下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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30 名もなき村

 

「――どうやら一件落着らしい」

 

 傍にある一本の木の影から女性の声が聞こえた。

 アリーダ達の視線が集まった影に波紋が生まれ、黒いフードを被った灰色髪の女性が影から出て来た。彼女がフードを取ると尖った耳、赤い瞳、鋭い牙が露わになる。蝙蝠のような翼こそ出していないものの、彼女の雰囲気は十分に魔人であることを伝えていた。

 イーリスが「敵か?」と剣を抜こうとするのをアリーダが手で制する。

 

「よお昨夜振りだな。昨夜はよく見えなかったが、姿が見えなかったのは夜に紛れていたからじゃなく、隠密行動に便利そうなその力のおかげか。影に潜んで移動する。魔法でも精霊の力でもない。人間には到底不可能な芸当だぜ」

 

「君は知らないのか。魔人には個体ごとに特殊能力が備わっている。我は影に出入りしたり、魔人の気配を感知する能力を持つ」

 

 魔人は同族を感知出来るというのがアリーダの推測だったがそれは外れた。

 

「どういうことだアリーダ、こいつは魔人だろう。知り合いなのか」

 

「ナステル村で俺達を尾行していた奴さ。昨夜、お前等が風呂に入っている途中俺が接触した。かなーり興味深い話を聞かせてもらったから、明日は村の外で会おうって昨夜に約束しておいたんだ。今からお前等にも説明するぜ」

 

 アリーダは昨夜のことを何もしらない仲間に全てを話す。

 本当なら昨夜の内に話しておきたかったが、アリエッタ身代わり作戦の準備で疲れたため部屋に戻ったら寝てしまったのだ。今朝に話そうと思えば魔人発見の騒ぎのせいで落ち着いて話す暇がなかった。

 話を聞き終わったイーリスは難しい顔になり、アリエッタは純粋に驚いている。

 

「……コエグジ事件の生き残りが暮らす村」

 

「住民は全員魔人……ってことですよね?」

 

「ま、そういうことじゃねーの知らんけど。さあどうするお前等。魔人の村に行くか行かないか。俺は付いて行く価値があると思ってんぜ。もう少し魔人についての知識が欲しくなっちまったからな」

 

 アリーダにとって魔人は人間から嫌われている種族という認識だった。

 初めての遭遇した魔人、アリエッタと会うまでは他人の流した噂しか聞いたことがなく、関わってからも最初の内は興味すらなかった。今はアリエッタのために、今の日常を守るために知りたいと思っている。

 

「私は魔人が悪だと偏見で決めつけていた。今は、自分の目で真実を確かめたい」

 

 イーリスにとって魔人はただの復讐対象だった。

 父親を殺されてから憎み続け、子供であろうと斬殺するつもりでいた。今は魔人と一括りにせず、自分が戦うべきは悪の魔人だと決めている。コエグジ村の魔人は悪という認識だったが自分の目で確かめなければ分からない。悪か、悪でないか、それを見極めるたいと思っている。

 

「私と同じ種族のこと知りたいです。人間と仲良くしたいなら私と同じですから怖くありません」

 

 アリエッタにとって魔人は同族であり好きになれない種族だ。

 記憶を失っているせいで自分が過去人間をどう思っていたか分からない。残っていた知識にあったのは、人間を下等種族と見下す魔人の常識。魔人に人間は差別され、その逆もこの世では行われている。先程のナステル村での一件で魔人が人間に基本どう思われているのか理解した。そして魔人の国、デモニア帝国では立場が逆転して似たようなことが起きているのだろう。

 

 しかし人間と仲良くしたいと思う同族は一定数存在しているのだ。これからアリーダが行く村に居るというのなら同行を拒む理由はない。自分と同じ想いを持つ同族と関われば好きになれるかもしれないから。

 

「はい決まりっつうわけで案内してもらおうか。名前何だっけ?」

 

「ヴァッシュ。ヴァンパイアの魔人だ。我に付いて来い、村に案内する」

 

 灰色髪の女性魔人、ヴァッシュが歩き出したのでアリーダ達は後ろを付いて行った。

 

 

 * * *

 

 

 大陸の端。平原の奥の奥。

 海沿いの場所にポツリと寂し気に佇む村が存在する。名前はない。他の場所に馴染めない者や、そんな彼等を支えたいと思う者が今もひっそりとその村で暮らしている。他の町村と交流していないし、最寄りの村からも遠く離れているので、その村の住民以外は村の存在を知ることがない。

 

 名もなき村の住民の一人、ヴァッシュの案内でアリーダ達は村に辿り着いた。

 村にはいくつものテントが張られていた。テントから青い肌の男や、一つ目の女が出て来て向かう先は大きな畑。村での主な食料は畑から採れる野菜、付近の木に垂れ下がる果物、海から釣りなどで捕ってくる魚や貝。この村の住民達は殆ど自給自足で暮らしているのだ。賑やかさは皆無な静かな生活だが住民達は満足そうな表情をしている。

 

「ここが我の住む村。おそらく世界で一つしかない、魔人と人間が共に暮らす村」

 

 ヴァッシュの言葉を聞いたアリーダ達三人は耳を疑った。

 

「何、今なんつった? 魔人と、人間って言ったのかよ今。人間も住んでんのかこの村」

 

「ああ。数の少ない魔人と人間が支え合って生きる場所なのだ、ここは」

 

 ヴァッシュの話によれば、コエグジ村と交流していた人間の中に無実と信じてくれる者が居たという。ロビルという村に関しては騎士団やギルドに抗議までした。しかし結果、反逆罪としてロビル村は国に滅ぼされた。それからは誰も抗議することなく、無実を信じる者達は名もなき村の住民となっている。

 

「まず長のところに案内しよう。客人として紹介する」

 

 一先ずヴァッシュからの提案でアリーダ達は村長に挨拶することにした。

 村長のテントは他のテントと同じ種類で、普通なら特別感があったりするのだがこの村の場合は違う。ナステル村では村長の家が一番大きかったというのに、この村では村長のテントが一番小さい。威厳などが欠如している。

 

「長、ヴァッシュだ。客人を連れて来た」

 

「おおそうか、入りんさい」

 

 枯れたような声が聞こえてからヴァッシュがテント内に入り、アリーダ達も続く。

 テントの中は外観と同じく平凡で最低限の家具しかないし狭い。一人しか住んでいないにしても日常生活を送るには不便そうだ。村長は布団で横になっているがその布団だけで五割近くスペースを取っている。

 

「その方達が客人かい?」

 

「ああ。ギルドに所属しているが人間と魔人でパーティーを組んでいる変わり者さ」

 

「おいおい、こ、こいつが村長だって? こ、こいつも魔人なのか?」

 

 テント内に居たのは痩せ細った赤い肌の老爺。体は人間のものではなく獣同然であり、口は大きく裂けている。アリエッタやヴァッシュと同じ魔人とは思えない程に容姿が掛け離れていた。人間に近い姿を想像していたアリーダとイーリスは困惑を隠せない。

 

「驚くってことは、デモニア帝国から来たわけじゃないのかね。わっしはゲリー。この村の長をやっとる」

 

「人間がモンスターの特徴を持った種族を魔人と呼ぶが、個体によってどんな特徴があるかは違う。そこのお嬢さんのように特徴が少ない個体もいれば、長のようにモンスターと間違えるくらい人間と離れた個体もいるのだ。帝国でも珍しいがな」

 

「アニマンなんて蔑称もありますよね」

 

「モンスターに近すぎる魔人も、人間に近すぎる魔人も差別される。魔人の国にとって差別は難題の一つだ」

 

 本当に今まで魔人のことを何も知らなかったのだとアリーダとイーリスは痛感する。

 噂だけで知った気になっていただけで、いざ関わってみれば生態などの基本情報すら知らなかったのだ。ヴァッシュと話してもアリーダ達は感じていたが、彼女達コエグジ村の住民達が本気で戦争しようとしていたなど信じられない。色々と当時のことを知りたいがアリーダは先に確かめたいことを口にする。

 

「なあゲリーさんだっけ。アンタ、この子に見覚えねえか?」

 

 アリーダがアリエッタを自分の前に出してよく見せつける。

 

「ないのう。……いや、どこかで見た気もするが」

 

「マジか! 意外と身近に居たのかもよ、コエグジ村の魔人だったとかさ!」

 

「村の魔人は死んだ奴等の顔まで思い出せるわい。その子は村の魔人じゃないぞい」

 

「アリーダさん、私がコエグジ村出身かもと思っていたんですか?」

 

「可能性高そうだったから訊いてみたんだが違ったらしい」

 

 コエグジ村の魔人が生き残っていたのだからアリエッタがコエグジ村出身でもおかしくない。何せ本来ならスモーラ大陸に住むはずの魔人が、人間の住むビガン大陸に居るはずがないのだ。十五年以上前に滅ぼされたコエグジ村の住人が生きていたと知った今、アリーダが考える中で一番可能性が高かった。

 

「どういうことだ。どんな場所に住んでいたかなど本人が分かっているだろう」

 

「記憶喪失なんだよアリエッタは。ここに来れば記憶が蘇るか、何か個人情報でも分かると思ったんだがな」

 

「ふむ、それは難儀な……苦労されていますな」

 

「アリーダさん、私のことは後でいいです。それより私気になっていることがあるんです。コエグジ村は王国に滅ぼされたって聞きました。ヴァッシュさんやゲリーさんは、この村に今居る魔人達はどうやって生き残れたんでしょうか」

 

 アリエッタの言うことはアリーダの中でも最大の疑問だった。

 王国が武力で滅ぼしたと断言しているのに生存者が居るのはおかしい。武力として使われたのが騎士団なのは明白、任務を怠ることなどありえない。滅ぼす予定だったなら一人一人確実に殺すはずだ。騎士団だけでも厄介なのに人員補強でギルドも手を貸した可能性がある。絶望的も絶望的な状況。今この世に生きているのは奇跡と言える。

 

「本来なら殺されていたでしょう。わっし等が生き残れたのはギルドの、正確にはギルドマスターのおかげです」

 

「ギルドマスターだと? やっぱり、ギルドもコエグジ事件に関わっていたのか」

 

「騎士団もギルドの人間も、わっし等の話をまるで聞いてくれませんでしたが、あの御方だけは違った。キャリー様はわっし等の無実を信じ、他の人間にバレないよう逃がしてくれたのです。あの御方はわっし等の命の恩人だわい」

 

 アリーダ達は面識がないがギルドマスターへの好感度が上がった。

 魔人の無実を信じて、自分の組織の者にさえ計画を打ち明けられず、騎士団などが殲滅に動く中たった一人で村人を逃がすのは言葉で言い表せない程に大変だっただろう。半分の人数も逃がせなかったとはいえ、逆に四割近くの村人を一人で逃がせたのは偉業に近い。

 

「ギルマスはこの村に居んのか? 助けてから放置ってわけじゃねえだろ」

 

「おりませぬ。わっし等の前からも突如姿を消してしもうた。やはりまだ見つかっておらんのですか」

 

「ああ、行方不明って聞いてる。今は別の奴がギルマスの仕事してるよ」

 

 十年前からギルドマスターは行方不明扱いになっている。代わりにアンドリューズがトップに立っているが、彼はギルドマスターが帰って来ると信じて正式には継いでいない。多忙で休暇すら満足に取れなくても彼は仕事を全てこなす。そんな彼をアリーダは誇りに思っている。

 

「キャリー様に助けられてからわっし等は、大陸の端で密かに暮らすことにしました。王国の誤解で襲撃されて故郷へ帰ることも考えました。少ないですが故郷に帰った者も当然居ります。残ったわっし等は、やはり、人間と仲良く出来たらという想いを捨てきれなかったのです。憎しみも怒りも当然ありますがの、それだけに囚われてはいけないので。……しかし、一人だけ、負の感情に囚われた魔人が居りました。ザンシュルスは妹を殺されましたからな。人間への恨みをわっし等では止められず、旅立ってしましました。……今は、連続殺人犯として指名手配されております」

 

 殺人犯と言われたところでイーリスの顔が一気に強張った。

 魔人で指名手配されている連続殺人犯など思い当たるのは一人しかいない。

 

「……まさか、騎士殺しの」

 

 アリーダも同じ考えに至る。件の魔人はおそらく、イーリスの父親を殺した犯人だと。

 

 

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