下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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33 タリカン・アットウッド

 

 王都の酒場で一人の男が浴びるように酒を飲んでいた。

 男の名前はタリカン・アットウッド。彼は一人で酒を飲んでいて、バニーガール姿の店員に愚痴を零す。聞かされている店員は以前もこんな客が居たなと思いながら彼の愚痴を聞き流している。

 

「俺が、俺が、何をしたってんだ。父さんに言われた通り生きてきたじゃねーか。フセットのことを本気で愛しているから、結婚を認めてほしかっただけなのに。だから父さんに従い続けてきた。計画を成功させたら認めるって言ったくせに。王女に計画がバレたからって簡単に俺を切り捨てて、勘当までしやがって。酷いだろ!?」

 

「そうですねえ」

 

「貴族連中からは貴族の恥部なんて言われるし、ギルドも上層部が俺のパーティーのランクを下げやがるし、どうすりゃいいんだよ俺はよお! 幸福を呼ぶって壺は何の効力もねえしよお! 金返せよ畜生があああ!」

 

「どうすればいいんですかねえ」

 

 先日、タリカンの実家、アットウッド家をミルセーヌ王女が訪問してきた。

 なぜか彼女はタリカンがこれからやろうとしていたことを全て知っており、わざわざ家まで確認しに来たのである。確認とは計画がタリカン一人によるものなのか、はたまた親子によるものなのか。答えによって処罰を受ける人数が変わる。父親のパリカンは自分の身と家の安全を優先して、タリカンに全責任を押し付けて勘当した。正に蜥蜴の尻尾切りである。幸いミルセーヌが勘当は十分な罰と認めたため、それ以上の罰を受けることはなかった。

 

 貴族という後ろ盾を失ったタリカンを待っていたのは転落人生。

 上町、通称貴族街への立ち入りを禁じられただけではない。ギルドでは今まで無視されてきた実力面を問題にされ、SランクからBランクまで降級してしまった。Cランクにまで落とされなかったのは、一応Bランクでもやっていける力はあると判断されたからだ。状況的にはまだ転落しきっていないと言える。

 

 ここ数日でがらりと変わった人生を嘆いてタリカンは酒を飲み続ける。

 

「おーい、アッパーエールもう一杯追加してくれえ。今日は朝まで飲むぞお」

 

「はーいアッパエール追加注文頂きました! 少々お待ちくださーい」

 

 店員が傍を離れると、タリカンはテーブルに顔を伏せる。

 今はもう何も考えたくなかった。酔って全てを忘れたかった。

 

「あーらら、噂を聞いて様子を見に来たら随分飲んでんな。潰れかけじゃねーか」

 

 タリカンが顔を上げるといつの間にか紫髪の男が相席していた。

 

「……誰だお前」

 

「おいおい、酒飲みすぎだろ。そら〈体調整備(リフレッシュ)〉」

 

 優しい白光がタリカンの頭を包む。酔いは急速に醒めていき、脳も活発に動き出す。

 体格のいい紫髪の男が誰か今なら分かる。タリカンが自分のパーティーから追い出した魔法使い、アリーダ・ヴェルトだ。酔いが醒めて早々嫌な顔を見たとタリカンは眉間にシワを寄せる。

 

「……アリーダ。何の用だよ。良い気分を台無しにしやがって」

 

「いやあ妙な噂を聞いてなあ。お前が実家を勘当されて、ギルドではBランクに降級したって噂なんだが」

 

「事実だって分かってるんだろ。何だ、笑いにでも来たのかよ」

 

「お気持ちを聞きに来たんだよ。どうだ、実家から追放された感想は。少しは俺の気持ちを理解出来たか? 俺はめっちゃ、めええええっちゃ落ち込んだぜ。丁度さっきのお前みたいに酒も飲んでたっけなあ」

 

 めええええっちゃウザい。タリカンは今そう思う。

 タリカンが睨みつけてもアリーダの薄ら笑いは消えない。

 

「あ、あのお、アッパーエールをお持ちしたんです、けど」

 

 二人に険悪な雰囲気が漂うなか、酒を持って来た店員は萎縮しながらも声を掛ける。

 タリカンは無言で酒を受け取ってすぐに飲み干し、グラスを店員が持つトレイに戻す。

 

「おいアリーダ、外へ出ろ。ちょっとした運動に付き合ってくれよ」

 

「いいぜ。ちょっとした、運動な」

 

 酒代をしっかり払ってから酒場の外へ出た二人は軽く体操を行う。

 腰を反らせたり、手足を曲げたり、首を回したりして体を解す。

 思いっきり喧嘩する気である。タリカンにとってアリーダは尊敬出来るところがないからか遠慮なく何でも出来る。追放しようと思ったらパーティーを追放出来るし、喧嘩しようと思ったらいつでも殴れる。アリーダもタリカンに対して同じ認識のはずだ。

 

「……お前は、追放したことを謝ってほしいのか? 言っとくが、お前を追放して後悔したことはない。悪いとも思ってない」

 

「え、ちょっとは寂しいとか、後悔したりとかは」

 

「ない。全く」

 

「本当のことを言えよ」

 

「だからないって」

 

 元から仲は悪かった。普段からやっていた口喧嘩がないと若干寂しさを覚えなくもないが、やはり居なくなってくれて清々している。仕事は少し時間が掛かったとしても三人で達成出来るし問題ない。今まではタリカンの出番がほぼなかったが、強くなる努力はしてきたのでアリーダの穴埋めくらい出来る。それでもBランクへ降級したのは、タリカン個人の実力がSランクに相応しくないと判断されたからだ。

 

「……ち、違う。俺が言ってんのは追放した理由の話だぜ」

 

 話の流れ的に絶対違うがタリカンは何も言わないでおいた。

 

「俺が下級魔法しか使えないってのはパーティー入ってすぐ分かっただろ。なのに半年もパーティーに所属させていた。下級魔法しか使えないからって追放理由はよ、よく考えてみたらおかしいんだよ。別にあるんだろ、追放理由」

 

「だとしたら?」

 

「謝れ。そして言え、俺を追放した本当の理由を」

 

 確かに下級魔法しか使えないからという理由は正確ではない。

 タリカンはアリーダの実力を分かっている。下級魔法しか使えなくてもパーティーメンバーのサポートや、敵の弱点を見抜いての攻撃は十分にSランクでやっていけるものだった。実力不足のまま卑怯な手でSランクへ成り上がったタリカンと彼は違う。彼の実力に不満は一切無い。戦う手段がどうであれ彼の実力をタリカンは高く買っている。

 

「……あーもう、うるせえなあ!」

 

 言えと命令されても言う気になれずタリカンはアリーダに殴りかかった。

 

「はあ!? お、おい!?」

 

 唐突な攻撃に慌てたアリーダだが紙一重で躱し、すぐ反撃に移る。

 二人の喧嘩は始まった。殴っては殴られ、蹴っては蹴られ、純粋な物理攻撃のみの喧嘩だ。使う必要がないと思ったのかアリーダは魔法を使わない。その余裕がタリカンの苛立ちを増幅させて、段々と攻撃が大振りで隙の大きなものとなる。目ざといアリーダが隙を見逃すはずもなく、形勢は一気に彼の方へと傾いていく。やがて彼の蹴りでタリカンは吹き飛んで地面に倒れた。

 

 続けても勝てる気がしないのでタリカンは起き上がらず、暗い空に浮かぶ星を睨む。

 

「なんでお前はそんなに強い。努力してねーくせに、何でだよお」

 

「……筋トレしたからじゃね」

 

「俺だって筋トレした! 槍の扱いも、魔法だって、必死に努力したさ! 俺は、俺は凡人だから!」

 

 幼少の頃からタリカンは他者より技術の上達が遅い。勉学、武術、魔法、舞踏、何をやっても最初は他者より劣り、超えるためには他者より多くの努力が必要なのである。唯一自分が得意と思っていた槍術も周りと大して技量差がないと分かった時は落ち込んだ。

 

 父の命令でギルドに所属してからは槍術と体術を伸ばしたがやはり上達は遅い。早急にSランクへ昇級してほしかった父が卑怯な手段を強要したので、仕方なくSランクに最速で成り上がった。本当なら努力して得た純粋な実力で上に行きたかったと今でも思う。

 

 タリカンにとって努力とは今の自分を形成してくれたもの。生物にとって必要なものという認識。当然楽が出来るならタリカンだって楽するが、努力して最良を目指す気持ちが強い。……だからか、才能があるのに努力しない、自分の力を高める気のない人間が嫌いなのである。

 

「お前のことが嫌いだ。魔法は全属性の適性があって、肉体は強靱で、頭も良いくせに努力しないお前のことが嫌いだ。才能に胡坐を掻くところだけが、嫌いなんだよ。生まれ持った魔法の才能をお前は活かせてない。やる気を出せば中級以上の魔法を覚えられるのに習得しようともしない。才能持ってるんだからもっと強くなれよ! お前なら、俺が届かない世界にも届くんだぞ!」

 

「……それが、理由か」

 

「Sランクに狡い手段で成り上がったのは不本意だった。でも、いつかSランクに相応しい強さを手に入れようと必死に、努力、してきたんだぞ俺はあ。フセットもジャスミンも努力して今の強さを手に入れたんだ。お前みたいな奴、認めるわけにはいかなかったんだよお。謝らねえぞ俺はああ」

 

 全属性の適性を持つ魔法使いはアリーダ含めて世界で三人しかいないと言われている。努力すれば全属性の上級魔法を使いこなすことも出来る。そこに彼の頭脳が加われば、攻撃、補助、回復、全てを一人でこなせる世界最強の魔法使いになるのだ。そんな素晴らしい才能を彼は伸ばさず、面倒という理由で中級以上の魔法を覚えない。

 

 タリカンにとって彼は自分と真逆の存在。もしも彼が才能を活かす努力をする人間だったなら、同じパーティーなのを苦痛には思わず追放もしなかった。

 

「よーく分かった。謝らなくていい。さ、立てよ」

 

「酔ってて立てねえなあ」

 

「アルコールはさっき抜いてやっただろうが」

 

 アリーダが差し伸べてきた手をタリカンは払う。

 

「酔ってんだよ俺は。じゃなきゃ本音なんて喋らない」

 

「じゃあ酔っ払い。耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ。俺は本気でSランクに成り上がろうとしてる。だからお前も成り上がれ。今度は自分の力で、努力してSランクまで上がれ。凡人でも努力すりゃ才能マンに追いつけるって証明してみろよ。俺は先に行くぜ」

 

 今のタリカンは目標を失っている。元々父の命令で所属させられたギルドであり、Sランクになるのを強要され、なったからには相応しい実力を身に付けたかった。しかし父の計画は破綻して、Bランクに落ちた今となってはSランクに上がる必要がない。強くなる必要もない。

 

 Bランクのまま仕事をし続けても宿に泊まりながら暮らしていけるだろう。目標のないつまらない日々を過ごしていくだろう。だが努力の意味すら見失っていたタリカンにアリーダは再び目標を、今度は自分の力でSランクになるという人生の目標を与えてくれた。

 

 無気力に生きる未来が変わり、瞳の奥に情熱が宿ったタリカンは立ち上がる。

 

「……はっ、バカが。追い越してやる。俺が先にSランクまで成り上がってやるよ!」

 

「おうおう息巻いてな。楽しみにしてるぜ努力マン」

 

 自然と二人の口には笑みが浮かび、逆方向へと歩いて別れた。

 

 

  *

 

 

 高身長な紫髪の男、アリーダ・ヴェルトは酒場近くから孤児院へと帰る。

 孤児院が視界に入った時、入口の傍で待っていた仲間のイーリスとアリエッタを見つけたのでそちらに向かう。

 

「どうだった、元仲間の様子は。上手く励ませたのか?」

 

「励ますううう? はっ、そんなつもりで会いに行ったわけじゃねえっての。まあ、結果的にはそうなっちまったのかもな。いっつも自信たっぷりなあいつの荒れた姿が気に入らなくって、頑張れって言っちまったよ」

 

「良かったです。仲直り出来たんですね」

 

「いや仲直りはしてねえ。つーか一生直らねえ。俺とあいつはこれでいいんだ」

 

 追放された理由を知った今ならそう言える。

 タリカンが強くなる努力をしていたのはアリーダも知っていた。毎日の筋力トレーニング、槍術の練習は欠かしていない。対してアリーダは筋力を維持するためのトレーニングを少しするだけだし、努力は嫌いだと大声で言う。これからも下級魔法だけで戦っていくつもりなのでタリカンからは嫌われたままだろう。

 

「もうあいつの話はいいから中に入ろうぜ。Sランクへ上がるための作戦会議でもしようや」

 

 下級魔法しか使えない魔法使いはSランクパーティーを追放されてから新たな仲間と出会い、再びSランクへ舞い戻ろうとしている。金と名声のためだけではない。仲間のためにも、元仲間のためにも、Sランクになる必要がある。

 彼、アリーダ・ヴェルトの戦いはこれから始まるのだ。

 

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