かを書き出した。それが終わると僕に向き直り、

「じゃあ今度はその制服の採寸するからこっちに立ってくれるかな?」

 

 .―――待って、今のは何の採寸だったんだ。

 そんな胸に宿した疑問を粉砕するようにアンバーはメジャーを取り出すと素早く腕周りを計られた。採寸は続きウエストに差し掛かった時だった。

 

「はい、じゃあウエスト測るから服あげてね~」

 

「......あの、服の上からじゃダメですか?」

 

「え?でも服の上からじゃ正確に測れないよ?」

 

 腹部の痛々しい傷跡。お腹の中身をかき混ぜられた痕。未だに目に入ると少し気分が悪くなる。だから僕からは見えないように服をめくり上げる。

 

 アンバーさんは僕の腹部の傷を見て少し驚いた顔をしたがすぐに採寸を再開した。何か言われるだろうなという僕の思いとは裏腹に、何も言わずにアンバーさんは採寸を続けていく。何も言わない、ただその優しさがなぜか今はとても心に沁みた。

 

 ウエストを測り終えたもメジャーを身体に当て続けるアンバーさん。すると突然アンバーさんの指に一滴の雫が落ちた。

 

 その雫は僕の目から落ちたものだった。

 

「あれ?どこか痛かった!?」

 

「え?........」

 

 ――――――視界がぼやけている……そうか、僕今泣いているのか……

 

「……いえ、すみません。」

 

 僕は慌てて目を拭う。だが拭っても拭っても不思議なほどに涙が止まらない。それはまるで僕の中の何かが決壊したかのようで……アンバーさんはそんな僕に何も言わずメジャーを当て続けた。

 

 そして採寸が終わると

「よし!これで終わりだよ!にしても君…コーリ君だっけ?緩い服着てるから気付かなかったけどだいぶ細いね。お姉さんびっくりしちゃった。ちゃんとご飯食べてる?後で食堂案内してあげるからね!」

 と言うと彼女は僕の頭を少し強めに撫でた。

 

 人に触れられるのが何だか久しぶりのような気がして、思わず笑顔になってしまった。アンバーさんもそんな僕を見て微笑む。

 

「あと、君のサイズは新しく作るしかないから今日はこれ着てね。」

 

渡されたのはスラックスとワイシャツとタイ。そして群青色のベスト。

 

「やっぱり少しブカブカかも?」

 

 確かに肩幅も袖丈も少し余る感じがある、だがなぜかウエストだけはぴったりだ。

 

「うんうん似合ってる似合ってる!」

 とアンバーは嬉しそうだ。

 

「ここ座ってもらえる?」

 

 彼女は鏡のついた化粧代を指さす。

 

「せっかく可愛いお顔がクマで台無しよ?それに髪の毛だって整えれば君はもっとかっこよくなれるよ!」

 

 ヘアピンで前髪を上げ、なにかのオイルやクシを使って整える。そのあとブラシを使い髪をとかしていく。

 

「少し暴れん坊だけど綺麗な髪ね。」

と笑みを浮かべ、また別の櫛に持ち替えて髪型をいじっていく。

 

 その優しい手つきにまた少し泣きそうになる。

 

 最初から雲行きは怪しかったが伸びっぱなしの髪はいつの間にかポニーテールにされていた。なんでだよ、いい感じだったのに涙引っ込んだわ。

 

「うん、やっぱり可愛い!次はお化粧ね!肌綺麗だしクマ隠すだけで十分ね。はい、目つぶって………――――

 

 

 

 渡された手鏡をみる。

 

「誰やお前。」

 と言いたくなるほど、いや口に出てしまっていた。

 

「え、どしたの?気に入らなかった?」

 

「あ、いえ。あまりにも雰囲気が変わっていてびっくりしました。」

 

目に入る人物に違和感があるわけではないが……僕のなんちゃって女装とは大違いだ。

 

「よかったぁ!」

 

 彼女は胸を撫で下ろす。鏡に映る姿に驚く僕を後目に彼女は満面の笑みだ。

 

「でもね、椅子の上で胡坐はお行儀悪いわよ。」

 

するいいタイミングで数枚の紙切れを持ったアリアさんが入ってきた。

「シオ君、おまたせ!……あら?可愛いじゃない!」

 

そして僕の頭を少し乱暴に撫でる。この人もか……と思いつつも悪い気はしなかったのでそのままにする。

 

「………君男の子って言ってなかったっけ?」

 

「男で合ってますよ………」

 

「まぁ、可愛いしいいんじゃない?」

 

「良くないです!!!」

 

「はいはい。じゃあ、行こうか。」

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