下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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 王国王都に存在するギルドのマスタールームにて。

 モンスター討伐を主に行う傭兵のような連中が働く場所には相応しくない、華やかな女性が一人やって来ていた。ウェーブのかかる黄緑髪は滑らかで、身に纏うドレスはまるで城の舞踏会へ行くかのように美しい。彼女こそヒュルス王国の第一王女、ミルセーヌ・グレイセス。ギルド内は今、彼女がやって来た話で持ちきりである。

 

「さて君達、『アリーダスペシャル(仮)』にミルセーヌ様からの指名依頼だ。失敗は許されない」

 

 ギルドマスター代理、アンドリューズの言葉に「おいおい脅すなよー」と、呼ばれたパーティーのリーダーであるアリーダ・ヴェルトは笑う。彼の仲間の二人は彼の態度に慌てているが、彼はギルドマスター代理とも王女とも知り合いなので態度を軽くしている。さすがに全く知らない人間の前では敬語を使うはずだ……おそらく。

 

「内容はどういったものなのでしょうか」

 

 アリーダの仲間の一人。肩まで伸びた黒髪の少女、アリエッタが質問する。

 

「君達が報告してくれた帝国大臣の計画。それを聞いたミルセーヌ様は調べたいことがあるらしく、王族しか入れない資料館へ足を運ばれるそうだ。しかし君達が手に入れた情報、王女暗殺計画の件がある。資料館への道中で良からぬ輩に襲撃されるかもしれない。そこで普段の護衛騎士の他に護衛を追加するそうだ。実力があり、事情を知る君達が護衛に欲しいらしい」

 

「なるほど、確かに失敗は許されませんね。失敗とは即ち、ミルセーヌ様の死」

 

 帝国大臣の計画とは、簡単に纏めれば王国と帝国に過激な戦争をさせるものだ。

 王女、つまりミルセーヌを殺害し、帝国民である魔人への憎しみを植え付ける。さらにアリーダ達は報告していないが帝国大臣は自国の皇女、つまりアリエッタをも殺害する気でいる。それぞれ他国の仕業に見せることで王国と帝国が憎しみ合い、簡単には終息しない戦争を始めさせるのだ。

 

 皇女暗殺計画をアリーダが報告しなかったのには理由がある。

 仲間のアリエッタが帝国の皇女だと知る人間は少ない方がいい。

 

 アンドリューズは信頼出来るが、今回は話が大きいだけに国王にまで話が伝わっている。魔人を良く思わない人間は多いし、騎士団はその筆頭だ。今の時代だと過去に起きた戦争を知る者は老人なので騎士団には居ないが、戦争を仕掛けようとした魔人達の存在は知っているので敵意は強い。王女の命に関わるなら騎士団は必ず報告を聞くので、アリエッタが魔人だと教えれば襲撃に動く者も居るだろう。

 ただでさえ帝国大臣から命を狙われているのだから、自ら敵を増やす必要はない。

 

「何を調べてえんだ? 今必要なのか?」

 

「コエグジ事件についてです。何か、妙なのです、あの事件は」

 

 戦争を仕掛けようとした魔人達を皆殺しにしたのがコエグジ事件だ。しかし生き残りが居たり、冤罪だったり、公表された情報と現実は真逆と言っていい。少し前にアリーダと彼の仲間はコエグジ事件の生き残りが住む村に行き、真実を聞いた。

 

 この件も王族や騎士団に知れ渡れば大変なのでアンドリューズにしか報告していない。秘密にしろと村人からは言われたが、仮に他の人間が偶然村を見つけたらギルドに情報が伝わる可能性が高い。アリーダ達が元コエグジ村住人の無実や居場所を報告しておかなければ、ギルドの人間が攻め入るかもしれないのだ。大陸の端に隠れ住む村人を守るためには報告するのが一番良い選択だった。

 

「妙って、何が妙なんだよ」

 

「私の護衛を務める部隊に聞いたのですが、彼等自身も知り合いの騎士もコエグジ事件には関わっていないと言うのです。多くの騎士が魔人を殺すために参加したはずなのに、騎士団に長く居る私の護衛部隊が全く知らないなんて妙でしょう?」

 

「確かに、そりゃおかしいな。コエグジ事件を調べる価値はあるってわけか」

 

 一同が納得した時、マスタールームの扉が唐突に開く。

 

「――失礼しますマスター代理!」

 

 部屋に入って来たのはギルドの受付嬢、リリルだった。焦った様子で息も切らしていて、ここまで全力で走って来たことが分かる。僅かに震えている手には四十センチメートル程の黒い箱が持たれていた。

 

 唐突な入室だったのでアンドリューズは腰に下げる剣に手を伸ばしていたが、受付嬢だと認識した後はため息を吐いて手を下ろす。彼がそう動くのも仕方ない。王女の命が狙われていると分かった以上、第三者の接近には過剰反応してしまう。

 

「何事だね。今、大事な話をしているのだが」

 

「お話中申し訳ありません! しかし、その、また例のものが届けられて……」

 

「……そうか。そちらの問題も深刻だな」

 

 重苦しい雰囲気になったアンドリューズは再びため息を吐く。

 

「例のもの? おいオッサン、例のものってのは何だよ」

 

「もしや、例の?」

 

 アリーダではなくミルセーヌの問いにアンドリューズは「ええ」と答える。

 アンドリューズは受付嬢から黒い箱を受け取り、少し開けて中を覗き見る。不快な物が入っていたのか彼は眉を顰め、すぐに箱の蓋を閉める。そんな反応をされるとアリーダ達は中身が気になって仕方がない。

 

「アリーダ、君も無関係ではない。中身を見たいなら見るといい。しかし見るなら覚悟はしておけ」

 

「何だあ? 勿体ぶりやがって、その箱が何だってんだよ。ビックリ箱かあ?」

 

 ソファーから立ち上がったアリーダは訝し気にしながら黒い箱を持ち、蓋を開ける。

 子供の頃、箱に罠を仕掛けて悪戯していたアリーダは並大抵のビックリ箱では動じない。だがどんなものが入っているのか気になって見てみた瞬間、目を見開いて驚愕した。予想していた罠を遥かに超える恐ろしい物が箱には入っていたのだ。

 

「なっ!?」

 

 アリーダが思わず箱を投げてしまい、中身が転がり出る。

 

 ――人間の頭部だ。

 くすんだ金髪が目立つ頭部がゴロゴロと転がり壁に当たる。

 

 衝撃の光景にアリエッタは「きゃあ!」と悲鳴を上げた。

 中身を予想出来ていたミルセーヌは目を背けた。

 

「――た、タリカン? お、おい、何だよこりゃあ。冗談にしちゃキツすぎるぜ!」

 

 タリカン・アットウッド。アリーダがかつて所属していたパーティーのリーダー。

 仲は悪かったがアリーダと同じでSランクパーティーを目指す男だった。

 

「冗談ではない。正真正銘タリカン・アットウッド本人の頭部だ。彼だけではない、ギルドだけでも今までに十二人殺されている。彼と同じように首を切断されてな。頭部は毎度町中に投げ込まれ、騎士団が回収し、黒い箱に入れて届けてくれている」

 

「もっと被害が出ているのは騎士団です。既に五十人以上が殺されています」

 

 ミルセーヌの言葉にアリーダ達は言葉を失う。

 噂だけならアリーダ達も騎士団やギルドの人間が殺されているのを知っていた。しかし、噂で聞くのと、こうして被害者の頭部を目の当たりにするのではショックの大きさが違う。騎士団が五十人以上も殺されているのには驚きも大きく、タリカンと同じような死に方をしたと思うと気分が悪くなる。

 

「六年前から被害が出ていて、時間が経つごとに殺人の頻度が増えているのです。既に犯人の特徴は分かっています。特徴は――」

 

「螺旋状の角と額に目がある魔人。名前は……クビキリ」

 

 ミルセーヌの話を遮って説明したのはアリーダの仲間である女性剣士、イーリス。

 

「クビキリって、確かお前の」

 

「父の仇だ。殺され方で同一犯だと分かった」

 

 イーリスは約二年前に父親を殺され、犯人であるクビキリをずっと追いかけてきた。一度は狙われやすい騎士団に入団しようとしたが断られ、仕方なくギルドに所属して情報を集めてきた。どんなに小さな情報でも拾い上げ、いつか復讐への道を完走するために。

 

「どこですか! 奴が最後に居た場所は!」

 

「タリカンが受けた仕事をもとに考えると、王都から南東二十七キロメートル程離れた森か、崖下の道だろう」

 

 アンドリューズからの情報を聞いてすぐイーリスは全速力で部屋から走り去った。

 

 

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