下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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10 潜入作戦

 

 食事を終えたアリーダ達は立ち上がり、森を進みながら仕事内容を振り返る。

 受けた依頼は盗賊退治。やむを得ない事情がない限りは捕縛する必要がある。

 人間相手かつ殺さず捕らえるため、難易度はCランクでも高い方で受けるのは腕に自信があるパーティーのみ。受付嬢には不安そうな顔をされたがアリーダには自信があった。既に今回用の策を用意しているのだ。

 

「依頼は盗賊の身柄拘束だったな。盗賊団の名は確か『バッドスペシャル』だったか。国からの依頼だし失敗すれば印象が悪くなるかもしれない。捕縛が無理なら殺害も可と書いてあったことだし、最初から殺すつもりで行った方がいいんじゃないか?」

 

「いいや捕縛する。安心しろ策はある」

 

 ギルドには国王からも依頼が出されることがある。

 主に騎士団が忙しく手が回らない仕事がギルドへ回されるのだ。

 失敗してもお咎めはないが、どんなパーティーが失敗したかは報告されてしまう。

 不敵な笑みを浮かべるアリーダを見てイーリスは少し不安になった。

 

 

 * 

 

 

 森の奥に存在する崖と、そこに掘られた洞窟。

 受付嬢から聞かされた情報によれば盗賊団『バッドスペシャル』のアジトだ。

 見張りの男が二人、洞窟の入口付近に立っているのをアリーダ達は確認する。

 木々を盾に隠れるイーリスとアリエッタの表情は不安そうなものだ。

 

「……おい、本当にやるつもりか?」

「上手くいくんでしょうか?」

 

「大丈夫大丈夫、安心しとけって。一度やってみたかったんだよ敵集団への潜入」

 

 二人の手首は縄で縛られているがこれも作戦の内。

 今回アリーダが行おうとしているのは盗賊団への潜入作戦。

 非道だが二人の女を手土産として相手の気を緩ませ、盗賊団に入団したいという願いを認めて貰う腹積もりである。仲間と油断してくれるなら盗賊団連中の捕縛は容易い。

 

「あのー、ちょっといいですかあ?」

 

 ノリノリ気分でアリーダはイーリスとアリエッタを率いて歩く。

 突然やって来た軽薄な雰囲気の男、しかも美しい女連れ。見張りの男二人は警戒する。

 

「な、何だお前達は! それ以上こちらに来るな!」

 

 剣を向けられたアリーダ達は足を止める。

 

「すみませーん。俺は怪しい者じゃあないんですよ、個人的な用事があってここへ来たんです。ここって『バッドスペシャル』のアジトですよねえ? いやー格好いいなー、見張りの人も強そうだなー」

 

「なぜ俺達の名前とアジトの場所を知っているんだ、怪しいぞ」

 

「調べたんですよ。俺、そちらの盗賊団にどうしても入りたくてですね」

 

「俺達の仲間になりたいってわけか?」

 

 うんうんとアリーダは頷く。

 

「有名で格好いい『バッドスペシャル』に是非とも入りたいんですよ」

 

 見張りの男二人は顔を見合わせ、密かに話し合う。

 聞き耳を立てたアリーダの耳には一部だけだが聞こえていた。

 有名、格好いい、そんな言葉に(おだ)てられて気分を良くしたという内容。つまりどうでもいい話だ。

 

「あー、後ろの女は何だ? そいつらも入団希望なのか?」

 

「いえいえ、この女共は――」

 

 突然イーリスが逃げ出したがすぐにアリーダが捕まえる。

 逃走を図った彼女の頬を「このクソ女!」と殴り飛ばす。

 当然仲間割れではなくただの茶番劇。一度逃げ出したのを殴ることで仲間ではない存在、立場が上の者とアピール。殴る側は速度を手加減しているし、殴られる側は派手に吹っ飛ぶ演技をしただけで実際には当たっていない。角度的に殴られたように見えただけだ。

 

「失礼。この女共は手土産ですぜ。奴隷として売り飛ばすか、仲間内でお楽しみタイムにするかはご自由にどうぞ。金髪の方は多少反抗的ですが殴れば大人しくなります。こっちのちっこいのは従順で素直ですから心配なく」

 

 起き上がったイーリスは後でビンタしようと考える。

 

「ふーむ、礼儀正しいし手土産持参とは中々出来た奴。少し待っていろ」

 

 見張りの男の一人が「お前はここにいろ」ともう一人に告げ、洞窟へと入っていく。

 潜入作戦の出だしとしては悪くない展開だ。今のところアリーダの問題はイーリスから送られる鋭い視線しかない。最初から作戦そのものに不満を持っていたので、作戦終了後に何をされるか不安になって汗を掻く。

 十分程が経つと洞窟内から男が戻って来た。

 

「中へ入れ。今から(かしら)と会わせてやる」

 

 男が指をクイクイ曲げてこっちへ来いとジェスチャーする。

 彼に付いて洞窟へと入ったアリーダ達は、初めて盗賊団のアジトに入ったので新鮮な気分だ。

 洞窟なんて奥に行けば日光が届かず暗いかと思いきや、魔力で光る照明器具が天井に取り付けられていて外のように明るい。洞窟内は単純な造りになっておらず、アリの巣のように複数の道が掘られていた。道にはいくつか木製の扉があり団員の名前らしき文字が描かれている。

 

 最奥まで案内した男は【頭】と書かれた扉を開けて中に入る。

 アリーダ達も入って見渡すと、洞窟には似合わない家具が多く置かれていた。

 

「お前が仲間になりたいって男か? 奴隷連れの」

 

 最奥の部屋には無精髭を生やした中年男が椅子に座っていた。

 茶色い髪にはフケが散乱。

 脂肪が多くだらしない体。

 部屋全体に広がる汗臭い体臭。

 正に不潔の塊のような男である。

 

「俺様はこの盗賊団『バッドスペシャル』の頭、スメル様よ」

 

「俺の名前はライス・ボールって言います。この度は俺なんかに会ってくれて、本当にありがとうございます。俺にとって『バッドスペシャル』は憧れで、超格好いい存在。正直、今も緊張で心臓が爆発しそうですよ」

 

 よくもまあそんなスラスラと嘘を吐けるなとイーリスは呆れる。

 普段のアリーダを知る分、今の丁寧な態度や喋り方に気持ち悪さすら覚える。

 

「へっへっへ、嬉しいこと言ってくれるねえ。仲間になりてえなら歓迎するぜ。見りゃあ分かる、お前は居場所がないはみ出し者だ。散々苦労してきたろうがもう心配いらねえ。俺様の仲間になりゃあ人生安泰さ」

 

「本当ですか! 良かった。俺『バッドスペシャル』って名前を聞いて、すぐこの盗賊団に入ると決めたんです。スペシャルって格好いいですから」

 

 アリーダの言葉を聞いてスメルが勢いよく立ち上がった。

 

「ほう分かるか小僧! スペシャルに勝る名前はない。近頃こんな常識も知らねえ奴が多いんだがなあ」

 

「常識っすよねえ!」

 

 会って一分も経っていないというのにアリーダとスメルは肩を組んでいた。

 互いに笑って肩を組む様はもはや親友。こんなにもあっさりと取り入ったアリーダの話術が凄いのか、スメルが取り入りやすいのか、おそらく後者だろうとイーリスは思う。それにしても簡単に話が進みすぎて若干怖くなる。

 

「お頭、一つ、お願いがあるんですけど」

 

「何だ何だ新入り、遠慮するな言ってみろ!」

 

「歓迎会として宴会やりませんか? 俺、良い酒を持って来たんです」

 

「宴会……だと?」

 

 スメルの笑みが消えてアリーダから離れ、再び椅子に座る。

 さすがに調子に乗りすぎたかとアリーダ達は汗を垂らす。

 黙ってしまったスメルの言葉を静かに待っていると、彼がグッと親指を立てた。

 

「いいじゃねーかやろうぜ宴会! 食料庫から酒を大放出だああ!」

「イェーイ!」

 

 立ち上がった彼とアリーダは再び肩を組み、大声で騒ぎ散らす。

 上手く行き過ぎている気はするがここまでアリーダの思惑通りである。

 それから三十分が経過した頃、洞窟内の広間で宴会が始まった。

 

 頭のスメルはご機嫌で、食料庫に貯め込んでいた食料や酒を大放出した。

 盗賊団の団員、総勢三十名が広間にて飲み食いして騒ぎ出す。

 食事は干し肉やパンが多いがちゃんとした料理も並んでいる。

 

 普通なら洞窟に居て料理なんて出来ない。しかし洞窟内の奥にある厨房には魔力で動く調理設備が置いてあった。広間には過ごしやすいよう椅子も机も置いてあるし、その他諸々の家具や設備も充実している。もはや宿屋より充実した空間となっていた。

 

 この洞窟は自然に作られたものではなく、スメル曰くジャイアントモールというモンスターの住処を奪ったものらしい。ジャイアントモールは山肌や大地に穴を掘って生活する大型モンスター。体が大きいゆえに掘られる住処も広く、設備さえ揃えば人間も居心地良く住み着くことが出来る。

 

「おい新人、飲んでるか! 食ってるか!」

 

 広間での宴会中、アリーダは軽薄そうな男に抱きつかれた。

 一瞬、男に抱かれる趣味はねえと肘打ちしそうになったが思いとどまる。

 

「そっちこそ飲んでますか? いや飲んでますね、顔見りゃ分かるわ」

 

「ああああ? 飲んでねーよバカあん。それよかお前の連れて来た奴隷、どこに居るんだよお……美女なんだろお?」

 

「あいつらなら牢屋ですぜ。頭から聞いたんですけど、女も男も捕まえて奴隷として()(ぱら)うんでしょ? 今は十三個も商品があるらしいじゃないっすか。牢屋の見張り役の人って宴会参加してます?」

 

「牢屋の見張り役だあ? そりゃあいつだぜえ」

 

 軽薄そうな男が指す方向では、グラスを持ったまま男が仰向けで寝ていた。

 団員達が騒ぐ雑音も気にせず彼は気持ちよさそうにぐっすり眠っている。

 

「せっかくの宴会なのに不参加なんて勿体ねえからなあ、俺が誘ったんだぜえ。参加してるしてるう。心配すんなって、牢屋の扉は鍵付きだから逃げられやしねえってばよう。仮に牢屋から逃げられても洞窟からは出られねえしよお」

 

「ん? それってどういう意味です?」

 

「それは……そーれはだなあ…………ああ……ねむ」

 

「あ、寝るのはええよ畜生……!」

 

 話の途中で軽薄そうな男は眠ってしまった。

 もたれかかってくる男の体を支え、静かに地面へと寝かせる。

 アリーダが周囲を見渡すと、いつの間にか殆どの団員が眠っており倒れていた。

 酒に酔って騒ぎ疲れたから……ではない。それもあるだろうが主要因は違う。

 

「効き目抜群すぎるってのも厄介だな」

 

 団員達が眠ったのは、アリーダが酒と食事に混ぜた睡眠薬のせいだ。

 ほんの僅かな臭いは残るが味は無味。液体状なのでどんな飲食物にも溶け込む。

 作戦のために彼が調合しておいた渾身の出来の睡眠薬は素晴らしい効果を発揮した。

 そう、彼の作戦は、潜入後に宴でも開かせて飲食物に薬を盛ろうというものである。

 

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