下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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31 消えない復讐心

 

 今までアリーダはイーリスの父親を殺した魔人を敵視していたし、放置すれば孤児院も危険だと思い殺す気でいた。しかし件の魔人はコエグジ村出身で、人間に村を滅ぼされた挙句に妹を殺されている。復讐として騎士を殺すのも納得出来る。

 

「つまりそいつは復讐者ってわけだ。理不尽に人間に妹を殺されたから、今度は自分が人間を殺してやるってところか。なあイーリス、これを知ってお前、まだ復讐としてその魔人を追うのか? これじゃあ復讐が連鎖して終わらねえんじゃねえのか」

 

 遠回しに復讐を止めろと言ったアリーダはイーリスに睨まれる。

 

「なら君は、エルさんや孤児院の子供達が殺されたらどうする? 同情出来る理由があるからと犯人を許すのか?」

 

「……いや、ぶっ殺すな」

 

「どんな理由があろうとやったこと全ては許されない。私は必ず仇を討つ」

 

 よく考えてみた結果、アリーダだってエルが殺されればどんな事情があろうと犯人を殺す。犯人が妹を殺されていたとしても、村を滅ぼされていたとしても、やり返した時点でその犯人も復讐される側に立つ。誰かを殺せば誰かに恨まれる。基本的に復讐は連鎖して止まらない。

 

「あの、もしや、あなたの身近な人がザンシュルスに……」

 

「私の父が殺されている」

 

 恐る恐る問いかけたゲリーにイーリスは真実を話す。

 客人の父親が殺されている事実にヴァッシュとゲリーはショックを受けていた。

 

「なんということだ。……あなたに一つ、お願いがあるのですが」

 

「何だ。悪いが、復讐を止める気はない」

 

「それでいい。ザンシュルスを止めてくだされ。例え命を奪うことになってでも」

 

 今度はゲリーの言葉にアリーダ達が驚く番になった。

 復讐を止めてくれと頼まれるとばかり思っていたからである。

 

「いいのか? 大切な村人だったのではないのか?」

 

「大切だからこそ、これ以上の罪を重ねさせたくないのです。我々もザンシュルスを止めようと試みたことはありますが彼は強く、返り討ちに遭ってしまう。もうこの村の者には彼を止める手段がないのです。なので希望をあなた方に託しましょう」

 

「了解した。全力を尽くす」

 

 本当のところ、アリーダはイーリスに復讐なんてしてほしくない。

 他人事だからそう思えるのは分かっている。しかし、自ら危険に飛び込んでいく彼女を見ていられない。人生は楽しく過ごすものというのがアリーダの考えだ。なんとか危険なく、平和的解決にならないだろうかと考えてしまう。

 

「――あのお、長ああ! 長ああああ!」

 

 大事な話を終えた直後、鈴音のように高い声がテント内に侵入してきた。

 

「ネイか。何かあったのかい」

 

 テントの入口を肌色の手が開けて一人の女性が入って来る。

 ネイという名前らしい彼女の髪の毛は全て極細の蛇であり、メイド服の下からは太い蛇が顔を出していた。蛇は全て生きているようで常時どこかしらの蛇がうねっている。髪の毛と尻尾の蛇以外は人間と変わらない外見だ。

 

「ヴァッシュは帰って来ましたかあってヴァッシュ居たああ! ねえヴァッシュ布は!? 布買ってきてくれた!?」

 

「騒がしいぞネイ。客人の前だというのに」

 

「客人ってそこの人達……え?」

 

 アリーダ達を眺めたネイの視線がアリエッタで止まり、目が丸くなる。友人のヴァッシュが「どうした?」と問いかけてもネイは反応しない。ずっとアリエッタを見つめている。

 

「いや、まさか、でも似てる。もしや、アリエッタ様では」

 

「はい? あの、確かに私はアリエッタですけど」

 

「やっぱりアリエッタ様でしたか! 覚えていらっしゃらないかもしれませんが私、ネイです。城でメイドを務めさせていただいておりました。なぜアリエッタ様がここに? 視察でしょうか。何にせよ長旅ご苦労様です。この後よろしければ私が村を案内致しましょうか」

 

 饒舌なネイにアリエッタは「え、あの、えっと」と戸惑う。

 馴れ馴れしい態度は本人の性格が元かもしれないが、ネイの言動は過去のアリエッタを知っているものだ。記憶を失う前のアリエッタを知っている存在、アリーダが求めていた存在が今目の前で喋り続けている。

 

「なあおいお前、アリエッタのこと詳しく知ってんのか?」

 

「バカヤロおおおお! アリエッタ様の名前を軽々しく呼び捨てにするなああ! その御方が誰だと思う。その御方は、デモニア帝国皇帝、アレクセイ様のご息女であらせられるぞバカヤロおおおお! 馴れ馴れしく隣に座るなあ!」

 

「皇帝のご息女ってことはー、まさか、皇族ってことかあ!?」

 

 予想だにしなかった詳細が飛び出て来たのでネイ以外は驚愕した。

 

「アリエッタ、何か思い出したのではないか?」

 

「うーん、何か、頭が痛くなってきたような」

 

 自分が何者かを知ってもアリエッタの記憶は戻らないが刺激は受けている。

 

「ネイ、彼女は今記憶を失っているらしい」

 

「記憶喪失って一大事じゃない! そうだ、ご家族の写真を見れば思い出すかも!」

 

 ネイは手を叩いた後でどこかへ走り去り、写真立てを持って帰って来た。

 

「アリエッタ様どうぞ! こちらあなたのご家族、皇族の皆様でございます!」

 

「……これが、私の、家族」

 

 写真立てを手に持ったアリエッタはじっくり写真を見つめる。

 写真には四人の魔人が映っていた。威厳のある大男、お淑やかそうな女性、顔立ちが整っている若い男性、そして最後の一人はアリエッタと酷似した黒髪の少女。若干幼く感じるが、数年前に撮られたとするなら多少顔も違うだろう。

 自分の記憶の重大な手掛かりを目にしたアリエッタの手が震える。

 

「わ、たし、は」

 

 力が入らなくなったアリエッタの手から写真立てが離れ、ネイが必死にキャッチした。

 数秒後、アリエッタの意識が離れ、倒れそうになるところをアリーダが横から支えた。

 

「アリエッタ!? おい、どうした!?」

「反応がない。気を失ったのか?」

 

「一大事です! 早く私の家で寝かせないと!」

 

 慌てたアリーダ達はアリエッタをテント内から運び出す。ゲリーのテントで寝かせないのは、単純にゲリーが布団を使っているので空きスペースがないからだ。硬い床に寝かせるより布団の方がいいので他のテントに移動させる。

 

「長、もしや」

「うむ、記憶が、戻るかもしれぬ」

 

 テント内に残されたヴァッシュとゲリーは心配そうに呟いた。

 

 

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