下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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25 隠し芸

 

 チーム『アリーダスペシャル(仮)』の三人はナステル村に向かうために森を歩く。

 ナステル村はこのブレインの森を抜け、以前フルメタルスパイダーと戦った荒野を通った先、広く大きな平原の西部に存在している。長い道のりになるので片道だけでも三日は掛かるだろう。休まずに歩き続ければ二日で行けなくもないが無理は良くない。

 人間は疲れたら休憩するべきだ。足が疲れてきたアリーダはそう思う。

 

「ドキドキ! 隠し芸たいかああああい!」

 

 立ち止まったアリーダは森全体に届くような大声で叫ぶ。

 突然の奇行にイーリスとアリエッタは戸惑い、思わず足を止める。

 

「……何を言っているんだ? まさか、ついに脳が壊れたのか?」

 

「違う休憩だ休憩。疲れたんだよ俺は、辛気臭い雰囲気のまま歩いて余計疲れたんだよ。目的地に到着するまでの間くらいよー、ピクニックのように楽しく行こうぜえ。お前等は暗いオーラをどうにかしろ! そんで、ただ休憩するだけじゃつまんねえから隠し芸を見せろ!」

 

「置いていくぞ」

 

 休憩する必要がないと考えたイーリスは再び歩き出そうとする。

 

「あ、あのイーリスさん! 私も、少し疲れてしまいました。休んでもいいですか?」

 

 アリーダの助け船となったのがアリエッタだ。

 彼女はパーティーで一番幼く体力がない。彼女からの申し出ならイーリスもさすがに無視出来ず、足を完全に止めてどうするか考える。悩んだ末、イーリスは木に背を預けて座り込む。

 

「……仕方ない。二十分だけだぞ」

 

「よーし、まずは俺からとっておきの芸を見せてやるぜ」

 

「いや芸を鑑賞したいとは言っていないんだが」

 

「ここに一枚の銅貨がありまーす」

 

 アリーダは「これを」と呟き、銅貨を軽く真上に投げた。

 回転しながら落ちてくる銅貨を彼は手を交差させて掴み取る。

 特に素早いわけでもなく単純にキャッチしただけなので右手で取ったのは明白だ。

 

「さあて、銅貨はどっちの手にあるか分かるかな?」

 

「ええっと、左手でしょうか」

 

「見えていなかったのかアリエッタ。彼は右手で掴んでいたぞ」

 

 真剣に見ていれば右手と分かるはずだがアリエッタはあまり見ていなかった。

 彼女と違い、口では見る気がないようなことを言っていたイーリスは真剣に見ている。

 アリーダは「正解は……」と言いつつ二人に銅貨を見せるため左の握り拳を開く。

 銅貨は右手で取ったはずだが、イーリスの予想は外れて左手に銅貨が存在していた。

 

「やったあ当たりました!」

 

「な、何? バカな、確かに右手で銅貨を掴んだはず……ありえない」

 

「もう一回やってもいいぜえ」

 

 負けず嫌いな性格なのかイーリスの要望でもう一度アリーダのマジックが披露される。

 しかし二度目もイーリスの解答は外れ、今度は真剣に見ていたはずのアリエッタまでもが正解出来ない。二人は諦めず、次、次、また次と再挑戦を願い、合計十回も挑んだが銅貨は毎回二人の選ぶ手とは逆の手に握られていた。

 

 仕掛けは単純。最初に右手で銅貨を投げる時から既に、左手には銅貨が握られていた。つまりアリーダは最初から銅貨を二枚持っており、二人の解答とは逆の手を開いて銅貨を見せただけである。二人にバレないよう左手に持ち続けるのは難しいが角度と手の開き具合で何とかなる。

 

 仮に疑われて両手を開いてみろと言われても問題ない。アリーダは今日長袖の服を着ているので、銅貨を上手く滑り込ませて袖に隠せる。タネが分かればそんなことかと言われる程度の単純な仕掛けだが、相手にバレないならどんな策を使っても同じことだ。

 

「くっ、次だ!」

 

「おい止めとけよもう十回もやっただろ。つーか俺も手が疲れちまうよこれ以上は」

 

「……仕方ない。もし暇な時があったらまたやってくれ」

 

「よし、次はイーリスの番だぜ」

 

「私か……まあ、少しは楽しませてもらったしな。私の特技を披露してやろう」

 

 イーリスはそう言うと立ち上がり、背後にあった木に剣を当てる。

 何度か剣で木に切り込みを入れた彼女は木を観察して一人で頷く。

 

「問題ないな。すまないが、私がいいと言うまでこちらを見ないでくれ」

 

「何いいいい? 仕方ねえなあ。おいアリエッタ、雑談でもしてようぜ」

 

「はい。そうですね」

 

 イーリスに背を向けてアリーダとアリエッタは雑談で暇潰しをすることにした。

 主に昨日あったことを二人で話し合い、一度会話が途切れた時、アリエッタが真剣な表情になった。

 

「あの、アリーダさん。ありがとうございます」

 

「んん? 何がだ。俺は何にもしてねえぜ」

 

「私とイーリスさんが悩みを抱えて、焦っていたから、私達を元気付けるために急に隠し芸大会なんて言い出したんですよね。おかげで気が紛れたと思います。イーリスさんも少し怖さが消えていつも通りに見えますし、今は復讐のことを考えていないんだと思います」

 

 全てバレていたと分かりアリーダは惚けるのを止める。

 確かにアリエッタの言う通り、アリーダは仲間を一時的にでも元気付けられないかと考えて休憩を宣言した。もちろん疲れたのも理由の一つだが、仲間の心を気遣ってという理由の方が大きい。以前までの、あの『優雅な槍(レフィナドン)』に所属していた頃ならこんなことはしなかった。気遣うどころか揶揄っていた。今のアリーダは追放の一件から少し成長したと言える。

 

「あくまでも一時的な処置だ。根本的な解決にはならねえさ」

 

「それでも私達を気にかけてくれて嬉しいんです。ありがとうございます」

 

 純粋な笑顔で感謝されたアリーダは目を逸らして後頭部を掻く。

 向けられた笑顔は間違いなく本物だ。守ってやりたいと心から思える。……だからこそ、アリーダはあまりアリエッタの記憶が戻ってほしくない。記憶は人格を固める要素の一つ。仮に記憶が戻ってしまえば、今の彼女とは別人になるかもしれない。

 

 アンドリューズから聞かされたコエグジ村の魔人達のように、元は悪事を企む者だったとしたらアリーダは彼女を殺す必要がある。アリーダが助けた者が人間に害をもたらすなら助けた自分にも責任がある。しかし、頭では理解していても本当に彼女を殺せるか自信がない。関われば関わる程に情が移り、殺す選択肢が遠のいていく。

 

 未来は不確定だ。今考えても意味がないと思い、アリーダは首を横に振って思考を追い出す。

 

「二人共もういいぞ」

 

「お、やっとかって……な、なんじゃそりゃああああ!?」

 

 振り返ったアリーダの目に飛び込んできた光景は異様な樹木。

 若い男、どこからどう見てもアリーダにしか見えない男が掘られている。髪の毛一本一本、細部まで再現されているので色が付いたら本人と見分けが付かない精巧さだ。木はかなり削られたのに絶妙なバランスで倒れない。

 

「木彫りだ。木を剣で削って好きな形に作り変えるものだな」

 

「……誰だよこの男。もしかしてお前、愛する男でもいるのか?」

 

「誰って、君だぞアリーダ」

 

「凄いですイーリスさん、とっても似ています! 色が付いたら見分けが付かないかもしれません!」

 

「ええー、俺ええ? 俺ってばこんな唇厚いかなあ。鼻ももうちょっと高い気がするし、もっと顔は格好いいんだけどなあ」

 

 ジロジロと観察するアリーダも内心では凄い特技だと驚いている。

 復讐なんて止めて今すぐ木彫りを売って暮らせと言いたくなるくらいの出来だ。

 

「さて、順番通りなら次はアリエッタが芸を披露する番だが……何かあるのか?」

 

「……私の芸ですかあ。……うーん、芸って程じゃありませんけど見せたいものはあります」

 

 アリーダとイーリスの視線がアリエッタに集まる。

 

「やります。〈氷結(コルドーラ)〉!」

 

 アリエッタが両手を近くの木に当てて叫ぶとその木は一瞬で凍りつく。

 紛れもなくこれは〈氷結〉。しかも威力はアリーダの三倍以上と凄まじい。

 

「おお、これはアリーダが使っていた火属性魔法……! 凄いじゃないかアリエッタ」

 

「マジかよおい。俺ってば使えるようになるまで十年は掛かったんだぜえ。凹むなあ」

 

 適性属性の才能はアリーダに劣っていても、魔法を覚えるセンスは確実にアリエッタの方が上だ。仮に彼女が全属性の適性を持っていれば世界最強レベルの魔法使いになれただろう。火と水しか使えない今でも実力はトップクラス。まともに戦ってアリーダが勝てないくらいには強い。

 頼もしいと思いつつアリーダ達は休憩を終わらせて、ナステル村へと再出発する。

 

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