ヒカリが太一を落とすまで   作:斧我為

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第3話 真実のカケラ

〜〜とある喫茶店〜〜

 

「いや〜、私大事な話をするときにはいっつもここに来るのよ。ヒカリちゃんも、大事な話をするときにはここに来たらいいわよ? 私がマスターに話しといてあげるし♪」

 

「はぁ……」

 

 あまりの状況変化にヒカリは呆然としたままだった。

 

 無理もない。

 

 太一を想い泣いていたら、太一のおそらくは恋人(と、ヒカリは思っている)が話をしようとヒカリを引き摺ってこの喫茶店までやって来たのだから。

 

「マスター、特別ルームの鍵貸して♪」

 

「まーたお前さんか。一体今日は何の−−ああ、そういう用事か……」

 

 マスターは折紙の後ろにいる呆然としたヒカリを見て全てを悟ったような顔をして棚に掛けてあった鍵を取って折紙へと渡した。

 

「ほらよ、鍵だ。後でちゃんと返せよ」

 

「アリガト、マスター♪ それじゃ行きましょ、ヒカリちゃん♪」

 

「は、はい……」

 

 未だに呆然としたままのヒカリの手を引いて折紙は店の奥に消えていった。

 

 二人が店の奥に消えた後でマスターは紅茶を入れながらポツリと呟いた。

 

「御愁傷様って言った所か、嬢ちゃん。まあ、頑張れや」

 

 そうして入れ終わった紅茶を客の元まで運んでいった。

 

〜〜特別ルームにて〜〜

 

「は〜い、じゃあヒカリちゃんはそっちに座ってね」

 

「は、はい……」

 

 呆然としたヒカリを引き摺って特別ルームに入った折紙は、ヒカリを席につかせて自分はその対面に座った。

 

「えっと……」

 

「ああ、まだ喋らなくてもいいわよ? 混乱してるでしょ? まずはゆっくりと落ち着きなさい」

 

「あ……はい」

 

 そう言われてヒカリは深呼吸しながらゆっくりと考え始めた。

 

(えっと、この人は暁折紙さん。お兄ちゃんと仲がよくて、多分……お兄ちゃんの、恋人さん)

 

 そこまで考えた処で、ヒカリは涙がこぼれ落ちそうになりながらも必死に耐えた。

(駄目、泣いちゃ駄目……! 私は、我慢しなくちゃいけないんだから……。ちゃんと、祝福してあげなくちゃ、いけないんだから……!)

 

 そう自分に言い聞かせて、ヒカリはひきつってはいるものの小さく笑って先を促した。

 

「もう、大丈夫です。お話を、どうぞ」

 

 ちなみに、折紙が太一の恋人などというヒカリの想像を太一が聞いた場合、真剣な目付きでヒカリの肩を掴み、

 

「ヒカリ、それだけは絶対にあり得ないから! そんな恐ろしい想像なんてしないでくれ!」

 

 と、本気の懇願をすることになったりする。

 

 のだが、ヒカリに現在それを知るすべは無いのだし、とりあえず置いておく。

 

 

「ふ〜ん。じゃあ話をさせてもらうわね。と、その前に。あんまり今は関係無いんだけど、一つ聞いてもいい?」

 

「? どうぞ?」

 

 ヒカリからしてみたら既に覚悟を決めていたため、特にためらうこと無く質問を許可したのだが。結果として良かったのか悪かったのやら。

 

 とりあえず、ヒカリは度肝を抜かれることになる。

 

「ヒカリちゃん、太一君の事好きでしょ。異性として」

 

「っっっっっ!?!?!?」

 

 余りにも予想外過ぎる上に自分の本心をピンポイントに突いてきた質問、否確認の一言にヒカリは完全に混乱の極みへと至った。

 

 具体的に言うのなら、顔はこれ以上無いくらいに真っ赤に染まり、頭は右を向いては左を向いてを繰り返し、口を開いても意味のある言葉は無く唸り声しか出てこなかった。

 

 と、いった具合である。

 

「うわ何この子、可愛い〜♪ 太一君い〜な〜♪ こんな可愛い妹いるなんてさ〜」

 

 そんなヒカリを折紙はニヤニヤ笑いながら眺めていた。

 

〜〜10分後〜〜

 

 先程までよりは顔の赤みも薄れ、少しは落ち着いた様子のヒカリは何とか言葉を捻り出す。

 

「な、何の、事で、すか?」

 

 ……突っ込みはやめてあげてください。

 

 こんなのでも、ヒカリは想いを隠しているつもりなのです。

 

「そっかー。ちがったかー。ごめんねー。変なこといっちゃってー」

 

 ニヤニヤとしながらあからさま過ぎる棒読みで話す折紙に、ヒカリはまたプスプスと湯気が見えそうな位に顔を赤く染めていく。

 

「ま、もういいや。じゃあ本題に入るね」

 

「は、はい! 話を、どうぞ!」

 

 ヒカリは早く話を変えようと急かすが……半分以上からかわれた事には気が付いて無いようだ。

 

「先に言っておくけど、私と太一君は付き合ってはいないわよ?」

 

「……え? そうなんですか?」

 

 てっきりそうなのだと思い込んでいたヒカリは驚く。

 

「ええ、むしろそんなこと言ったら太一君に怒られちゃうわよ?」

 

「はぁ……」

 

 こんなに綺麗な人なのに……と、意外に思っているヒカリを気にせず話を続ける折紙。

 

「今日話したいのは普段太一君達と話していることについて、ヒカリちゃんにも協力してほしいなーって思ってね♪」

 

「協力、ですか?」

 

「うん♪ そうそう。実はね……」

 

 そうまま続けられた折紙の言葉に、ヒカリは先程までの感情全てを押し流される程の衝撃を受けた。

 

「私はあなた達が深く関わって旅をした、デジタルな世界について色々調べてるのよ♪」

 

「!?」

 

 ヒカリは今一体何を言われたのか一瞬理解出来なかったが、理解が追い付く程に折紙への警戒心を顕にした。

 

「……何が目的ですか」

 

 ヒカリは未だかつて無い程に警戒していた。

 

 何しろ折紙は、今までヒカリが会ったことの無い“デジモンワールドに関わろうとする人間”なのだから。

 

 現実世界で、間違いなく意図的に“選ばれし子供”であるヒカリにデジモンワールドの話をしようとしてきた人間である折紙が何を考えているのか、ヒカリには想像出来なかったからこそ警戒するしか無かったのである。

 

「そんなに警戒しなくたっていいじゃない。……まあ、無理な話よねぇ。仕方ない、ちょっと待っててね♪」

 そう言って折紙は自分の鞄からノートパソコンを取り出しカチャカチャと何かをしていた。

 

 その間、ヒカリは、

 

(……どうしよう)

 

 困っていた。

 

 何しろ今まで全く会ったことの無い類いの相手なせいで、対応策が全く思い付かないのである。

 

 その上、デジモンワールドの情報はホメオタシスのエージェントであるゲンナイさん達によって隠蔽されている筈なのでヒカリの混乱も此処に極まれり、といったところなのだ。

 

 と、ヒカリが悩んでいる間に折紙は作業を終えたようで手が止まっていた。

 

「よし、OK♪ サモン! ゲンナイ!」

 

「…………は?」

 

 ヒカリは今自分が聞いた言葉が理解出来なかった。

 

 ただ、そんなヒカリを置いてけぼりにして話は進んでいく。

 

「……また、君か。今度は一体何の用だ」

 

「あら、こんな美人さんを前にしてその反応は男としてどうなのかしら?」

 

「残念ながら、君に女を感じる程の余裕がなくてね。それよりも、今度は何で呼んだ?」

 

「簡単に言えば身分証明書代わりね♪」

 

「身分証明書!? 君な、人の事を一体なんだと−−」

 

「あら、ゲンナイさん優しいのね♪ 私にボタンを押すことをゆ−−」

 

「さて、誰に君の事を保証すればいいのかね?」

 

「そう言う話の早いとこは大好きよ♪」

 

「…………はぁ」

 

 ヒカリは今自分の目の前で行われているやり取りを信じられない思いで見ていたが、パソコンが自分の方へと向けられて現実と向き合う事となった。

 

「ゲンナイ……さん?」

 

「ヒカリちゃん……か」

 

 何しろ画面に映っていたのは間違いなくホメオタシスのエージェントであるゲンナイさんその人だったのだから。

 

「えっと……何でそんなところに?」

 

「様々な事情が重なってね……。それよりもヒカリちゃんは何処まで話を聞いたんだ?」

 

「えっと、折紙さんがデジモンワールドについて調べているという所までです」

 

「なるほど……残念ながら安心してくれ。折紙は我々の協力者だ。太一達もその事は知っている。一先ずデジモンワールドに害することはないと思ってくれていい」

 

「……残念なんですか?」

 

 ふと疑問を覚えたヒカリが聞くとゲンナイさんは本当に残念そうに言葉を返した。

 

「ああ……いっそ敵であってくれたなら……」

 

 何処か遠い目をしてゲンナイさんは呟いた。

 

「はいはーい。とりあえず、これで少しは信用して貰えたかな♪」

 

「あ、はい」

 ゲンナイさんがここまで言うなら信用してもいいのだろうと思い、とりあえずヒカリは折紙を信用することにした。

 

「うん、ゲンナイさんありがとね〜。もう帰っても良いわよ〜♪」

 

「本当にこれだけなんだな。……一応言っておくがヒカリちゃんに何かしたら太一が黙ってはいないと思うぞ」

 

「分かってますって♪ それじゃ、待ったね〜♪」

 

 そうしてゲンナイさんは帰っていった。

 

「さて、少しは信用して貰えただろうし、協力して貰えるかな♪」

 

「えっと、何にですか?」

 

「ああ、そう言えばまだそこは話して無かったね。実は−−」

 

 そうして語られた言葉によってヒカリは今日何度目かの驚愕に包まれることになる。

 

「私、あなた達に興味があるのよ。ヒカリちゃん」

 

「私、に?」

 

「ええ、だってあなた達の中でもあなたはイレギュラーでしょ? 何しろ、いきなり光り出したかと思えばデジモン達が元気になったり?」

 

「何で知ってるんですか?」

 

「ゲンナイさんに手伝ってもらって色々あなた達の冒険について調べさせてもらったのよ。

 で、あなたがおこした不思議現象が何で起きたのか。調べていくうちにあなた達に興味がわいてね? 折角興味対象と会えたんだし協力して貰えたらな〜って思ったのよ。

 で、どう? 協力してくれる?」

 

「えっと……協力って何をすれば?」

 

「そんな大した事は無いわよ? 単に髪の毛1本貰えればいいし。欲を言うなら血を少しと、レントゲン撮らせてくれると嬉しいなーなんて」

 

 そこまで聞いた所でヒカリはふと思った。

 

 これは自分の奥底に眠る疑問を解消する好機なのでは、と。

 

 明らかに他の人とは違う自分の不思議さ、否異常さに何らかの答えが出るのでは? と。

 

「……一つだけ、聞いてもいいですか?」

 

「いいわよ? なに?」

 

「折紙さんは何故、あんなことが起きたと思っていますか?」

 

「多分で言っていいのなら……まともな人間では無かったから、だと思っているわ」

 

「……そうですか。……分かりました、協力します」

 

「本当に! ありがとう〜」

 

 その後ヒカリと折紙はとある病院へと行き、機材を借りてレントゲンを撮り採血をしたりした。

 

〜〜夕方、帰り道〜〜

 

「ヒカリちゃんありがとね〜。おかげで研究も捗るわ♪」

 

「いえ……あの、答えが出たら私にも教えて貰えますか?」

 

「勿論いいわよ〜? と、ヒカリちゃんはこの先よね」

 

「あ、はい。どうもありがとうございます」

 

「いいっていいって♪ 後……はいこれ忘れ物」

 

「これって、私の財布? ありがとうございます」

 

「うん♪ んじゃ、まったね〜♪」

 

「はい。さようなら」

 

 そうして二人は別れた。

 

 しばらくして、

 

「ねえ、ヒカリちゃん? 私ね基本的に嘘は吐かない主義なの。でもね……」

 

 クスクス愉しそうに笑いながら、折紙は一人語る。

 

「あなたがちゃんと理解出来るように喋ったなんて、私一言も言ってないのよ?」

 

 

 

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