下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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21 襲われた馬車

 

 フルメタルスパイダーの討伐依頼を受けたアリーダ達は帰路についていた。

 戦いで受けた傷はイーリスの生命属性魔法〈超治癒(スーパーヒール)〉で完治させている。

 依頼は達成したし、結果的には二体分の討伐モンスターの部位を入手出来たが、回復役がパーティーに居なければ死んでいたかもしれない。今回の油断を反省点として、明日から受けられるBランクの仕事に取り組もうとアリーダ達は思う。

 

「あれ? あ、アリーダさん、イーリスさん、あの馬車、襲われていませんか?」

 

 王都近くの草原にまで帰って来たアリーダはアリエッタの指す方向を見る。

 車体に三日月が描かれた立派な馬車は右側の車輪が破壊されている。馬車の周囲には八人の騎士がおり、その内の三人は既に血を流して倒れていた。騎士を倒したと思われる人間は全身に包帯を巻いていて性別は不明。槍を持っていることから槍使いであり、鎧を貫いて騎士に致命傷を与えていることから相当な強者と分かる。

 

 そんな戦場となる場所で一人、場違いな女性が馬車の横に立っていた。

 ウェーブのかかった黄緑髪や顔立ちは美しく、高級そうなドレスを着ている女性。

 怯えている彼女を認識した瞬間にアリーダは走り出す。

 

「お、おいアリーダ!?」

「アリーダさん!?」

 

 突然走り出した彼に驚くイーリスとアリエッタだが二人も遅れて走り出す。

 考えてみれば当然の行動だ。正義感の強い人間なら襲撃されている騎士を助けるだろう。ただ今回、彼の行動は過去一番に誰よりも速かった。別にイーリス達が躊躇したわけではない。彼の行動が反射のように速かっただけだ。

 

 騎士が一人、また一人と槍で貫かれる。

 草原が血で赤く汚れる光景を見て黄緑髪の女性は口を押さえる。

 このままでは騎士が全滅して自分も殺されるのは明白。死を覚悟し、心の中で両親へと謝罪した。ピンチに運良く助けが来て自分が助かるなんていうのは現実逃避だ。……しかし、今回に限っては助けとなる男が駆けつけた。

 

 全身に包帯を巻く槍使いに向けてアリーダが跳び蹴りを放つ。

 声や足音を出して居場所を教えることなく放たれた蹴りは、槍使いが横に一歩移動したために避けられてしまう。直撃すると思っていた不意打ちが避けられたアリーダは舌打ちして、槍使いの正面で足を止める。

 

「無事みてえだなミルセーヌ。襲われていたの見たから焦ったぜ」

 

 黄緑髪の女性はアリーダを見て目を見開く。

 

「あ、ああ、アリーダ! あなたどうしてこんな所に!」

 

「偶然だ。その偶然に感謝しな。俺達がお前を助けてやるぜ」

 

「……俺達?」

 

 槍使いの背後からイーリスとアリエッタが奇襲を仕掛けた。

 アリエッタが水で作った槍を四本飛ばすが全て躱され、イーリスが振るった剣は槍で防がれる。掠り傷すら与えられなかった二人は攻撃を止めて、アリーダの隣まで走ってから足を止めた。これで三人が揃い、チーム『アリーダスペシャル(仮)』が槍使いの前に立ち塞がる。

 騎士でまだ立っている男女三人の目は丸くなり、そのリーダー格の男はイーリスを注視する。

 

「お、お前、もしやアショウの娘では」

 

「……遠くから見ただけでは分かりませんでしたが、あなたでしたか。騎士モーリスさん。王族護衛の任務を任されているあなたが居るということは……まさか後ろの女性、第一王女ミルセーヌ様では」

 

「そうだが、お前、なぜ俺の前で剣を構えている! 民間人を守るのが騎士の役目! お前も下がれ!」

 

「生憎ともうただの民間人ではないんですよ。今の私はギルドの一員ですから」

 

「……そう、か。やはり復讐の道を進むつもりか」

 

「おいそんな話は後にしろ! 敵の前に立っているんだぜ俺達は!」

 

 アリーダの叱咤で全員が槍使いへと意識を集中する。

 先程まで致命的な隙を作ってしまっていた。強者との戦いでは隙を見せた側から死ぬ。意識を集中させなければ死ぬ。……しかし、意外なことに槍使いは全く動かず、退屈そうに話が終わるのを待っていた。正体不明の敵が何を考えているのか分からず全員に焦りを生む。

 

「話は終わったか。因縁の再会には少々五月蠅い連中が多いが、やっと会えたな。貴様の方から来てくれるとは探す手間が省けて嬉しいぞ。今から貴様を突き殺したらもっと嬉しいんだろう」

 

 アリーダ達全員が顔を見合わせて首を横に振る。

 誰一人、目前の包帯を全身に巻いた槍使いを知らないのだ。

 戸惑いを察した槍使いは「貴様だ」とアリーダを指さす。

 

「な、何いい俺だとお? お、俺はテメエなんざ知らねえぞ。テメエみてえなミイラマン、一度会ったら忘れねえよ。それとも何だあ、包帯の下には俺の知る顔がありますってかあ? バカが、名乗りもしねえんじゃ思い出せねえよ」

 

「包帯下にある顔を見ても貴様は分からないだろう。俺はとある盗賊団に傭兵として雇われていた。貴様と交戦したがアジトごと燃やされて大火傷さ、死にかけた。貴様のせいで全身は焼け、視力と味覚を失った」

 

「……傭兵。盗賊団。まさか、テメエあん時の槍男か! 生きてたのか!?」

 

 チーム『アリーダスペシャル(仮)』が『バッドスペシャル』という盗賊を捕縛、もしくは討伐する仕事をした日。盗賊団は熟練の槍使いを傭兵として雇っており、アリーダが戦うことになった。そこでアリーダは油塗れの部屋に傭兵をぶっ飛ばし、放火してからアジトを出たのだ。扉は鍵付き、燃え盛る炎の密室の出来上がり。脱出方法はないので焼死したと勝手に思っていた。しかし敵は、槍使いの傭兵は、奇跡的に生きていたのである。

 

「復讐心が俺を生かしたのだ。炎よりも熱い、煮え滾る復讐心!」

 

「はっ、なーにが復讐だ間抜け。視力と味覚を失ったと自分で言ったよな。どうりでその包帯、目も隠しちまっているわけだ。何も見えねえなら目を出す必要もねえ。だがそれはつまり! 盲目の状態で戦うってことだぜ! まともに戦えるわけねえだろうが!」

 

 目が見えないというのは戦闘において致命的な欠点だ。

 誰でも目で見てから判断することが多く無意識な癖となる。

 相手の動きを見て躱す、見て攻撃を繰り出す、見て回避先を予想することも出来ない。

 

「ふっふっふ、問題はない。俺は心眼を会得したのだ。心の目が見えなくなることはない」

 

 バカなことを言うなと否定するのは簡単だが信憑性はあった。

 槍使いは盲目の状態で騎士を五人も倒している。王族護衛の任務を受け持つような実力者を五人も、傷一つない状態で完封している。仮に心眼とやらを会得しているのならそんなことも可能だろう。

 

「ふーん、心眼ねえ。本当に心眼とやらを使えるってんなら」

 

 疑いの目を向けるアリーダは懐から胡椒の入った瓶を取り出す。

 

「俺が今取り出した物が何かも当然分かるんだろうな」

 

「……瓶か。中身が何かまでは分からんが、多くの粒が入っているようだ」

 

「正解正解。ちなみに中身は砂だ。俺は今からこの瓶を真っ直ぐお前に投げる! 果たして槍で防げるかなあ?」

 

 アリーダは宣言通り瓶を投げた。しかし戦闘中にこの男の言葉を信じてはいけない。

 瓶の軌道は直線ではなく曲線、つまり斜め上に投げていた。もし心眼が嘘なら槍使いは対応出来ない。

 

「ふっ、真っ直ぐと言いつつ上に投げたな。心眼が嘘だと思ったか!」

 

 槍使いは槍を斜めに突き上げて見事に瓶を破壊する。

 中身の胡椒が外に出てゆっくりと地面に落ちていく。

 

「〈突風(ウィンドーラ)〉」

 

 アリーダは両手から胡椒が飛ぶ程度の風を出し、上に向かうよう操作する。

 落下中の胡椒は彼の狙い通りの軌道を描き、槍使いの鼻の穴へと侵入した。

 

「む……くしょん! びゃっしょん! こ、これは砂ではない、胡椒か!?」

 

 胡椒が鼻粘膜に付着すると、知覚神経が刺激されて反射でくしゃみと鼻水が出てしまう。どれだけ体を鍛えた人間でも、恐ろしいモンスターでも、知覚神経が機能している以上抗えない。

 槍使いは何度もくしゃみをしてしまい戦いどころではなくなった。

 

「今だ! ミルセーヌに騎士共、付いて来い!」

 

 敵がくしゃみに苦しむ内にアリーダ達は全員で敵から離れる。

 

「アリエッタ! 最大火力で灰にしちまえ!」

 

「何いいい!? はっぐじょん! ま、待て、アリーダあああああ!」

 

「〈灼熱太陽(プロミネンスノヴァ)〉!」

 

 十分な距離を取ってからアリエッタが火の上級魔法を使う。

 広範囲を焼き尽くす巨大な火柱が上がり、草原の一部が焦土となる。

 容赦なく放たれた上級魔法の威力にアリーダ達は呆気に取られた。

 

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