下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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81 出発前に

 

 横幅の広い屋敷のような建物、エルマイナ孤児院。

 アリーダが育った場所であり、魔人のアリエッタが記憶喪失の時に居場所となってくれた。二人にとって数え切れない思い出がある場所。アリエッタにとってもそこは第二の実家と言える。

 

 外で遊ぶ子供達が「一緒に遊ぼう」と誘って来るが、今日の二人は遊ぶ暇がないので断り、真っ直ぐ院長室へと向かう。また帰って来られるか分からない実家の景色を頭に焼き付けながら。

 

 アリーダは院長室の扉をノックして声を掛ける。

 

「シスターエル。俺だ、アリーダだ。入っていいか?」

 

「アリーダ? どうぞ」

 

 許可を得たアリーダ達は扉を開けて中に入る。

 部屋には椅子に腰掛けた老婆、エルだけが居た。

 

 壁には子供達が描いた絵が貼られていた。記憶にはないがアリーダも描いていたらしく、特徴だけは捉えたエルの似顔絵を見つける。記憶になくてもそれを見ると心が温かくなっていく。

 

「ただいま」

「あら、アリエッタも居たのね。久し振り。おかえりなさい」

 

 アリエッタは何も喋らず会釈する。

 

「今日からのんびり過ごせるの?」

 

「いや、また長く帰れねえ。実は急ぎで帝国へ行くことになってな。いつ帰れるかは分からねえんだ。ごめん」

 

「私もです」

 

「……そう」

 

 死ぬかもしれない危険な用事だと察したエルは一瞬残念そうな表情になる。彼女は用事の内容を訊こうとせず、少しの間を置いて微笑した。暗い話を好まないからか、それともアリーダ達の心を気遣って雰囲気だけでも明るくしようとしたのか。その微笑にどんな理由があるのかは分からない。

 

「アリエッタはようやく故郷へ帰ることが出来るのね」

 

「はい。今まで、私を家族と扱ってくれてありがとうございました。帝国へ帰っても、こちらに来られる日は顔を出します。この場所は……私の、第二の家ですから」

 

「そう言ってくれて嬉しいわ」

 

 この会話でアリーダは初めてアリエッタが帰る意味に気付く。

 元々アリエッタの目的は帝国に帰り、戦争を起こそうと企むムーランを止めることだった。その目的を終えたら彼女はどうするのか。当然実家である城へ戻り、穏やかに過ごすのだろう。他国でギルドの仕事なんて皇女は出来ない。

 

 別れを考えないようにしていたアリーダは、別れの時が近付いたせいで気付いてしまう。せっかくSランクパーティーにまで上がれたのにメンバーが欠けてしまう。ずっと四人での活動は出来ないのだ。気付いてしまったアリーダは胸が痛くなる。

 

「アリーダさん。私の挨拶は終わりました。先に行きます」

 

「えっ、あ、ああ。分かった」

 

 院長室を出る時、アリエッタの目は潤んでいた。

 涙が溢れそうな彼女にアリーダは何も声を掛けられなかった。

 黙っていたアリーダにエルが声を掛ける。

 

「あの子が来てからまだ半年も経っていないなんて、信じられないわね。会いに来るとは言っていたけど寂しくなるわ。あなたも寂しいでしょう? 兄妹のようだったから」

 

「……ああ、寂しい」

 

 別れるのは決まったこと、運命だ。

 アリーダが何をしても覆らない。

 唯一出来ることといえば胸の痛みに耐え続けることだけ。

 

「シスターエル、俺は良い仲間に恵まれたよ。タリカンのパーティーを追放された日は仲間なんていらねえと思っていたんだけどよ。あの日の俺に言ってやりたいね。別れるのが辛く寂しい、ずっと傍に居てほしいと思える仲間にお前は会えるって」

 

「そんなに寂しいなら、あの子の傍に居られる時間を一秒でも長く大切にしないとね。これから急ぎの用事があるんでしょう? 私への挨拶は終わったのだし出発しなさい。私とのお喋りはいつでも出来ることでしょう?」

 

「ああ、そうだな。……でも出発前に一つ確認してえ」

 

 帝国へ行く前に必ず知っておきたいことがある。

 アリーダは魔人だとエルは知っていたのか、それとも知らずに孤児院で育てたのか。

 

「俺が魔人だって、知ってた?」

 

 微かな笑みを消したエルは頷く。

 

「知っていたのに育ててくれたのか。ありがとう」

 

 魔人は王国の人間にとって火種。厄介者でしかない。

 エルが差別しないことはアリエッタへの態度で分かっているが、魔人の子供を育てるのはエルにもリスクある行為。育ててくれと頼まれても引き受ける人間はとても少ないだろう。アリーダの想像以上の苦労があることは確実だ。感謝の言葉が自然と口から出る。

 

「親のことは気になる?」

 

 口振りからしてエルはアリーダの本当の親を知っている。

 父親か、母親か、両方か。事情があってエルは育児を頼まれたのかもしれない。だがアリーダにとって事情はどうでもいい。血の繋がった魔人が今も生きているとして、会いたいなんて気持ちは微塵もないのだ。

 

「この孤児院で育った奴にとって親はシスターエル、アンタしか居ねえさ」

 

「そう。あなたの気持ちは分かったけど、一応伝えておくわ。あなたの父親の名前はハントス。どこに居て、何をしているのかは分からない。おそらく生きているでしょう。母親のミナディアは残念ながら死んでいるわ。私が看取ったからね」

 

「礼は言わねえぞ。知りたいなんて言ってねえんだから」

 

「ええ。私が勝手に教えただけね。でも、どうか忘れないで」

 

「……なるべく覚えとくよ」

 

 アリーダは身を翻して入口の扉へと歩いて行く。

 

「じゃあ、俺は行く。帰ったらお喋りに付き合ってくれよ」

 

「ええ。帰りを待っているわ」

 

 アリーダは微かに笑いながら部屋を出た。

 きっと帝国でも様々な厄介事が起こる。

 会話のネタには困らないだろう。

 

 挨拶を終えたアリーダは仲間と合流し、帝国へと旅立った。

 

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