下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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 この村は元々コエグジという村に住んでいた魔人と、戦争を企てていたなんて冤罪を信じずにいてくれた人間が作った村。名前はなく、避難所のような場所である。今は全て焼き払われてしまったが畑も、果物の生る木もあったし、海沿いなので魚も捕れるため生活は苦しくなかった。避難所としては良すぎるくらいに楽しかった。

 

「村についてはこんなところだ。理解してくれただろうか」

 

「ええ。コエグジ事件については知っていましたが、まさか生き残りがこんなに居たとは思いませんでした。無実の罪なら悪者扱いはさぞお辛いでしょう。故郷に帰るという選択肢はなかったのですか? 国境を守る騎士は少数ですし、みんなで行けば押し通れたのでは」

 

「デモニア帝国に帰れば、この地で仲良くなれた人間と別れることになる。帝国には人間を良く思わない連中が多い。人間達のことを考えるのなら連れて行かない方がいいだろう。だから我々はこの地でひっそりと暮らし続けている」

 

 過去の戦争と差別が原因で二種族は基本的に嫌い合っている。今では実際に会ったことのない若い世代が多いなか、会ったことのある世代から過去の情報や恨みを聞いて嫌ってしまうケースも多々ある。昔の情報が伝わるせいで憎しみや恨みは永遠に消えない。もちろん全員が嫌い合っているわけではないが、殆どの者が互いに悪印象スタートで接することになる。それ以外は変わり者と言われるだろう。

 

「やはり、未だに人間と暮らしていたのか」

 

 クビキリが忌まわしそうにそう吐き捨てる。

 

「君のように受け入れられない魔人は故郷へ帰ったじゃないか。忘れたわけではあるまい」

 

「こんな目に遭っているんだぞ。仲良くしようなど間違った思想なのだ」

 

「我の目と能力がおかしくなければ、隣の娘は人間のようだが?」

 

「俺は人間と仲良くなるつもりなど一切ない」

 

 ヴァッシュはやれやれと首を横に振り、村の奥へと歩いて行く。

 村の奥、海沿いの低い崖には一人の老爺が居た。赤い肌に赤茶の毛がびっしり生えており、痩せぎすな彼は酷い猫背で(わら)の上に座っていた。ルピアの「獣……?」と思わず出た呟きを耳で拾ったヴァッシュは、老爺が村長の魔人であること、魔人にはモンスターに近い者も人間に近い者も存在することを説明する。

 

「……長、お久し振りです」

 

 クビキリが一歩前に出て挨拶すると老爺、ゲリーが顔を上げる。

 

「……おおザンシュルスか。本当に久し振り。六年ぶりか。村に帰ってくるとはどういう心境の変化かね」

 

 ゲリーは大きく裂けた口から掠れた声を出す。

 

「アリーダ・ヴェルトという男が長の話をしたものですから、異常がないか確認に来ただけです」

 

「そうか彼と会ったか。……復讐を止めるつもりは、ないのかね? この村で暮らすつもりは?」

 

「俺の意思は六年前と変わりません」

 

「ほう。そのわりに、げほっ、傍に人間を近付けているようじゃが」

 

 眉間にシワを寄せるクビキリは「勝手に付いて来るだけです」と告げた。

 

「それよりも村の惨状について話していただきたい。人間のせいなのですよね」

 

 ゲリーはヴァッシュを一瞥した後、数秒程沈黙する。

 

「……確かに人間達に襲われた。ヴァッシュがわっし等を影に潜らせてくれなければ、全滅していたかもしれぬな」

 

「何者です? 騎士団ですか、ギルドですか」

 

 王国で武力を持つ団体は騎士団とギルドしか存在しない。各地の村に力自慢は居るだろうが、この村の状態を観察すればそんなレベルの相手ではないことくらい分かる。地面に大きな凹みや穴をいくつも作り、テントも畑も全て焼き払うような真似、余程の強者でなければ出来ない。

 

「いや、わっしは奴等が騎士団の者でもギルドの者でもないと思う」

 

「バカなことを仰る。地面に作られた攻撃痕を見ただけでも、一般人の仕業でないことくらい分かります」

 

「騎士団でもギルドでもない、武力を持つ第三の組織が新たに現れた。いや、既に存在していたのだ。わっし等は大きな思い違いをしていたのかもしれん。わっし等の本当の敵は……ごほっ、げほっ」

 

 掠れた声を出していたゲリーは咳き込み、手で口と胸を押さえる。

 無理をして喋っていたのだ。ただでさえ高齢で肉体は弱り、一日の殆どの時間を寝て過ごすような生活をしている。畑は破壊され、食料調達も大変になったため、彼は若い世代の者達に食料を分けていたのであまり自分が食べていない。酷い衰弱状態なので本当は喋ることすら辛いのだ。

 ゲリーの体の状態をよく理解しているヴァッシュが彼に駆け寄る。

 

「長、もう喋らない方がよろしいかと。衰弱しているのですから体は大事にしなければ」

 

「そういうわけにはっげぼっごほっ」

 

「無理をさせるわけにはいかないな。長、ヴァッシュ、俺はまた村を出て行く」

 

「まっ、ごぼほっ!」

 

 クビキリは村の入口へ、今では全方位入口だが一先ず過去の入口があった場所に向かう。

 異常がないか心配で帰って来たのにゲリーを苦しめては本末転倒だ。村は襲撃は受けていたものの、住民がまだ生きていることだけ分かれば十分だ。一度滅ぼしたと思った人間が再度やって来る可能性は低い。村人達がまた襲撃されて今度こそ殺されるなんてことは起こらないだろう。

 

「故郷なんでしょう? 一日くらい滞在したらどうですか?」

 

「俺達が居ると迷惑が掛かる。指名手配されているのだ、居場所がバレれば騎士が攻めて来るぞ」

 

「こんな辺鄙(へんぴ)なところ、誰かが来るとは思えませんよ。せっかく故郷に帰ったのですし一日くらい」

 

「くどい。俺は、この村に居るわけにはいかないのだ」

 

 誰が何と言おうと、クビキリ自身は自分がもうこの村の住民ではないと思っている。

 この名もなき村は人間に歩み寄ろうとする魔人、魔人に歩み寄ろうとする人間の村だ。かつて抱いていた歩み寄る心を捨てて人間を殺し続けているクビキリが、村の住民であっていいはずがない。本来なら村に入ることすら、近付くことすら(はばか)られる。

 

「待てザンシュルス」

 

 声を掛けられて立ち止まったクビキリが振り返るとヴァッシュが立っていた。

 

「去る前に襲撃犯達の特徴を聞いておけ。長が気付いたことだが、連中は虹色の腕輪を付けている。仲間の証なのか知らないが、それを付けている者には気を付けろ。奴等は全員が優秀な魔法使い。使う魔法はもはや災害だ」

 

「……情報提供、感謝しよう」

 

 情報を聞いたクビキリは前に向き直り、再び歩き出す。

 虹色の腕輪について知れたのは幸運だった。そしてはっきりはしていないが、フセットがそんな物を装備していた気がする。彼女は何かを知っているはずだ。彼女をよく知る元仲間なら彼女の居場所などに詳しいかもしれない。やはり予定は変わらず、クビキリが次に狙うべき相手はアリーダかジャスミンである。

 

「ザンシュルス! たまには、妹の墓参りに帰ってこい。あの子も喜ぶ」

 

 ザンシュルスの妹、ユアミの墓はこの村の墓地に建てられている。しかしザンシュルスという魔人は既に死んでいる。妹と共に人間と談笑していたザンシュルスは、人間を殺すクビキリへと変化して死んだのだ。クビキリは村を出た六年前に自分の真名を捨てていた。ユアミの兄として生き続けるのは無理だ、復讐鬼として殺した人間の血で身体が汚れきっている。墓に向けられる顔がない。

 

「俺は、もう」

「――見つけたぞクビキリ」

 

 かつて入口があった場所で見たことのない男女がクビキリを待っていた。

 銀の鎧を着た黒髪の男、黒いとんがり帽子とローブを身に付ける女だ。灰色の肌を持つ男は魔人だろうが、女の方はどこからどう見ても人間にしか見えない。新しい村人……とは思えない。二人の男女からは血の臭いが漂っているので危険人物の可能性が高い。

 

「何者だ?」

 

「俺はヨシュア、隣の彼女はアルニア。我々はデモニア帝国大臣ムーラン様に仕える組織、キルデス。邪魔者を殺すのが主な仕事さ。今日は君に話があって来た。いきなりで悪いが聞いてもらおう」

 

「……俺を殺しにでも来たか」

 

 キルデスの噂をクビキリは耳にしたことがある。帝国大臣直属の組織で、犯罪者の殺害を仕事とする者達。帝国の平和を守るためなんて善性を信じる者も居たが、その通りならクビキリは標的になっているだろう。人間を殺すという行為を良く思わない魔人も少なくない。人間との関係悪化を避けるためにもクビキリを殺しに来たと考えれば、組織の魔人が王国領にやって来たのにも納得がいく。

 

「いやいや、勘違いしないでくれ。君を殺すつもりならとっくにやっている。今日は君を勧誘しに来た。俺達の仲間にならないか? 仕事で人間を殺せるし、報酬だって貰えるぞ」

 

 話を隣で聞いていたルピアがクビキリの耳に顔を近付ける。

 

「クビキリさん、彼の話すっごく怪しいですよ」

 

「俺は殺しを仕事にするつもりはない。失せろ」

 

 クビキリはルピアの顔を手で遠ざけながらそう言い放つ。

 殺人とはクビキリにとって殺された村人達の復讐。

 首を斬るのは簡単に死をばら撒く人間への裁き。

 行動には意味があり、自分がやるべきだと信じることをやっている。

 決して報酬や快楽を得るために人間を殺しているわけではない。

 殺しの仕事なんて合わないとクビキリは思う。

 

「ならせめて、少しの間だけ俺達に協力してくれないか? 俺達はヒュルス王国の王女、ミルセーヌを殺す任務中でな。敵は多いし厄介だ、強い味方が増えれば心強い」

 

 あっさり明かされた目的を聞いてルピアは目を細める。

 

「王女を殺す? そんなことをすれば、戦争が起きてしまいますよ」

 

「それでいい。戦争のきっかけ作りが目的なのだからな」

 

「……戦争、か。貴様の話を聞いて気が変わった」

 

「クビキリさん!?」

 

 まさかキルデスの連中に加担するつもりか、とルピアが驚いている間にクビキリは刀を握る。

 目的を聞いてからクビキリは一瞬で戦闘態勢に入り、ヨシュアとアルニアの命を刈り取るべく刀を振るった。二人は顔面目掛けて振るった刀を躱して死を防ぐ。ただアルニアは完全に躱し切れず、左頬が小さく裂けた。不思議なことに彼女の傷口からは流血がない。

 

「……何のつもりだ」

 

「貴様等を殺す。戦争を起こさせるわけにはいかない」

 

「散々人間を殺してきた男の言葉とは思えないな」

 

「戦をすれば魔人側にも必ず犠牲が出る。犠牲になるのは最前線に立つ者達、そしてこの村の人々のように力なき者達だ。殺人鬼が暴れているだけなら死ぬのはその殺人鬼一人。誰かの協力は不要。逆も然り。俺は俺のやり方で人間の罪を裁く」

 

 覚悟を決めているクビキリ自身は戦場だろうと、地獄の底だろうとどこだろうと行っても構わない。しかし一般人まで争いに巻き込みたくない。それが理由でクビキリは妹の墓が建つこの村を出たのだ。誰も巻き込みたくないからこそクビキリは戦争を嫌う。

 

「残念だ。君はこちら側だと思ったが……アルニア、撤退するぞ」

 

「〈砂嵐(シムンガガン)〉」

 

 アルニアが上級魔法〈砂嵐〉を使うと広範囲で熱風が吹き荒れ、砂が激しく舞い踊る。

 あまりに激しい砂嵐なので砂で視界が遮られて、クビキリ達はたまらず手で目を守ろうと防御した。当然キルデスの二人を見失ってしまうが、まともな視界を確保する手段を持たない以上どうしようもないことであった。

 

「人間を裁くとか言っていたけど、この村には人間も住んでいるね。何事も中途半端は良くないよ。復讐したいならまずはこの村の人間から殺したら? 隣の女も斬っちゃいなよ。半端な殺人鬼さん」

 

「我々の邪魔をするな。次に邪魔をすれば死んでもらうぞ」

 

 熱風に乗る砂が肌に当たる感覚が消えた。

 砂嵐が止まったのを感じたクビキリ達は目を開ける。

 周辺には砂が少し積もっているだけで、キルデスの二人の姿はどこにもなかった。

 

「……逃げられちゃいましたね」

 

 クビキリはそう呟きながら目を擦るルピアを見つめる。

 中途半端は良くない。アルニアの言葉が蘇り、一瞬ルピアを斬ろうかと考えてしまった。しかし殺意が高まっただけで何とか堪えられた。彼女は自分の命の恩人であり、妹を殺した連中とは何の関わりもない。人間というだけで全員殺す方が復讐としては中途半端だとクビキリは思う。

 

「やらねばならんことが増えたな」

 

 戦争を企むキルデスはクビキリにとって邪魔な存在。次に会えば殺そうと決意した。

 

 

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