下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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85 揃って牢屋行き

 

 帝国関所前のギルド拠点にて異変が起きた。

 魔人との戦いのために、戦力となる人間はテント内で休憩している。だから彼等は知らないことだが、ギルド拠点の一部の地面にいつの間にか、綺麗な文字が書かれていたのだ。

 

 地面には【説得失敗。城に連行】とだけ書かれている。

 異変を知ったイーリス、ジャスミン、アンドリューズ、キャリーは文字を凝視していた。いつ書かれたのか謎な文章は、帝国軍拠点へ向かった仲間達からのメッセージだとすぐに分かる。

 

「間違いない。アリーダ達からのメッセージだ。しかしどうやって書いたのか」

 

「おそらく精霊談術(スピリット・オブ・クンベルサ)だな。土の微精霊の協力を得て書かせたのだろう。説得は失敗したうえ、帝国軍に捕まってしまったようだ。状況はかなり悪い。どうしましょうかキャリー様」

 

 アンドリューズが外見少女なギルドマスターに問う。

 

「関所は私達ギルドのメンバーが死守する。アンドリューズはイーリス、ジャスミンを連れて仲間の救出を。戦争を阻止出来るかもしれないのはアリエッタのみ。必ず無事に救出すること……にゃん」

 

「了解。では早速向かいましょう」

 

 イーリス達は仲間救出のために帝国城へ向かう。

 城の場所は知らないので、正体を隠しながら情報を集めて行くことにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 黒と灰色の暗い城、帝国城。

 地味で薄気味悪い城の地下には多くの牢屋がある。

 一度入れば鉄格子と金属製の扉のせいで出ることは叶わず、死刑執行まで閉じ込められてしまう。罪人が何人も入れられているその地下牢に、今日も新たな住人が案内されていた。

 

「さあ、さっさと入れ!」

 

 軍服姿のゼラが罪人として連れて来た者達へと大声を出す。

 罪人のアリーダ、セイリットは帝国を陥れるため王国に協力し、皇女であるアリエッタを利用した不届き者……ということになっている。そんな二人を庇うアリエッタも頭を冷やせと言われ、同じ牢屋に案内される。

 

 抵抗しても無駄だ。傍にはゼラの他に、城の警備担当だった騎士が二名も居る。全員がかなりの実力者。味方と敵で人数は同じでも戦闘スタイルが違う。アリーダ側は遠距離戦闘に有利なメンバーだ。敵に近すぎる状況で暴れても素早く制圧されるのが目に見えている。

 アリーダ達は仕方なく案内された牢屋へ入っていく。

 

「しばらくそこで頭を冷やせ。俺は人間共を皆殺しにしてっ!?」

 

 ゼラが扉を閉めようとした時、背後から蹴り飛ばされて彼も牢屋に入ってしまう。彼が床を転がった間に騎士二名が扉を閉めた。さらにガチャリと施錠の音が響く。冗談では済まない事態で戸惑いと怒りが彼を襲う。

 

「なっ、何の真似だ! ふざけているのか!?」

 

 慌てたゼラは鉄格子を掴み、通路に立つ騎士二人に叫ぶ。

 

「ふざけていません。予定通りですよ、ゼラ様」

 

「予定通りだと? 何を言って……!」

 

 騎士二人はどこかへ去って行く。

 ゼラは「待てお前達!」と叫ぶが、怒声は地下に虚しく響くだけ。

 

「ゼラさんよ、どうやらお互い罠に嵌められたらしいな」

 

 石床に座り込むアリーダにゼラが視線を向ける。

 

「罠、だと?」

 

「もう分かるだろ? アンタの妹の話を思い出せよ」

 

 アリエッタの話が真実なら黒幕は一人。

 

「……まさか、ムーラン」

 

「そういうこと。ムーランにとっちゃアンタも邪魔者らしい」

 

「俺は、騙されていたのか」

 

 ゼラはようやく本当の敵に気付く。

 黒幕は王国なんて遠い場所ではなく、ずっとゼラの傍に居た。それに気付かず、仕立て上げられた偽りの敵を憎むばかりで、何一つ真相が見えていなかった。もしもアリエッタの話を信じていたら、無様に牢屋へ入れられることはなかっただろう。

 

 真の敵を信じ、身内を疑ったことを深く後悔する。

 

「アリエッタ。それにアリーダとセイリットだったな。今更遅いがお前達を信じなかったことを詫びよう。すまない。俺がお前達を信じていれば、今頃は真の敵を倒していたというのに」

 

「過ぎたことです、お兄様」

 

「あの時ああしていれば、こうしていればと妄想したって意味ねえさ。今現状を打ち破ることに意味がある。とりあえず牢屋を脱出しようぜ。アリエッタ、魔法で扉か鉄格子を破壊してくれ」

 

「そうか。高威力の魔法なら壊せるかも」

 

 火属性の上級魔法なら高火力で鉄を溶かせる。融解出来ずとも、高温で柔らかくなった鉄を叩けば形状が変わるかもしれない。鉄格子の隙間を三倍程に広げられれば脱出は可能だ。

 早速アリエッタが魔法を使おうとするがゼラに止められる。

 

「止めておけ。やるだけ無駄だ」

 

「何だあ? 出たくねえのか?」

 

「違う。この地下牢の中で魔法は使えない。特殊な素材で精霊との繋がりを絶っているからな。微精霊も入れない。精霊が居なければ魔法は使えないだろう?」

 

「そんなっ、知りませんでした」

 

「おいおいマジかよ。そういや微精霊の声が聞こえねえや」

 

 人が持つ魔力を精霊に与え、特定の魔法名を口に出すことで初めて魔法が成功する。下級魔法は微精霊に、中級以上の魔法は強い力を持つ精霊と契約して魔力を分け与える。ゼラの言う通り精霊の居ない地下牢で魔法は使えない。

 

 地下牢からの脱出方法は物理攻撃のみ。しかし鉄格子や金属製の扉はとても硬く、生半可な力では破壊出来ない。今のメンバーで一番力が強いゼラでも破壊は不可能。アリーダ達だけでは牢屋から出られない。

 

「牢屋で一生を過ごすのは嫌ですね。まあ、助けが来ることを祈りますか。既に状況は知らせていますし誰かしら来るでしょう。ジャスミンさんあたりなら扉を破ってくれそうです」

 

「そうだな。仲間が無事ここまで辿り着くのを祈るしかねえ」

 

「知らせた? どうやって知らせたんだ」

 

「俺とセイリットの精霊談術(スピリット・オブ・クンベルサ)さ。精霊に協力してもらって、関所前の地面に文字を描いてもらった。俺達の仲間は既に気付いているはずだ。助けに来てくれるだろ」

 

「便利な力だな。色々役立ちそうだ」

 

 アリーダ達は話すことがなくなって自然と静かになった。

 その静寂のタイミングを待っていたかのように何者かが声を出す。

 

「――お前達、ムーランと戦うつもりか?」

 

「だ、誰だ!?」

「この声は……もしかして」

 

 元気とは言えない掠れた低い声。

 アリエッタとゼラは聞き覚えがあるようだった。

 

「まさか父上ですか!?」

 

「そうだ。余はアレクセイ・ゴルゴート。隣の牢屋に入れられている。余の子供の声が聞こえた時は幻聴かと思ったぞ。お前達が元気そうで良かった」

 

「なっ、皇帝が隣の牢屋だとおおお!? いったいなぜ!?」

 

 魔人達が戦争を止めるとしたら自国のトップ、皇族からの言葉だろう。実際に王国では国王グンダムの言葉で争いが止まっている。立場の強さからアリエッタだけでは説得が厳しいので、最終的には皇帝から説得してもらうつもりだった。しかし、まさか皇帝が投獄されているとはアリーダも予想していない。

 

「父上。アリエッタが居ることに驚かないのですか?」

 

 皇帝が投獄されていることの衝撃が大きすぎて、細かい疑問点に気付けたのはゼラ一人だ。

 

「……アリエッタの生存は、ムーランから聞かされていてな。知っていたのだ。まあ、息子と娘揃って牢屋に入れられたのは驚いたがな。そちらには他に誰が居るか教えてもらえるか」

 

「精霊研究家のセイリットです」

 

「確かムーランのもとで働いていなかったか?」

 

「裏切りました。自分の命を優先した結果です。結局今も命は危険に晒されていますけどね。怖いから逃げ出したいくらいですよ」

 

 セイリットは苦笑しながら呟く。

 

「俺は王国から来たアリーダ・ヴェルト。こっちに居るのは俺達四人だけさ。アレクセイ様よ、アンタ、アリエッタの生存をムーランから聞いていたって言ったよな。状況はどれ程把握している?」

 

「奴の野望と作戦。王国での争い。帝国軍の進軍を王国のギルドが防いでいる。これくらいだな。全て奴が語ってくれた情報だが」

 

「説明の手間が省けたな。俺達が持つ情報と変わらなそうだ。ムーランの作戦ってのがどんなか聞いていいか? 俺達の知る作戦と同じか一応確認しておきたい」

 

 アレクセイが語った作戦内容はやはりアリーダが既知なもの。

 帝国ではムーランが、王国ではサーランが、皇族王族の一人を始末して他国の仕業と思わせる。怒りと憎しみを一気に爆発させた両国が戦争を始める。何も新しい情報はない。

 

 改めて聞くとアリーダは作戦が複雑すぎる気がした。

 国同士の戦争なんて大きな目的で、作戦が複雑化してしまうのは仕方ない。しかし工程が多くなればなる程に失敗のリスクが高まる。どこかで歯車がズレてしまい、理想の結果になる可能性は低い。アリーダなら作戦を一つだけではなく、失敗してもいいように複数用意する。策略家としては基本中の基本だ。

 

 今まで戦争を止めるのに必死で考えたこともなかったが、敵には他の作戦があるとアリーダは確信する。何かは分からない。それでも、厄介な何かがあることだけは分かる。

 

「……新情報なし。後は救出待ちか」

 

 事情を知るならアレクセイもムーランの目的阻止に協力してくれるだろう。情報交換は終わったので本当に話すことがなくなり、静寂な時間が過ぎていく。

 

「お父様、一つ確認したいことが」

 

 しばらくの沈黙の後、アリエッタが口を開く。

 

「なんだ」

 

「お父様は人間のことをどう思っているのでしょうか。お兄様も」

 

「俺もか? 少し前までは憎かったが、真実を知った今となってはどうとも思わないな。好きでも嫌いでもない。父上はどうです?」

 

 妹を利用された、殺されたという勘違いから憎んでいたゼラは、真実を知った今憎しみが綺麗に消えたらしい。憎しみさえなければ興味もないというわけだ。

 ゼラの回答後、アレクセイは少し長めに考えてから答える。

 

「あまり、良い印象は抱いていない。なぜそのようなことを訊くアリエッタ。随分と人間のことを気にしているようだな」

 

「私は、魔人と人間が仲良く居られる国にしたい。ムーランの一件が全て片付いたら、王国に住む人間との交流を考えてくれませんか。判断が難しいのであれば、答えるのは今でなくても構いません」

 

 アリーダ達は驚く。既にアリエッタは戦いの後を考えている。

 

「まさか、アリエッタがそんなことを言うとは。最近王国に住んでいたからか? 先程の質問を返そう。お前は人間のことをどう思っている? 特定の個人ではなく人間全体のことだぞ」

 

「最初は人間のことをよく知らないまま恐れていました。しかし、王国の孤児院で暮らすうちに、人間と深く関わるうちに分かったのです。種族は違っても、心は同じだと。恐れていたのは何も知らなかったからです。未知の存在には少なからず恐怖を感じるもの。ですから、帝国の魔人達が人間を深く知る機会を与えてほしいと思っています」

 

「……そこまで考えていたのか」

 

 もしも関わるのが当たり前になり、コエグジ村のように二種族が共に暮らせれば、互いを差別する者は少なくなる。幼少期から共に居れば他種族への抵抗も減るだろう。決して消えはしないが、今よりは減る。

 

「王国や人間とは不干渉が良いと思っていたが、アリエッタの意見にも一理ある。娘が初めてしてきた提案だ、前向きに検討しよう。今はムーランのせいで民が人間への怒りを抱いているが、誤解を解き、時が経てば怒りも消える。それまでに具体的な内容を考えなければな」

 

 アレクセイの考えを聞いたアリエッタは笑顔になる。

 

「ありがとうございます!」

 

「しかし何をするにしても、まずは牢から出なければならん。ムーランの一件が解決したらまた話し合おう。ゼラも構わないな」

 

「不満はありません」

 

 人間と魔人が良好な関係を築ける未来を目指し、意見は纏まった。

 

「タイミングよく話が纏まったみてえだな。迎えが来たぜ」

 

 遠くから小さな足音が聞こえてくる。地下牢は音が響きやすい構造になっているので接近も分かりやすい。足音はどんどん大きくなっていく。

 

「これは……足音か?」

 

「――アリーダああ! アリエッタああ! セイリットおお! 居るなら返事しろおおお! 助けに来たぞおお!」

 

「おう俺達はここに居るぜええ!」

 

 地下牢に強く響いたイーリスの声を聞き、アリーダが叫ぶ。

 居場所を特定出来たのか短時間で仲間が牢屋の前に来た。

 

 メンバーはイーリス、ジャスミン、アンドリューズの三人。アリーダの予想通りだ。元々帝国軍の進行を止めていたギルドの面々は拠点を離れられない。自由に動けるのは最近来たアリーダの仲間のみなのだから。

 

「お、居た居た」

 

「良かった。怪我はなさそうだな」

 

「城内の敵はあらかた倒しているが脱出は急げ。既に我々が侵入したことはムーランにバレている。アリーダ達を助ける目的もな。早急にこれからやることを決めるのだ」

 

「これからやること……?」

 

 アンドリューズの言葉にアリーダは笑みを浮かべる。

 

「そんなもんとっくに決まってんだろ」

 

「はいはい、みんな扉から離れて離れて」

 

 ジャスミンが「せい!」と強力な蹴りを繰り出し、金属製の扉を蹴り飛ばした。鉄格子からは外れた扉は靴の形で凹み、轟音と共に壁に衝突する。目を疑う光景にゼラが「は?」と間の抜けた顔をしていた。

 

 道を阻む扉は消えたのでアリーダは牢屋から出る。

 

「ムーランの野郎をぶっ潰しに行く! いいよなオッサン!」

 

「倒すべき敵が城内に居る。今が好機かもしれんな」

 

「ゼラさんよ、アンタも戦うだろ?」

 

「……あ、ああ当然だ。騙された礼をしなければ」

 

 全員が出た後、アリーダが隣の牢屋を見ながら話す。

 

「ジャスミン、隣の牢もぶっ壊してくれ」

 

「なんでさ」

 

「アリエッタの父親、皇帝様が居るからだよ」

 

「なるほど。そりゃあ解放してあげなきゃね!」

 

 先程同様に硬い扉が蹴り外され、轟音を立てて倒れる。

 隣の牢屋から一人の男が出て来た。炎のような色の肌に赤い瞳、頭部から伸びた大きな角。ゼラそっくりな特徴を持つ彼こそ皇帝アレクセイ。しかし、痩せ細っている姿は皇帝としての威厳が足りないように見える。

 

「どうだい皇帝様。俺達と殴り込むか?」

 

「行きたい気持ちはあるが、長く監禁されていたせいで力が出ない。会話は出来ても戦闘では荷物になってしまう。申し訳ないがお前達に全てを託す。ムーランを捕縛、あるいは殺害してくれ」

 

「了解」

 

 皇帝直々の頼みにアリーダ達は頷く。

 

「誰か、皇帝様を外へ連れ出してくれ」

 

「ならその役は私が請け負いましょう」

 

 真っ先に声を上げたのはセイリットだ。

 絶対逃げたいからだとアリーダ達は察して笑みを浮かべる。

 

「念の為、護衛として私も同行しよう」

 

 セイリットだけでは戦力が不安だが、アンドリューズが付いて行けば安心出来る。これでムーランと戦うのは『アリーダスペシャル(仮)』とゼラの五人。戦力は充分だ。

 

「よし、他の奴は俺とラスボス潰しに行こうぜ!」

 

 気合いたっぷりなアリーダ達は地下から脱出した。

 

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