[Ⅰ]
俺とゴードンは、ウボァー暗黒卿一味と共に大戦艦を出ると、そのまま地下道の出口へと向かった。
地下道の中は、十数名程の帝国兵が待機しており、物々しい雰囲気となっていた。
帝国兵達は暗黒卿を見るなり、ササッと道を空け、背筋をピンと伸ばし、気をつけの姿勢になった。
そして、そんな兵士達の前を悠々と、暗黒卿と俺達は進んでゆくのである。
進む先には、ボーゲンの姿があった。
「クククッ……レオ殿。反乱軍の若い衆が、こちらに来たようだな。レオ殿の言った通りだ」
「反乱軍共には立場をわからせねばならぬからな。今から来る者達は、反乱軍の若き希望と言われている奴等だそうだ。丁重に出迎えて、絶望させてやろうではないか、ボーゲン将軍よ」
「レオ殿の言う通りだ。奴等の悔しそうな顔が目に浮かぶわ。大戦艦は既に完成している事を見せてやろうぞ」
「うむ」
俺は静かに奴等の会話を聞いていた。
ゲームで語られない舞台裏を見ているような感じであった。
(なるほどね……全て読まれていたのか。それと興味深いこと言ってるな。この話の感じだと……恐らく、アルテアに帝国の密偵がいるんだろう。ま、こういう世の中だし、いても不思議じゃないが……ン?)
ふとそんな事を考えていると、数名の兵士達が下水道の奥から足早に駆けてきた。
兵士達はボーゲンと暗黒卿の前に来ると、そこで敬礼をした。
「ボーゲン様にレオ様、報告です。反乱軍の奴等がもうすぐこちらに来ます。如何なさいましょうか?」
「奴等の事は放っておくがいい。お前達は至急、船に乗り込み、出発に準備に取り掛かるのだ!」
「ハッ!」
暗黒卿はそこで他の兵士達にも振り返った。
「我等を残し、お前達も船に乗り込むがよい! 反乱軍の奴等には、私が直接、挨拶をするつもりだ。さぁ行け!」
「ハッ!」
そして、帝国兵の殆どが大戦艦へと向かったのである。
そんなわけで、今ここにいるのは、暗黒卿一味とボーゲン、そして俺とゴードンだけであった。
なぜこんな事をするのかわからないが、コレは恐らく、コイツの私情も絡んでる気がした。
この暗黒卿がゲームで言うダークナイトなら、フリオニール達と深い縁があるからだ。
だが、俺はそれよりも、気掛かりな事があった。
なぜなら、兵士達を大戦艦に戻したのが解せないからである。
(なぜ兵を戻した? いや、その前に、これだけ兵士がいたにも関わらず、なんで俺達をここまで連れて来たんだ? 必要ない気が……って、まさか……そうだ、間違いない! 今の兵士達のやりとりは……チッ! 俺はどうやら、やらかしちまったかもしれない。調査期間が短い弊害が出たようだ。仕方ない……ここからはプラン変更だ。許せ……ゴードン)
それから程なくして、武装した者達が現れた。
現れたのは、やはりフリオニール達であった。ミンウも一緒だ。
どうやら、セミテの滝ミッションをこなしてきたんだろう。
するとそこで、隠れていた暗黒卿とボーゲンが、彼等の前に姿を現したのである。
「え!? 黒騎士団参謀のレオが、なぜここに……ボーゲンまで……クッ、罠か!」
ミンウが険しい表情でそう呟いた。
「如何にも、私が黒騎士団新参謀のレオだ。フッ……ようやく来たか、反乱軍の身の程知らずが。大戦艦はもう完成したぞ。私が任務を途中で投げ出して、本国に帰ったりなどするものか! 諦めて皇帝陛下に降伏しろ!」
「我々は絶対、お前達には屈しない! お前達の野望はここまでだ! 正義は我々にある!」
フリオニールはそう言って、勇ましく剣を構えた。
もう聞いてるのが恥ずかしくなるくらいの戦隊物のセリフであった。
正義のヒーローである。
「フッ……甘っちょろい奴だ。この世は力がすべて。力無き者は強者にひれ伏すのが運命よ。まぁよい。よく考えておけ。おお、そうだった。お前達に、贈物を返すとしよう」
暗黒卿はそこで俺達に視線を向けた。
もうここで行くしかないだろう。
許せ、ゴードン!
俺はそこで、隣にいるゴードンの兜を取り、思いっきりフリオニール達に向かい、突き飛ばした。
「ウワァァァ! と、突然何をするだァァァ!」
ゴードンは田舎臭い言い回しで、俺を非難してきた。
そして、俺はゴードンを指さし、利いた風な口を利いたのだった。
「おお! こんなところに反乱軍が!」
この突然の出来事に、暗黒卿一味だけでなく、フリオニール達も固まっていた。
「え?」
「え?」
「あ、ゴードン王子……」
「え? なんで? ゴードン王子がいるの?」
今がチャンスである。
というわけで、俺はこの隙を利用し、地下道の出口に向かったのだ。
「え、あッ!? チッ! オイ、お前達! 奴を追うんだ! 奴も反乱軍だ!」
暗黒卿の大きな声が地下道内に響き渡る。
ようやく、暗黒卿も我に返ったようだ。
「え? その声は兄さん!?」
マリアの声も聞こえたが、今は構っている余裕がないので無視するとしよう。
俺は念力を使い、身体能力を上げ、一気に大戦艦の中へと駆け抜けた。
背後から暗黒卿のモノと思われる大きな怒号が響き渡る。
「チッ…大戦艦の中に入りやがった! おい、今すぐ大戦艦を浮上させろッ! 急げッ! モタモタするなッ!」
「ハッ!」
この焦りっぷり。
暗黒卿もなりふり構わずといったところである。
俺も急ぎ、機関室へと向かう事にした。
するとそこで、艦内に大きな警報音と、暗黒卿の声が響き渡ったのである。
【総員に告ぐ! 艦内に反乱軍が1匹入り込んだ! その者は2等兵として紛れ込んでいる! 1等兵は2等兵を見つけ次第、わが軍の者かどうか、至急、確認せよ! これは命令である! 違う場合は即刻始末するのだ! 急げ!】
デンジャラスな展開になってきたようだ。
これは早くしないと、不味いかもしれない。
だがその時であった。
「おい、お前、2等兵だな。ちょっと来てもらおうか!」
なんと俺は、緑の兵士に見つかってしまったのである。
いきなり職質に遭ったようだ。ツイてない。
とはいえ、いるのはコイツだけであった。
ヤルとしよう。
「ハッ! わかりました、1等兵殿。ですがその前に、ちょっとコレをに見ていただけますか?」
「なんだ? 何かあったのか?」
すると兵士は素直に応じてくれた。
そして俺は、兵士が来るや否や、一気に背後を取り、闇落としをしたのだ。
「ウッ……ググ……」
兵士は程なく、グッタリと力が抜けた。
これで、一安心である。
俺はそこで兵士を物陰に引きずり込み、暫し身を潜めた。
まぁなんというか、スパイ映画さながらの超展開である。
(参ったな……艦内は一気に厳戒態勢になってしまった。とはいえ、それもこれも俺の所為だから仕方ないか。まぁいい……とりあえず、コイツの鎧を拝借して、上の機関室に向かうか。ったく、ツイてるんだか、ツイてないんだか……)――
[Ⅱ]
俺は帝国兵の身包みを剥がして1等兵に変装し、そこで暫し様子を見た。
そんな中、また艦内放送が響き渡ったのである。
【これより、大戦艦は浮上する! 総員、何かに掴まり、揺れに対応せよ! 進路はポフト方面! 砲撃班は至急配置に着け!】
その直後、艦内にモーター音のような甲高い轟音が鳴り響いた。
どうやら、大戦艦が動き出したのだろう。
すると次第に、飛行機に乗っている時のような、地に足がつかないフワリとした揺れが感じられるようになったのだ。
とうとう、空の旅に出てしまったようである。
(あ~あ、動いちまったな。なんとかポフトに行く前に、ケリをつけるしかないか。思惑通りには、中々いかないもんだよ……)
俺はそこで行動を開始した。
動き出した艦内は、警戒にあたる兵士や魔物が沢山いた。
そんな中を何食わぬ顔で進んで行き、俺はようやく機関室倉庫へと辿り着いたのである。
機関室倉庫には、緑色の肌をした巨人やチーターみたいな猛獣、それと、青い炎の塊みたいな魔物が、放し飼い状態になっていた。
もしかするとコイツ等は、ヒルギガースとウェアパンサーとマインという魔物なのかもしれない。
まぁとりあえず、そういう事にしとこう。
で、この魔物達だが、一応、敵と味方の区別がついてるのか、帝国兵には全然攻撃してこないのである。
無論、俺も同様であった。
その為、エンカウント無しモードでの移動が可能となったのだ。
俺は堂々と奴等の中を進んで行く。
程なくして、俺は機関室倉庫の奥へとやって来た。
するとそこには、上へと続く階段があったのだ。
これは行くしかないだろう。
(ゲームだと、そろそろエンジンルームだと思うが、マップなんて覚えてないんだよね。この先がそうだと嬉しいんだが……)
などと思いつつ、俺は階段を上った。
階段の先は小さな部屋となっており、その奥には、金属製のゴツい銀の扉があった。
扉には何か書かれていたが、俺は読めないのでサッパリであった。
だが、なんとなく想像はつく。
どうせ、関係者以外立ち入り禁止かなにかの表示だろう。
というわけで、俺はお構いなく、その扉に手を掛けたのである。
扉は鍵が掛かっていないので、すんなりと開いた。
(不用心だねぇ……まぁいい。さて進むとしよう)
俺は扉の向こうに足を踏み入れた。
その先は仕切りも何もない吹き抜けになっており、十字を切る通路と、階下に見える大きな機械設備だけという部屋であった。
確実に機関室の心臓部分である。
蒸気機関を動力に用いてるのか、プシューという甲高い音と共に、機械の大きな駆動音が聞こえてくる。
その為、なかなか騒々しい室内であった。
また、俺がいる通路の先には、大きな黒い円筒状の設備があり、そこから青い光が漏れ出ていた。
非常に気になる明かりであった。
というわけで、俺はそこへ移動し、筒状の設備を暫し観察したのである。
直径2mくらいある円筒状の設備で、筒の上にはガラスのような透明の蓋がしてあり、中が見えるようになっていた。
どうやら点検用の窓口なのだろう。
中を覗き込むと、遥か下で、青い炎が狂ったように燃え盛っているのが確認できた。
恐らくあれが、大戦艦駆動用に調整された太陽の炎なのかもしれない。
(ゲームなら、ここに太陽の炎を投げ入れれば、爆発なんだろうが……さて、どうすっかな。空で爆破させると、俺も巻き込まれんだよね。何か良い方法ないかな……ン?)
と、その時であった。
「ここは限られた者以外、立ち入り禁止だ! なぜ1等兵がここにいる!」
聞き覚えのある男の声が、この空間に響き渡ったのである。
男の声は、俺がいる反対の方向からであった。
程なくして、声の主は反対の通路から姿を現した。
やって来たのは予想通り、黒騎士団新参謀のレオであった。
ここまで来たら、もう演技はいいだろう。
「よう……いたのか。黒騎士団新参謀のレオさんだったか。流石だねぇ……勘が良いというかなんというか……」
「な!? その声は……そうか、わかったぞ! 貴様、あの時の2等兵だな! こんな所まで来て一体何してる!」
暗黒卿はやや驚いてる風であった。
本当に1等兵だと思っていたんだろう。
俺はそこで兜を外し、素顔を晒した。
「誰だ、貴様……いや、そんな事はどうでもいい! 反乱軍がこんな所へ何しに来た! 大戦艦を破壊でもしに来たか! もう遅いわ! 船が動き出した今、貴様等にはもう何もできんのだよ!」
「ふぅん……そうなの。だが、物事には例外というモノがある」
「例外だと? どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。それはともかく、アンタ、流石だね。よく俺が偽物だとわかったな。やっぱ、あそこで敬礼したのが不味かったか?」
「フン、当たり前だ! 上官に道を譲る時、我が国の兵士に敬礼する者はおらんからな。だが、今はそんな事など、どうでもいい! 貴様……何が目的だ!」
「俺の目的か? そんなん決まってんだろ。大戦艦を破壊しに来たんだよ」
さてさて、どうなる事やら……。