下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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 ヒュルス王国城下町ではその日、誰もが国の発表した三つの情報について話していた。

 一つは貴族と国王の会議にて決定された国民達の『指切り』についてだ。国民に紛れ込んだ魔人を探すために行われることだが、指を一本切り落とす拷問のような方法のため、国民は殆どの者が不安と恐怖の入り交じった顔をしている。普段は賑やかな城下町も今日だけは活気がなく、別の町に居るように人々は錯覚してしまう。

 

 城下町の提示版には指切りのことだけでなく、もう一つ重大な知らせの紙が貼られている。

 ギルドマスター代理、アンドリューズが魔人であり、王女を誘拐したという事件についてである。国民に指切りの重要性を理解させるためには、事件を公にした方がいいと国王が判断したからだ。……不安を煽る結果になるとしても。

 

 指切り。ギルドマスター代理が魔人。王女誘拐。

 三つの衝撃情報が王国民の不安を掻き立てて膨らませる。

 

「アリーダさん、嘘ですよね!? マスター代理が魔人だなんて! 王女様を誘拐だなんて!」

 

 ギルドに入ったアリーダに受付嬢のリリルが駆け寄って来た。

 

「落ち着けよ。オッサンが魔人かってのは、正直俺も分からねえ。だがよ、王女誘拐については絶対に理由があるはずなんだ。お前等は職務を全うしとけよ。オッサンが居ればきっとそう言うぜ。安心しろ、オッサンは悪人じゃねえよ」

 

「――どうだかなあ?」

 

 馬鹿にしたような声にアリーダは「あ?」と眉を顰めて振り向く。

 声の主は入口に近いテーブルに座っており、酒を飲みながら対面の男と笑う。

 

「アンドリューズが悪人じゃねえなんてよお、証拠でもあんのかあ?」

 

「……テメエ等、ワッシュ兄弟」

 

 彼等が酩酊(めいてい)状態で喧嘩を吹っ掛けてきたのをアリーダは覚えている。今日は朝から酔っ払っているようでかなり顔が赤い。強さは本物だが態度が悪く、評判は最悪なので新人以外誰も傍に近付かない。

 

「金が欲しかったんじゃねえのお? がめつい奴だよなあ」

 

「いやあ女攫って男がやることなんてよお、一つしかねえだろお。羨ましいねえ、王女様のお綺麗な体を堪能出来るんだからよ。アンドリューズの奴、堅物に見えて意外と女好きだったんだなあ」

 

「……勝手なことばっか言いやがって。二度と口開かねえようにしてやろうか! ああ!?」

 

「め、メンバー同士の喧嘩は止めてください! ギルドに迷惑です!」

 

 リリルの静止によりアンドリューズは歯を食いしばって引き下がる。

 本当なら今すぐ殴り飛ばして、魔法をぶっ放して、香辛料を鼻から飲ませたいところだ。しかしギルド内で喧嘩をするのはギルドに迷惑が掛かるし、それはアンドリューズにも迷惑を掛けることでもあるので堪えた。

 必死に怒りを押さえつけたアリーダをワッシュ兄弟は「腰抜け」や「ヘナチン」と嘲笑う。

 

「悪かったなリリル。ちょっと、頭に血が昇っちまった。俺らしくもねえ」

 

「いえ、堪えてくれてありがとうございます」

 

「――ぬおおおおおおおおおお! 許せええええええええええええん!」

 

 笑っていたワッシュ兄弟に筋骨隆々な大男がタックルして、テーブルごと吹き飛ばす。

 テーブルは一部砕け、酒の入っていたグラスは割れ、ワッシュ兄弟は情けなく気絶してしまう。悲鳴を上げたリリルは大慌てで駆け寄り、グラスやテーブルの破片を拾い集める。彼女に気付いた大男は「すまん!」と大声で謝った。

 

「こらグレイト。苛つくのは分かるけど考えて行動しなよこの筋肉」

 

 アリーダの傍に近寄りながら大男を叱咤するのは一人の男。剣を腰の左右に二本ずつ、背中に六本背負っている。彼は仲間である猫背の老婆、弓を背負った女性を連れてアリーダの横に並び立つ。

 

「初めまして。僕はSランク、十剣(じっけん)のシルバー。仲間が迷惑を掛けてすまない」

 

「いや、俺は迷惑じゃねえ。寧ろ、イカサマした奴に正攻法で勝った時みてえにスカッとしたぜ」

 

 十剣のシルバー。その名前はギルドで有名な部類に入る。

 鮮やかにモンスターを殺す剣技はギルド内でもトップクラスと言われる実力者だ。彼のパーティーはSランクの中でも親しみやすいからか、全員雑誌のモデルも兼業していて人気も高い。ギルドに所属しているなら余程無知でなければ知っている。

 

「俺はアリーダ・ヴェルト。よろしくな。Sランクパーティーに会えて光栄だ」

 

「ふっ、元Sランクとは思えない発言だね。君のことはアンドリューズさんから聞いてるよ。すぐ調子に乗る悪戯小僧だって」

 

「……ま、まあ? 否定はしねえけど?」

 

「それにしても、アンドリューズさんも大変な状況だよね。世間じゃ早くも王女誘拐犯の魔人、国家反逆者扱い。近い内に指切りが行われるのもあって、民衆の不満や怒りは全てアンドリューズさんにぶつけられる。……でも、あの人には、無実を信じる人達が残っている。僕達や、君のように」

 

「そうか、アンタ等も。……ありがとな」

 

 不利に働く情報ばかり公開された中、ワッシュ兄弟のようにアンドリューズが悪と決めつける者も居れば、シルバー達のように理由があると信じてくれる者も居る。アンドリューズのことを心配してくれる人間が居ただけでもアリーダは嬉しかった。

 

「アンタ等、いつまで城下町に滞在するんだ?」

 

「最近特にSランクパーティーは忙しくてね。早々に指切りを済ませて仕事に戻るさ」

 

「分かった。仕事、頑張ってくれ。応援しとく」

 

「頑張るさ。ほら筋肉! もう行くよ!」

 

 片付けを手伝っていたグレイトに声を掛けた後、シルバーは仲間と共にギルドを出て行く。

 

「置いてくな! おいアリーダだったか、ジャスミンに伝えてくれ。また戦おうと!」

 

 グレイトが手をブンブン振って出て行き、ギルドには静寂な時間が戻る。

 話に出た指切り。シルバー達は早々に済ませたいらしいがアリーダはそうもいかない。魔人が居るのか確かめる合理的な方法なので、本当に魔人である仲間のアリエッタがやられれば一発で種族がバレる。

 

 今魔人だとバレるのは非常にマズい。丁度王女誘拐犯が魔人扱いされて、魔人への評価が果てしなく下落している。見つかれば即処刑なんてこともありえる。ナステル村の時は上手く誤魔化せたが、今回ばかりは誤魔化す方法が思い付かない。

 

「おいリリル」

 

「はい?」

 

「依頼を受けたい。遠い場所がいいな」

 

「ええ、分かりました。依頼書を選んでおいてください」

 

 偽装が出来ないなら時間を出来るだけ稼ぐしかない。

 今は良案が浮かばないので未来の自分に賭けるのだ。

 

 

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