下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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11 嫌な予感

 

「な、何だあ? なんで全員寝て……寝るのは、まだ……はええぞ……」

 

 全員を眠らせる作戦は順調に進み、ついに(かしら)であるスメルも眠り倒れた。

 効果強めの睡眠薬なので一度眠れば余程強い衝撃を受けない限り起きない。

 あまりの呆気なさにアリーダが驚いている。手際が良かったとは自分でも思うが、それ以上に『バッドスペシャル』のメンバーが間抜けすぎるから簡単だった。失敗を考えて第二第三のプランを練っておいたのがバカらしくなる。

 

「こりゃサードプランどころかセカンドプランすら必要なさそうだ。間抜けな盗賊共め」

 

 全員眠ったのを再度確認してからアリーダは牢屋に向かう。

 宴会前にアジト内を案内してもらったので迷うことはない。

 扉に【牢】と書かれた鍵付きの部屋に辿り着く。鍵が必要なのは案内された時に知ったので、先程の眠り確認のついでに牢屋番らしい男から盗っておいた。盗賊団入りしただけあって鮮やかな手際である。

 アリーダは盗んだ鍵で解錠して扉を勢いよく開けた。

 

「ハローエブリワーン! 売られそうになった可哀想な子猫ちゃん達、もう大丈夫だぜ! 間抜けな盗賊は全員俺がぶっ飛ばして眠らせてやったからな! お礼にキスの一つでもしていいん……だ、ぜ」

 

 目を閉じて踊りながら入室したアリーダが開眼すると言葉が詰まる。

 牢屋らしい部屋には奴隷として売られる予定の人間が十三人も居た。それは盗賊から聞いた情報通りだが、部屋にはイーリスとアリエッタ以外女性が存在しなかった。筋骨隆々とした男性、肥満体型の男性、坊主頭の僧侶らしき男性、あどけない男児など十三人全員が男性だったのである。

 

「本当に助けが来た! 来てくれてありがとおおおう!」

「感謝するよ君、キスくらいしてあげようじゃないか!」

「導いてくれた神には感謝を、あなたには接吻(せっぷん)を」

「おじさんありがとう!」

 

「あっ、ま、待て、待った。やっぱりキスはなし……」

 

 笑顔で次々と男達に詰め寄られたアリーダは二十回以上もキスを受けた。

 頬や額でも気持ち悪いのに、肥満体型の男性には唇に五回もされてアリーダは悲鳴を上げた。女性からのキスなら唇でもというか寧ろ唇が良いが、脂の乗った中年男性からのキスなど求めていない。地獄を味わったせいで短時間気を失ってしまった。

 

「起きて、起きてください」

 

「むぅん? アリエッタ、か?」

 

 体を揺らされて目を覚ましたアリーダはアリエッタを見て癒やされる。

 先程までの地獄を吹っ切って上体を起こした時、正面に居たのは肥満体型の中年男性。至近距離で顔を目にしたアリーダは地獄を再び思い出し、吐き気を催すがなんとか堪える。さすがにこれ以上バカなことをして時間を無駄にするのは危険と思ったのだ。

 気分が悪いせいで顔が青いまま彼は全員に状況を説明する。

 

「ゴホン、よく聞け。盗賊団は全員おねんねしてるから逃げたいなら逃げりゃいい。だがお前等、少しはストレスを解消していかねえか? まだ盗賊連中を縄で縛って、ギルドに運ぶっつう大事な仕事が残っている。ギルドに運ぶのは当然俺のパーティーの役目だがよ、縄で縛るのはお前等でも手伝える。自分で奴等を縛った方がお前等の気持ちもスッキリするんじゃあねえか?」

 

 盗賊の人数は三十人。パーティーメンバー三人でも縛れない数ではないが、どうせなら楽したいと思うからこその提案。彼が「どうだ」と答えを訊けば男性達は手伝うと宣言した。

 強い衝撃を与えると起きるから気を付けろという注意を聞いた男性達は広間に向かう。

 

「アリエッタ、イーリス、もうその縄解いていいぜ」

 

「私は既に解いている」

 

「そっか、もう捕まっているフリはしなくていいですもんね」

 

 手首を縛る縄の先端をアリエッタが咥えて引っ張ると、容易く縄が解けた。

 スリップノット、または引き解け結びと呼ばれる結び方のおかげである。

 まず輪を作り、先端を折り返して輪の中へ通し、折り返し部分と縄のもとを引っ張る結び方。縄の先端を引っ張るだけで簡単に解けるわりにしっかりと結べる。知らなかったアリエッタは「本当に解けた」と驚き、縄を地面に捨てた。

 

 すぐ解ける縛り方にしたのは緊急時に両手を使えるようにするためだ。

 イーリスが奴隷役を引き受けたのはこの縛り方だったからである。

 

「盗賊の捕縛、早く手伝いに行きましょう! 元々私達の仕事ですし!」

 

 アリエッタは走って部屋を出て行く。

 彼女に続くようにイーリスも動き出し……アリーダの頬に平手打ちをかました。

 

「いでっ、何すんだイーリス」

 

「アドリブでクソ女とか言うからだ。やってみたはいいが、やはり不快な作戦だ。次からは承諾しない」

 

「あ、潜入役がやりたかったのか?」

 

「殴るぞ」

 

 二人は少し口喧嘩しながら遅れて広間に向かう。

 小走りで向かっている途中、イーリスが口を開く。

 

「それにしても妙だと思わないか」

 

「ああ、Cランク依頼だからって簡単すぎる」

 

 全員を眠らせて無力化する作戦は順調に行きすぎた。

 ギルドCランクの依頼なので当然Cランクの人間が引き受ける。

 生死問わないとはいえ、人数が多い相手を捕らえるには相手以上の実力が必要になる。盗賊団構成員の実力や連携力が弱ければ、Cランクの人間でも数人で捕らえられるだろう。ギルドがCランクに難易度を設定したのなら、余程のヘマをしなければ依頼を達成出来るはずだ。

 

 しかし、いくら何でも盗賊団の総合力が弱すぎる。組織としては下の下の下。

 今回は国からの依頼。騎士団が一度取り逃がした相手であり、対処する時間がないせいでギルドに任せた仕事だ。あっさりと罠に嵌まり、あっさりと捕まりかけている間抜け盗賊団を騎士団が逃がすとは思えない。

 

「あんな間抜け盗賊団じゃどっかでヘマして捕まるだろ。精鋭揃いの騎士団が取り逃がし、ギルドに依頼を回すことになった相手にしちゃあ拍子抜けだぜ。依頼ランクから考えりゃあ納得だがな。どうも嫌な予感がする」

 

「同感だ。あっさり薬を盛られるような連中を、騎士団が一度でも取り逃がしたというのは信じ難い。リーダーや構成員を見ても実力者には見えなかった。刃物を持った素人のようなものだ。……もし騎士団から逃げ切れたというのなら」

 

「お強い誰かさんが協力している可能性が高い」

 

 イーリスは「ああ」と頷く。

 経験と知恵がある二人は同じ考えを持っていた。

 

(かしら)やってたデブから構成員を紹介されたが、見たとこ構成員の中に強い奴は居ねえ。仮に協力者が居るってんなら、自分を紹介しないようデブに言ったのかもしれねえ。だとしたら用心深い奴だぜ。新入り歓迎の宴会にすら顔を出していない。アジト入口の見張りでもしているのかもな」

 

 用心深い人間なら新入りがスパイの可能性を考える。

 アジトの入口さえ見張っておけば脱走者も敵も逃がす心配がない。

 もしそんな協力者が居るのなら、知恵だけで騎士団から逃げられてもおかしくない。

 

「かなり頭も良さそうだ。イーリス、お前は広間の入口で警戒してくれ」

 

「誰か来れば大声で知らせよう」

 

 広間の扉前でイーリスに見張りを任せ、アリーダは中に入っていく。

 広間の中では既にアリエッタ、売られる予定だった男性達が盗賊団の構成員を縄で縛っていた。合計十四人も人手があるので全員縛るのも楽だっただろう。迅速な捕縛を完了させたので後はギルドに運ぶだけ。全て順調に行っているのにアリーダから嫌な予感が消えてくれない。

 

「あ、アリーダさん、全員縛り終わりましたよ」

 

「分かった。後はギルドに運ぶだけだ、男共は自由に逃げな。ただし――」

 

「敵だあああああああああ!」

 

 これから帰ろうという時にイーリスの叫びが広間全体に響いた。

 

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