[Ⅰ]
刺々しい茨の魔物が3体と、醜悪な顔をした緑色の小人が3体。
それらの魔物が、俺達に威嚇を繰り返しながら、襲い掛かってきた。
フリオニール達は小人3体と戦闘を開始した。
そして俺は、3体の茨の魔物を相手するのである。
蜷局を巻いた蔓が俺を目掛けて伸びてくる。
とはいえ、スピードはそこまででもない。全然避けられる速さだ。
俺は冷静に蔓を避けると、素早く横に回り込み、伸びてきた蔓を勢いよく断ち切った。
そしてすぐさま流れるように、地面にある蔓の根もとへと剣を突き刺し、魔物に止めを刺したのである。
そんな感じで他の魔物も、俺は次々始末していった。
これで何度目の戦闘だろうか。
気を抜いているとコイツ等がすぐに寄って来るのだ。
俺も最初見た時は「え?」となったが、流石に何回も戦っていると慣れてくる。
そして、ここでは現代の常識は通じないのだと、改めて認識させられたのである。
植物や小人、デカい昆虫が人に襲い掛かる異世界……恐るべしだ。
殺らなきゃ殺られる世界なのである。
(まさか、こんな所で風魔の武芸が役に立つとはなぁ……風魔流忍術を使う日が来るとは思いもしなかったよ。風魔の剣術や気合術、骨法術などは継承していても、現代社会じゃ使う事はほぼない。ただの技術継承というだけだから、俺も体力トレーニング程度にしか考えてなかったが……これはある意味助かったかもしれん。まぁそうは言っても、使わないに越したことはないが……)
嘘か本当か知らないが、先祖の話では、うちの家系は真の風魔小太郎の系譜だそうだ。
まぁあくまでも先祖が言っているだけの話だから、信憑性は俺もよくわからない。
しかも俺は一応、裏の名前として風魔小太郎の名を継承しているのである。
だが、その名を表で名乗る事はない。親からも名乗るなと言われている。
あくまでも、忍びの術の継承としての肩書きなので、風魔忍軍の棟梁としての精神までは継承してないからだ。
というか、そもそも風魔忍軍は、豊臣秀吉による小田原攻めで、後北条氏が滅亡したと同時に、事実上の解散となった存在。
後北条氏を主君として仕えた忍びなので、もう既にないのである。
先祖の話では、後北条氏滅亡後にテロ集団と化した風魔の残党の親玉が、勝手に風魔小太郎を名乗っていた事もあるらしいが、それは本当の風魔小太郎じゃないと、俺は教わった。
そして、その偽風魔小太郎も、江戸時代初頭に処刑され、そこで風魔の名は歴史の表舞台から本当に姿を消したのである。
これが先祖から伝わる話であった。
と、まぁ話がそれたが、継承した風魔の術は、この先必要になってきそうである。
よく復習しておいたほうが良いだろう。
(さてと、ガテアの村まで後どのくらいだろう? 1日あれば着くと言ってたが、そろそろ日も落ちてきた。リアルなファンタジーは色々と大変だな……ゲームのようにコントローラーで動かせないし、思い通りいかない事だらけだ。ったく……こういうのはモニター越しでいいんだよ。まぁでも、懐かしいゲームなんだよな、FF2って。俺がガキの頃遊んだのはリメイク版だから、当時のは知らないが、レベルがない結構癖のあるゲームだった気がする。そういえばこのゲーム、正宗とかいう凄く強い刀が出てきたのが印象深いんだよね。それと、源氏の装備とかも。なにかと日本的なモノが多いRPGだったな。ン? 源氏……まぁいい、後にしよう。向こうも終わったようだ)
フリオニール達も戦闘を終わらせられたみたいだ。
俺はそこで周囲を警戒しながら、魔物の死骸に視線を向けた。
萎れかけた太い緑の茨の蔓と、醜悪な顔をした緑色の小人が、無惨な姿で横たわっている。
小人はニホンザルくらいの大きさだが、問答無用で人間に攻撃してくるので、ウザい奴等であった。
先が尖った小人帽を被っているので、童話に出てくる悪い妖精そのモノな見た目だ。
ちなみにフリオニール曰く、この魔物共の名は、ゴブリンとレッグイーターらしい。
これはゲームそのままの名前なので、安心したところだ。
どちらも、ゲームでは序盤の雑魚敵に該当する魔物である。
「カザマさんも終わったようですね。それにしても……カザマさんてなかなか凄腕の剣士なんですね。剣裁きや動きが凄いです。数体の魔物を素早く倒せるんですもんね。動きに無駄がないというか……」
「ええ……本当にね。昨夜、ミンウ様に聞いたら、知らないと言ってたし。本当に何者なのかしら……」
マリアはそう言って目を細めた。
意外とフリオニールからの評価が高いみたいだ。
とはいえ、マリアの場合は別の事を疑ってそうだが……。
まぁいい、それっぽい事を言っておこう。
「こんな世の中だしな。多少、武器くらい使えた方が良いだろう?」
「確かにそうですね。しかし……森の中に入ってから魔物達が活発ですね。早くこの森を抜けて、ガテアに行きましょう。多分、もうすぐな筈です」
「ああ、そうだな。だがその前に……少し訊きたい事があるんだが、いいか?」
「なんですか?」
俺は今後の確認の為、訊いてみる事にした。
「昨日、ミンウから聞いたんだが……この地では、死んだ者でも、街にある女神像の祝福を得られれば蘇るという言い伝えがあるそうだな。本当なのか?」
ゲームでは蘇生施設だったが、ミンウから聞いた話によると、ここでは必ずしもそうではないようだ。
これは重要な事なので、しっかりと確認せねばなるまい。
「ああ、その話ですか。確かに、そういう言い伝えはありますね。でも、僕もよくわからないんですよ。現に、パラメキアの襲撃で亡くなった方々は蘇る事ができませんでしたから。だから、僕はあまり信じてないです」
「私もよ……お父さんもお母さんも生き返れなかった。だから……その言い伝えは嘘だと思っているわ」
マリアの場合は、既に実行済みのようだ。
と、そこで、予想外のところからボソボソと低い声が上がった。
「カザマ、サン……死んで時間が経った者……死を受け入れた者は……蘇れない……そう聞いたこと……ある」
「おわ、喋った! ビックリしたよ、ガイ君」
「驚かせて……すまない」
ガイ君は申し訳なさそうに肩を落とした。
身体はゴツいが良い奴である。
「いいよいいよ、気にしなくて。でも……良いこと聞いたよ。死を受け入れた者か……確かに生きる気力がなきゃ、蘇れないかもな」
今のガイの話はなかなか真に迫るモノな気がした。覚えておくとしよう。
昨日のミンウの話でも蘇生魔法はあるらしいが、成功するかどうかは使う者の腕と本人次第と言っていたからだ。
「皆、答えてくれてありがとう。じゃあ、先を急ぐか」
「はい」――
[Ⅱ]
日の暮れる寸前にガテアの村へ無事到着した俺達は、すぐ宿に向かい、寝床を確保した。
宿屋はログハウス調の丸太小屋で、個室の宿じゃなく、他人と一緒に雑魚寝するタイプのモノだ。
こういう世界観なので、まぁ予想してた宿事情であった。
そんなわけで、俺達の他にも宿の利用者は少しいた。
だが皆疲れた顔をしており、あまり元気がない様子だ。
帝国の襲撃での心労が祟っているんだろう。
ちなみにガテアの村は割と長閑な集落で、その殆どが丸太小屋であった。
周囲を森林に囲われている所為か、少し閉鎖的に感じるが、静かで良い所だ。
アウトドア派の俺からすれば、割と好きな感じである。
また、水も豊富なようで、村内には至る所に水路があり、割と生活環境が整っている村であった。
だが、ここにいる人々にはそれほど活気はない。
帝国の襲撃で逃れてきた者もおり、雰囲気は暗いの一言だ。
こういうご時世という事もあり、仕方がないところだろう。
とりあえず、そんな感じの村である。
*
話は変わるが、この世界はゲームのような世界観だが、街や村といったコミュニティの規模は、ゲームのよりも遥かに大きい。
そう、ちゃんと現実に即した街並みなのである。
アルテアもなかなかの街の規模で、物見遊山で昨日見た感じだと、人口も数百人はいるんじゃないだろうか。
建物もそれと比例するような軒数である。
ここ、ガテアも例外ではない。ちゃんと村として機能する規模なのだ。
ガテアの人口は恐らく、100人程度だろうか。
ゲームのような小さな集落ではない。
その為、とてもではないがゲームのように、それらの人々から情報集なんて事は、そうそうにできるレベルではないのである。
この地で行う情報収集の第一手段は、まず、人々の会話を盗み聞く事から始まるのだろう。
面倒だが、それが一番近道のようである。
というわけで、話を戻そう。
*
俺は考え事と情報収集をする為、宿の外に出る事にした。
「カザマさん、どこかに行くんですか?」
出口に向かおうとしたところで、フリオニールが呼び止めた。
「ああ、ちょっと外にね。少し1人で考えたい事があるんでな」
「そうですか。では日も暮れてきたので、気を付けて行ってきてください」
「ああ」――
宿の外に出ると、日も沈み、夜の帳が落ち始めていた。
異世界の夜2日目である。
空を見上げると満天の星空が見える。
星の並びが違うだけで異世界の夜空も、現実世界とあんま変わらない。
ゲームでは見る事がない星空だが、散りばめた宝石が光輝くように、現実世界と同じ美しさを放っていた。
この世界にも天体があるという事は、宇宙では銀河を形成してるのだろう。
俺はそんな星空の元、村内をぶらりと歩き出した。
(ようやく1人になれた。道中は魔物がウザかったから、ゆっくり考え事もできなかったしな。さて……復習だ。確かゲームだと、フィンに行って、場末のバーでカシュオーンの王子からリングを貰うイベントだったよな。で、王子を看取り〜の、リングを持ち帰り〜のして、アルテアで王女にそれを見せる……だった気がする。ふむ……問題はキャプテンとかいう場違いな兵士がいるかどうかだな。ゲームだと、序盤の主人公達じゃ、絶対に勝てない敵だった。できればいないでほしいが、たぶんいるんだろうな……ン?)
ふとそんな事を考えていると、俺を尾行する気配を感じた。
俺はそこで後ろを振り返った。
だが、後ろには誰もいない。
とはいえ、斜め後方にある木が怪しかったので、俺は確認する事にした。
「誰だい? いるんだろそこに? フリオニールか?」
すると程なくして、木の陰から1人の女が姿を現したのである。
それはマリアであった。
背中に弓を担いでおり、武装を解いてない。
恐らく、俺を怪しんで付けてきたのだろう。
「よくわかったわね、カザマさん」
「まぁ職業柄、こういうのは敏感なんだよ。で、なんか用か?」
マリアは大きく息を吐くと俺の前にやって来た。
「ええ、そうよ。貴方に訊きたい事があって、尾けてきたの」
「ふぅん……で、何を訊きたいんだ?」
「貴方……どうして兄が生きていると断言したの? それが知りたいの。あの時は勘とか言ってたけど、貴方、言い切ってたもの。凄い自信だったし……それを訊きたいの」
「あ、ああ、それの事ね」
マリアは意外にも鋭かった。
案外、周りに流されるタイプじゃないんだろう。
さて、どうしたもんやら……。