人を治さばベッドが二つ   作:あいいろのふとん

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第8話

 それからまたあの廊下を歩く。

 

 しばらく歩いた後に一つの扉の前で止まるとアリアさんがノックする。すると中から黒い髪の女性が開けてくれた。入室すると同時に数人の男女の視線が全て僕に向けられ、少したじろぐ。

 

 そしてアリアさんは僕の肩に手を置きながら言う。

 

「みんな喜びなさい!!ついに治癒士(ヒーラー)の子捕まえたわよ!」

 

 彼女の言葉と場の勢いに僕は思わず一歩後ずさりしてしまう。だがすぐに後ろからアリアさんが僕の背中を押す。

 

「ほら、自己紹介しなさい!」と小声で言われ慌てて僕は口を開いた。

 

「えっと……シオ・コーリです。よろしくお願いします……」

 

 皆から拍手が起きる。

 

「あ、ありがとうございます……」

と言いながらペコリと軽く頭を下げると、みんな笑顔………ではなく怪訝な表情だった。

 

 すると一番手前にいた黒髪の女性が手を挙げる。

 

「アリア様が連れてきたから……信じてますけど、ちゃんとした子なんですよね?以前ベルンの牢から引っ張ってきて面倒ごとになったじゃないですか。勿論治癒士の追加はみんな飛ぶほど嬉しいっすけど。」

 

 それに対してアリアは

 

「安心なさい!今回はどこともやりあっていません。この子もベッケンが偶々見つけてきた子です。」

 

「あ~、ベッケンさんっすかぁ……ってことはその子……奴隷………っすか?」

 

「え、奴隷?」

と僕は思わず聞き返してしまう。

 

 するとアリアさんが腕を組みながら答えた。

 

「あ~……シオ君、この国ではね、人身売買は禁止なの。でもここの性質上結構な数の戦闘奴隷を買いたたくのよ。」

 

 そして彼女は続ける。

 

「その役割をベッケンが担っているってわけ。でもレミ、安心して。この子は奴隷ではないわ。拾ったのはベッケンだけれどスラムマフィアに身を寄せていたらしいわよ?」

 

「マジっすか!?可愛い顔して大胆~。元奴隷とか、みんな陰湿で嫌いなんすよね~。自分が世界で一番不幸みたいな顔して……大抵碌な死に方しないんすよ。」

 

と、レミと呼ばれた女性は言う。今の僕にその話は少しだけ刺さる。

 

「あ、でもアリア様が連れてきた子なら安心っすね!……ってな訳でよろしくね!」

とレミが言うと他の皆も

 

「よろしく」

 

「よろしくね~」

などと言い始めた。

 

 僕は少し安心と同時に同時にここの闇を見たような気がした。

 

「はいはいアリア様~、治癒士同士親交を深めますので帰った帰った!どーせ仕事終わってないんでしょ。」

とレミは僕を腕で手繰り寄せながら言う。

 

 

 

「残念、今日はセーラに押し付けたわ。それにまだまだ需要なことはいくつも残っているもの。魔術の埋込みに部屋の案内、契約だって交わしていない。ということではい、契約書。」

 

 アリアさんが一枚の紙を僕に渡す。するとぞろぞろとみんなが覗いてくる。

 

「君たち大人なんだから人の個人情報覗かなーいなーい。はい、離れーる離れーる。」

 

 なぜだかみんなに遠目で見られながらで変に緊張する。

 

 休みは七日に二日。だが隔週で一日になる場合もある。休暇など様々な項目に目を通していく。闘技場開催が週に三日、隔日で修繕などの雑務。

 

「あの……」

 

「ん?なぁに?」

 

 頬立てしたアリアさんが少し楽し気に返す。

 

「ここの皆さんに相談してもよろしいでしょうか。」

 

「いいのよぉ、そんな畏まらなくて~。勿論構わないわ。人に聞くのは大切よ?特にこの書類はあなたの将来を左右するのだから。むしろここで二つ返事で了承していたら、評価を下げるところだったわ。」

 

「はい……すみません……」

 

「謝る必要はないのよ、ただあなたはもっと自分の意思をしっかり持ちなさい。それがあなたのためになるわ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

「じゃあ相談タイムにしょうか?」

 

 アリアさんは言うが僕は少し不安だ。

 

 今のが試練なのだとしたら今度は人の言うことを鵜吞みにするな、と言われても不思議ではない。

 

 そんな僕の不安を察したのか

「大丈夫よ!みんないい子たちだから!それにこれ以上さっきみたいなことはしないわよ。だーかーらーその窺う表情はやめなさーい。」

と僕の顔をグニグニする。

 

「はい……ありがとうございます……」

 

 すると彼女は僕の頬をつまみながら

 

「よろしい!」

と言っ放った。

 

「はーいみんな集まった集まった。みんな大好き労働争議の時間ですよ~。」

 

「えっ?この子配属先ここじゃないんですか?」

 

 ずっと口を開かなかった黒に緑のメッシュが入ったショートの女性が口を開く。後から聞いたが地毛らしい。

 

「えぇ。折角動ける治癒士なんて貴重な子を見つけたのだし、適性を見てから判断するにせよここだけに留めておくつもりは無いわ。いずれ色々とやってもらうつもりよ?だから暫くはジョエルの預かりとします。」

 

「うっわぁ、シオくん災難っすねぇ〜。うちの戦闘指南役の堅物クソジジィっすよ?もし辛かったらうちに来ていいからね?なんなら私の部屋の場所を「レミ」………失礼しやした、どうぞ続けてください」

 

「ん?アリア様、ってことはこの子にも任務させるってことっすか?……」

 

「最初からそのつもりよ?」

 

「アリア様の鬼!ひとでなし!!!こんな幼気な子を血みどろの世界に連れて行くんすか?私が許さないっすよ!!!こんな子に裏の仕事させるなんて許さないっす!」と立ちはだかる。

 

いつの間にか僕は彼女に抱えられている。

 

「絶対ダメっすよ!こんなのありえないっす!」

 

 彼女は子供のように喚く。

 

それに対しアリアは腕を組み、朱色の髪を揺らしながら冷静に答える。

 

「レミ、騒ぎすぎよ。シオ君には適性がある。私たちの目的のために彼は必要なのよ。」

 

「適性って何っすか!こんな子に血腥いことさせたら壊れちゃうっすよ!」

と叫び返す。

 

とても想いのこもった言葉だがもしかしたら僕はもう壊れているかもしれない。

 

「彼はスラムで生き抜いた子よ?もしかしたら……いえ、彼は既にあなたよりは色々なことを経験しているわ。」

 

「…レミさん?」

 

「大丈夫ですよ?ベッケンさんに馬車の時点でで聞いていたので。」

 

「はぁ?何が大丈夫なんすか!」

と叫びシオに振り返る。

 

 彼女の薄茶色の瞳が僕を睨み

「そもそもベッケンってあの奴隷買い叩いてるジジイじゃないっすかぁ〜。そんな奴の言うこと信じちゃダメっすよ!」

と子供っぽく言い放つ。

 

裏から密かに

 

――――――アイツベッケンと飲み仲間なくせに……

 

という囁きが聞こえてきた。

 

治癒士の一人、黒に緑のメッシュの入った女性が

 

「レミ、落ち着きなよ」

 

「落ち着けるわけないっす!アリア様〜考え直して欲しいっす〜」

と叫び続ける。

 

アリア様は顔を抱えて

 

「レミ、これは彼が自分で決めたことよ……」

 

「そうですよ。僕だって役に立ちたいんです!」

 

――――そうやって突っ走っていた方が楽だから。やることが多い方が嫌なことから目を背けられる。だから僕は……

 

「うっそ…マジでやる気なんすか?」

 

「…ったく、アリア様もシオ君も頑固っすね」

 

「もし辛くなったら私の部屋に来なさいよね?そんな仕事辞めて治癒士として完璧に一人前にしてあげるから」

 

「……ありがとうございます。」

 

「あら、シオ君には全部やってもらうつもりよ?」

 

アリア様がレミさんから僕を奪い返す。

 

「接待も治癒も任務も。慌ただしい方が………君、好きでしょ?」

 

彼女はなぜか少し悲しそうに僕に微笑む。

 

「そう……ですね。色々とご迷惑をお掛けするとは思いますがよろしくお願いします。」

 

「えぇ。新人は迷惑かけてこそよ」

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