[Ⅰ]
マリアの癒しの魔法で、スコットの治療をできるだけした後、俺達は酒場を撤収する事にした。
ちなみにスコットは気を失ったままで、今はガイの背中にいる。
彼はたくましいので、力仕事をお願いしたのだ。
また撤収する際、俺達は部屋にある木箱から、彼の所有物と思われるモノを幾つか拝借してきた。
一応、ゲーム的に言えば、宝箱イベントである。
木箱の中には、彼の装飾品と癒しの魔法薬があった。
手に入れた時は「タータタタ、ターターター」という音楽が流れるの期待したが、無音であった。
当たり前か。鳴ったら、寧ろ怖いわ。
そんな冗談はさておき、とりあえず、スコットが目を覚ましたら、後で返すとしよう。
その後、俺達はそろりそろりと階段を登り、上の酒場へと移動した。
サッと確認したところ、酒場内には誰もいなかった。
周囲にパラメキア兵の姿が見えないところを見ると、まだ西の方へ遠征中のようである。
結構距離があるので、暫くコッチには戻ってこないだろう。
などと思っていたら、酒場の街側にある入口から声が上がったのだ。
「誰だ、貴様等!」
まさかのキャプテン登場である。
来たのは1体だけだ。
空気読めよ。
「チッ、いるんかよ。皆、撤収!」
俺はそう言って、城塞側の入口を指差した。
だが、上等兵であるキャプテンの動きは素早かった。
「逃がすか!」
「キャァ」
「マリア!」
なんと、若干キャプテン寄りにいたマリアが、成す術無く捕まってしまったのだ。
マリアの首はキャプテンの腕に絡めとられていた。万事休すである。
ジタバタと必死にマリアはもがくが、キャプテンはまるで意に介さない。
これは不味い事態だ。下手を打つと全滅である。
「マリアを放せ!」
フリオニールは剣を抜き、叫んだ。
ガイはスコットを背負ってる為、早く動けない。
フリオニールは剣を抜いたが、流石にあの武器では、キャプテンのゴツい防具には歯が立たないだろう。
見た目でわかるくらい、武具の性能差があり過ぎるからだ。
ゼロダメージ間違いなしである。
「貴様等何者だ! 反乱軍か! 動くなよ、動けば、この女の首をへし折るぞ!」
パラメキア兵はそう言って凄んできた。
動いたら本当に、マリアを殺しかねない迫力である。
俺はとりあえず、気を逸らす意味も込めて、奴に交渉してみた。
「可愛い女子の首をへし折るなんて、ひどい事するねぇ、パラメキア兵は。悪い事は言わない……その女を今すぐ放すんだ。そうすれば、俺も見逃してやるよ」
「はぁ? 何言ってる、貴様! 放すわけないだろ! 状況を見てモノを言え! 何者だ、貴様等!」
とりあえず、ちょっとおちょくってやろう。
「しゃあねぇなぁ……俺達はパラメキア皇帝を始末する為に結成された謎の暗殺組織、ウボァー特戦隊だよ」
「ウ、ウボァートクセンタイ? なんだそれは? 反乱軍じゃないのか?」
念の為、反乱軍の名は出さないでおこう。
「違うね。一緒にすんな。我々はもっと知的でユーモアがあり、そしてエレガントな存在だ。さてと、放すつもりがないようだし、交渉は終わりだ。フフフッ、用意が出来たみたいだ。後ろを見てみろよ」
「何?」
馬鹿は振り返った。
アホがみ~るぅ、豚のけ~つぅ。
俺はその隙にキャプテンに接近した。
「何もないじゃないか……って、貴様ッ!? いつの間にッ!」
敵の虚を突いた俺は、キャプテンの手首を
気を逸らした事で力が抜けたので、奴の手は簡単に取れた。
まぁ要は不意打ちみたいなもんである。
「グッ、貴様!」
奴の手に力が籠もる。
俺はそれに逆らわず、腕を引き、奴の体勢を少し崩した。
その瞬間、マリアから奴の手が放れる。
続けて俺は、身体を入れ替えるように、自分自身を回転させながら腕を捻り上げ、奴を投げたのだ。
「グァッ、なッ! ゲフッ!」
その刹那、奴の身体は宙を舞い、背中から床に叩き付けられた。
合気道の小手返しに似た投げ技だが、忍びの技なので、えげつない落とし方だ。
だがこれで終わりではない。
俺はそこで奴の首に手を回し、一気に頸動脈を締め上げたのである。
一瞬ジタバタしたが、5秒ほどでパラメキア兵は動きを止めた。
どうやら落ちたようである。
俺はそこで手を離した。
ちなみにこれは風魔の締め技で、
潜入で見つかった場合や事態を打開する時、都合の悪い相手を静かにさせる為のモノである。戦国時代はよく使われていたんだろう。
「さてと……こんなもんか。マリア、怪我はないか?」
「え、う、うん……大丈夫よ」
「凄いです……カザマさん。鮮やかに倒しましたね。武器も使わずに、今どうやって殺したんですか?」
フリオニールは驚きの眼差しで俺を見ていた。
「殺してないよ。気絶させただけだ。ン? おッ、良いもの持ってんじゃんか、コイツ。貰ってくか」
キャプテンの背中には弓と矢があった。
赤い色をした弓で、弓柄に朱色の宝石みたいなのが埋め込まれている。
もしかすると、炎の弓というやつかもしれない。
こんなん問答無用でゲットやろ。
ついでに、腰にある道具が入った革製の袋も頂戴しておいた。
やってることは強盗だが、もうこの際、現実世界の倫理観は無視だぜ。
本当は身ぐるみ剥がして、全部持って行きたいところだが、今は悠長にしてられないので、この辺にしとこう。
「よし、じゃあ行くぞ。またパラメキア兵が来ると不味いからな」
「は、はい」――
[Ⅱ]
酒場を出た俺達は、またガテアへと向かい移動を開始した。
道中、ゴブリン等に何回か襲われたが、俺とフリオニールとマリアで、それらの対応をした。
そして日が暮れ始めた頃、俺達はガルテアの湖付近の森で休むことにしたのである。
怪我人がいるのでそんなに早くは移動できない上、幾ら体力あるガイ君でも、人を背負っての長い行軍は堪えるからだ。
今回ばかりは野営しないと無理なのである。
ちなみにだが、俺の場合、森の中で一晩明かすのは初めてではない。
時々、俺もソロキャンプをする時があるので、そこまで嫌いでもなかったりするのだ。
まぁそれはさておき、俺は地べたに腰を下ろし、木に背を預けた。
他の皆も、そこで地面に腰を下ろす。
ガイはゆっくりとスコットを寝かせた。
ここからは一応、野宿である。
「さてと……この辺までくれば、パラメキア兵にもすぐには見つからないだろう。ガイ君、王子の様子はどんな感じだ? 道中、辛そうな感じとかはなかったか?」
「ずっと……眠ったまま」
「そうか。結構、体力失ってたからな。今はそっと寝かせとけ」
「わかった」
そこでフリオニールが口を開いた。
「カザマさん……ミンウ様はフィンに行けと言ってましたが、スコット王子の事を知ってたんですね」
「いや、知らんだろ。酒場の親父も、誰か知らないと言ってたし。ただ、お偉いさんとはわかってたから、誰か確認したかったんじゃないのか。まぁとはいえ、不正確な情報を鵜呑みにも出来ないから、帝国に顔が知られてない俺達に行かせた……ってのが真相だと思うがね」
「あ、なるほど……そういうことか」
コイツは心が綺麗なので、人を簡単に信じそうなタイプだ。
マルチ商法にすぐ引っかかりそうである。
「まぁ何れにしろ、このまま王子を連れて帰れば、ヒルダ王女も流石にフリオニール達を認めると思うよ。君達は反乱軍になれるかもな」
「そうだと良いですね。でも……カザマさんはどうするんですか? カザマさんも反乱軍に?」
俺は
「いや、俺は遠慮しとくよ。そういう殺伐としたモノは好きじゃないんでね。ま、といっても、報酬は要求するがな。ン?」
するとマリアが、微妙な表情で俺を見ていたのである。
何か言いたげであった。
「どうした、マリア? 何か言いたそうだけど」
マリアは少し恥ずかしそうに口を開いた。
「あ、あの……さっきはありがとう。助けてくれて」
「ああ、それのことか。いいよ、気にしなくて。金になりそうな戦利品も手に入れたしね」
俺はそこで、背中にある弓と、腰にある道具袋に視線を向けた。
ちなみにこれは、炎の弓で間違いないそうだ。
フリオニール曰わく、この弓で矢を射れば、炎の魔法が付加されるらしい。
つまり、魔法の弓なのである。
おまけに道具袋には、そこそこの金貨と、魔法書も入っていたのだ。
まさかのキャプテン狩りで、ある意味、ラッキーな展開であった。
「そういうわけにいかないわよ。私、今度こそ死ぬかもって思って……だから……ありがとう、カザマさん。私……貴方に、何か出来ることあるかな」
マリアは穏やかな表情で俺を見ていた。
やや恥ずかしさが見え隠れするが、どうやら気を許してくれたようだ。
ちょっとは信頼を得たみたいである。
「律儀だね、マリアは。俺達は今、旅の仲間だから、お互い様だよ」
「でも……」
「じゃあ今度、何か美味しいモノでも食べさせてよ。それでいいから」
「そんなのでいいの?」
「いいよ……ン?」
するとそこで、呻き声が小さく聞こえてきたのである。
「う……うう、う……こ、ここは……」
どうやら色男が目覚めたようだ。
俺達の会話が目覚ましになったんだろう。
「おはよう、スコット王子。よく眠れたか」
スコット王子は首を動かし、俺に視線を向けた。
「君達はさっきの……」――