下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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26 魔人の不審者

 

 薄暗い時間。広大な平原の西部を歩くアリーダ達はナステル村に辿り着く。

 モンスター対策として使われる木製の柵で村は囲われていて入口は一つしかない。

 村へ入ろうとしたアリーダ達だが剣と鎧で武装した門番に止められる。

 

「おい待て、怪しい奴等を通すわけにはいかない。魔人じゃないだろうなお前等」

 

「ああ? テメエの目は節穴かあ? 魔人ってのは角とか翼とか色々付いてるんだろ。よーく見やがれ! 俺達にそんなもんが付いてるように見えんのか! もし見えるってんなら医者に目を診てもらいな! 俺達は依頼を受けてギルドから派遣されたんだ。さっさと村へ入れな」

 

 緊張で肩がビクッと上に動いたアリエッタを庇うため、アリーダは門番に限界まで近付いて文句を叫ぶ。

 今までアリエッタが魔人と疑われることはなかった。村に着いていきなり疑われたことへの驚きもあっただろうが、嘘を隠し通すのが苦手な彼女の性格もあって顔に思いっきり出てしまった。仮に今の表情が見られたら、初めから疑っていた門番は彼女を魔人と決めつけるだろう。

 

「す、すまない。最近魔人を見たって話で持ちきりでよ。ギルドの人なら村長に会ってやってくれ。奥の大きな家が村長の家だ」

 

「分かった。次は妙な疑いをかけんじゃねえぞ」

 

 唐突な危機を辛うじて乗り越えたアリーダ達はナステル村へと入る。

 村の人間は自分達以外に厳しいようで大人からの視線は鋭く、無言の圧を感じさせる。

 

「どうやら村人全員に知れ渡っているようだな。魔人の件」

 

「ああ、だからか魔人アレルギーかってくらい過敏に反応しやがる。面倒臭え」

 

 アリーダ達は門番に言われた通り、村長の家を訪ねてギルドの人間だと説明した。

 村長は「ありがたい」と嬉しそうに笑い、今回依頼を出す原因となった目撃者を連れに家を離れる。コップ一杯の水は出されたのでソファーで寛がせてもらうと、数分で年若い村長が痩せた男を連れて戻って来た。

 ソファーに座りながらアリーダ達は村長と目撃者に視線を送る。

 

「……アンタが目撃者だったな。相手の特徴とか教えてくれよ」

 

 実は依頼書には魔人の特徴が記されていない。目撃者本人から聞けば済む話ではあるのだが、依頼書に最初から書いておいてくれた方がギルドとしては助かった。今回は書いていなかったのでアリーダは目撃者の痩せた男に情報開示を求める。

 

「それが夜だったもので、暗くてよく見えなかったんです。相手もシルエットのようにしか見えず性別も顔も分かりません。でも僕は見たんです! 尻から蛇のような何かが出て動いていたのを! あれの正体は魔人以外に考えられない!」

 

 依頼書に書かれていないのは当然だった。目撃者でさえ把握していない。

 はっきり言ってしまえばこの依頼の達成は不可能に近い。魔人が居るか居ないかの調査依頼だが、顔や体格すら分からない相手を捜すのは難しすぎる。それに夜の暗い時間に見たのもあって、目撃者の見間違いという線は濃厚だ。実は魔人だと思っていたのが樹木で、尻尾に見えたのは蛇のような何かではなく本当に蛇だったとも考えられる。

 

「おいおい、村長さんよ、アンタはこんな証言を鵜呑みにしたのか?」

 

「私も半信半疑です。しかし、本当に魔人が出現していたらと思うと恐ろしい。恥ずかしい話ですがナステルはかつて魔人と交流があった村。コエグジ事件で交流先の村は消滅したものの、生き残りがいたらナステルは襲われるかもしれません。ギルドの方々、申し訳ありませんが慎重な判断をお願いします。村人の命を、平和な生活を守るために」

 

 村長が慎重になる気持ちをアリーダ達は理解出来た。

 立場の責任から目撃者の見間違いなんて結論を軽々しく出せない。王国襲撃を企んだからコエグジ村に住んでいた魔人は滅ぼされたが、仮に生き残りがいたら襲われるかもと考えるのが自然。村長含めて村の全員が魔人の生存を恐れている。

 

「一つ確認したいんだがよ、もし魔人を見つけたらどうする」

 

「殺してください! 奴等は、人の形をしただけの化け物だ! 優しい魔人も居るのだと勘違いしてはいけない。奴等の優しさは全て嘘だったんです。仲良くなれたと思っていたのに、私達を裏切って王国を乗っ取ろうとしていたなんて……初めから関わるんじゃなかった」

 

「……化け物」

 

 魔人のアリエッタは自分もそうなのかと怖くなり僅かに震える。

 記憶を取り戻すために、自分の種族を理解するために、アリエッタは今回の依頼も同行すると決めた。しかし、記憶を取り戻して優しさを欠片も持たない化け物になるとしたら、アリーダやイーリスを裏切るとしたら耐えられない。過去の記憶を失った今のままでいたいと心から願う。

 隣に居るアリーダとイーリスから手を握られてアリエッタの震えは止まった。

 

「分かった。調査の期間や範囲については明日話し合わせてくれ。ナステル村までは長旅でね、疲れちまったからよ」

 

「それはご苦労様です。今日はゆっくり休んでください。宿屋に案内します」

 

 アリーダ達は村長の案内で宿屋に入り、用意された部屋で各々寛ぐ。

 気前が良いことに宿代は村長が肩代わりしてくれたので無料でいくらでも休める。

 ベッドに座るアリエッタだけは時々暗い顔をしていたが、その都度自分自身で心の整理をつけて正常な状態に戻っている。彼女程でなくとも思い詰めるイーリスは、部屋の窓から町を見渡して何かを探していた。

 

「……おいイーリス、警戒に専念しないでもう休めよ。風呂でも入ってさあ」

 

 気楽にベッドで横になりながらアリーダは告げる。

 

「君は気付いたか? 町に入ってから私達は尾行されていた」

 

 アリエッタは「え?」と驚く。

 

「分かってるっての。でも何が狙いか分からねえんだ、気にしてもしょうがねえだろ。今日は疲れたし早く風呂入って寝た方がいいぜえ。明日からは魔人の調査で村の外を歩き回るんだから疲労回復は大事だぞ」

 

「警戒して損はない。まあ、休むのには賛成だ。アリエッタ、一緒に風呂へ行こう」

 

「は、はい。行きましょう」

 

 さらっと明かされた尾行者の存在に戸惑いながらもアリエッタはイーリスと部屋を出て行く。残されたアリーダは先程までの二人の様子を思い出し、悩みは解決せずとも普段通りに過ごせるだろうと判断する。

 

 一人になってから数分。アリーダは「さてっと」とベッドから起きて部屋を出る。

 目的は尾行問題を解決することだ。おそらく風呂を覗くのが尾行者の目的だろうと考えたアリーダは外へ出て、宿屋をぐるっと回って入浴部屋付近に向かう。これは決してやましい気持ちがあるわけではなく、あくまでも女性の安全を守るためである。決して自分が覗きたいとかそんなことは思っていない。

 

 暗い中、宿屋の後ろに回ったアリーダは湯気が漏れる格子を発見した。

 間違いなく入浴部屋から漏れる湯気。つまり格子を覗けば楽園が待っている。

 尾行者の気配は今も感じているが出て来る気配はない。

 アリーダが格子の前に立っているおかげで尾行者は風呂を覗きに来られないのだ。

 

「やん。そこは敏感だから洗わなくてもいいぞ」

「洗わせてください。いつもお世話になっていますからお礼ですよ」

 

 童貞で恋人ゼロ人なアリーダには刺激的すぎる美声が聞こえてきた。

 

(……ちょっとくらい、ちょっとくらい覗いてもいいんじゃないかなー。俺、ここで見張ってるわけだし? 変態尾行者の視姦から守っているわけだし? ご褒美として美味しい思いをしてもいいのではなかろうかあああ!)

 

 欲望を抑えきれずに木製の格子を掴み、顔を押し付けるようにして中の様子を窺う。

 湯気は濃いが微かに見えた。シワが多くても健康的な白い肌、細い手足、縮れた白髪、そしてアリーダよりも立派な男性器。入浴部屋で体を洗っていたのは二人の老爺だった。若い美女を想像していたアリーダは目を見開き、力が抜けた体は後ろに倒れて頭を打つ。

 

(爺さんじゃねえかよおおおお! 男の裸なんて求めてねえんだよ俺はああ! つーかおかしいだろ何だよさっきの女みてえに高い声はああああ! どう考えても爺さんが出せる声じゃねえだろうがあ! ぬおおおお男に興奮したとか死にたくなるぜ……!)

 

 物理的と精神的な二つのショックに悶えながらアリーダは地面を転がる。

 しばらく悶えた後でようやく立ち直り、肩で息をしつつ立ち上がった。

 

(はぁ、しょうがねえ部屋に戻るか……ただし)

 

 呼吸を整えたアリーダは離れた木陰に視線を送る。

 

「テメエを捕まえてからなああああ尾行野郎がああああ!」

 

 全力疾走するアリーダが近付くと木の影の中から誰かが飛び出た。

 黒いフード付きの外套を纏う何者かは素早く逃げるが、子供の頃から悪戯をしては逃げて鍛えられた足を持つアリーダからは逃れられない。暗いせいでたまに見失いそうになるなか、距離を縮めてアリーダが跳び蹴りを放つ。

 まともに背中を蹴られた不審者は前方に転んで止まる。

 

「さーて、どんな顔しているのかなっと」

 

 フードを上げた瞬間、月を隠していた雲が動く。

 月光が丁度良く不審者を照らしてくれたので顔はよく見えた。

 灰色の長髪、尖った耳、赤い瞳、鋭い牙。ここまではいいが、不審者だった女性が立ち上がると黒い蝙蝠のような羽が広がる。明らかに人間には存在しないはずの羽を持つ女性の正体など、アリーダには心当たりが一つしかない。

 

「女、いやそれよりも……魔人、だと」

 

 

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