下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~   作:結城彼方

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最終話 下級魔法しか使えない魔法使い

 

 突然だが一年前に時は遡る。

 帝国で代々強い魔法使いを育成してきたヤーゼオラ家。その二女に生まれたフィオンは魔法適性が生命属性だけであり、精霊と契約するための召喚に何度も失敗する落ちこぼれだった。

 

 いつまで経っても中級以上の魔法習得に必要な精霊召喚が出来ず、魔法学園でも実技最下位。十八歳を迎えた彼女は学園を卒業。努力の成果を証明出来ず、一家の恥としてヤーゼオラ家を追放されてしまう。

 

「今日は人生最悪の日」

 

 緑の少ない丘で寝転がっていたフィオンは立ち上がる。

 丘の上に魔法陣を描き、もはや日課の精霊召喚儀式を始める。

 

「異界に住む精霊よ。今こそ扉を繋げたまえ。汝の協力には魔力を与える。報酬の分だけ我の願いに応えたまえ。世界を飛び出し、我と共に歩まんとする勇気ある者よ。我の呼び出しに応えたまえ」

 

 魔法陣が白く光り始めた。

 いつもはこの後、何も起こらずに光がおさまって失敗する。

 

「え?」

 

 今日はイレギュラーが起きた。

 魔法陣から透明な手が出たのだ。

 十年もの間何も起きなかったくせに、人生最悪と言える日に精霊が姿を現そうとしている。いつしか期待を止めた魔法陣から透明な男が飛び出した。しばらく唖然としていたフィオンだが、遅れて感じた嬉しさに笑みを零す。

 

「女、貴様が我を呼び寄せたのか」

 

 腕組みする透明な男は威厳のある声を出す。

 高圧的な態度にフィオンは萎縮してしまう。

 

「あ、えっと、そ、そうです」

 

「では、我と契約すると言うのだな?」

 

「は、はい。お願いします。し、してくれますよね?」

 

 透明な男は「ぷっ」と笑い、次第に笑い声が大きくなる。

 

「あーはっはっはっはっは! 悪い悪い、緊張させちまったよなあ。ちょっと偉そうなフリしたら面白いくらいビビっちまって。あー、笑った笑った」

 

 遊ばれていた。フィオンは羞恥と怒りで顔を赤くして、軽い態度の男を睨む。しかし契約が成功すればパートナーとなる存在。嫌われるのは困るので怒りを抑え、平常心でいるよう心掛ける。

 

「あなたは精霊だよね」

 

「おう、名前はアリーダ・ヴェルト。実は正確には違うんだが、契約したら魔法を使えるようにはしてやれるぜ。運が良かったなお前。俺はレアだぜ? なんせ精霊界でも一目置かれる程に凄いんだ。他の精霊とはひと味違う」

 

 フィオンは中位の精霊を呼ぶつもりで召喚儀式を(おこな)っていたが、上位の精霊を呼び出せたのかもと思う。中級魔法どころか上級魔法も一気に使えるのを想像したフィオンは、飛び跳ね回りたい程に嬉しかった。

 

「上位の精霊なの!? 私、上級魔法を使えるようになる!?」

 

「いやそれは無理」

 

「……え」

 

 あっさり否定されて嬉しさが吹き飛ぶ。

 

「俺は全属性の魔法適性を持つ特別な存在。ただ、俺と契約しても上級魔法どころか、中級魔法も使えねえよ。俺は全属性の適性を与えることしか出来ねえ。つまりお前は、下級魔法しか使えない魔法使いってわけだな」

 

 下級魔法しか使えないから家を追放されたのに、精霊と契約しても何一つ変わらない。今まで召喚儀式で精霊は現れなかった。今日は偶然アリーダが現れてくれたが、次の儀式をやっても他の精霊が現れる未来が見えない。

 悲しさで心が沈むフィオンは地面に座り込む。

 

「……あーあ、本当に私って落ちこぼれなんだ」

 

「へっ、お前は何も分かっちゃいねえな。確かに上級魔法を使える奴は凄い。だがよ、魔法が下級しか使えなくても世界救った奴だって居るんだぜ。なろうと思えば凄い魔法使いにもなれる!」

 

「信じられない。ていうかさあ、もう凄い魔法使いとかどうでもよくなっちゃったよ。考えてみたら、今更家族からの評価が逆転したところで嬉しくないし、家に戻りたいわけでもないし。私って何がしたいのかなあ? 自分のことなのに分かんなーい」

 

 空を見上げる。気付けば悲しさは消えていた。

 魔法を初めて使えた時、家族に褒めてもらえたのが嬉しくて、凄い魔法使いになりたいと思った。今では自分を追い出した家族に褒められても嬉しくない。おそらく怒りしか湧かない。

 

 目標を失った今、何をすればいいのか分からなくなる。

 趣味もなく、友人も居らず、使える魔法も中途半端な下級止まり。もはや生きる理由すらない気がして、自殺という言葉が脳裏を過る。自分が死んでも誰も悲しまないならそれも良いか……そう考えた時。

 

「なら、やりたいこと探しの旅でもしようぜ。自分探しの旅と言ってもいい」

 

 初めて召喚出来た精霊が目的を与えてくれた。

 

「……何も動かないよりは歩いた方がいいかもね。旅、行くかあ」

 

「じゃあまず王国行こうぜ王国。寄ってほしい場所があるんだよ」

 

 行きたい場所も、生きたい理由も、何もない空っぽな魔人。

 しかし空っぽなままでいいとは思わない。フィオンは自分だけの中身を見つけたいのだ。目の前のお喋りなパートナーと共に、空虚な器を満たす何かを探しに行くのは良い考えに思える。

 こうして、下級魔法しか使えない魔法使いの旅は始まった。

 

 

 














 『下級魔法しか使えない魔法使い』完


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