[Ⅰ]
俺の言葉を聞き、暗黒卿は鼻で笑った。
「フッ……大戦艦を破壊しに来ただと……貴様1人でなにが出来るというのだ? そんな事など出来るわけがない。それと、後ろを見るが良い」
暗黒卿はそう言って、俺の背後を指さした。
後ろにある入口をチラッと見ると、沢山の兵士達が陣取っていた。
それどころか、他の通路入口にも、兵士達の姿があったのである。
つまり、状況的に俺は袋の鼠ということだ。
「なるほどね……既に手は打ってあるわけか。抜かりないねぇ」
「機関部に怪しい人影があると報告があったのでな……兵を向かわせておいたのだ。これで貴様にはもう、逃げ道は無い。フッ、終わりだな。如何に貴様が素早いとはいえ、逃げ道がなければどうにもなるまい」
確かに、このままならそうなるだろう。
このままなら……。
そこで、下品な笑い声が響き渡った。
「グハハハ、流石はレオ殿だな。しかし、しぶとい奴だ。反乱軍にも、ここまで大胆に侵入する奴がおったとはな。だがそれもコレで終わりだ。ざまぁみろ!」
現れたのはボーゲンであった。
相変わらずの間抜け面である。
「誰かと思えば、そこにいるのは、フィンを裏切ったボーゲン元伯爵じゃないか。噂は聞いてるよ。サラマンドの人質は解放され、挙げ句に、セミテの滝のミシディルは反乱軍に押さえられたそうだね。ご愁傷様」
「な!? 人質とセミテの滝鉱山が、反乱軍の手に落ちただと……デマカセを言うな!」
ゲームでは、ボーゲンがサラマンドにちょっかいだしてた気がしたので、とりあえず、言ってみた。
この反応を見る限り、ここでもそうなんだろう。
「コイツの言ってることは本当かもしれない、ボーゲン将軍。つい先日、手の者から連絡があったからな……」
「グッ、なんと言うことだ……私は皇帝陛下になんと申し開きすれば……」
ボーゲンは怯えたようにガタガタ震えだした。
「やらかしちゃったねぇ、ボーゲン元伯爵。次は元将軍になるのかな。噂通り、有能なんだね」
「貴様……私の事を知っているのか?」
「知らんよ。というか、知りたくもない。信用を失くした哀れな奴など、俺にはどうでもいいからな。これからお前は、皇帝にも信用されず、捨て駒にされるんだろう。裏切り者はずっと信用されんからな。ま、せいぜい頑張れや」
ボーゲンの顔が険しくなる。
「オノレェェ! オイ、お前達! この者を逃がすな! 即刻始末しろッ!」
「ハッ!」
兵士達は武器を構え、通路へと足を踏み入れた。
ちなみに4方向からの挟み撃ち状態なので、弓のような飛び道具は使ってこないようだ。
同士討ちの危険があるからだろう。
ある意味、ラッキーである。
というわけで、俺も行動を起こした。
「へぇ、そう来るのか。じゃあ仕方ない。俺も手を打つとしよう!」
俺は筒を覆う透明の蓋に向かい、念力の力を上乗せして、剣を勢いよく振り下ろした。
その刹那、透明の蓋は無数にヒビ割れ、砕け落ちたのであった。
やはりガラスだったようだ。
「なッ!?」
そこで帝国兵の足も止まった。
どうやら意表を突く行動だったのだろう。
「貴様ァ! いきなり何をする!」
そして暗黒卿も慌てていた。
この反応を見る限り、これが重要な設備なのは間違いないようだ。
さて、では続けるとしよう。
俺はそこで、ずっと腰に仕込んでいたある物を取り出した。
今はわからないように布に巻いてあるが、これは勿論、あのアイテムである。
そう、エギルの松明だ。
俺は布を解き、エギルの松明を露にした。
「悪いな、レオさん。この蓋が邪魔だったから割らせてもらったよ。コレを投げ入れたいんでね」
「貴様……それは、まさか!?」
勘のいい暗黒卿は気付いたようだ。
さて、ここからは俺のターンである。
というわけで、俺は大きな声で奴等に警告した。
「はいはい、お前達もそこから動くなよ! 一歩でも動いたら、コレをここに投げ入れるからな!」
「フン、何を抜かしている、この反乱軍のゴミめ! おい、お前達、こんな奴の言う事など無視して、とっとと殺してしまえ!」
ボーゲンは怒声を上げた。
状況を理解できていない有能なボーゲンは、お構いなしのようだ。
「ま、待て! ボーゲン将軍! 待つんだ!」
暗黒卿は慌ててそれを静止した。
ボーゲンはポカンとしている。
まだ気づいてないようだ。
「レオ殿、どうしたのだ慌てて?」
「コイツが今手にしているのは、恐らく、エギルの松明……つまり、太陽の炎だ! コレをそこに投げ入れられたら、大戦艦は制御不能に陥り、大爆発を起こしてしまいかねん! 今は待て!」
「ナァニィィィ! だ、だだだ、大爆発だとぉォォ!」
ボーゲンの絶叫が響き渡る。
そして、他の兵士達も状況を理解したのか、この場は一気にざわつき始めたのであった。
良い感じである。
こちらのペースで交渉できそうだ。
*
話は変わるが、この太陽の炎……実は変わった特性があり、物を燃やす力はない。
まぁそれは、エギルの松明にしか炎を移せない事からも、当たり前の話だ。が、しかし、熱は発せられているのである。
そして、このエギルの松明もかなり特殊であり、宿した太陽の炎の熱を遮断する機能を持っているのであった。
その為、触れても全然熱くない。
現実世界ならありえない事だが、ここは異世界にしてゲームを模した異世界。何でもアリである。
で、俺は何を言いたいのかだが……要は、太陽の炎が宿るエギルの松明を布で巻いても、全然大丈夫という事である。
大事な事なので、もう一度言おう。
布でエギルの松明を巻いておいても、燃えたりもしなければ、熱を感じたりする事もないのだ。
気にしたら負けだし、考えたらダメなのだ。
考えるな! 感じろ! である。
というわけで、話を戻そう。
*
周囲がざわつく中、俺は暗黒卿にお願いをしてみた。
「さて、レオさん。ここにコレを投げ入れれば……大戦艦はボンッだ。そこでお願いがあるんだが、まずはこの大戦艦を今すぐ着陸させてもらえるかな? 着陸してくれなければ、コレを投げ入れるよ」
「着陸だと……貴様! するわけないだろう! それに、お前も一緒に吹き飛ぶのだぞ! できるモノか!」
「あらら、そういう事を言うかな。じゃあ仕方ない。コレを投げ入れるとしよう」
俺は遠慮せず、投げ入れるフリをした。
すると、暗黒卿は慌てて手を振ったのである。
「ま、待て! クッ……いいだろう」
暗黒卿は近くにいる1等兵を指さした。
「オイ、お前、操舵室に行き、大戦艦を緊急着陸するように伝えろ!」
「ハッ!」
兵士は足早に駆けて行った。
そして暗黒卿はワナワナと握り拳を作り、俺を指差したのだ。
「貴様……これで済むと思うなよ。今は言う通りにしてやる……だが、許さんぞ! パラメキア帝国を舐めるなよ!」
「はいはい、わかりましたよ」――
[Ⅱ]
俺のお願いを聞き入れてくれた暗黒卿のお陰もあり、暫くすると、大戦艦はようやく地面に降り立った。
その時の衝撃で、ここも大きく揺れたところだ。
そして、ここからはまた、奴等との交渉が始まるのである。
「ありがとう、レオさん。俺の言う事を聞いてくれて。アンタ、意外と良い奴かもな」
「そういう貴様は、我等をイラつかせるのが上手い奴だがな。さて……どうするつもりだ? 今なら命は助けてやる。それを我々によこせ!」
暗黒卿はそう言って、手を前に出してきた。
コイツは意外と馬鹿なのかもしれない。
「はぁ? 黒騎士団新参謀のレオ様ともあろう方が、そんな見え透いた嘘ついちゃダメっすよ。交渉ってのはさ、相手の前においしいモノをぶら下げて、信じさせるか、関心持たせてからじゃないと成立しないよ。本当に、生真面目な人だなぁ、アンタは」
「クッ……本当に貴様は、俺をイライラさせやがる……」
暗黒卿は肩をワナワナ震わせていた。
怒りに打ち震えているようだ。
と、そこで、ボーゲンが話にログインしてきた。
「おい、お前! 何が欲しい? ギルか? それとも宝か? 言ってみろ! 私がやろうじゃないか。おいしいモノがほしいんだろう?」
ボーゲンがなぜか喰いついてきた。
コイツは欲に塗れた馬鹿野郎だから、このフレーズが刺さったんだろう。
「そうだねぇ……俺が欲しいのはパラメキア帝国の皇帝の座かな。くれるんなら貰うよ、ボーゲン元伯爵」
「な!? 貴様、何という恐ろしい事を……」
ボーゲンは俺の要求を聞き、後ずさった。
恐らく、骨の髄まで皇帝に恐怖しているんだろう。
「貴様、確かビッグスとか言ったか……お前は皇帝陛下の恐ろしさを知らぬようだな」
暗黒卿はそう言って腕を組んだ。
名前が間違ってるが、このままにしとこう。
「ああ、知らんよ。会った事ないし」
「何者だ、貴様……今の世で、そのような事を言う奴を初めて見たわ」
「俺か? 俺はただの探偵さ」
とりあえず、ケイシーラ○バックばりに答えておいた。
「タンテイ? フン、なんだソレは。まぁいい。だが、お前は知らぬのだ。地獄から屈強な魔物を召喚し、強力な魔法を幾つも操れる、恐ろしいほどまでの魔力を持つ、あのお方の恐ろしさをな。楯突いた事を後悔するぞ……必ずな」
「へぇ、地獄から魔物を召喚か。どこでそんな方法を知ったんだろうねぇ……」
「どこで? フッ、どこでも何も、パラメキアは元々、古代魔法都市ミシディアがあった地。古代の魔導師が記した古の書物が幾つもあるのだよ。今のミシディア以上にな」
「へぇ、古代魔法都市ミシディアねぇ……」
古代魔法都市ミシディア。
初めて聞く単語であった。
ゲームにも出てこない名前である。
「さて……お喋りはここまでだ。お前との下らん交渉は、これ以上するつもりはない。さて、答えを聞こうか? ソレを我等に渡して、命からがらココから逃げるか……ここで死ぬか、だ。どちらか選ぶがいい」
「そうだな……じゃあ、逃げ道を作ってくれるかい? 今のままじゃ、逃げられないからな」
「ほう……という事は、それを渡すという事だな。よかろう。お前達、通路を開けよ」
「ハッ!」
四方にいる兵士達は、通路から出て行った。
道が開けたようだ。
さて、では迅速に立ち去るとしよう。
俺は暗黒卿に向かい、笑顔で別れを告げた。
「ありがとう、黒騎士団新参謀のレオさん……色々と為になる話をありがとう。いや、正式にはレオンハルト君だったか。では私からの贈物だ。大戦艦にコレを渡すとするよ!」
「なッ!? 貴様……」
暗黒卿は俺が名前を言った瞬間、動きが止まっていた。
少し動揺したのだろう。
そして、俺はその隙に、エギルの松明を筒の中に放り込んだのである。
「アァァァ!? き、貴様なんて事を!」
「じゃあなぁ、帝国兵の皆さん! 死にたくなかったら、とっとと逃げた方が良いよ! すっごい爆発が起きるからねぇ! では、ご武運を!」
俺は念力を使って身体能力を上げ、一気に通路を駆けぬけた。
背後では阿鼻叫喚の怒号が飛び交っている。
「あの野郎、やりやがった!」
「だ、大戦艦が爆発するぞ! 逃げるんだァァァ!」
「大変だァァァ!」
「逃げろォォォ!」
「ウワァァァ」
「ヒィィィ」
「WRYYYY」
俺は脇目もふらず、一気に大戦艦の中を駆け抜けた。
そして、俺が大戦艦を脱出して暫くの後、緑の大地に盛大な花火が上がったのであった。
めでたしめでたし……か、どうかはわからないが、今は素直に喜ぶとしよう。