[Ⅰ]
薄明りの中、マリアは鋭い目で俺を見ている。
暫し沈黙の時が過ぎる。
なかなか名案が浮かばないので、俺は当初の設定で押し切ることにした。
「困ったなぁ。直感じゃ納得できないかい?」
「納得できないわ。私は今まで、直感で断言する人を見た事がないもの。だから、それ以外の理由を知りたいの」
「それは困ったな。本当に直感なのに。じゃあ、賭けをしようよ」
「賭け? いきなり何を言うのよ」
マリアは眉根を寄せ、怒ったように口を尖らせた。
「だって俺の直感を信じてないんだろ? なら賭けをしようよ。君のお兄さんがもし死んでいたなら、俺を好きにすればいいからさ」
「え? じゃあ、兄が生きていたら、私は何を賭ければいいのよ」
「そうだな……君自身てのはどう? 俺も自分自身を賭けるんだしね。だから、君の兄貴が生きてたら……俺がマリアの事を好きにさせてもらうとするよ。色んな事をしてあげよう。へへへ」
俺は熊が威嚇するように両手をあげ、変態っぽく指を動かした。
食べちゃうぞ~ってな感じである。
セクハラもいいところだ。
「なッ!? い、色んなって……そ、そんな事……と、とと、突然何を言うのよ! そんな賭けに乗るもんですか!」
マリアは慌てふためき、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
一応、どういう意味か、理解はしたようだ。
「いいじゃん、別に。どうせ、俺が何言ったところで、生きてるレオンハルトを見ない限り、君は信じることが出来ないよ」
「た、確かにそうだけど……でも、私、貴方の事がどうしても信じられないわ。最初はミンウ様と少し似た顔立ちだから、ミシディアの方かと思ったけど、違うらしいし。それと旅してて気づいたけど、貴方、やけに腕は立つし、冷静だし……最初会った時、変な服を着てるし、フィンでは当たり前の事を一杯訊いてくるし……ちょっと変よ。一体、何者なのよ」
変な服とは失敬な。
まぁこの世界では斬新すぎるか。
でも、今の出で立ちは、ロード・オブ・ザ・リ○グのアラゴ○ン風だから文句あるまい。
それはさておき、本音が出たな。
「その口ぶりだと……俺が帝国の回し者だと疑ってるね。そうだろ?」
「ええ……ちょっとね」
マリアは腕を組み、物凄い冷ややかな流し目を送ってきた。
これは否定しとこう。
俺はウボァーの仲間ではない。
「ブッブー、外れですな。俺はパラメキア帝国なんて知らないよ。ただの流れ者さ」
「そんなの信じられるわけないでしょ」
「信じられなくてもそうなんだよ。事実だから」
嘘は言ってない。
実際、流れ者だ。流浪人である。
そう……これは流浪人探偵異世界浪漫譚なのだ。本当の俺は暖かい布団の中にいるんだぁ! などと思いたい今日この頃である。
「だって……」
マリアは何か言いたげだが、それ以上言葉は出てこなかった。
「あ、そうだ……良い機会だし、俺からも訊いていいか?」
「何?」
「君の兄であるレオンハルト君だけど……フィンでは何の仕事をしてたんだ?」
「何の仕事って……昨年あたりから、兄はフィン城で見習い騎士をしていたわ」
ゲームにない設定な気がする。
これは訊くしかないだろう。
「へぇ、見習い騎士か……じゃあ、フィンの騎士団に入りたかったんだ」
「うん、そうよ。でも、帝国が動き出してからというもの、兄はよく上官と共に、パラメキア付近に調査に行ってたから、あまり家にはいなかったけどね。兄は見習い騎士達の中で、武術全般が抜きん出てたから、よく駆り出されてたわ。それがどうかしたの?」
「いや、どういう兄さんだったのかなと思っただけさ。こんな可愛い妹に心配かけさせるなんて、悪い兄だなと思ってね」
「い、いきなり、何を言うのよ……」
マリアはぎこちなく慌てて俯いた。
たぶん、照れてるんだろう。
「照れてんのか。可愛いねぇ、マリアって。まぁそれはともかく、フィンがパラメキアに襲撃された時、レオンハルト君は一緒にいたんだな?」
マリアは少し恥ずかしそうに俺を見ると、質問に答えてくれた。
「んもう……調子狂うわね。そうよ。兄は家にいたわ。私やフリオニール、それとガイや両親と共に、一緒に食事中だったんだから」
「ふぅん……なるほどね。そういう経緯があったのか」
コレが本当なら、レオンハルトはずっと前から、帝国と繋がりがあった可能性もありそうだ。
「それがどうかしたの?」
「いやどうもしないよ。ただ、襲撃された時、どういう状況だったのかなと思っただけさ。ちなみに、どの辺りで黒騎士団に襲われたんだ?」
「フィンとガルテアの湖の間にある森の中よ。黒騎士団はそこで、私達を前と後ろから挟み撃ちにしたの。あの時はもう、私達ここで皆死ぬんだと思ったくらいよ……」
マリアは抱き締めるように両肩に手をやり、怯えたように震えていた。
当時のことを思い出したようだ。
相当怖かったんだろう。
だが、俺は別の視点でそれを聞いていた。
「へぇ……挟み撃ちねぇ。パラメキアの黒騎士団って、一般人にも執拗に追いかけてくるんだね。そこまでして、君達を襲いたい何かがあったのかな」
「何かって……何よ」
「さぁね……俺にはわかんないよ。ただ……戦争というものは普通、指揮系統を潰すのを優先するもんだ。それが成功すれば、勝ったも同然だからな。君達がそうだったとは、とても思えない。ましてや……帝国の精鋭部隊と聞く黒騎士団が、君達を狙うとはね。反乱軍の最高指揮官はフィン城だろうに……」
「え? あ……確かに」
マリアも少し違和感を覚えたようだ。
黒騎士団が精鋭というのは、昨日、ミンウに教えてもらった。
それを聞いて、俺は今の仮説を立てたのである。
ま、ゲームでは語られてない部分だから、俺が適当にゲーム知識と照らし合わせて考察しただけの話だが。
「さて……それじゃあ、お話はこれで終わりにするか。俺はもう少し、村の中を散歩でもしてくるよ」
「あ、待って。私も一緒に行くわ。他にも訊きたいことがあるから」
しつこいマリアであった。
[Ⅱ]
翌日の早朝、俺達は夜明けと共に、ガテアの村を後にした。
ここからフィンまでは、ガテアの北にある広大な湖の畔を延々と進む事になるそうだ。
ちなみに、この湖の事をここではガルテアの湖というらしい。
つまり、俺が気を失っていたという曰く付きの湖だ。
なぜこんな所に俺がいたのか理解できないが、ミンウから大体の発見場所は聞いたので、この旅の途中で調べてみるつもりだ。
なんでもミンウが言うには、フィンへと続く街道付近の湖畔だそうで、大きな岩が門のように2つある場所らしい。
もう少しでフィンへと続く街道に出るらしいので、そこで確認しようと思っているところだ。
それから暫く進むと、街道らしきモノが視界に入ってくるようになった。
馬車が走るのか、2本の轍が延々と伸びている。
道に草花があまり生えてないところを見ると、襲撃前は結構人々が行き交っていたんだろう。
だが、パラメキアの襲撃があった所為か、街道には人っ子一人いない。
寂しい街道であった。
「ここからが街道ですね。このまま道沿いに北へ進めばフィンです」
フリオニールはそう言って、街道の先を指差した。
「了解。だが……その前に、ちょっと良いか?」
「なんでしょう?」
「この辺りの湖の畔に、門のような2つの大きな岩があるらしいんだが、どこかわかるか?」
「大きな岩? ああ、アレの事か。すぐ近くですよ。向こうです」
フリオニールは、やや離れた所に見える2つの小高い丘を指差した。
そこは木々が生えており、上に登ると見晴らしが良さそうな場所であった。
「じゃあそこに、ちょっと寄り道させてもらっていいか?」
「いいですよ」
俺はフリオニール達に我がままを聞いてもらい、そこへと移動した。
近くにきて分かった事だが、その丘自体が、なんと岩であった。
長い年月で苔や草木が生え、丘のように見えていたのだ。
しかもかなり馬鹿でかい。学校の体育館ぐらいありそうだ。
そして、それらが門のように2つ並び、鎮座しているのであった。
「こりゃまた、バカデカい岩だね。木が生えてるから全然わからなかったよ」
「そうですよね。遠くから見ると確かにわからないかもしれません。それはそうと、なぜここに来たんですか?」
「ああ、それはだな、ミンウが言うには、俺はこの岩の間にある湖の畔で倒れていたんだとよ。ま、俺もここに来た記憶が無いから、わけがわからんのだがな。ま、とりあえず、確認の為に寄ってみただけさ」
「記憶がないって……どういう事よ? 自分の名前や、他の事はよくわかるくせに……」
マリアが怪訝な目で訊いてきた。
そう思うのも、無理はない話だ。
「そのままの意味さ……俺はもしかすると、微妙に記憶を失っているのかもな。まぁ何れにしろ、俺はフィンなんて所に住んでないし、パラメキアなんて国も知らないんだから。もしかすると俺は、何者かに拉致されて、ここに放置されていたのかもな……」
コレが一番納得のいく理由だが、恐らく違うんだろう。
(ゲームの世界に拉致って状況がありえないからな。本当に、何が起きているのやら……ン?)
ふとそんな事を考えていると、水中にキラリと光るものが見えた気がした。
俺はそこで湖に近づき、端から水面に目を凝らしたのである。
すると、少し離れた先に、建物っぽいモノが水の中に見えたのだ。
「このデカい岩の間にある湖の底に、何か見えるんだけど……アレはなんだ?」
マリアが隣に来る。
「あれは月の女神の祠よ。このガルテアの湖は、欠けた月のような形をしているから、ここは月の女神が造った湖なんて言い伝えもあるわ。だから水の中に祠を建てて祭っているのよ。それにその昔、この湖には、月の民が舞い降りたなんて言い伝えがあるくらいだもの」
俺は今の話を聞き、少し引っかかりを憶えた。
なぜなら、ファイナルファンタジーの別の作品で、月の民という単語が出てきたからだ。
だが、FFⅡではそんな単語は出てこない。
これは気になる話であった。
(確か……FFⅣに月の民って出てきたんだよな。しかも、あの作品にもミシディアという魔導師の街があった気がする。偶然かこれは? この世界と何か繋がりがあるんだろうか……まぁいい、後にしよう。今は先を急ぐとするか)
謎は尽きないが、他には何もなさそうなので、今はこれでやめる事にした。
「さて、それじゃ行こうか。わざわざ付き合ってくれてありがとうな。色々と興味深い話を聞けたから、来た甲斐はあったよ」
「わかりました、では行きましょう。フィンはもうすぐです」――