[Ⅰ]
王都フィン。この地では別名、バラの都と呼ばれるほど美しい街らしい。
城塞都市なので外から中の様子はわからないが、フリオニール達が言うには、街の至る所に野バラの花壇があるそうだ。
街自体もかなり大きく、王都と言うだけある。アルテアの倍以上の規模であった。
また、白い石を幾重にも積み上げて造られた立派な城塞門も素晴らしく、ヨーロッパへと旅行に来ているような感じだ。
とはいえ、それは平時ならという注釈がつく。
今は戦時。その城塞門の前には、緑色のフルアーマー兵士が何人も待機してるので、かなり物々しい雰囲気だからだ。
たぶん、アレがゲームでいうキャプテンなのかもしれない。
キャプテン……英語で集団の統率者という意味である。
ゲームではなぜか知らないが、統率者であるキャプテンがフィンの街に大量にいた。
当時、中学生だった俺も、キャプテンは普通1人やろと突っ込んだモノである。
ここでもそういうモンスター名かどうかわからないが、FFは結構その辺りが手抜きで、オリジナリティがない。
英単語をそのまま使った固有名詞が多いので、とっつきはしやすいが、ちょいシュールなゲームであった。
FF2には出てこないが、他のナンバリングではファイア・ファイラ・ファイガといったセンス無い三段活用の魔法が定番化してるので、最初はウケ狙いかと思ったくらいだ。
もう少し捻ってほしかったが、ナンバリングが進みすぎ、今じゃ修正不可能な状態なので、もうどうしようもないのだろう。コレがFFなのだ。
まぁとはいえ、小学生程度の学力でも、名前を聞いて、すぐに効果を連想できる点は良いところである。
そういう意味ではありがたい仕様であった。
今じゃ懐かしい思い出である。
まぁそれはさておき、今はどうやってフィンに侵入するかだ。
ゲームでは敵の横を通っても話しかけなければスルーしてくれたが、流石に現実はそう甘くない。
というか、現にさっき、遠目で俺達を見ただけで、「あんな所に反乱軍がいるぞ!」なんて言われる始末だ。
その為、俺達は一旦撤退を余儀なくされ、今は2度目の接近を試みているところなのであった。
かなりマヌケな展開である。
(おいおい……ゲームみたいにすんなりいかねぇじゃねぇかよ。街にすら入れねぇじゃねぇか。ったく……リアルファンタジーは辛いなぁ。ゲームみたいに素通りを許してくれない。序盤からいきなりミッションインポッシブルかよ。ハードルめっちゃ高いやんけ……)
城塞付近の岩陰に隠れながら、ふとそんな事を考えていると、フリオニールが耳元で囁いてきた。
「カザマさん……どうしましょう。敵の監視はかなり厳しいです。これ以上近づくと、またさっきみたいにバレますよ」
「どうしましょうって、俺に訊くなよ。 というか、この街に住んでたのは君達だろ? 街の中がどうなってるかとかわかんないの? 裏の抜け道とか、人がいなさそうな秘密の場所とか、侵入しやすい城塞の場所とかさ」
「そういえば……ミンウ様が言ってた東の酒場って、城塞の外にも入口があるわよ」
「でも、そこにはパラメキア兵がいるかもしれないと、ミンウ様が言ってなかったか?」
「フリオニールの言うとおり、ミンウ様もそこはやめておいた方が良いと言ってたけど……行ってみたらどう? もしパラメキア兵がいなかったら、すんなり……とはいかないかもしれないけど、入れるかも知れないわよ」
マリアはそう言って、とある方向を指さした。
たぶん、マリアが言ってるのは、ゲームでいう正解ルートの酒場だろう。
ゲームでも外から行けるのは、そこだけだったからだ。
ここの酒場も同じ仕様なようである。
ちなみにだが、実はアルテアを発つ前、ミンウからすでに、俺達は粗方の事情を聞いていたりする。
フィンの東にある酒場の店主が、反乱軍の仲間だという事を。
ミンウはすでに酒場の店主から色々と情報を得ているのか、今回の本当の目的は、それの確認なのであった。
ゲームとちょい違う展開だが、まぁこの際、目を瞑るとしよう。
「仕方ない。とりあえず、そこに行くか。そこからはまた別の手を考えよう」
「はい」――
当局はこれよりミッション開始する。
俺達は物音を立てぬように注意しながら足早に移動を始めた。
それから城塞を回り込むように暫く進み、目的の酒場が見えたところで、俺達はまた付近の岩陰に隠れ、暫し様子を窺ったのだ。
酒場は何でこうなった? と言いたいくらい妙な佇まいであった。
なぜなら、城塞から外にはみ出すように建っていたからだ。
まぁとはいえ、危惧していたパラメキア兵の姿は入口になかった。
とりあえず、近づくくらいは問題なさそうだ。
「ふむ……城塞側の酒場入口に兵士はいないな。おい、フリオニール、酒場の中はどうなってんだ?」
フリオニールは面目なさそうに頭をかいた。
「すいません、入ったことないのでわかりません。僕、お酒に弱くて……」
使えねぇ主人公だな、おい。
おまけに下戸かよ。
旅してて気づいたが、コイツ、凄い純粋な奴なんだよな。
そりゃ蛇女に騙されるわ。
「マリアは入った事あるのか?」
「何回かあるけど、お父さんを呼びに行っただけだから、中は詳しくないわよ。でも、奥の方に仕切りがあって、そこに酒場のおじさんがいたわ。色んなお酒をそこから出してたのだけは憶えてるけど……」
「ガイ君は?」
ガイ君は無言で首を振った。
まぁ予想通りである。
元は野生児らしいので、仕方ないところだ。
さてどうするかだが、まずは俺が行ってみるか。
「仕方ないな。君等はここにいろ。俺が少し様子を見てくるから。合図したら、俺の所に来るんだ」
「はい、わかりました」――
[Ⅱ]
俺は周囲を探りながら、素早く酒場の壁へと到達し、付近にある窓をそっと覗き見た。
すると、中は案の定、ゲームと同じような感じであった。
(あちゃあ……やっぱりそうだったか。酒場内はキャプテンだらけだ。数にして20人近くいるぞ。だから扉の前に警備兵を置いてないのか。しかし、どうすっかな……酒場内は典型的なバー風だから、隠れる場所がない。こんな中、入っていけるわけがないぞ。仕方ない……陽動作戦といくか。風魔忍者らしく、
俺は窓から見えない位置に移動し、そこで大きく息を吸うと目一杯大声を張り上げた。
【反乱軍だァァァ! 反乱軍の大軍勢が西の方角から来るぞォ! 全員、西の城塞へと行くんだァァァ! 西の方角ダァァァ! 急げェェェ! 敵襲ダァァァ!】
その直後、城塞の方で慌ただしく声が上がった。
【何ィ、反乱軍の大軍勢だとッ!?】
【西かららしい、チッ、行くぞ!】
バタバタと物々しい音が聞こえてきた。
俺はそこで酒場の窓に目をやった。
こちらを見ている者はいない。
俺はそこでそっと窓に近づき、中を覗いてみた。
すると、兵士は誰もおらず、バーテンダーらしきオッサン1人だけとなっていたのである。
即席の陽動作戦は成功したようだ。つか、素直過ぎやろ、帝国軍。
俺はそこでフリオニール達に向かい、手招きした。
それを合図に、3人はこちらにそそくさと駆けてくる。
「あんな手があったんですね。凄いです、カザマさん」
「やけに手馴れてるわね、カザマさん」
「手際……いい」
「話は後だ。さ、中に入るぞ。奴等もじきに戻ってくるからな」
「は、はい」――
[Ⅲ]
扉を開けて酒場の中に堂々と入った俺達は、カウンターの向こうにいるオッサンの所へとすぐさま向かった。
ちなみにオッサンは、小太りでスキンヘッドの強面親父であった。
黒いサスペンダーと、ちょび髭が良い感じである。
「おい、酒飲んでる場合じゃないだろ。アンタ等は行かなくて良いのか? 反乱軍が攻めてきたと聞いて、ここにいたパラメキアの兵士達は皆向かったぞ」
ここは俺が答えるか。
「ああ、それなら大丈夫だよ。俺達は別件で来たんだ」
「別件? ったく、帝国の奴等はわけがわかんねぇなぁ。で、なんだその別件てのは? 言っておくが、もう酒はそんなに無いぞ。アンタ等が毎日浴びるように飲むからな」
俺はオッサンに向かい、合い言葉を告げた。
「のばら……って知ってるか?」
オッサンの目が、見る見る大きくなっていった。
「ア、アンタ達、反乱軍だったのか。ちょうどよかった。この間、脱出した住民に、反乱軍へ伝言を頼んだんだ。上手く伝わったようだな。実はこの壁は隠し扉になっている。この向こうに、傷ついた反乱軍のお偉いさんがいるんだよ。誰かは知らないがな。俺はもう懲り懲りだぜ。この混乱に乗じて撤退させてもらう。後はアンタ等に任せたぞ」
するとバーテンダーの親父はカウンターテーブルの入口を開け、俺達を手招きしたのである。
つーわけで、お言葉に甘えることにした。
そしてバーテンダーのオッサンは、アディオスといわんばかりの手振りをし、颯爽と酒場の外へ出て行ったのだ。
俺はそこで3人に視線を向けた。
「じゃあ、扉の向こうに行こうか」
「はい」
扉の向こうは地下へと続く、古びた木製の階段となっていた。
俺達はその奥へと降りてゆく。
すると下は6畳程度の部屋があり、そこにはベッドで横たわる傷ついた男が1人いたのであった。
なかなかのイケメンだが、怪我で伏せっているのもあり、顔色は悪い。
身体も包帯でぐるぐる巻きになっており、息も荒く、かなり容体が悪い感じであった。
うん、死に掛けである。
男は俺達に気付き、弱々しく口を開いた。
「俺を帝国に売る気か? それなら……せめて……殺してからにしてくれ……生きたまま、捕まりたくはない」
俺は男の傍に行き、合言葉を伝えた。
「よぉ色男……のばらって知ってるか?」
男は目を大きくした。
「そうか……君達は、反乱軍だったのか。私はカシュオーン王国の第一王子、スコットだ」
「え!? 貴方がスコット王子!? 討ち死になさったと聞いたのですが、生きていたんですね」
フリオニールはそう言って、驚く仕草をした。
他の2人も同様だ。
「ああ……だが、長くは持つまい。今の私は癒しの魔法でも、もう治らない身体だ」
「そんな……」
「君達に頼みがある。私の弟ゴードンに伝えてほしいんだ。お前には素晴らしい能力がある。もっと自信を持てと。そして、フィン王に伝えてくれ。フィンが破れた原因はボーゲン伯爵が裏切ったためだ。奴は今、帝国の将軍になっていると。それから……ヒルダ、愛してると……いや、コレは伝えないでくれ、私はもうじき死ぬ。ヒルダは別の人を愛すべきだ……」
「スコット王子……」
この場はすんごい暗い雰囲気になっていた。
もうお通夜状態である。
辛気臭いので、俺が壊すとしよう。
「はぁ? 死にぞこないのくせに、お前どんだけ、お願いしてんだよ。結構、余裕あるじゃねぇか。それに、何勝手に死のうとしてんだ?」
「何とでも言うがいい……私の身体の傷は魔法でも治らない状況だ。もう死ぬのだよ」
「おまけに、自分で愛の告白すらできねぇのかよ。お前も女々しい奴だな。あ、そうそう……お前、ヒルダ王女に結婚を申し込む書簡を送ったんだってな。ウケる……実は俺、その書簡今持ってんだわ。皆に見せびらかしてやろうか? スコットさんよ!」
「何……なんでお前が書簡の事を……」
スコットの目が少しギラついた。
良い感じだ。
ミンウは回復魔法も本人次第と言っていた。
試してみるしかないだろう。
「アンタ、なかなかクサイ言葉を一杯書き綴ってんだね。ウケるわ。皆に見せてやろう」
「や、やめろ! それはやめるんだ! 貴様ァァァ!」
スコットは死にぞこないのくせに半身を起こしてきた。
俺は頃合いと見て、マリアに指示を出した。
「おい、マリア、習得したてで悪いが、癒しの魔法をコイツに掛けろ!」
「え? う、うん、わかった」
マリアは両手を突き出し、スコットに癒しの魔法を掛けた。
すると光がスコットの身体を包み込み始めたのである。
当のスコットがそれを見て驚いていた。
「な!? なぜだ……癒しの魔法が……クッ……」
無理が祟ったのか、スコットはそこでバタリとベッドに倒れた。気を失ったのだろう。
とはいえ、やはり思った通りのようだ。
ガイも道中に似たような事を言っていたが、死を受け入れた者には、そもそも回復魔法も効果が薄いに違いない。
病は気からとはよくいったモノだ。
だが問題がないわけではない。
ミンウは言っていた。魔法で傷は治っても、血までは戻らないと。
つまり、今仮にコイツに魔法が効いたところで、動けない事には変わりがないのである。
「マリア、癒しの魔法を掛け続けてくれ。とりあえず、今はできるだけの治療をしてコイツを生かすんだ」
「わかったわ」――