[Ⅰ]
パラメキア兵に扮した俺とゴードンは、他の兵士達と共に、台車に乗った木箱をゴロゴロと押してゆく。
荷物の大きさは軽自動車くらいあるので、かなり重かったのは言うまでもない。
他のパラメキア兵達も重いのか、息を止めるように気張りながら、かなり力を入れて押しているところだ。
途中、エレベーターみたいな装置で上がったりもしたが、機関室にはまだ着かないようである。
ゴードンもキツいのか、「ヒューヒュー」と、喘鳴のような声を漏らしながら押していた。
その内、酸欠で倒れないか、心配なところである。
かなり過酷な建造現場であった。
右を見れば、洗脳されてこき使われる住民。左を見れば、上官にこき使われてる下級兵士。ホント、大戦艦の建造現場は地獄だぜ! ってな感じだ。
(まだか、機関室は……しかし、糞重い木箱だな。中に一体何が入ってんだよ。つか、普通、機関室は下じゃないのか。なんで上なんだよ。ン?)
などと考えていたその時だった。
俺達は、壁や天井に大小様々なパイプが幾つも走る、奇妙なフロアへと辿り着いたのである。
そこは全てがグレーな金属で出来ており、かなり雰囲気の違う空間であった。
またその壁には、計器のような装置が幾つもあったのだ。
「よし、止まれ! ここからが機関室の倉庫だ。お前達はちょっとここで待っていろ。今、上官に報告してくるから」
緑の兵士はそう告げると、足早に奥の階段へと上っていった。
どうやらここが、噂の機関室のようだ。
ようやくである。
俺はゴードンに耳打ちした。
「今の内に休んどけ」
「はぁはぁ……そうするよ」
肩で息をするゴードンは、荷物に寄りかかり、大きく息を吐いた。
慣れない鎧姿でここまで来たので、相当疲れたのだろう。
俺はそこで周囲を見回した。
すると、何かの作業をしている兵士達が至る所にいた。
この近くにも何人かの兵士がおり、今は武具の類を箱に仕舞っているところであった。
気になったので、俺は休憩の合間という事もあり、その作業をしている兵士達へと近付いた。
茶色い鎧を着た兵士達は、忙しそうに、箱から箱へ剣や鎧を収めている。
するとそこで、兵士の1人が俺に気づき、敬礼をしてきたのであった。
「上官殿、ご苦労様でございます。我々は只今、新しい武具が届きましたので、武器庫への保管作業をしているところであります。何か御用でしょうか?」
おう、なかなか軍隊っぽい仕草だ。
ちなみに3等兵達は、2等兵以上の兵士の事を上官と呼んでるみたいである。
それはさておき、こういうのはビクビクすると変に思われる。
俺も堂々とこなすとしよう。
「いや、休憩中で、ただ見ていただけだ。続けたまえ。ちなみに、それはなんという武具だ?」
見たことない剣や鎧が多かったので、訊いてみることにした。
「ハッ! これは昨日、本国から届いた新しい武具です。眠りの剣と巨人の兜、盲目の弓と氷の盾、盗賊の小手と呼ばれるモノだそうです」
おお、こんな所にレアアイテムが!
眠りの剣、超欲しい!
「ほう、眠りの剣とな。して、それはどれなのだ?」
「コレであります」
兵士は一振りの剣を目の前に出してきた。
それは忍び刀のような片刃の直刀であった。
刃渡りは90cmくらいか。かなり長い。
だがシックで美しい剣であった。
鍔にあたる銀色の装飾部分には、紫色の宝石が埋め込まれており、一際目を引いた。
なかなかの一品である。
お宝発見だ。
「眠りの魔法が付加された魔法剣で、この戦艦の高官に配給されるモノだそうです」
「ほう……これは素晴らしい。ありがとう、良いモノ見せてもらったよ。ちなみに……武器庫はどの辺かな?」
「この下であります。」
「そうか、では頑張りたまえ」
「ハッ」
絶対に頂くから待っておれ。
[Ⅱ]
緑色の兵士はその後、何人かの高官と思わしき騎士や魔導師を連れてきた。
そして、これより、開封の議が執り行われるのである。
というわけで、俺とゴードンは、木箱に打ち付けてある釘を抜いているところであった。
こんな事やりたくないが、パラメキア兵に変装しているので、今は我慢である。
とはいえ、どこぞの諜報機関員の気分を味わえるスリリングさが心地いい。
俺はもしかすると、根っからの忍び気質なのかもしれない。
まぁそういう家に育ったので、仕方ない話ではあるが、俺は普通の現代人と、その辺の感覚が違うんだろう。
「えぇい、まだか。早くしろ!」
「しばし、お待ちください。ボーゲン様」
「おい、お前達、急ぐんだ。ボーゲン様とレオ様が待っておられるぞ!」
「ハッ!」
兵士達の作業スピードが上がった。
俺はそこでボーゲンとレオ様とやらをチラッと見た。
ボーゲンは小太りの性格悪そうなオッサンで、特技はパワハラという、あからさまに頭の悪そうな奴であった。
見た目は、黒いナポレオン帽をかぶり、赤いベストに青いボーダー柄のボトムという、ネズミの遊園地にいそうな出で立ちをしている。
顔は不細工で、長い口髭を生やし、しょっちゅう舌打ちしていた。
その見た目の所為か、滑稽な道化師といった感じの男である。
片や、黒い甲冑で全身を包むレオ様という黒騎士は、寡黙で不気味な感じだ。
身体も大きく、185cm以上は優にあるだろう。
ボーゲンと違い、佇まいに隙が全くない騎士であった。
おまけに、角が生えたフルフェイスの黒い兜を被っているので、今なにを考えているのか、全くわからない奴なのである。
それはまるで、遙か彼方の銀河系で暗黒面の力を振りまく、あのお方のような雰囲気であった。
その内、コーホーという無機質な呼吸音と共に、フォ○スグリップで部下を殺しそうである。
(これがボーゲンとレオ様か……なるほどね。力関係はどっちが上かわからんが……注意が必要なのは、間違いなくレオ様の方だろう。コイツが恐らく、ゲームでいうダークナイトに違いない。高貴な感じだし、ウボァーの暗黒卿と呼ばせてもらおう)
まぁそんな事はさておき、俺達は頑張って木箱を開封し、中のモノを露わにした。
すると、中に入っていたのは、燃料タンクのような黒い装置だったのである。
初めて見るパーツであった。
どういう設備か、非常に気になるところだ。
「ボーゲン様にレオ様。これが太陽の炎を調整する弁の完成品です。本国の魔法技術研究所にて、最終の検査も済んでおりますので、すぐに使える状態とのことです。また、かなり高度な魔法技術を使っているらしく、設置は手順通り慎重にとの事でした。如何なさいましょう?」
緑の兵士はコイツ等にそう報告した。
ボーゲンは報告を聞き、満足したのか、ニヤニヤといやらしく笑っている。
「クククッ、ようやく、大事なモノが完成したようだ。これで皇帝によい報告が出来るだろう。いよいよだな、レオ殿……」
レオという黒騎士は頷く。
「この大戦艦の力を見せつければ、しぶとい反乱軍もようやく諦める事だろう」
「クククッ……ああ、そうだとも、レオ殿。これでようやく……我々はフィンに復讐できるというものよ。あの件以降……この私を除け者にし、地位と報償を与えなかったフィン王家や重鎮共を後悔させてやる! 北部連合やアルテアにいるという反乱軍に、空から火の雨を降らす時が来たのだ! フィンの貴族共を根絶やしにしてくれるわ!」
ボーゲンは握り拳を作り、ワナワナと身体を震わせていた。
レオは身動きせず、無言であった。
この様子を見る限り、コイツ等はフィンに対して、只ならぬ怨みがあるのかもしれない。
ゲームでは祖国を裏切った反逆者扱いだったが、それに至った理由が気になるところである。
まぁそれはさておき、まさか俺が運んできたこの荷物が、太陽の炎を調整する重要設備だったとは、灯台下暗しである。
「おい、お前達! 急ぎこの弁の取り付けにかかるのだ! さぁ始めよ!」
「ハッ!」――