どうしてもという場合は言ってください。
書き直しますので。
〜〜7月30日、夜〜〜
「ただいま〜」
「お帰り、母さん」
「お帰りなさい、お母さん」
仕事を終えて家に帰宅した八神裕子はぎょっとした。
何しろリビングには物凄い真剣な顔をした太一とヒカリがいたのだから。
普通はびびる。
「ちょっと、どうしたの? 太一? ヒカリ? 二人とも、何か怖い顔してるわよ?」
「ちょっと聞きたい事があるんだ。座ってくれ」
「えーと、少し待っててくれる? まずはご飯の準備を−−」
「飯の用意はもうできてる。話もそんなに長くなるような事じゃないから」
「あら、そうなの? それなら……先にお話しましょうか」
お腹は空いてはいるが目の前の真剣な顔をした二人はほおっては置けないと思い、裕子は先に話をすることにした。
「それで、話ってなぁに?」
「あぁ…………母さん、俺はこの家の子供じゃ無いのか?」
「……太一、あなたなに言ってるの? あなたは私の可愛い息子よ?」
「そうじゃなくて、俺は母さんとは血の繋がりなんか無いのかって話だ」
「…………あぁ、そういうこと。て、それ誰に聞いたの? 進さん?」
誰かに話したことなんてないはずなんだけど、と不思議そうに聞く裕子。
「…やっぱり…」
「うん。そういう意味なら、太一と私の血は繋がって無いわよ?」
「……何で教えてくれ無かったんだ?」
「え? 言う必要ってあったの?」
苦しそうな太一とは対称的に、裕子はあっさりと不思議そうに返す。
「必要性の問題か!?」
「必要性の問題よ。太一は私の可愛い息子だし、ヒカリとも仲はいい。それなのに何で言わなきゃならないの?」
本心から不思議そうに聞かれて、太一は何も言えずに呆然とした。
「それに、何で知ったのかは知らないけど、太一今苦しんでるでしょ? そうなることが分かってるのに、わざわざ教えて苦しめるなんて嫌だったのよ」
「……俺はこの家の子供でいいんだよな?」
「そんなこと、あったり前じゃない」
言葉の通りに当たり前のように言われて太一は本当に安心した。
「うっし! それじゃ飯にするか! なあ、ヒカ……て、ヒカリ!? ちょっ、どうしたんだ!?」
そして驚愕した。
何しろ隣でほとんど話すことなく静かにしていたヒカリがぽろぽろ涙を流していたのだから。
「え!? ヒカリ!? お前何で泣いてんだ!?」
「……ヒカリ、あなたまさか……」
そんなヒカリの様子に裕子は気が付いた。
「太一、悪いんだけどあなたは部屋に戻っていてくれる?」
「え? 何で−−」
「いいから! これは太一(男の子)じゃだめなの。私(女)じゃ無きゃいけない話なの」
「母さんはヒカリの泣いている理由が分かるのか?」
「想像はつくわ」
「………………分かった。母さん、ヒカリをお願い」
「ええ、任せなさい」
そうして太一は自分の部屋へと戻った。
「さてと……ヒカリ、一つだけ聞かせて?」
「……なに? お母さん」
「あなた、もしかして太一の事が好きなの?」
その裕子の質問にヒカリはビクッと震えた。
「喋らなくてもいいわ。合ってるなら頭を縦に振って、間違ってるなら横に振って」
裕子の言葉にヒカリはしばらく躊躇いその後、
コクン、と静かに頭を縦に振った。
「そっか……」
そう言って裕子はヒカリを静かに抱き締めた。
「ごめんなさい、ヒカリ……」
「お母、さん?」
「苦しかったでしょう? 間違ってるって思って、いけないことだって思って、そうして自分の想いを心の奥底に沈めるのは、本当に辛かったでしょう? 最も早くに気づいてあげられなくて、本当にごめんなさい……」
「お、母、さん?」
「いいのよ、ヒカリ。あなたは太一を好きでいいの。あなたの想いは間違ってなんかないの。あなたの想いは決していけないものなんかじゃないの。あなたは太一が好きだって言ってもいいの」
「本当、に? 本当に私、お兄ちゃんを好きでいいの? 間違ってないの? お兄ちゃんを好きだって言っても許されるの? 私、お兄ちゃんとずっと一緒にいてもいいの?」
「ええ、もちろんよ! あなたは太一とずっと一緒にいてもいいの! 太一と結婚して子供を産んで幸せな家庭を築いたっていいの!」
「本当の、本当の、本当に?」
「本当の本当の本当よ!」
「私、いいん、だ。お兄ちゃん、を、好きでも。ずっと、ずっと、一緒にいたい、って、思っても、いい、んだ……!」
「ええ、もちろんよ! 私もあなたに力を貸すから。あなたは太一を思いっきり魅了してメロメロにしてやりなさい! お母さんが許す!」
「お母、さん。お母さん……! う、うぁぁぁぁぁぁぁぁ……! 本当に! いいんだよね!? ひっく。私、私お兄ちゃんを本気で好きになっちゃうからね!? もう、絶対に、諦めてなんか、やらないからね!?」
「ええ。頑張りなさい、ヒカリ……」
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
そしてヒカリは泣き続けた。
今まで溜め続けた分の苦しみを、涙を、全て吐き出す様に。
裕子に抱き締められながら、涙が止まるまで泣き続けた。
〜〜同時刻、太一の部屋〜〜
「もう、大丈夫そうだな」
自分の部屋まで届いてくるヒカリの泣き声を聞いて太一はそう思った。
「はあ、しっかし……俺があいつにしてやれる事なんか、あんま無いのかもなぁ……」
変わっていく自分達の関係を思い、太一は寂しさを覚えた。
……実際にされている話を聞いたなら一体どんな反応をするのやら。
〜〜しばらく後の夕食中〜〜
「そういえば、母さん。俺の本当の両親って、どんな人だったか知ってるの?」
「え?」
夕食中、ふと気になって、何となく裕子に聞く太一。
「いや、俺がどういった経緯で引き取られたのか何となく気になってさ。知ってるなら教えてほしいなって」
「あっ、それ私も気になる」
太一とヒカリにそう聞かれて裕子は、
「あーーー……」
困っていた。
「母さん? 言いづらい話なら、別に無理して言わなくても−−」
「いや、そういう事じゃ無いというか、そういう事だというか……」
「はあ?」
裕子がなにを言いたいのか、太一は理解出来なかった。
「あーー……太一? ヒカリ? お母さん、嘘は言わないからね?」
「何なんだよ?」
「一言でいうなら……通りすがりの女性に貰ったの」
「……はい?」
「……お母さん、ふざけてるの?」
太一とヒカリの冷たい目線に晒されて裕子は慌てて話を続ける。
「いや、ふざけてるわけじゃ無いのよ。……正直な話、お母さんもよくわからない事だらけなのよ。とりあえず、初めの方から話すから取り合えず聞いてくれない?」
そういう裕子の言葉に太一もヒカリも、とりあえず話を聞くことにした。
「ありがとう。なら、まずは……」
そうして裕子は語り出す。
太一が八神家の家族となった日の事を。
〜〜15年前〜〜
「うん。そろそろ帰りましょうか。……あら? あんな人この辺りにいたかしら……?」
久々に辺りを少し散歩しようと思い立ち、しばらく気の向くままにふらふらと彷徨いてさて帰ろうか、と思った時に裕子は余りこの辺りで見掛けない女性を見た。
「………………」
かなりの美人だがどこか影がある、全体的に色素が薄い点も合わせて“薄幸の美女”と言った言葉が似合いそうな女性だった。
〜〜〜〜
「全体的に色素が薄い?」
「まあ、そんな感じの人だったのよ」
「「ふ〜ん」」
余り興味も無さそうに生返事する八神兄妹。
ちなみに今の裕子と八神兄妹との間には認識の違いがあった。
八神兄妹の頭の中には色白の女性がいたが、
実際に裕子が会ったのは、そのままの意味で所々“透けている”女性だったのだから。
「話を続けるわよ」
そして裕子は話を続ける。
〜〜〜〜
「こんにちは。あの、大丈夫ですか?」
その女性を見ていると何やら不安な気持ちが押し寄せてきて、心配になった裕子はとりあえず声を掛けてみた。
「……はい……?」
「いえ、あなた何だかお元気無いようですけど、具合でも悪いんですか? なんだったら肩ぐらいは貸しますけど」
「心配してくれているのですか……?」
「ええ、はい」
「どうもありがとうございます……」
どうにものんびりとした口調だがとりあえず、今すぐにどうこうといった事は無さそうで裕子は一安心した。
「あの、一つだけ聞いてもいいかしら?」
「はい……?」
「あなたはこんな所で何をしてるんですか? そんな小さなお子さんと一緒に?」
お節介だとは分かってはいても、裕子には聞かずにはおれなかった。
今は静かに眠っている小さな赤ん坊を抱いていながら、女性には生気を余り感じなかったのだから。
「……ああ……私は、この子を育ててくれる人を、探しているんです……」
裕子は聞こえた言葉が信じられ無かった。
「あなた……! 自分の子を捨てる気何ですか!? あなたが産んだ子でしょう!?」
「誰が……! 手放したくて手放すものですか!!!」
女性の言葉が余りにも信じられずに思わず声をあげた裕子に対して、今までの印象を吹き飛ばす勢いで女性は叫んだ。
「私だって嫌ですよ! この子は私の子です! 私が幸せにしてあげたい! いろんな物を見せて、いろんな事を教えて、この子の人生を素晴らしい物にしてあげたい! ……でも……」
そこまで叫んだ所で女性の声は急に小さく萎んでいった。
「……私では、無理なんですよ……もう私では、この子を幸せにしてあげられないんですよ……」
「それは、何故……ですか?」
裕子は信じられ無かった。
女性の子供に対する愛情は痛いほど伝わって来た。
なのに何故、幸せにしてあげられないのか理解出来なかった。
「簡単な話ですよ……。私、もうすぐ死ぬんです……」
「……え?」
「今まで誤魔化し続けられたんですけど、もうすぐ限界なんです。多分、無理しても1年が限度でしょう……」
「じゃあ、何でこんな所にいるんですか! 早くご家族の元に−−」
「いませんよ、誰も」
「え?」
「私の残った家族はこの子だけです。他は皆死んだり、いなくなったりです」
そう言って女性は静かに子供を抱き締めた。
「だからこそ、せめてこの子を幸せにしてあげられる人を探しているんです……」
そう言って女性はふと気が付いた様に裕子の方に顔を向けた。
「……そういえば、あなたお名前は何とおっしゃるんですか……?」
「え? ……裕子です。八神、裕子」
「では裕子さん、お願いがあります。……この子を、引き取ってはもらえませんか?」
「私、が?」
「はい。無関係な筈の私にここまで真剣に関わってくれるあなたなら、きっとこの子を幸せにしてくれると思います。それに……」
「それに?」
「……いえ、何でもありません。それで、どうでしょう。無理強いはしませんが出来るなら、私はあなたにこの子を預けたい」
そう言って女性は静かに裕子を見つめた。
裕子はいきなりの頼み事に迷っていた。
当然である。
命を預かるというのは簡単な事では無い。
一生に関わる事なのだから、迷わない方がおかしい。
「一つ、いいですか?」
「何でしょうか?」
「その子を一度、抱かせては貰えませんか?」
「……はい、どうぞ」
女性はほんの少し躊躇った後に赤ん坊を裕子へと手渡した。
その時の女性の苦しそうな顔を見て、赤ん坊の暖かさを感じて、裕子はしばらく悩んだ後に、答えを出した。
「この子の名前を、教えてもらえますか? 名前も知らずには育てられません」
「! 太一です。太陽の太に一つの一と書いて太一です。どうか、どうか! 太一を、よろしくお願いします……!」
「ええ、私に出来る限りこの子を、太一を幸せにして見せます」
裕子は太一を幸せにしてあげようと決意した。
そしてふと思った。
せめてその人生が終えるまでは女性を太一の側にいさせてあげたいと。
「すいません、あなた−−!?」
そう思い裕子は女性に声を掛けようとして、驚愕した。
何故なら女性が既に何処にもいなくなっていたのだから。
「いったい、なにが……?」
呆然と呟く裕子だが思いは変わらなかった。
名すら聞きそびれた女性の子供である、今日から自らの子供になった太一を幸せにしようという思いは。
〜〜〜〜
「それで太一はうちの子供になったのよ」
裕子が話終えてからも八神兄妹はしばし、一言も喋らなかった。
しばらくして、太一は小さく問い掛けた。
「今の話、何処まで本当なんだ?」
「最初に言った通りよ。全部本当の事」
そう言われても太一は信じられ無かったが、
「だから言いたく無かったんだな」
半分納得もしていた。
「ええ、自分自身でさえちょっと信じられないのに信じてもらえる訳ないからね」
そう言って裕子は可笑しそうに笑った。
〜〜更にその後〜〜
「光子朗か……………ああ……………ああ…………ごめん、ごめん。やっぱ、ちょっと不安でさ…………うん、悪かった。もうしねーよ…………うん、じゃまたな。8月1日に」
太一は光子朗に連絡した後にゆっくりと眠った。
太一の話を入れた理由は、前の後書きで書いちゃったのと他で出すタイミングが無かったからです。
この設定で別の話を書く予定なのですが、今以外書けそうに無かったので。
この話は大丈夫だったでしょうか?
何らかのご意見があった場合教えて頂けるとありがたいです。