無限の成層圏 虹になった男   作:syunin

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 誤字報告本当に申し訳ないです……


十二話

 

 「月末トーナメント、か」

 

 月曜の朝、不意に私が呟いた。

 

 「確かタッグ戦でしたわよね。シャアさんは誰とタッグを組みますの?」

 

 セシリアがそう聞いてくる。

 

 「実はシャルル君に目を付けていた。だがな……」

 横に視線をやると一夏とシャルルがいた。因みにシャルルはまだ男装状態である。

 シャルルの件についてはやはりIS学園も認知していたらしく、スムーズに話が進んだ。フランス政府もこのまま代表候補生を続けてもらいたいと言い、デュノア社も支援するという通達が下りた。

 ただ女性という事をばらすのはまだ日程の調整が必要という事で、現在は男装を続けている。

 

 「悪いなシャア。シャルルを取っちまって」

 

 「いや、構わないとも。しかしシャルルと一夏のペアか……なかなか面白い戦いになりそうだ」

 

 「一夏とのタッグなら、シャアに勝てる……かも…………うん」

 

 「やる前から弱気では勝てるものも勝てなくなってしまうぞ、シャルル君」

 

 私は段々と声が小さくなっていくシャルルに活を入れた。そんな弱気でかかられてもつまらない。

 

 「そうすると、シャアさんのパートナーは誰がふさわしいのです?私は……機体構成からしてバランスが崩れてしまいますわね」

 

 「そうだな……私は近距離もこなせるが、やはり僚機となると中近距離の子が望ましいな」

 

 「そうなると、私か……」

 

 「あたしって訳ね」

 

 箒と鈴が私の言葉に返した。まあそうなるな。しかし……

 

 「悪いけどあたしまだあんたへのリベンジ考えてるから。誘うならよその子にしてくれない?」

 

 「私は、その……まだシャアの隣で戦えるほどの実力がないと思うんだ」

 

 「わかった。どうにかして予定日には間に合わせるとしよう」

 

 そう言う私の口からは思わずため息が出る。正直なところ目途が立っていない。

 

 「どうしたものか……」

 

 「ま、あんたなら早々に見つかるでしょ。とんでもない腕前を持ってるんだし」

 

 「でも、わたくしでもシャアさんがパートナーだと少し委縮してしまいそうですわね」

 

 「逆に自分の腕前を披露したい人も断るんじゃないか」

 

 「そうだな」

 

 私の呟いた言葉に鈴、セシリア、箒がそれぞれ返してくる。まったく困ったものだ。

 元々プロト・ブルーティアーズは遠距離用に作られている。そうなると僚機も結構絞られてくる。

 そしてそれ以上に万能機がこの手の勝負ではより一層強くなる。

 今現在私の周りにいる専用機持ちで考えると、

 

 遠距離型:セシリア、私

 中~近距離型:鈴、箒(箒が好む武器構成であり、箒が今駆っている打鉄は全距離対応できる)

 近距離型:一夏

 全距離対応万能型:シャルル 

 

 となる。正直シャルルが万能すぎて手が付けられない。まあ、撃墜(おと)す方法は幾らでも存在する……が。

 しかし、僚機がいないのは頭の痛い問題だ。

 そう考えていると織斑先生と山田先生が教室に入ってくる。私達は即座に席に着き、鈴は自分の教室へ戻った。もう出席簿は御免なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「あ」」

 

 思わず同時に間抜けな声が出てしまった。

 

 「といっても、いつもの事なんだけどね……」

 

 「そういえば、シャアさんは政府への報告があるみたいで少し遅れるようですわよ」

 

 鈴さんの言葉にわたくしが返した。わたくしたちは今日もシャアさんとトレーニングを行う予定だった。

 

 「そっかぁ、じゃあ連携の練習でもする?山田先生にコテンパンにやられた後だし」

 

 「その方が月末のトーナメントでも生かせそうですわね」

 

 鈴さんの返答にわたくしが同意した。中国の代表候補生の機体とデータを見たいという下心もある。

 

 「では……」

 

 瞬間。亜音速の弾丸が飛来する。

 緊急回避しわたくしと鈴さんが飛来元を見ると、そこには漆黒の機体が佇んでいた。

 機体名シュヴァルツェア・レーゲン、登録操縦者────

 

 「────ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 思わず顔が強張ってしまう。しかし、両方の拳を突き合せた鈴さんが言葉に出す。

 

 「あんた、前に言ったわよね。喧嘩うってるのって……」

 

 そうしてアリーナの壁に突き刺さった弾頭を指さしてさらに言う。

 

 「これが答えって訳」

 

 「中国の甲龍(シェンロン)にイギリスのブルーティアーズか。……ふん、データで見た時の方が戦いごたえがありそうだったがな」

 

 いきなり挑発するような物言いに、わたくしも鈴さんも思わず口を引きつらせる。

 

 「……へぇ、宣戦布告って捉え方であってるわよね」

 

 「ドイツの方は相当下品な様子で。相当の蛮地から来たとみられますわね」

 

 ボーデヴィッヒさんの言い様にわたくしも口調が荒くなる。

 

 「セシリア、どっちがスクラップにする?じゃんけんで決めようか?」

 

 「まあ、いいですわね」

 

 「ふん、所詮はまともな教練も受けてない素人に毛が生えた程度の分際が。いいだろう、二人でかかってくるがいい。ウォーミングアップだ」

 

 その言葉に鈴さんとわたくしの声が重なる。

 

 「「上等!」」

 

 そして、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅむ、意外としぶといな」

 

 直ぐに終わらせるつもりで意気込んだが、案外持つものだこの二人は。

 英国娘のレーザーを潜り抜けると、中国娘が双刀を振りかぶる。

 私、ラウラ・ボーデヴィッヒはそれをプラズマ手刀で受け止める。相手の機体特性は理解しているのでこの後起きることは理解していた。

 突っぱねる様に双刀を斬り上げる中国娘。少し距離を取った瞬間に来る衝撃砲を、私は横回りの要領で三次元機動を使い回避する。

 そして来るのは英国娘のレーザー。BITと絡めたそれは銃口が完全に私の退路を塞いでいた。

 瞬時加速で回避。追随してくるBITを後目に私はレールカノンを放つ。

 超音速のそれは寸分違わず英国娘の胸に飛来し直撃した。

 

 「オごぉ……!」

 

 苦悶の声が聞こえてくるがそれに愉悦する性分でもなければ状況でもない。僚機が立て直す隙を作ろうと中国娘が双刀を振りかぶっている。

 再びの鍔迫り合い、しかし今度は此方から突っぱねた。

 即座に飛来してくるレーザーを緊急回避。あの英国娘、体勢を立て直すのが早いな。

 

 「中々楽しませてくれる。さては織斑教官に仕込まれたか?」

 

 散らばりながら収束していくレーザーの束をくるりと回避し、此方から中国娘にプラズマ手刀で連撃をくらわせる。

 こちらの方がより取り回しが良い分、何発か喰らわせることが出來た。

 

 「織斑……先生よね!生憎と違うわよ!」

 

 三度鍔迫り合い。英国娘からの攻撃を食らわない様に回転しながら行う。

 鍔迫り合いは今度は互いに横をすり抜ける形で終わった。すぐさま飛んでくるレーザーを回避。

 

 「やばっ」

 

 中国娘が慌てて衝撃砲を撃とうとするも、私の方が速い。

 英国娘に片手でプラズマ手刀を繰り出すとブレードで受け止められる。すかさずもう片方の手でプラズマ手刀を形成する。

 

 「くっ、やぁっ!」

 

 英国娘が蹴りを繰り出す。それに対応している間に瞬時加速で中国娘と合流された。

 

 「ほう、では誰から教練を受けた?」

 

 「自分で当ててみてはいかがですか?」

 

 私はその言葉を興奮気味に受け止めた。織斑教官ではないのなら相手は誰でもいい。それならば────

 

 「そうか。……ではその目に焼き付けろ!ドイツのISの実力をな!」

 

 ────持てる全てでもって、相手を撃滅するのみ!

 中国娘の衝撃砲が飛んでくるもそれはすべて私に届くことなく静止(・・)した。

 

 「嘘っ!」

 

 「まさか、AIC(アクティブ・・イナーシャル・キャンセラー)!?ここまで完成度が高いのですの!?」

 

 そう言いながら英国娘のレーザーが飛んでくるも、もう遅い。

 宙返りをしながらそれを避け、再び放たれる衝撃砲をAICで停止。ワイヤーブレードを中国娘に向けて展開する。

 

 「きゃあ!」

 

 そしてヨーヨーの様に回し、アメリカン・クラッカーの様に英国娘にぶつけた。

 

 「捉えたぞ!」

 

 そしてレールカノンを構える。が────

 

 『こちらもな』

 

 ────オープンチャンネルの声。数瞬後に飛んでくるレーザー。

 正確無比なそれを何とか避けきり、飛来元を見てみるとそこには金髪の男が。

 

 「シャア・アズナブル……!」

 

 「随分と好き勝手してくれたようだな」

 

 「そうか、貴様が教師役か」

 

 シャア・アズナブル。

 この男の技量は、瞬く間に世界を席巻した。

 

 「英国人(ライミー)にしてはよくやると聞いた」

 

 「独逸人(クラウト)らしい、立派な長距離砲を担いできたな。だがそれを自在に扱えるか?」

 

 一触即発の状態。

 そのままぶつかり合う寸前。アリーナのシールドが割れた。

 

 「手前、誰のダチに手ぇだしてんだ!」

 

 シールドを破壊した下手人が吠える。

 そのまま直線軌道で来るそれ(・・)を、私はAICで止める。

 

 「なっ……動かなっ…………!」

 

 「もういい、貴様への興味はほとほと尽きた」

 

 そのまま蹴りを入れると後ろに吹っ飛ばされる織斑一夏。……これで教官の弟が名乗れるのだ、面の皮が厚いというのはこの事か。

 

 「今は貴様への興味がある……シャア・アズナブル!」

 

 「いいだろう、ならば受けて立つまで!」

 

 シャア・アズナブルがBITを展開する、私がレールカノンを構える、その時。

 

 「まったく、最近のガキはこれだから困る」

 

 その声に両方が停止した。織斑先生の登場だ。

 

 「元気が有り余るのもいい。模擬戦をやるのも一向にかまわん。……だが、アリーナのシールドを破壊される事態になられてもな。この決着は月末のトーナメントでつけてもらおうか」

 

 「わかりました、教官」

 

 教官の言葉に私はすぐさまISを待機状態に戻す。

 シャア・アズナブルも展開していたBITを元に戻した。

 

 「アズナブル、織斑、鳳にオルコットもそれでいいな」

 

 「あ、ああ……」

 

 織斑先生の登場に、未だ一夏は戸惑っているらしい。

 

 「教師にははいと答えろ、馬鹿者」

 

 「は、はい!」

 

 「わかりました」

 

 一夏の言葉にシャア・アズナブルが続き、英国娘と中国娘も同じく返答した。

 しかし、シャア・アズナブルか……

 

 「貴様の名前、覚えたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、今朝の話悪いけど忘れてくれない?」

 

 その後、私は鈴に廊下に連れ出された。

 

 「今朝の話とは?」

 

 「トーナメントのパートナーにはならないって話」

 

 月末トーナメントの話か。気が変わった、という事は……

 

 「あたしと組んでよ」

 

 「構わないが、急になぜ?」

 

 「あんたにリベンジする前に、あいつにリベンジしたい」

 

 成程。しかし……

 

 「私と組んでメリットはあるのか?」

 

 「簡単な話よ。あんたとなら絶対勝ち上れる。その上で────」

 

 鈴の瞳が私の視線と交わる。

 

 「────あいつと当たった時、タイマンに持ち込ませてよ」

 

 「ふむ、相手の僚機をひきつけろと言う訳か」

 

 「お互いスタンドプレーが性に合ってるでしょ」

 

 「そうだな」

 

 鈴の言葉に同意する。確かにお互いが独立して動く方が良い。それに、正直私はこのトーナメントで負ける気がしない(・・・・・・・・)。誰が相手であろうとも、だ。

 

 「その話引き受けよう」

 

 「そう」

 

 私の言葉にそれだけを告げるとそう言って後ろを向く鈴。

 

 「言っとくけど、あんたへのリベンジは後回しにしただけ。忘れないでね」

 

 そう言うと鈴は歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月末、トーナメント当日。

 一回戦は、まさかの私達に対し、ラウラ・ボーデヴィッヒと箒のペアという組み合わせだった。

 

 「まさか一回戦でお目当ての人物と当たるとはな……運がいい」

 

 「ほんと、丁度いいわね……絶対にぶっ潰してやるわ」

 

 鈴が鼻息を荒くしながら言う。しかし……

 

 「鈴君。君の機体で勝つのはかなり難しい。これは力量差ではなく機体相性の問題だ」

 

 「わかってる。空間圧作用を利用してる以上、私の衝撃砲ではAICは破れない」

 

 それが分かっていてもやめられないのだろう。彼女の頑固っぷりは僚機としての訓練で嫌と言うほど感じた。

 

 「相手に視線を追わせない、可能なら視界の外にいる、エネルギー波を合わせない。これが戦法ね……出来る限りはやってみるわ」

 

 「骨は拾ってやろう」

 

 「最初っから負ける前提で言うんじゃないわよ!」

 

 脛を蹴られた。今のは私の失言だった。

 

 「……絶対勝つわよ」

 

 「勿論」

 

 それっきり、無言でピットから出る。

 そして、私の相手になるだろう(・・・・・・・・・・)彼女にとってはきつい場面になると思うがそこは耐えてもらうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今度こそ、あんたをぶっ潰すわよ。一対一(サシ)でね」

 

 「なんだ、てっきりシャア・アズナブルと二機でと思ったのだが……仕方ない、まずは前菜からだ」

 

 「そのデカい口、二度と聞けなくしてやるわ!」

 

 隣で鈴とボーデヴィッヒが何やら話していたが、その内容が全く入ってこない。

 何故なら、この目の前にいる男。

 

 「では箒君、いかせてもらうぞ」

 

 シャアの全身から出てくる重圧に、押しつぶされそうになったからだ。

 シャアのレーザーをすんでのところで二回、三回と回避すると、直線軌道のままブレードを振りかぶってくる。

 私はいち速く刀をピックし応戦、鍔迫り合いが起こる。

 

 「ほう、いい反応だ」

 

 ISの出力では此方の方が負けている。しかし鍔迫り合いがまるで引き合うかの如くくっついて離れない。

 結局シャアが強引に斬り上げるとBITが展開、即座に此方を目掛けて飛んでくる。

 四方を囲まれた私は瞬時加速を使って脱出を試みる。即座に自分の行動の迂闊さに気づく。

 

 「瞬時加速を過信しすぎだな」

 

 私の飛行経路を読んだレーザーが飛来。直線で私の胸に吸い込まれるそれに何も対応できず被弾する。

 即座に体勢を立て直すも、すでにBITが周囲を囲んでいた。

 咄嗟に回避機動をとるも、毎回どれかのBITからの攻撃は避けきれずに直撃してしまう。

 なんて精度、なんて思考速度、なんて思慮深さ。

 ISでの特訓で何度か戦ったが、それまでの動きとは断然違う。

 BITからの攻撃を回避しようとしてシャアとの視線がぶつかる。

 私は今まで剣道を嗜んで来た。だからわかる。理解できてしまう。

 ────あれは、敵を見る目だ。

 肌が粟立つ。言い訳はできない、これは恐怖から来るものだ。

 私に接近してくるシャア。近接戦を仕掛けてくるつもりだ。

 ピックしてあった刀で一振り、二振り。すべていなされる。

 そのまま高速の刀とブレードの振り合い。真向斬り、受け止められる。袈裟斬り、流される。一文字斬り、斬り返される。

 シャアはこれでもかと私が撃ち込んだ攻撃を難なくいなし、受け止め、反撃する。

 自然と鍔迫り合いが起きる。此方の不利な状態で。

 シャアはそれを再び斬り上げると、先程と同じようにBITでの攻撃に転じた。

 回避し、それでも被弾しながらアサルトライフルをピック、シャア目がけて乱射する。

 

 「狙いがお粗末だな」

 

 シャアはそう言いながらバレルロール、銃弾は全て虚空へと向かう。

 シャアはその手に持つライフルを撃たず、全てBIT依存の攻撃をしている。

 そしてそれを避けきれず、じわじわとシールドエネルギーを消耗していく。

 ────シャアに嬲り殺しにされている。

 本人にそのつもりはないだろう。

 これは特訓の延長線上、彼は未だ教導するつもりでいる。

 しかし、明確に敵としてみているのも事実。

 この男は一体どれほどの高みにいるのか、想像するだけでも恐ろしい。

 そして彼はこの戦闘中、私が鈴とボーデヴィッヒの戦いの邪魔にならないように誘導している。

 この戦いの中で、パートナーへの配慮も欠かせない。

 いったいどこで、その研ぎ澄まされた技量を掴んだのか。

 そして、私にも(・・・)新型機があればその領域に一歩でも踏み込めるのか。

 そんな気の迷いは知れず。

 私の機体のシールドエネルギーが三割をきった時、シャアはBITとライフルを使った猛攻撃で私を撃墜(おと)した。

 鈴がボーデヴィッヒに撃墜(おと)されるのと同時だった。

 

 「ごめん、あたしじゃ無理だったわ……」

 

 「ふん、素人が。まあ流石に遊ばれるか」

 

 鈴とボーデヴィッヒの言葉は対照的だった。ボーデヴィッヒのシールドエネルギーは七割弱、そこまで削れては無かった。

 しかし、この男の前では。

 

 「では、メインディッシュと行こうか。シャア・アズナブル!」

 

 「では、ドイツのISの性能とやらを見せてもらおうか」

 

 何もかもが、無謀に見えた。

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