下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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19 ランクアップクエスト

 

 エルマイナ孤児院で盛大に行われた誕生日会の翌日。

 アリーダ、アリエッタ、イーリスの三人はギルドのマスタールームと呼ばれる部屋で、マスター代理であるアンドリューズと向かい合っていた。実は誕生日会の途中、彼から「大事な報告があるので明日マスタールームに来なさい」と言われていたのだ。

 

 マスタールームとはギルドマスターの専用部屋。

 至る所に黒猫の置物が置かれているその部屋には、誰であろうと許可なく入ることは禁じられている。現在入れるのはマスター代理のアンドリューズと、彼に呼び出されて重要な話をされる者のみ。入室しただけでアリーダ達はいったい何の用なのかとビクビクしている。

 

「チーム『アリーダスペシャル(仮)』の諸君」

 

 険しかったアンドリューズの目が優しくなり、笑みが浮かぶ。

 

「君達の今までの仕事ぶりは評価に値する。ランクアップクエストの受注を許可しよう」

 

 その発言にアリーダは「よっしゃ」とガッツポーズして、イーリスは静かに笑う。

 何を言っているのか分からないアリエッタだけは戸惑っている。

 

「ええっと、私達はBランクになるということでしょうか」

 

「ん? なんだアリーダ、アリエッタに説明していないのかね」

 

「ああ忘れてたぜ。じゃ、ランクアップについて簡単に説明するぞ」

 

 チームのランクアップはリーダーのランクアップでもある。

 ランクは最低がCで始まり、B、A、Sと上がると仕事の難易度も上がる。

 

 昇級するためには一定の実績を重ね、ランクアップクエストと呼ばれる依頼に挑戦しなければならない。ランクアップクエストはチームより一つ上のランクの仕事、しかも討伐依頼を実際に受ける。現在アリーダ達はCランクなので、Bランクの仕事を完遂しなければならないということだ。

 

 当然難易度が高いので失敗、下手すれば死ぬ可能性もある。

 しかしギルドの仕事は常に死の可能性が付き纏うものであり、命が危険と判断すれば即撤退が基本中の基本。仮にアリーダ達が達成出来ないと考えても逃走すれば済む話だ。仕事の達成は難しいだろうが、それでも受けた経験は糧になるのでやる価値はあるだろう。

 

「なるほど、つまり、ランクアップクエストに成功すればランクが上がるんですね」

 

「そういうこと」

 

 一度上のランクの仕事を達成出来たなら、上のランクでやっていける証明になる。

 アリーダ達は当然受けるし合格するつもりだ。

 Bランクへの昇級など目標への第一歩でしかない。

 

「依頼は君達が選んで構わない。討伐依頼ならなんでもな」

 

「おう、じゃあ行ってくるわ。ランクアップの手続き準備でもしておいてくれ」

 

 元Sランクパーティーに所属していただけあって、自信満々な様子でアリーダはマスタールームを出て行く。彼の後を追ってアリエッタとイーリスも退室して、三人はランクアップに必要な仕事を探しに行った。

 

 

 * * *

 

 

 ランクアップクエストを受注したチーム『アリーダスペシャル(仮)』は荒野に来ていた。

 荒れ果てた大地に木は生えておらず、水分が足りないのか数少ない草は枯れかけている。周囲には大岩や崖も多く、茶色の乾いた大地には蟻や蜘蛛など小さな虫が多い。こんな場所に来たのは、今回の討伐対象であるフルメタルスパイダーが住処としているからだ。

 

「あの、アリーダさん。討伐するフルメタルスパイダーってどんな魔物なんですか?」

 

「簡単に言うと体が鉄のように硬い巨大蜘蛛だな。お、巣があったぜ」

 

「どこで……え、な、何ですかあれ!?」

 

 アリーダ達の右上ではなぜか、巨大な鳥が血塗れで死んでいた。

 死体は異常な姿だ。鋭利な刃物で斬られたかのように、頭部から胸部にかけて五つに分かれている。流れた血は既に固まっているので死から少し時間が経過しているのだろう。それだけなら他の魔物や人間に殺されただけと気にしなくていいのだが、死体はなんと空中に浮いている。一向に落ちる気配がない。

 異常な死体に驚くのはアリエッタだけで後の二人は平然としている。

 

「無惨だな。巣に突っ込んだのか」

 

「知っていたかイーリス。アリエッタ、あのでっけえ鳥はな、フルメタルスパイダーの巣に自分から突っ込んだのさ。フルメタルスパイダーの出す糸は鋼鉄以上に頑丈かつ極細。注意しねえと見えねえから、あの鳥のように頭から突っ込むことがある。蜘蛛の巣らしく粘着性もあるから一度ぶつかったら中々取れねえぜ」

 

「つまり巣は獲物を捕らえるための罠というわけだ。危ないし近付くのは止めておけ」

 

 危険だからこそフルメタルスパイダーの出す金属糸は高く売れる。さらに糸で作られた武具や防具は並の金属よりも硬く強い物となり、王国では高級品として売られている。実は密かにイーリスも欲しいと思っているが、市販品を買う金銭的余裕はないし、自分で採取する実力もないので今は手に入らない。

 アリエッタはジッと巨鳥の周囲を見つめてみると、金属糸製の巣がようやく見えた。

 

「あ、見えました! 太陽光で微かに光っていますね」

 

「しかしどうするつもりだアリーダ。フルメタルスパイダーを倒す策は考えてあるのだろう?」

 

「ん? ああ、落とし穴でも掘ろっかなっと」

 

 さらっと言われた作戦にアリエッタとイーリスは絶句する。

 落とし穴、とアリーダは言った。子供の悪戯レベルの発想を堂々と告げた。

 魔物との戦闘時、確かに罠を利用する人間はいる。爆弾を設置したり魔物の好物で行き先を誘導したりだ。魔法使いがチームに居れば微精霊の力を借りて、専用の罠でもっと色々なことが出来る。てっきりイーリスは魔物を痺れさせる罠や動きを止める罠を使うのかと思っていたが、予想に反して幼稚な罠の名前に言葉が出ない。

 

「んんん? 何だ何だその反応。シンプルで良い策じゃねえか」

 

「でも落とし穴なんて……落ちてくれるでしょうか?」

 

「誘導は必要だ。そんで、敵が落ちたらお前の出番だぜアリエッタ」

 

「私に何か出来ることがあるんですか?」

 

「ある。俺でも出来るが、お前がやった方が効率良いんだ。穴掘るのも協力してもらうぜ」

 

 アリエッタの目が輝く。

 彼女はずっとチームの役に立ちたいと思っていた。

 大抵の仕事はアリーダとイーリスで完遂してしまうし、普段任せられるのは誰にでも出来るような役割ばかり。だが今回は二人が自分を頼りにしてくれるので彼女は非常に嬉しい。ロングスカートの中で矢印のような尻尾が揺れてしまう。

 

「いいか、アリエッタの火属性魔法で深い穴を作る。次にイーリスと俺でフルメタルスパイダーを穴まで誘導して落とす。肝心なのは最後。穴をアリエッタの水属性魔法で埋めて、俺が火属性魔法で凍らせる。フルメタルスパイダーは寒さに弱い。氷漬けにすれば凍死しちまうのさ」

 

「……ん? 火の魔法で、凍らせるとはどういうことだ?」

 

「火属性魔法は温度を変える力だ。温度を上げるのは当然として、マイナス以下の低温にも下げられるのさ」

 

「なるほど、そういうものか。君にはいつも驚かされる」

 

 一般的ではないが理論上出来ると魔法の本に載っている。

 すぐに習得出来るものではないが、アリーダは幼少の頃から実験を重ねて使えるようになったのだ。誰かの首に冷気を当てて変な声を出させたいというくだらない動機だが、努力の柱となったので子供の悪戯心もバカに出来ない。

 

「私にも出来るでしょうか?」

 

「やろうと思えば出来るはずだぜ。まあ、センスが問われるな」

 

「センス……難しそうです」

 

 使えるとはいえアリーダは感覚的に魔法を使うのでコツも分からない。

 感覚派の人間が教えても伝わらないので、アリエッタが氷の魔法を使える日は遠いだろう。自分でもそう理解したので彼女は頭の隅に今の情報を追いやり、伝えられた作戦を進めるために動く。

 

「とりあえず始めますね。〈大爆発(エクスプロージョン)〉!」

 

 アリーダ達から約三十メートル離れた地点の大地が爆発した。

 一発でも乾いた茶色の大地が抉れて粉塵を巻き上げた。

 普通の落とし穴なら十分な大きさの穴が作られたが、もっと深くなければすぐに脱出されてしまうので〈大爆発〉を連続使用する。連鎖ように続けて爆発が起きて穴はどんどん深くなっていく。二十メートル程の深さになった時、アリーダがオーケーサインを出したのでアリエッタが魔法を止める。

 

「よし、次は誘導だ。フルメタルスパイダーを見つけるぞ」

 

「いいや必要ない。既に見つけた。今の爆発音が気になったようだな」

 

 イーリスが剣を向ける方向には巨大な灰色の蜘蛛が居た。

 眼球らしき赤い球体が八つも付いている不気味な顔をしている。

 岩に隠れて様子を窺っていたが、食欲が湧いたのか体を岩陰から出した。

 

 

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