下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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 一章完結までは毎日投稿します。その後はおそらく週一ペース。










1章 追放と罰~追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
1 ユーモアが足りねえぜ


 

 ギルド内にて、一人の男の叫びが木霊する。

 

「何いい! この俺を追放だとお!?」

 

 木製テーブルを叩いて叫んだ紫髪の男の名はアリーダ・ヴェルト。

 彼はSランクパーティー『優雅な槍(レフィナドン)』の一員であり、彼と同じ席にはパーティーメンバーのうち二人が座っている。パーティーの有名さもあってギルド内の人間の殆どが彼等に注目していた。

 

「いや、いやいやいや冗談だろ? ギャグセンスがねえなあタリカンは。ほれ見ろ、フセットだって笑ってねえじゃねえか。ダメだぜえ、そんなギャグセンスじゃ。ユーモアが足りねえぜ」

 

「俺は本気だぞアリーダ。お前はクビだ。『優雅な槍』には要らないんだよ」

 

 くすんだ金髪の男、タリカンの言葉を聞いてアリーダは焦る。

 ギルドでSランクといえば最高ランク。

 一部を除いて誰もが憧れる存在。

 

 仕事は貴族の護衛や難しいモンスター討伐で報酬は多い。

 真面目に働けば一生を暮らせる金が約十年で手に入る程だ。

 収入が下がるのを避けたいアリーダは、何とか考え直してもらおうと必死に頭を回す。

 

「フセットやジャスミンは賛成してんのか? ジャスミンは居ないみてえだが」

 

 アリーダは胸元が露出多めの服を着ている水色髪の女性、フセットに目を向ける。

 今の状況をつまらなそうに傍観していた彼女は「ああ私?」と口を開く。

 

「タリカンが決めたことだしね。昨日相談された時に賛成したよ」

 

「ジャスミンも大賛成してくれているさ。お前の追放に」

 

「り、理由を聞かせてくれよタリカン。理由もなく追い出されたんじゃ納得がいかねえよ。今までみんなで頑張って依頼を達成してきたじゃねえか。俺を追い出したら、一人一人の負担が増えて大変になっちまうんじゃねえかなあ」

 

「理由ねえ。心当たりはあるだろ?」

 

 正直、アリーダは自分の追放理由を予想出来ている。

 酒癖が悪い。面倒な仕事は最低限しかしない。仲間を揶揄うし喧嘩もする。

 いくつもある理由の中でも一番は下級魔法しか使えないからだろう。

 魔法使いとしての実力は低く、向上させる努力は全くしない。

 

 下級魔法は属性の適性さえあれば誰でも使える。下級より上だと精霊と契約しなければならないため、アリーダは面倒臭がって習得しようとすら思っていない。

 

「まさか、まっさか下級魔法しか使えないからなんて理由じゃあねえよなあ? 確かに下級魔法は威力不足だと思う。だが、人間の価値は魔法の強弱で決まるだろうか。もう一度考え直してほしい。下級魔法しか使えなくても今までどうとでもなったじゃないか」

 

「自覚はしていたか。全属性使える天才だって言うから仲間に誘ったけど、下級魔法しか使えないんじゃSランクパーティーには相応しくない。……というわけで半年間ご苦労様アリーダ」

 

「ま、待てよ。マジなの? 本気なの? 実は俺にもっと強くなってほしいから脅しているだけってオチじゃあ……」

 

 単なる脅しの雰囲気ではないと、アリーダはタリカンの目を見て感じる。

 以前から仲が良いわけではなかったが今は過去一番、目前の男が嫌いだという感情が表情から伝わった。いつまでも騒ぐ邪魔な子供を見るような目をしている。

 

「……マジなのか。だ、だが」

 

「往生際が悪いな。潔く去れよ雑魚魔法使い。お前の後任は既に決めているんだぞ」

 

 アリーダは諦めた。短気なので雑魚と言われては怒りを抑えられない。

 

「分かったよお畜生! はっ、俺だってテメエ等には不満があったんだ。毎晩毎晩、仕事中も発情期の猫みてえにセックスしまくってよお。俺の快眠が邪魔され続けていたんだ! 今日からテメエ等のキモい喘ぎ声を聞かなくて済むんなら清々するぜ! あばよSMプレイカップル!」

 

 諦める代わりに大きな爆弾を投下しておいた。

 

「なっ、お前、そんなこと公共の場で言うなあ! 嫉妬か!? よく歓楽街に行くせいで恋人なんてできたことないもんな!? 早くどっか行けよ二度と顔見せんな!」

 

 焦りと怒りで立ったタリカンをフセットが「落ち着いてタリカン!」と、彼の怒りを冷まそうと頑張っている。ギルド内で彼等に注目していた人間達はひそひそと話し合っている。内容は様々だが大半はアリーダの追放、タリカンとフセットの性癖についてだ。

 

 暴露した事実は『優雅な槍』の仕事にも影響が出るだろう。

 いい気味だと思いつつ、アリーダは怒りの表情を浮かべながらギルドを出る。

 

 

 *

 

 

 ギルドでの追放宣言から十時間後。

 Sランクパーティーをクビになったアリーダは現在……酒に酔っていた。

 昼間の出来事を忘れたくて、酒場で強い酒を浴びるように飲んだのである。

 彼は嫌なことがあった時、大量に酒を飲む癖があるのだ。

 

「……と、こんなことがあったわけよ。ひでえと思わねえ? あいつから俺をスカウトしたくせに急に捨てちまうんだぜえ? あいつはぜってえ女も取っ替え引っ替えするタイプだ。女に刺されて死ねばいいんだ」

 

「はあー、それは大変でしたねえ」

 

 十時間前の出来事をアリーダは女店員に長々語り、愚痴も零す。

 バニーガールの恰好をした女店員は適当な相槌を打って話を聞き流す。

 

「だいたいあの野郎、俺のことを雑魚とか言える立場かよ」

 

「ですよねえ」

 

「貴族の親の力でSランクに昇級したくせに、喧嘩で一度も俺に勝ったことがねえくせによお」

 

「なるほどお」

 

「ああ思い出したら苛々してきたぜ。アッパーエールもう一杯!」

 

「はーい、アッパーエール追加注文ね! ちょっと待っててねお客さん!」

 

 実はタリカンは元々Cランク、ギルドの最低ランクに所属していた。

 実家が貴族である彼はコネクションを最大限に活用し、B、A、Sと最速で昇級していった。モンスターは他のパーティーを金で雇って討伐。行くのが難しい場所にある貴重な薬草やらも同様、仕事は全て他のパーティー任せ。しかしSランクに上がってからはその方法も取れない。

 

 Sランクはギルドの最高ランク。

 困った人々の依頼をこなすギルドメンバーとしての高み。

 当然所属出来る者は少なく、仕事の難易度も高い。

 

 仮にAランクパーティーを雇ったとしても達成出来ないくらいに、Sランクの人間が受ける仕事は困難なもの。タリカンのやり方ではSランクでやっていけず、どうしたものかと悩み思い付いたのが、超優秀な人間を仲間に引き入れること。

 

 フセットは火、水、雷、土の四属性を極めた凄腕魔法使い。

 ジャスミンは男顔負けな身体能力を誇る最強の武道家。

 アリーダは世界でも三人しかいない全属性の適性という驚異的な才能を持ち、魔法使いとしてのエリートコースを歩む天才魔法使い。ギルドに所属してからすぐ、噂のおかげでタリカンにスカウトされた。

 

 仕事で足手纏いになったつもりはない。

 下級魔法しか使えなくても、工夫を凝らして戦闘で役立った自覚がある。

 タリカンは下級魔法しか使えないのが追放理由と言ったが、本当の原因は仲間として友情を深められなかったからかもしれない。もっと上手くやれば追放されなかったかもとアリーダは思う。

 

「……今更こんなこと考えても、おせえよなあ。人付き合いってのは昔っから苦手だぜ。パーティーの中で浮いていたのは分かっていたんだがなあ」

 

「はーいお待たせしましたあ! アッパーエール持って来ましたよお!」

 

「へっ、くよくよ考えても仕方ねえか。過去は変えられねえ。今日は飲むぜ! 未来のことは明日の俺が考えてくれるはずだ! じゃんじゃん追加で持って来てくれ!」

 

 アリーダは飲んだ。飲んで飲んで飲みまくった。

 全財産の八割も酒代に使った彼は気分良く酔い、酒場を出る時は店員達から笑顔で見送られた。

 

「……ちょっ、ちょっと飲み過ぎたかなー」

 

 顔を赤くして、酔ってフラフラな状態でアリーダは夜の町を歩く。

 今朝まで泊まっていた宿に行きたいところだが、同じ宿には一悶着あったタリカン達も宿泊している。帰っても気まずくなるだけなので、仕方なく実家へと帰ることにする。

 

 足元が覚束(おぼつか)ない状態のまま歩くのはアリーダだけではない。

 酒場付近でそういう人間は珍しくなく毎日見かける程だ。

 

 今も酔っ払った男二人がアリーダの前方に居る。

 正常な判断が辛うじて出来たので壁際に避けようとしたが、男二人の片割れが体勢を崩してアリーダに突っ込んだ。まともに突進を喰らったアリーダはうつ伏せに倒れ、男二人は気にした素振りもなく去っていく。

 

「〈体調整備(リフレッシュ)〉」

 

 頭を抱えたアリーダは生命属性の下級魔法を自らにかける。

 今使用した〈体調整備〉は体の調子を整える魔法。これをアルコールを弱めて酔いを軽減させるために使い、強打した顔を押さえながら立ち上がった。

 

「くうう、頭はスッキリしたが心はスッキリしねえ。おい待ちな! 人様にぶつかっておいて謝りもしねえのかこの酔っ払い共! 頭を地面に付けて謝りやがれ!」

 

 怒鳴り声で男二人は立ち止まって振り返る。

 

「何だあテメエはあ? 俺達がギルドBランクのワッシュ兄弟だと知らねえのかあ? それとも知っていて因縁吹っ掛けてきやがんのかあ?」

 

 ワッシュ兄弟と聞いてアリーダは彼等を思い出す。

 通常パーティーを組むなら四人以上が良いとされるなか、彼等は兄弟二人でモンスターの討伐依頼を達成する実力者。しかし新人に絡んだり、借金を返さなかったりとトラブルも多い厄介者。実際に会ったことはないが噂はアリーダの耳に入っている。

 

「兄貴、こいつアリーダ・ヴェルトだ。ほら、Sランクパーティーを追放された奴」

 

「アリーダああああ? なるほどこいつがアリーダかああ。へっへっへ、いけ好かねえタリカンの野郎が『クズ』だ『バカ』だと言っていた、下級魔法しか使えないって噂のゴミ野郎かあ!」

 

(ぬうっ、た、タリカンの野郎、性癖を暴露された仕返しに噂を撒いたのか。子供みてえな悪口だが)

 

「へっへっへ、おい捨てられたゴミ。さっき何か言っていたなあ、謝れとか頭下げろとか。人間様に生意気な口を利くなよ生ゴミが! 俺達がテメエを切り刻んで、焼却炉で処分してやるぜえ!」

 

 ワッシュ兄弟は腰にある剣を抜き、極悪な笑みを浮かべる。

 殺意を見せる相手は二人、しかもBランクの実力者。

 兄弟揃って酒に酔っているとはいえ非常にマズい状況……とアリーダは思わない。

 二対一の不利な状況にもかかわらず余裕の笑みすら浮かべている。

 

「へっ、おいおい、これでも俺は仮にもSランクパーティーの一員だったんだぜ? テメエ等みてえな酔っ払いが勝てるわけねえだろ。やり合う前に宣言してやるぜ! 俺のパンチを、テメエ等は目で見ることさえ出来ない!」

 

「「何だとお!?」」

 

 酔って赤かった顔を兄弟二人揃って怒りでさらに赤くする。

 

「俺は努力が嫌いだけどよお、老後の心配をして筋トレは欠かしてねえのよ。ちょいとでも体を鍛えとかねえと、ヨボヨボの爺さんになった後で苦労するからなあ。ちょっと筋トレする程度でも俺には才能がある。テメエ等よりは力が強いぜ。パンチの速度もテメエ等より上なんだぜ」

 

「なら証明してみやがれえええ! クソ雑魚魔法使いがああああ!」

 

 ワッシュ兄弟が二人揃って剣を構え、アリーダ目掛けて突進した。

 

「直進かよ、単純思考の奴はダメだね。〈砂生成(サンドーラ)〉」

 

 愚直な攻撃を見て笑うアリーダは得意な魔法を使用する。

 土属性の下級魔法〈砂生成〉。

 魔力、もしくは岩石など鉱物を砂に変えることが出来る効果を持つ。

 これによりアリーダは右手の中へと密かに砂を生成して握りしめた。

 

「そして〈突風(ウィンドーラ)〉!」

 

 風属性の下級魔法〈突風〉。

 魔力を風に変えるだけの効果であり暑い日に使うと便利程度の効力。

 アリーダは〈突風〉を使うと同時、砂を握りしめた右手を開きながら振るった。

 風で勢いよく飛ばされた砂はワッシュ兄弟の顔にかかり、多くの砂が目に入って視界を奪う。

 

「ぐああああ!? 目が、目があああああ! 見えないいいいい!」

 

 両目を押さえて立ち止まったワッシュ兄弟の顔をアリーダは殴った。

 兄弟は二人揃って地に転がり、顔を両手で押さえて苦悶の声を上げる。

 

「だから言ったろ酔っ払い共。俺のパンチをテメエ等は目で見ることさえ出来ないってなあ!」

 

「この野郎……卑怯、だぞ」

 

「卑怯? 卑怯ねえ。テメエ等は真面目な正義のヒーローでも相手にしているつもりか? 甘ちゃん思考の酔っ払い。喧嘩にも戦争にもルールなんてもんはねえんだぜ。策を練り、敵を騙し、確実に敵をぶっ倒すってのが戦いよお」

 

 悪魔のような笑みを浮かべてそう言ったアリーダは身を翻す。

 

「じゃあな酔っ払い共。次は誰にも迷惑掛けんなよ」

 

 アリーダは手を振って呑気に帰って行く。

 両目と殴られた顔が痛む兄弟は立ち上がれず、追いかける気力も残っていなかった。

 

 

 * * *

 

 

 酒場から歓楽街を通ってアリーダは実家へと帰ってきた。

 よく歓楽街に行っていると噂になっているが、それは実家へ帰る近道だからだ。

 決して他意は無い。露出の多い女性を見たいとかそんなことはない。風俗店に入ろうとしたことが数十回あるとしても、ただ実家へ帰る近道だから通っている。

 

「……Sランクパーティーをクビになったこと、話した方がいいかなあ。でも心配掛けさせたくねえしなあ」

 

 横幅の大きい屋敷のような家の扉を開け、小声で「ただいまー」と呟く。

 時刻は深夜零時を回った頃。既に家族は寝ていると思って小声で挨拶したが、玄関を見て「ぬおっ!」と大声を出してしまう。玄関には六歳程の男女二人が寝ており、満足そうに頬を緩ませていた。

 寝言で「アリーダ兄ちゃん」と言うのが聞こえてアリーダも自然に笑う。

 

「もう全員寝ているとは思ったがこんな所で寝るなよなチビ共。風邪引くっての」

 

 せめて毛布くらい掛けろと言いつつアリーダは二人を背負い、広間へ向かう。

 広間への通路を歩いていると一箇所だけ明るい部屋を見つけた。

 扉が僅かに開き、照明器具の光が通路に漏れ出ている。

 

「ん、明かり……もしかして」

 

 夜中に起きている人間の心当たりといえば一人しかいない。

 僅かに開いている扉からこっそり中を覗き込むと、老婆が椅子に座って編み物していた。

 

「……やっぱりシスターエルか」

 

 シスターエル。本名、エル・トットフィード。

 彼女はこの建物、孤児院の院長を務めている女性。

 

 アリーダも今背負われている子供も等しく彼女に育てられたので、血の繋がりがなくても母親のような存在である。毎日疲れているだろう彼女はよく、夜中に布製のアクセサリーを作る内職をして金を稼いでいる。

 

「お帰りなさいアリーダ」

 

 見向きもせずにエルは口を開く。

 

「うえっ、き、気付いていたわけね。た、ただいまシスター」

 

「精霊が教えてくれたのよ。今日はなぜ帰って来たの? それもこんな夜遅くに」

 

「たまには実家で寝泊まりしようかなーって思ったんだよ。チビ共やシスターの様子も気になるし」

 

 理由を話すべきか迷ったがアリーダは隠すことにした。

 毎日子供の面倒や内職で働き詰めな彼女に余計な心労を掛けたくないのだ。勘付かれない限りは隠し通すと決めた。

 誤魔化したのはいいがエルが不審に思って振り向く。

 

「四日前も様子見に立ち寄ったじゃない。たかが数日で体調崩したりしないよ」

 

「いやいや、遅い時間に内職していたら体に悪いだろ。シスターが生命魔法で体調整えたりしてんのは知ってんだぜ? 仕事やりすぎて体壊したらダメだろ? 人間には仕事より睡眠が大事だ。俺は寝させてもらうぜ」

 

「……何かあったの? 仕事のことで」

 

 一瞬ドキリとしたがアリーダは表情に出さず誤魔化す。

 

「何にもねえって。シスターももう寝なよ。夜更かしは体に良くねえからさ」

 

「……あなたはね、嘘を吐く時にいつも唇の左端が下がるのよ」

 

「え、嘘おお!?」

 

 そんな癖があると知らなかったアリーダは慌てて唇の左端を触り確かめる。

 適当な嘘を言いながら触ってみたが唇の端は下がっていない。

 少し考えてアリーダは、エルが仕掛けた罠に嵌まってしまったのだと気付く。

 

「ふふふふ、あなたも私も嘘吐きね」

 

「……まったくシスターには敵わねえなあ。話はするけど、先にチビ共を布団に移動させるぜ」

 

 何か問題が起きたことは早くも勘付かれ、確信されてしまったので観念した。

 アリーダは多くの子供が寝ている広間に行き、敷いてある布団に背負っている子供二人を寝かせる。一応誰も起きていないか見渡して確認してから院長の部屋に戻る。

 

 狭い院長室でアリーダとエルは席に座って向かい合う。

 しばらく沈黙は続いたが、話を待ってくれているエルの気持ちに気付いたアリーダは話し出す。

 

「実はな、ちょいと仕事仲間と揉めてパーティーを追い出されちまったんだ。Sランクの依頼を受けられなくなったから、家に入れる金が少なくなっちまう。まあ安心していいぜ。今は俺自身がCランクだけどよ、すぐSランクに昇級して今まで通り、いや報酬の山分けがないから今まで以上に金を渡せるはずだ。そうなりゃ内職で寝不足になるシスターの生活も楽になるぜ」

 

「そう、Sランクにね。……アリーダ、ギルドは危険な仕事も多いと聞くわ。あなたがこの孤児院に寄付してくれるのは非常にありがたいけれど、お金のために自らを危険に晒すことはしないでほしいの。あなたなら他の道もあるはずよ」

 

 心配させるのは申し訳ないがアリーダの性に合う仕事がギルドだった。

 学がなくても試験を受けられ、強さと最低限の常識さえあれば合格出来る。入ってすぐに依頼を受けて達成当日に報酬を得られる。早急に金を必要としていた彼にとって条件の良い仕事だ。

 

 仕事もモンスターを倒したり薬草を採取したりするだけで、彼は当初こんな楽な仕事があるのかと思った。さすがにSランクパーティーに入ってからは、強大なモンスターと戦ってばかりで想像以上に大変だと認識を改めている。

 

 大変でも、命懸けな仕事なので報酬はそこそこ高い。

 Sランクにもなれば見たこともない大金を手に入れられる。

 寄付で孤児院での暮らしを快適なものにするのに最適な仕事だと思う。

 

「大丈夫だって。知ってんだろ? 俺は世界で三人しかいない、全属性に適性がある魔法使いなんだぜ? でっかくて強いモンスターとも戦ったけどよ、俺の華麗な魔法で楽に片付けてやったよ。俺なら一人でもSランクに成り上がれる。心配いらねえよ」

 

 心配掛けさせまいと自分の強さを誇張して語る。

 実際はフセットやジャスミンが主な攻撃役であり、アリーダはモンスターを怯ませたり攻撃の邪魔や誘導をするのが役割だった。タリカンは隠れたり、調子に乗って効かない攻撃をしたりで足を引っ張っていた。

 

「ギルドでは複数人でパーティーを組むのが普通なんでしょう? 一人で仕事しなくてもいいじゃない」

 

「……本音を言うとよ、仲間と上手くやれる自信がねえんだ。……まあ、一人の方がやりやすいこともあるし問題ねえよ」

 

 自分でパーティーを作ったり、別のパーティーに入ることも考えたが現実的ではない。コミュニケーション能力云々以前に、下級魔法しか使えない魔法使いを仲間にする奇特な人間は少ない。ギルド中に知れ渡った現状、仲間を当てにせず一人でやっていくしかないだろう。

 

「目に見えないものを大事にしなさい」

 

「え?」

 

「仲間や家族との絆。人間の心。目に見えないものを大事に出来れば、きっと誰かが理解者になってくれるわ。……私も過去、心の視野が狭かったせいで家を追い出されてね。修道院に送られて、そこで学んだのよ」

 

「……心には留めておく。シスターはいつも正しいこと言うしな」

 

 ギルドでの人間関係は今更改善されないだろうが、エルの言葉で諦めるのは早いかもと希望的観測を持つ。アリーダも仲間が居た方が仕事はやりやすいと思うし、すぐとは言わないが仲間を欲している。

 椅子から立ち上がったアリーダは院長室から出て行く。

 

「おやすみシスターエル」

「はい、おやすみなさい」

 

 扉を閉めた後、アリーダは広間に行って子供達の横に転がった。

 今日は色々あって疲れたため、寝息を立てるのに十秒も掛からなかった。

 

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