下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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3 勝利への策

 

 かっこいい登場にしようと行動した結果は悲惨なもの。

 突然乱入しては足を挫き、地面に倒れた無様な男に女剣士は目を奪われている。現れた男のもたらした混乱で思考が奪われ、口を半開きにして困惑した顔になっている。今モンスターに襲われている最中だということすら一瞬忘れてしまう。

 

 巨大針鼠もアリーダに興味を持っていたがそれも数秒。

 襲っている途中の女剣士へと向き直り、徐々に距離を詰めていく。

 

「何余所見してやがる、テメエの相手はこの俺だぜ! 〈炎熱(ファイアーラ)〉!」

 

 アリーダは火属性下級魔法を発動して右手から炎を放出。

 約八十度の炎で巨大針鼠を炙るがダメージは全くない。

 しかし、ノーダメージでも巨大針鼠は炎を鬱陶しく思った。

 巨大針鼠は女剣士を無視し、アリーダの方へと向き直る。

 

「な、何をしているんだ! 早く逃げろ!」

 

「俺は助けに来たんだっての! お前こそ早く逃げな。この針鼠は俺が片付けてやる!」

 

「助けにって……君の方が危機的状況だろ」

 

 女剣士の言う通り、左足を挫いた男がこの場で一番危険だ。誰の目から見てもそれは明らかだ。それなのにこの男は未だ自信に溢れ、己の危険を感じていない。火属性下級魔法を使っても痛みを与えられない時点で諦めてもいいのに、彼は全く恐れず、不適な笑みすら浮かべてみせた。

 

「さあ掛かってきな棘野郎」

 

 注意を自分に向けるために放った〈炎熱〉をアリーダは止める。

 女剣士は彼を死なせないために剣を拾いに行くがもう遅い。

 炎が不愉快だった巨大針鼠は全速力で、自身の棘で串刺しにしてやろうと突進した。

 アリーダと巨大針鼠の距離はぐんぐん近付いていく。

 そんな時、走っている巨大針鼠の足が地面に沈み――真下で爆発が起きた。

 

「へっへっへ。見たか、土魔法と火魔法の複合技。地面の下に空洞を作り、火の塊を入れるだけの簡易版地雷だぜ!」

 

 やったことは単純。〈砂生成(サンドーラ)〉で地面の下を柔らかい砂に変えて崩し、作った隙間に〈炎熱〉で火の塊を忍ばせておいただけ。一見何の変哲もない地面だが人間大の生物が踏めば沈み、火の塊が一気に爆発する。アリーダはこの罠を巨大針鼠が突進する直前に仕掛けておいた。

 

 三箇所で爆発が起きて土煙と粉塵が舞う。

 下級魔法の攻撃でも、ただの動物なら足が吹っ飛ぶ程度の威力はある。

 まともに爆発を喰らった巨大針鼠は既に動けないか死んだだろうとアリーダは思う。

 

「驚いたか針鼠! これで動きは止まって……げえええ!?」

 

 土煙が揺らぎ、中から元気いっぱいな巨大針鼠が走って来た。

 体は土で少し汚れ、爆発で若干焦げた部分もあるがほぼノーダメージ。

 予想外な頑丈さを見て慌てたアリーダは動く右足と両腕の力で真横に跳ぶ。

 少しでも回避の判断が遅れていれば鋭利な棘で体が切り裂かれていただろう。

 

(こ、これは……!)

 

 巨大針鼠とすれ違った瞬間、アリーダは敵から生える棘の正体を理解した。

 間近で見た時、棘には模様のようなものが見えた。もっとよく見ればそれが模様ではなく、数え切れない本数の糸が螺旋状に固まっているのが分かった。体から生えている糸の正体は人間にも生えている体毛である。

 

(毛だ! 鋼以上の硬度を持つ体毛が何千何万と集まり、棘の形で固まっている!)

 

 突進を躱された巨大針鼠は立ち止まり、再びアリーダへと向き直って突進。

 串刺しを回避するためにアリーダは転がって回避するが同じことの繰り返しだ。

 

 彼は悩む。魔法は威力不足で効かない。腰の短剣でぶっ刺そうにも体毛が邪魔であり、足を挫いた状態では近接戦なんてまともに出来ない。準備していた奥の手はあるが、回避に専念しなければならない現状だと使えない。

 

「しょうがねえ、一人で倒すのは諦める。おい女剣士! まだ戦えるなら一緒に戦ってくれ! 勝算はある!」

 

 何度も転がって突進を回避し続けていたアリーダは叫ぶ。

 しかし女剣士は彼が助けを求める前に走っていた。

 彼の前に出た女剣士は巨大針鼠の突進を剣で受け止め、上手い具合に受け流す。

 

「逃げろと言ったり一緒に戦えと言ったり矛盾した奴め。言われずとも共に戦うつもりだった。勝算があるというのは本当なのか? はっきり言ってあのモンスターに私の剣は効かないぞ」

 

「必ず勝てる。勝利への策は既に完成済みだぜ」

 

 また突進して来る巨大針鼠の真下で爆発が起きた。

 先程からアリーダは無策で逃げ回っていたわけではない。

 簡易版地雷を再び生成して、罠に掛かるよう誘導していたのだ。

 巨大針鼠の姿はまたしても土煙と粉塵で見えなくなる。

 

「おい、あの攻撃はさっきもやっただろう! 効かなかったじゃないか!」

 

「勘違いすんなよ。今のは攻撃だけが狙いじゃあねえ」

 

 土煙が晴れた時、アリーダの狙いが女剣士にも分かる。

 巨大針鼠は姿を消していた。

 爆発で粉々に吹っ飛んだわけではない。

 爆発で真下に空いた深い穴へと落下したのだ。

 

「落とし穴を作るのが目的だったのさ。そして〈水流(ウォーターラ)〉!」

 

 使用したのは水属性下級魔法〈水流〉。常温の水を出すだけの魔法。

 アリーダは大量の水を巨大針鼠目掛けて放射する。

 

「そうか、溺死させるつもりか!」

 

「さすがにそんだけ大量の水は出せねえよ。魔力が足りねえ」

 

 魔法は込める魔力量で威力が変化する。

 今まで戦闘中に使った魔法全てにアリーダは通常より多い魔力を込めていた。乱発すれば魔力切れになって動きが鈍くなるため、彼はそう多い回数魔法を使えない。

 

 因みに〈水流〉には特に魔力を多く込めている。

 元々〈水流〉で出る水量はコップ一杯分程度。

 それを二十倍にして三秒だけアリーダは放った。

 

「奴の棘は体毛の集合体、濡れれば柔らかくなるはずだ。さあ、お前の出番だぜ。ムダ毛処理を手伝ってやりな」

 

「なるほど。ふっ、面白いじゃないか。全身ツルツルにしてやる」

 

 穴に落ちた巨大針鼠へと女剣士が向かって駆ける。

 アリーダは「今の内に……」と呟き、最初に居た崖の真下へと片足立ちで移動する。

 

「まずは斬れるか確かめなければ」

 

 女剣士が穴の横で止まり、剣で巨大針鼠の棘を切り裂く。

 先程までは鋼以上に硬かった棘だが今は濡れて硬度がダウンしている。

 柔らかくなったせいで束が解けかけているものもあった。

 今なら何の障害もなく斬れると確信した女剣士は斬撃を浴びせ続ける。

 

 毛は短くなり、体に刃が届いて赤い血が流れ出す。

 このままなら勝てると女剣士が考えたその時――巨大針鼠は丸まった。

 

 死への恐怖からか。身を守るためか。否、どちらも違う。

 巨大針鼠は丸まることで棘の生えた球体になり前方へと回転し始めた。

 何のために回転しているのか予想出来た女剣士は「まさか」と呟く。

 

 柔らかくなった体毛を巨大針鼠は土に高速で擦り付けている。

 土は水分をよく吸収するので濡れた体毛がどんどん乾いていく。

 回転し続ける巨大針鼠の体毛はやがて先程と変わらない棘の状態に戻った。

 さらにその戻った硬い棘で土を刺し、回転の勢いを利用して高く上昇。

 三メートル以上ある深い穴から見事に脱出してみせた。

 

「な、何!?」

 

 高く跳び上がった巨大針鼠が回転しながら女剣士に落下する。

 回避は間に合わない。硬度が戻り全身凶器となった敵にもはや剣は効かない。

 何とか受け流そうと構える女剣士だったが、巨大針鼠の回転によって剣が弾き飛ばされてしまった。防御する術を失った彼女は鎧を削られて吹き飛ばされた。十メートル以上吹き飛んだ彼女の鎧は地面に当たった瞬間砕ける。

 

 巨大針鼠は丸まった状態から元の四足歩行状態に戻った。

 

「〈砂生成〉からの〈突風(ウィンドーラ)〉!」

 

 元に戻る瞬間にアリーダが目潰しコンボを喰らわせる。

 砂が目に入って視界を奪われた巨大針鼠は混乱している。

 

「かーらーの〈炎熱〉!」

 

 隙だらけな相手に対しての火炎放射。

 ただの人間や動物相手ならともかく、巨大針鼠のように熱に耐性を持つモンスターには無意味。しかし、アリーダが放った〈炎熱〉は攻撃のためではなかった。今更ただの下級魔法が効くわけないと彼も分かっているのだ。

 

「視覚だけじゃ温い、嗅覚も奪わせてもらうぞ」

 

 さっき〈突風〉で砂を飛ばした時、一緒に飛ばした物がある。

 森で偶然見つけたそれは――ラフレの花。

 悪臭を放つラフレは、燃えることでさらに強力な悪臭を撒き散らす特性を持つ。

 ラフレが燃えた瞬間に悪臭は広がった。思わずアリーダは鼻を摘まむ。

 

 巨大針鼠は目の異物感と鼻への悪臭で暴れ出す。

 敵が見当違いな方向への攻撃をしている最中、アリーダは奥の手の準備を進めていた。

 崖に手を当ててもう少しだと考えていると異変に気付く。

 

(……何だ、急に奴の動きが止まった?)

 

 巨大針鼠は静止していた。先程までの暴れようが嘘のように微動だにしない。

 アリーダがよく見れば巨大針鼠は小刻みに震えていた。

 今更怯えたのか、それとも笑っているのか。答えはすぐに分かる。

 

 ――震えていた巨大針鼠の棘が全方向へ発射された。

 

「な、何だとおおおお!? ぐあああああああああああ!?」

 

 女剣士は辛うじて剣で防げたが、アリーダは体のあちこちに直撃を喰らう。

 棘、つまり全身の体毛が抜けた。肌を露出させた巨大針鼠はアリーダの方を見る。

 鋭利な物体が刺さった痛みで悲鳴を上げさせて、敵の居場所を特定することが巨大針鼠の思惑だったのだ。

 

「な、何て奴だ。目と鼻を封じて安心していたが、まさか耳で……攻撃で上げさせた俺の悲鳴を耳で拾って位置を確認するとは」

 

「まずい、早く逃げろ! 突進が来るぞ!」

 

 信じられないことに巨大針鼠の全身からまた立派な体毛が生えて、棘状に固まる。

 準備完了した巨大針鼠は崖の傍に立つアリーダ目掛けて突進していく。

 

「……逃げる? いいや逃げる必要はねえ。俺はこの位置から動くことなく、そいつをぶっ潰すからだ」

 

 普通なら逃げる。このまま立っていれば串刺しになってしまう。

 しかしあろうことかアリーダ・ヴェルト、この男は逃げるどころか腰を下ろした。

 想像を絶する行動に女剣士は焦り、巨大針鼠は勝利を確信して笑う。

 

 ――瞬間、崖が崩れた。

 アリーダの背後にある崖の一部に亀裂が走り、あっという間に崩れたのだ。

 

「言っただろ、勝利への策は完成済みだってな。潰れちまいな針鼠いいいい!」

 

 まるで切り取られたかのような、L字型の大きな崖が落下する。

 巨大針鼠が音で状況を理解した時にはもう遅い。

 上手い具合にアリーダを避けて落下した崖に巨大針鼠は潰されたのだ。

 

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