下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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48 アリーダVSクビキリ②

 

 アリーダはズボンのポケットから手袋を取り出して嵌めた。

 手袋の中指部分には指輪が付けられていて、指輪からは糸がポケット内に伸びている。両手を素早く上に動かすと、ポケット内から丸い金属の塊が二つ回転しながら飛び出る。丸い金属二つをキャッチするとアリーダは笑みを浮かべた。

 

「テメエに勝つ為には、俺も何か新武器(ニューウェポン)が欲しいと思ってな。知り合いの鍛冶屋に頼んで特注で作ってもらったのよ。それこそがこの武器、ダブルボーラーだぜ! 仕組みを考えるのに結構苦労したんだ。この武器の恐ろしさ、じっくり味わってもらおうか」

 

「……子供の頃、それと似た玩具で遊んだ記憶があるな」

 

「ヨーヨーだろ? ゴム紐に水風船を付けた玩具。確かにダブルボーラーはヨーヨーから発想を得た武器だが、威力は玩具じゃねえぞ!」

 

 両手首のスナップを利かせてアリーダは丸い金属を二つ投げ飛ばす。

 直線的な動きで丸い金属がクビキリに向かうが、そんな単調な攻撃は容易に回避されてしまう。冷めた視線を向けられるがこれはアリーダも承知済み。ただの投擲武器と勘違いして油断を誘えたなら、後で驚くはずなので驚いた顔を想像して笑みを深める。

 

 アリーダは右手を左に動かしながら、伸びる糸を引っ張った。

 糸で繋がっている丸い金属は当然返って来て、クビキリの背後から奇襲を仕掛けられる。油断している今なら当たると思われたがそんなことはなく、軌道を読まれたのかあっさりと躱された。正直これにはアリーダが驚かされた。

 

「くだらん。やはり玩具だな」

 

 返って来た丸い金属を右手でキャッチする。基本は投擲武器として使うダブルボーラーだが、手袋と丸い金属を糸で繋げ、素早く引っ張ることで金属内の仕組みが作動して戻って来る。投げナイフなどの投擲武器と違いわざわざ拾いに行く必要がない。投擲武器としては超優秀だ。しかし、真の恐ろしさは別にあった。

 

 左の手袋から伸びる糸に向けてクビキリが刀を思いっきり振るう。

 鋭い斬撃に糸は切れる……と彼は想像しただろう。しかし糸には傷すら付かない。

 

「斬れない?」

 

 糸は切れず、軌道が曲がる。先端の丸い金属が円を描くように回る。

 クビキリの周囲を糸が一周した瞬間、アリーダが糸を引っ張って彼の首に巻き付かせようとする。だが彼は左腕を咄嗟に滑り込ませて、そのまま首を絞められることだけは防いでみせた。その代わりに糸は左腕と首後ろに食い込む。

 

「玩具じゃないと言ったはずだぜ。その糸も、先端部の金属も、フルメタルスパイダーの一部を加工したもんだ。鋼鉄よりも硬いのさ」

 

 硬いのはいいが、自由に扱うとなれば素手だと厳しい。そこで最初に嵌めた手袋だ。鋼鉄よりも硬い糸や金属塊を操作するなら手袋にも強度が必要になる。ダブルボーラーが強力なのはいいがそれがアリーダを悩ませた。考えた結果、手袋の材料に選んだのはフィジカルアンチスライムである。一度煮溶かしてから冷やして固めると、生きていた頃とまではいかずともかなりの丈夫さになる。

 

「糸を切ろうとしても無駄なのは身に染みて分かっただろ。そしてその糸は、電気がよく流れる」

 

 アリーダが右手で〈電撃〉を糸に放つと、電流がクビキリにも伝わった。

 気絶させるには至らなかったが痺れで動きを鈍らせることは出来る。

 

 どんな力自慢でも鋼鉄以上の硬度の糸は千切れないだろう。もうクビキリは捕らえたも同然。アリーダは念の為ロープも持参しているので、まだ残っている木に縛り付けようと考える。木々がある方へとアリーダが足を進めれば、これ以上糸が体に食い込まないようクビキリも距離を維持して歩く……というよりは引き摺られる形だが。

 

「ぐっ、ぬおおおおお!」

 

 苦しみに満ちたクビキリの悲鳴が上がる。否、これは、気合いの掛け声。

 少しでも首を守るために滑り込ませていた左腕に糸がさらに食い込む。隙間を作ろうと力を込めているのだ。糸は切れないが、徐々に拘束が緩んで隙間が広がっていく。少し隙間が作れたら刀を首の後ろに滑り込ませ、糸の拘束を前後に押し広げる。力任せに広げた糸からクビキリは素早く屈んで脱出。強引な手段を取ったせいで彼の左腕の一部は肉が削がれていた。

 

「え、マジ?」

 

 脱出されると思っていなかったアリーダはクビキリを凝視する。

 下手すれば左腕も首も糸で切断されていたかもしれない。殆どの生物はそうなるはずだ。想像は出来たはずだし、恐怖もあったはずだ。執念か、行き過ぎた自己犠牲か、恐怖を強い感情で潰して自傷も厭わず動く。ここぞという時には躊躇いなく無茶する相手はアリーダにとって苦手な部類に入る。どれだけ計算しても、計算外な行動をしてくるからだ。

 

 すぐに両者の戦いは再開した。

 クビキリは駆け、アリーダは糸を引っ張って丸い金属を左手に回収する。

 

「無茶してんじゃねーよ。首も腕も千切れていたかもしれねえぜ」

 

「今の俺は怨念に満ちた亡霊のようなもの。今更命など惜しまん!」

 

 突っ込んでくるクビキリに対して、アリーダはダブルボーラーを絶妙なコントロールで振り回す。高速で周囲を飛び交う重い金属、硬い糸。作られた攻防一体の領域に少しでも踏み込めば鈍器で殴られるか、糸で刻まれるか絡められるか、何にせよ無傷では済まない。これぞ土壇場で身に付けた技〈攻防一体の二重奏(リベロズ)〉。

 攻守共に隙のない技にクビキリも攻めあぐねているのでその隙に距離を離す。

 

 十五メートル程の距離を取ったアリーダは右の金属を斜め前に投げる。その方向にはまだ無事な木。金属が木を通り過ぎてすぐ、アリーダが操作した糸が木に食い込む。木を支点に大きく軌道を変えた金属は、クビキリの背後から後頭部目掛けて素早く向かう。

 クビキリに金属が当たると思われたが、彼は振り向き様に的確に刀で弾く。

 

「なっ……だが今度はどうかな?」

 

 右の金属に注意を逸らした瞬間、アリーダは左の金属を上に投げていた。

 真上からの急襲。金属がクビキリの脳天に直撃する……前にまた刀で弾かれた。

 

「俺は目が三つあるのでな。貴様の動きは見逃さん」

 

「くそっ、今のも防ぐのかよ!? いい加減に当たりやがれ!」

 

 急いで丸い金属二つを手元に戻し、再度投げつける。

 クビキリは攻撃を見極めて横に回避。そして刀を振り下ろし……糸を断ち切った。

 

「な、何だとおおおおおおお!? バカな、フルメタルスパイダーの糸だぞ!」

 

 確かにフルメタルスパイダーの糸は硬い。達人でも切断するのは困難だろう。クビキリ程に剣術に長けていても不可能に近い。だから彼はちょっとした仕掛けをした。

 物質は基本的に熱すると柔らかくなる。なぜそうなるのか彼は仕組みを知らないが、とにかくそういうものだと知っている。

 

 仕掛けは至ってシンプル。彼は〈精霊談術(スピリット・オブ・クンベルサ)〉で火の微精霊に語りかけ、フルメタルスパイダーの糸を熱してもらったのだ。狭い範囲を重点的に熱し、短時間で糸を断ち切れるくらいまで柔らかくしてもらった。当然、ここまでの短時間で斬れたのはクビキリの腕あってである。

 

「ちくしょうまだだ!」

 

 アリーダは両手の中指だけを伸ばし、手袋の中指に付いたリングから伸びる糸に〈電撃〉を放つ。電気がダブルボーラーの糸全体に伝わり、あっという間に電撃鞭ならぬ電撃糸の出来上がり。攻撃力は不安だが当たれば多少のダメージは入るだろう。

 

 クビキリが駆けて来たのでアリーダは電撃糸を振り回す。

 先端部の丸い金属がどこかへ飛んでいってしまった分、重量バランスが崩れて操りづらいがそこはセンスでどうとでもなる。軽くなって寧ろスピードは上がった気がした。突っ込んでくれば誰であろうと糸に絡まり、絶え間ない電流に苦しむ……はずだった。

 

 この瞬間、クビキリは今までよりも素早く加速した。

 風の精霊の力を借りたおかげだ。一時的にスピードが上昇する。

 電撃糸の猛攻を全て掻い潜ってアリーダに刀を振るえる程に速い。

 

(ま、マズい。急激な加速! 手札を隠していたのはこいつもだった! 急接近したと思ったらもう刀を振っていやがる。ダメだ、躱せない。思考はともかく体の動きが追いつかない。首に当たる。お、俺の()()に刀が当たる!)

 

 

 

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