[Ⅰ]
最後の小部屋に入った俺達は、祭壇の前で立ち塞がる炎の魔物に近づいた。
レッドソウル……ゲームだとコイツは少々、厄介な魔物だった。
なぜなら、基本的に魔法が効かないからである。
ファイアやブリザド、そしてサンダーも、全て吸収してしまうのである。
その為、物理攻撃で倒す以外、方法がないのだ。
恐らく、ここにいるコイツもそれに準じたモノに違いない。
今まで俺が倒してきた魔物共は、既にそういう傾向があるからだ。
(さて……どうすっかな。コイツはゲームだと、直接シバかないといけない魔物だった筈。仕方ない……ゴードンはあんま頼りにならんから、俺がやるしかないか。俺も幾つかの魔法を契約して、念力の力はアップしてるし)
そう……あれから黒魔法も試してみたが、俺は全然、魔法が使えないのである。
その代わり、魔法を契約する度に、念力みたいな力が徐々に強化されてゆくのだ。
わけがわからない現象だが、便利な力には変わりない。
とはいえ、使うと異常なほど疲れるので、多用できないのが痛いところであった。
たぶん、コレがMP消費というやつなのだろう。
まぁそれはさておき、後ろでオドオドしているゴードンに俺は指示を出した。
「おい、第二王子。チビリそうになってるところ悪いが、攻撃魔法をコイツに使うなよ」
「え? ど、どうしてだい? アイツには氷の魔法が効きそうなんだが……」
「見た目に惑わされるな。コイツには恐らく、魔法が通じない。アンタは癒しの魔法と分身の魔法で、後方支援に徹してくれ」
「ま、ままま、魔法が通じないだってぇ!」
ゴードンはひきつけを起こすかのように、大きく仰け反り、後ずさった。
嫌な予感がしたのは言うまでもない。
「いいから、言われた通りにしろ!」
「わわわ、わかったよ」
そんなやり取りをした後、俺達は少しづつ、奴に近づいた。
だが近づくにつれ、燃え盛る炎の中心に、黒い球体があるのを俺の目は捉えたのである。
もしかすると、コレがコイツの心臓部なのかもしれない。
まずは弓でココを狙って様子を見てみよう。
程なくして、俺達は奴の付近へと差し掛かる。
するとそこで異変が現れたのであった。
なんと、炎に目と口が現れ、唸り声を上げると共に、奇妙な言葉を発したからだ。
「グォォォ! ワレハ……ココヲシュゴスル……ホノオノセイレイ……ヒキカエスガヨイ!」
番人っぽい口振りである。
「へぇ、引き返さなければ?」
「ナラバ、ヤケシヌガイイ!」
炎は一気に大きく燃え上がり、俺達に向かい、襲い掛かってきたのであった。
この突然の豹変に、俺達は炎の魔法を喰らってしまった。
だが、素早く避けた事もあり、俺はそこまでダメージはない。
しかし、ゴードンはそういうわけにはいかなかった。
「ギャァァ……アツイアツイィィ……もう嫌だぁァァ」
炎が直撃したのだった。
だが、魔法に対して防御を上げる装備をさせたので、そこまで酷い火傷は負ってない筈だ。
ちなみにゴードンの装備は、槍・銀の胸当て・黄金の盾で、俺はミシディルの剣と銀の胸当て、それと、アダマンタイマイから手に入れたダイヤシールド? かどうかわからんが、半透明でキラキラとした水晶の盾、それと背中にある炎の弓である。
銀の胸当ては、ここに来る途中、夢遊病住民の街であるバフスクへ寄った際、購入したシロモノだ。
ゲームでは序盤にお世話になった、軽くて優秀な防具である。
見た目は、心臓あたりまでを覆う、薄くて軽い銀色の胸当てだ。
「ゴードン、すぐに癒しの魔法で回復しろ。また次が来るぞ!」
「ヒィィ……わわ、わかったよ」
ゴードンはかなり苦しそうだったが、なんとか気力を振り絞り、自分に癒しの魔法を掛けていた。
とりあえず、コレで凌いで倒すしかない。
さて、反撃に移るとしよう。
俺はまず弓に持ち替え、奴の中心にある黒い球体を狙い、矢を射った。
次の瞬間、矢は球体に命中する。
するとその直後、炎の顔は苦しそうに歪み、呻き声を上げたのであった。
ゲームだと、中盤以降の武器である炎の弓は、攻撃力がかなりある。
なので、相当なダメージを負ったに違いない。
「グギィィィィ……キサマァァァ……オノレ!」
奴は歪んだ表情のまま、また広範囲に炎を放ってきた。
だが今度の炎は避けれそうにない。直撃である。
「クッ……不味い」
「も、もうもう嫌だぁァァ!」
俺とゴードンに強力な炎が襲い掛かる。
咄嗟にダイヤシールドで防いでみたが、結構キツい火力であった。
皮膚が焼け付くような感じで、癒しの魔法で治療しないと、全身火傷を負いそうである。
俺はそこでゴードンに指示を出そうとした。が、しかし……ゴードンは部屋の隅で、亀のように身体を縮こませ、必死に自分へ癒しの魔法を掛け続けていたのであった。
とても俺の回復を頼めそうにない感じだ。
もうゴードンは、完全に戦意喪失状態である。
(こりゃあゴードンの奴、アテに出来んわ。チッ……しゃあない。さっき矢を射った感じだと、あの黒い球体が弱点なのは間違いない。ならば、念力を利用して身体能力を上げ、一気にカタをつけたほうが良さそうだ。炎の魔法に突っ込んで、奴の懐に潜り込んでやろうじゃないか! 踏み込むべきところで、踏み込まねば……勝ちはない!)
俺は覚悟を決め、ミシディルの剣を抜くと、脇に構えながら、奴に突進した。
そして、俺はそこで念動力の力を上乗せして、居合の如く、素早い斬撃を奴に繰り出したのだ。
その刹那、球体は豆腐の如くスパッと両断される。
魔物の顔がムンクの叫びのように大きく歪んだ。
「グギャァァ……アァァァァァ! カラダガキエテユクゥゥゥ!」
その直後、レッドソウルは断末魔のような叫びと共に、消え去ったのであった。
どうやら、これで終わりのようだ。
最後はかなり火傷を負ったが、これで良しとしよう。
俺はゴードンに振り返った。
ゴードンは驚きの眼差しで俺を見ている。
「君……一体、何者だ。今、何をしたんだ? 魔物を斬ったのか? み、見えなかったよ。凄まじい速さの剣捌きだった……」
パニクってたが、意外にも戦いは見ていたようだ。
「なんだ、見てたのか。ビビッて部屋の隅で漏らしてたのかと思ったよ。まぁそれより、癒しの魔法を頼むわ。奴の魔法を受けたんでな。最後にそれくらいはしてくれよ、ゴードン」
「あ、ああ、わかったよ」
ゴードンの癒しの光が俺に降り注ぐ。
それは心地良い光のシャワーであった。
火傷を負った皮膚から痛みと赤みが消えてゆく。
素晴らしい治癒効果であった。
それと同時に、羨ましい気持ちになったのは言うまでもない。
やはり、自分には出来ない芸当だったからだ。
「ふぅ……助かったよ。俺はなぜか、魔法を習得出来ないんでな」
「え? そうなのかい? 意外だね……」
「意外? なぜだ?」
「普通は契約さえすれば、誰でも使えると思うんだよ。私もそこまで魔法に詳しいわけではないけど……」
ミンウも首を捻っていたので、俺だけの現象なのかもしれない。
俺はこの世界の住民じゃないから、恐らく、ここのシステム通りにいかないんだろう。
「誰でも、ね……まぁいい。それじゃあ、あの箱を開けるぞ」
「あ、ああ」
傷が回復したところで、俺とゴードンは宗教的な祭壇の上にある金色の箱を開いた。
するとそこには、赤い杖のようなアイテムが納められていたのである。
それは炎のように赤い杖で、先端には金色の厳かな装飾が施され、なんとなく、オリンピック聖火リレーのトーチみたいなアイテムであった。
ゴードンはそれを見るやいなや、大きな声を上げた。
「カザマさん、それだ! それがエギルの松明だよ! さぁ一刻も早く、コレに太陽の炎を移して、アルテアに戻ろう! 私はなるべく早く、ここから出たいんだ! ヨカッタァ、見つかったよ。あるかどうか不安だったんだ。さぁ早く帰ろう。すぐ帰ろう。やれ帰ろう。もう我慢の限界なんだよ! こんな魔物だらけの城、自分の家でも嫌なんだよ!」
ゴードンは興奮した目で、そうまくし立て、エギルの松明をガン見していた。
「おいおい、落ち着け。どうしたんだ急に」
「落ち着いてられるか! 早く一階に行くんだよ! 何してんだよ! 早く帰るんだよ! とっとと帰んだよ! 帰るんだってばよ! もう嫌なんだよ! 森のチョコボで帰るんだよぉォォ! ウガァァァ!」
ゴードンの目は血走っていた。
目的のモノが見つかったので、パニックを起こしてるようだ。
(コイツぁやべぇ……目が完全にイってやがる。緊張の糸が切れて、おかしな心理状態になってるに違いない。とりあえず、正気に戻そう)
俺は問答無用で、強烈なビンタを一発お見舞いしてやった。
「とりあえず……闘魂注入ゥゥゥゥ!」
「ドヴェェェ!」
ゴードンは妙な奇声と共に、勢いよく床に倒れ込んだ。
すると程なくして、ゴードンはゆっくりと起き上がり、ポカンとしながら周囲をキョロキョロと見回したのである。
そこで俺と目が合った。
「あれ……ここはどこだい? なんか懐かしい感じがするぞ。あ、貴方は……そうだ、カザマさんだね。知っているよ、スコット兄さんを助けてくれた人だ。今日はどうしたんだい?」
闘魂注入によって、記憶も少し飛んでしまったようだ。
まぁとりあえず、コレで良しとしよう。
その後、俺達は太陽の炎を回収し、この城を後にしたのであった。