下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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16 壺ショック

 

 王都は高さで上町と下町に分かれており、住む人間も貴族と庶民で分かれている。

 正午を過ぎた頃。体躯の大きな紫髪の男、アリーダは普段訪れることのない上町にある屋敷前に居た。黒い鉄柵に寄り掛かりながらアリーダは屋敷から人が出て来るのを待つ。もうかれこれ一時間は外で待っているので若干不機嫌である。

 

 屋敷の扉をぼんやり眺めているとようやく扉が開かれた。

 屋敷内からは強面の男が一人だけ出て来た。オールバックの茶髪で、左目に眼帯を付けている。外見からして只者ではない彼の名はアンドリューズ。ギルドマスター代理にして、アリーダと同じ孤児院育ちの男だ。

 

「お、アンドリューズのオッサン。ようやく帰って来やがったか」

 

 玄関の扉から出た彼は庭を通り、先にある大きな門を通って出た。

 彼が出て来るのを待っていたアリーダは、鉄柵から背中を離して彼のもとへ歩く。

 

「すまんな。つい仕事の会話が長引いて遅くなった」

 

「羨ましいねえ貴族様の家でご馳走にありつけるとは。で、どうだったんだよ」

 

「かなり渋っていたが引き受けて貰えたよ。当然護衛付きだが、孤児院にいらっしゃってくれるそうだ」

 

 報告を聞いたアリーダは「よーし」とガッツポーズする。

 さっきまでアンドリューズが入っていたのは上町に住む人間の家。つまり貴族の家。

 ギルドマスター代理だろうと普段なら関わらない貴族に何用だったのか、それはエルの誕生日会に関係している。目前に聳え立つグリッドマン伯爵家とエルは過去で関係者だったのだ。現在の当主を誕生日会に呼ぶため、アリーダは自分より立場の強いアンドリューズに相談した。彼への相談は正しく、見事誕生日会に招待出来たようだ。

 

「しかし、よくもまあこんなことを考えつき、実行しようと思ったものだ。確かに誕生日プレゼントは物品でなくてもいいが、これでシスターが喜ぶとも限らんのに。君の無謀さ……ああいや大胆さにはいつも驚かされる」

 

「オッサンからの話を思い出してな。……後悔ってのは、どんなものだろうと解消した方がいいだろ」

 

「ふっ、後悔か。それなら君はどうなのかね」

 

 後悔という言葉でアリーダはSランクパーティー『優雅な槍(レフィナドン)』を思い出す。

 今の彼にとって唯一の後悔と言えるだろう。

 チームに加入したことにではない。仲間との関わり方についてだ。

 ジャスミンはともかく、タリカンやフセットとの関わり方は後悔している。

 喧嘩して苛々した時は蛙を頭に乗せたり、寝ている間に落書きしたり、子供っぽい悪戯をしてしまった。相手も色々と仕返しをしてきたので謝ろうとは思わないが、仲間との付き合い方については本当に後悔している。

 

「……俺に後悔? おいおい、俺は後悔とは無縁の男さ」

 

「どうかな。まあ、君の後悔は君自身の問題だ。私がとやかく言うことでもない。さて、私は仕事があるのでギルドに帰る。夜、誕生日会が始まるまでには孤児院に顔を出そう。遅刻はしないと約束しておく」

 

「ああ絶対だぜ。俺は先に帰ってガキ共と準備進めとくからよ」

 

 アリーダはアンドリューズと別れ、上町から下町に戻ろうとする。

 周囲を見渡して歩きながらアリーダは、下町と比べて華やかな上町は自分には合わないと思う。自分の居るべき場所がここではないと感じるのだ。貴族社会となる上町は下町と比べて雰囲気が堅苦しい。金持ちにはなりたいが貴族にはなりたくないなと心の内で呟く。

 

「んんん~? おい、おいおいおい、そこに居るのはアリーダじゃないか」

 

 聞くだけで苛つく声に振り向くと予想通りくすんだ金髪の青年、タリカンが居た。

 今日は仕事をしていないようで高級スーツを着る彼は黄金の壺を抱えている。

 

 アリーダは彼を見た瞬間、眉間にシワが寄り、奥底に沈めていた怒りと恨みが自然と噴き上がる。昂ぶった感情のままに走り出し、かつての仲間である彼目掛けて跳び蹴りを放った。咄嗟に彼が壺を庇い背を向けたので、勢いのよい蹴りは無防備な背中にクリーンヒット。壺を抱えたまま彼は「ぬぐうおおおおっ!」と悲鳴を上げながら十メートルは吹っ飛んだ。

 

 蹴りを放ったアリーダは気分爽快。

 砂漠で飲み水が少ない時オアシスを見つけたように嬉しさが込み上がった。

 恨みが溜まっていた心が晴れて「よし」とガッツポーズする。

 

「危ねええええ! おまっ、おまおま、いきなり何してくれてんだ!」

 

 石畳に背中が当たりながらぶっ飛んだタリカンは怒りながら立ち上がる。

 彼が抱える黄金の壺は無事だ。驚くことに傷一つない。壺が余程大事だったのか、蹴りを背中に受けた彼は空中で半回転して着地すら背中でやってのけた。そのせいで高級スーツは背中部分が破れてしまい、背中丸見えの残念な服になってしまった。

 高級スーツが破れたことに気付かない彼は壺が無事かを確認する。

 

「いやあ、テメエに会ったら何するか思い出しちゃったもんで。俺の新種モンスター討伐の手柄を横取りして、高額の報酬を受け取ったんだってなあ。さぞ良い気分だったんだろうなあ! 他人の功績を自分の物にするって卑劣な行為はよお!」

 

「なっ、あの新種のモンスター、お前が倒したのか。なるほどな。崖を崩して討伐するなんて馬鹿な真似、お前がやったと聞けば納得だ。後片付けくらいしておけ! お前のせいで報酬が減ったじゃねえか!」

 

「はあああああああああん? もう一度蹴ってやろうかなあ?」

 

 謝罪どころか八つ当たりするタリカンにアリーダの怒りがすぐ溜まる。

 蹴るためにアリーダが右足を後ろに下げると、タリカンは明らかに動揺した。

 

「あああ待て待てもう攻撃してくんな! せっかく買った壺が割れちまうだろ!」

 

「そういやさっきから気になっちゃいたが……何だよ、そのでっけえ壺」

 

 ただでさえ人間の子供程に大きいのに、光り輝く金色なんて目立つ壺。視界に入った途端、見る気がなくても意識が持っていかれてしまう。タリカンが体を張って守ったことから、彼にとって大事な物なのがアリーダにはすぐ分かった。

 

「へっへっへ聞いて驚け。これぞ幸福を呼ぶという噂のある純金製の壺さ。持っているだけで大金が舞い込んでくるらしいぜ。本当なら大金貨五十枚のところを、なんと大金貨三枚で商人が売ってくれたのさ。どうだすげえだろ!」

 

「ふーん、純金の壺ねえ」

 

 幸福を呼ぶだの、純金製だの、話を聞くだけでも怪しさ満点な壺。

 さらに話の中でアリーダは理解したが、商人は高い値段を提示してから安い値段を提示している。この交渉術は詐欺でよく使われるドア・イン・ザ・フェイス。おそらく大金貨三枚という値段が商人にとっての本命。大金貨五十枚の方は売れたらラッキーと思う程度だろう。

 

 アリーダが思うに九十九パーセント詐欺である。

 一応本物の可能性もあるので、確かめるために手持ちの小さな磁石を壺に付ける。

 

「な、何すんだこの野郎!」

 

「いいかねタリカン君、簡単なお勉強だよ。金やプラチナとかの貴金属ってのは磁石にくっつかねえんだぜ」

 

「何を言っているんだ。くっついているじゃないか」

 

 ため息を吐くアリーダは、やれやれと首を横に振った。

 貴金属が磁石に反応しないのは事実。見事に磁石がくっついている壺は、残念ながら百パーセント純金製ではない。見た目が黄金でも壺の材料は磁石に反応する素材。主に鉄、コバルト、ニッケルのどれかが多く含まれている。

 

「察しが悪いなあ。テメエが大切に持っているその壺は純金製じゃねえっつってんの」

 

 アリーダの指摘にタリカンは「何いいいいいい!?」と驚愕する。

 思わず壺を落としそうになったタリカンだが慌ててキャッチした。

 

「じゃあ、この壺が純金製っていうのは」

「嘘だな」

 

「……じゃ、じゃあ、幸福を呼ぶってのは」

「噂だな」

 

「…………ば、バカな。そんなバカな。必死に溜めた財産で買ったのに」

 

 見るからに落ち込んでいるタリカンに対してアリーダは掛ける言葉で悩む。

 内心では『ざまあみろ』と思っているが、詐欺で騙されて落ち込み中の人間を嘲笑うのは躊躇われる。嘲笑しないといっても慰めたいわけでもない。結局タリカンはアリーダにとって嫌いな相手なのだ。もしもタリカンが女性だったら慰めの言葉を掛けていたかもしれない。

 

「あーあ、今までやってきた不正行為のツケが回ってきたんだろ。人間良いことをすると巡り巡って自分に返って来る。逆に、悪いことをすると将来自分に返って来る。今のテメエがそうさ。過去の悪事が不幸を呼んだわけだ」

 

 暗く落ち込むタリカンは表情が死んだまま小さく笑い出す。

 

「ふ、ふは、はっはっはっは。まあいい。俺はこれから、この国の王になるんだからな」

 

 突然訳の分からない言葉を聞いてアリーダは困惑する。

 国王になるなんて幼児が抱く夢。王になるなら想像を絶する力で国を乗っ取るか、王族と結婚するかの二択。基本どちらも無理だと誰もが言うが、可能性があるとしたら後者だろう。今の王が退位すれば次の王は現国王の長女。長男も候補には挙がるが幼いため、長女が次期国王と噂されている。つまりその王女と結婚出来れば王位に就ける……かもしれない。しかしいくらタリカンが貴族とはいえ王女と結婚など不可能に近い。

 

「アリーダああああ! 俺が王になったらまずはお前から死刑にしてやるぜえ!」

 

「こ、こいつ……イカれてやがる。壺ショックがそんなに強かったのか」

 

 おかしくなってしまったタリカンからアリーダは逃走する。

 因縁があるとはいえ、もはや彼に何かをする気になれなかった。

 

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