女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第17話 ニート、一歩踏み出す

「つーわけで、一晩で教会を建てろ駄女神」

「いきなりで話が見えないんだけど!?」

 

 俺は寝ているエリシャを起こさないように家を出て、女神を叩き起こした。

 

「ていうか、石は酷くない!? 私、女神なんですけど!」

「じゃあ、投げ込んだのと同じこれはいらないってことだな」

 

 俺はクマの巣穴から回収してきた大量のダイヤモンドを女神の前に置いた。心底こいつにこれを捧げるのは嫌だが、目的のためにはこいつの力が必要なのだ。手段は選んでいられない。

 

「そのダイヤモンドの量……何が望みなの?」

 

 さすがに、ありえない質と量の捧げ物をチラつかされ、あからさまに女神は警戒した。

 

「教会を建てろって言っただろ」

「ははーん、まさかあんたがそこまであの子にゾッコンだとはねぇ……」

「今度は女神の加護全開で肩強化してこのダイヤを投げ込んでやる」

「すぐに取りかからせていただきます!」

 

 そう言ったものの、泉の上で土下座を決めた女神はしばらくすると思案顔で唸った。

 

「あー、やっぱ無理。だって教会って人工物だもの。家なら自然の力でそれっぽいの作れるけど、教会は私を崇拝した人間の信仰心の結晶。人間にしか作れないわ」

 

 いかにも女神らしい理由ではあるが、それでは俺が困るのだ。

 

「いまさら女神っぽいこと言ってんじゃねぇよ。女神の力なら因果逆転とかで教会があるって結果を作って過程をすっ飛ばすことくらいできるだろ」

「あんたは私をなんだと思っているのよ!」

「超万能な力に超無能な人格が宿った残念な道具」

「本当にいい加減、バチ当てるわよあんた!」

 

 バチが当たるではなく当てると表現するあたり女神らしい発言である。

 

「とにかく! 教会を作るなら人間が作らないとできないの!」

「じゃあ、人間に加護を全開で使えば可能だよな」

 

 俺の言葉に喚いていた女神はぴたりと口を閉じ、信じられない物を見るような目で俺を見て言った。

 

「本気、なの?」

「ああ、さんざん働かずに暮らしてきたんだ。ニートがたまに働いても女神はバチを当てないだろ?」

「肉体の限界を超えて加護を使う以上、肉体に相当な負荷がかかるから下手したら死ぬわよ」

「まあ、そのくらいならいいぞ」

 

 元より死んだように暮らしていたんだ。明日から生き直すための料金だと思えば安いものだ。

 

「……あんた、バカだと思ってたけど大バカね。きっとあの子がこのことを知ったら怒るわよ」

「それか泣かれるかもだな。でも、これは俺がしたいからするんだ。文句を言われる筋合いはない」

「……言っとくけど、あんたが死んだら私が困るんだからね!」

「あっ、駄女神のデレはいらないです」

「ムキッ――――! ああもう! あんたなんか過労で死んじゃえば良いのよ! このクソニートに女神の加護を与えます! 死ぬ気で私を崇め奉る教会を建てなさい!」

 

 目の前のダイヤモンドを全て力に変換した女神は全力で俺に加護をかけてきた。

 もちろん、このまま知識のない俺が教会など建てられるわけもない。

 そこで俺はある人に助っ人を頼むべく、クダイさんの経営する〝クダイ工務店〟へとやってきた。

 

「らっしゃい……ああ、君か」

 

 普段街に降りてこないからか、クダイさんは意外そうな表情で俺を出迎えてくれた。

 

「カイジはいますか?」

「……うちの倅に何か用か」

「彼の力を借りたいんです」

 

 俺が求めているのは教会の図面だ。クダイさんほどの人に頼むとなれば高額な金銭が発生してしまうし、女神の加護など説明が面倒だ。

 なら図面だけをカイジに用意してもらって、俺が教会を作るのがてっとり早いのだ。

 そんなわけでカイジを借りて、教会を作る旨を話したところ特に事情も聞かずに二つ返事で了承してくれた。

 

「……これでいいか」

「ああ、ありがとな。でも、いいのか? 無報酬でここまでしてもらって」

「……気にするな」

 

 確かにカイジに頼んだ方が安上がりで面倒じゃない、という理由では選んだが、無報酬となるとさすがに申し訳ない。

 

「恩に着るよ」

 

 図面を手に入れた俺はそれから三日間、斧や金槌を振り回して教会建築に取り掛かった。女神の加護で緩和されているとはいえ、筋肉痛なんて生温い筋肉の断裂による激痛に耐えながらも、なんとか簡素ではあるが教会を建てることに成功したのであった。

 当然、休憩なしで作業し続けたわけではない。きちんと食事はとっているし、大工の息子のカイジに来てもらって細かな指示をしてもらいながら建てた。むしろ、かなり手伝ってもらってしまった。

 

「し、死ぬかと思った……」

「呆れた。あんたって意外と精神力強いのね。らショック死してもおかしくなかったのよ? もしそうなりそうだったら止めるつもりだったけど、まさかやりきるとは思わなかったわ」

 

 女神は心底呆れた様子でため息をつくと、パチンと指を鳴らして教会を光で包んだ。

 

「地盤とかそこら辺の整備はサービスで私がやっといたから問題ないわ。木材とかも私の加護がある限り劣化はしないし、あの凄腕大工が建てた家より丈夫よ」

「大盤振る舞いだな」

「これでも女神よ。心からの捧げ物には誠意を見せないと存在が揺らいじゃうもの」

 

 そう言い残すと女神は泉に溶けるように消えていった。いつもこのくらい女神らしくしていれば、俺だってこいつを信仰していただろうに、本当に残念な女神だ。

 ともあれ、これで教会は完成した。

 俺はボロボロの体に鞭打って自宅に戻り、エリシャを呼んだ。

 

「ね、ネイトさん!? 三日以上も帰ってこないで何してたんですか! 心配したんですよ!」

「書置きは残しておいたろ。いいから黙ってついてきてくれ」

 

 最初はボロボロの俺の姿を見て血相を変えたエリシャだったが、黙ってついてこいと言ったら何かを察したのか、泉まで無言でついてきてくれた。

 

「これは……」

 

 女神の泉の隣に建てられた簡素な教会を見てエリシャは息を飲んだ。

 

「なんか女神の加護が漲ってきて、暇潰しに建てたらそれなりの物ができたって感じだ。ちょうど良かったじゃないか」

「これはネイトさんがお一人で?」

「設計とかはカイジにやってもらったよ。ま、女神の加護があれば俺でもこのくらいはできるんだよ。はっ、いつものあれだろ。さすがは――」

「さすがはネイトさんです」

 

 女神様。そう続けようとした俺の言葉を遮ってエリシャはそう言った。

 いつもと違うエリシャの言葉に驚いていると、エリシャは頬を膨らませた。

 

「私だって本質的に誰のおかげかくらいはわかりますよ」

「お、おう」

 

 思えば、いつもの台詞は俺が女神の加護を良いように使っている時に言っていた。

 

「とりあえず、エリシャはここに住めよ。女神の住む泉の隣の教会なんて最高だろ?」

「ええ、これ以上ない程の贈り物です」

 

 エリシャは本当に嬉しそうにはにかんだ。

 

「そういうわけで、今日からエリシャはうちを出てここで暮らせ」

「えっ」

「金に関してはユイさんのとこでバイトでもして貯めろ。食べ物もそれでなんとかなるだろ」

 

 これで俺のエリシャに対する優位性はなくなる。

 俺がいなければ暮らしていけない。そんな状態では対等ではない。あくまでも同じようにここで暮らす島の住民としてエリシャとは接していきたいのだ。

 

「はあ、本当にあなたと言う人は……」

「なんだよ。文句でもあるのか?」

「いいえ、ここまでしていただいて文句なんて言ったらバチが当たってしまいます。お言葉に甘えてここで暮らすことにします」

 

 こうして俺は今まで通り気楽な一人暮らしに逆戻りだ。

 きっと明日からはあのうるさいモーニングコールを聞かなくて済む。そう考えると、少しだけ寂しさを覚えた。

 

 だが予想に反して、次の日に俺はいつも以上に耳を劈くような大声で起こされた。

 

「さあ起きてください! 今日も朝を迎えられたことを女神様に感謝しましょう!」

「エリシャ? どうして、ここに」

「授業料です。まだ完全にここの言葉は話せるようになっていませんから。あっ、ご飯はもう出来てますよ」

 

 てきぱきと家事を済ませていくエリシャを止めるように俺は声をかける。

 

「いやいや、言葉を教えただけでここまでしてもらうわけには――」

「これは私ががしたいからするんです。文句でもあるんですか?」

 

 どこかで聞いたことがあるような言葉に、俺は観念してエリシャの言葉に甘えることにした。

 

「いいや、ここまでしてもらって文句なんて言ったらバチを当てられる。今日の朝ごはんは?」

「バタートーストと紅茶です」

 

 出てきたのは、いつもと同じ質素で味気ない朝食だったが、その味は以前よりもほんの少しだけおいしく感じられたのだった。

 




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