女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第20話 ニート、大工の息子と仲良くなる

 翌朝、起きるとカイジがいなかったため、二度寝をしたいという欲に逆らい、なんとか起き上がる。

 昨日好きにしていいと言ったし、きっと小屋にいるのだろう。

 ひとまずカイジに会うため、扉を空けて外へ出ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

「嘘じゃん……」

 

 無秩序に生い茂っていた雑草が消えていた。それどころか、道らしい道もなかった家の前にきちんと整備されていた道ができていた。

 

「……おはよう、ネイト。雑草なら抜いておいたぞ」

「えっ、雑草って家の前の全部か!?」

「ああ、お前を手伝ってる農家の人達も大変だろうから何か手伝えないかと思って」

「カイジのおかげで大助かりなのナー!」

 

 コナーの声がした方を向くと、そこにも家の前と同様に道が出来ていた。

 

「最初はちょっと整備するだけのつもりだったんだが、一度作業に手をつけると止まらなくなってな。そのまま続けたらこうなってた」

 

 カイジの表情は楽し気で、こういう作業が好きなことを窺わせた。どうやら彼はかなりの凝り性のようだ。

 もしかすると、カイジはかなり優秀な人材なのではないだろうか。これからの島の発展を考える上では、彼の存在は欠かせない存在になるかもしれない。

 そう考えると、もっと優しく接して恩を売っておいた方がいいだろう。

 

「これ、食べてけよ。余っても肥料に再利用するだけだし、もったいないから」

 

 俺は不揃いの売り物にならないトマトをカイジへ渡す。

 

「いい、のか?」

「言っただろ、もったいないって」

 

 どうせ潰して肥料にするなら人に食べてもらった方がコナー達も喜ぶだろう。

 

「……うまいな」

 

 強引に渡した形の悪いトマトを躊躇いがちに齧ったカイジは、驚いたように呟いた。

 

「だろ? コナーの作った自信作だ」

「えっへん、なのナー」

 

 作物を褒められたコナーは誇らしげに胸を張る。見た目は爽やかな好青年だが、仕草や口調は子供っぽいから、違和感が凄い。

 

「ネイトさん、コナーさん、おはようございま――あれ、ネイトさんがこの時間に起きてる!?」

「おはよう。そんなに驚くことないだろ」

 

 挨拶と同時に驚きの声を上げるエリシャに思うところがないわけではないが、ここはカイジの紹介が先だ。

 

「エリシャ、昨日話した管井改治だ。そこの小屋に居候することになった」

「……よろしく頼む」

 

 カイジは帽子のツバを深くかぶり、呟くように挨拶をした。その気持ちわかるぞカイジ。友達の友達と話すときは気まずいものだからな。

 

「はい、よろしくお願いします! 私はエリシャ……あ、はじめまして、ワタシ、エリシャ、いいます」

 

 山の上では、俺やコナー達と話すことが多いからか、エリシャは基本的に英語を使っている。そのため、エリシャはいつもの癖で英語で自己紹介をしていたが、自己紹介の途中からカイジに英語が通じないことに気づいたのか、器用に日本語に切り替えていた。

 

「……こっちの言葉、話せるのか」

「ええ、まだ習う、サイチュウですが」

 

 エリシャの日本語はまだまだだが、普通に暮らす分には支障が出ないだろう。実際のところ、話すのに難があるだけで、聞き取りは問題ないレベルまで到達している。

 本当にこいつが人身売買において〝できそこないの商品〟だったかどうかは、非常に疑わしいところである。マザーダリアが姿を眩ませたのって、本当はエリシャを含めた孤児達に情が移ったことが理由なのではないだろうか。

 

「とりあえず、朝食頼むわ」

「リクエストはありますか?」

「なんでもいい」

「なんでもいい、が一番困るんですけど……わりました。適当にパッパと作っちゃいますね」

「おう、頼むわ」

 

 ため息をつくとエリシャはエプロンを着ててきぱきと料理を始めた。

 思えば、エリシャは以前よりも断然、料理の腕を上げてきている。

 毎日、いろんな献立を考えて作っているのだから、当然といえば当然なのだが、それにしてもである。

 二ヶ国語を話せて、料理もうまいシスター。こんな優秀な人材、滅多にいないだろう。あの駄女神を妄信しているところは玉に瑕だがな。

 

「さあ、できましたよ!」

「おお、今日はミネストローネか」

「……うまそうだな」

 

 エリシャが作ってくれた朝食はミネストローネとトーストだった。獲れたての野菜をたっぷりと使ったミネストローネは絶品だが、トーストの小麦は輸入品である。ここまで来たら、全て自給自足している状態へもっていきたいところだ。

 とはいえ、うまいものはうまい。こんなことで不満を言っていたら、あの駄女神にバチを当てられてしまうだろう。

 

「今日もうまいな」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 俺がエリシャの料理に舌鼓を打っていると、横ではカイジが何やらぶつぶつと呟いていた。

 

「……いくら野菜が新鮮とはいえ、ここまでうまくなるか? いや、俺が今まで食っていたのは朝食じゃなかったんだ。親父の奴……」

「大工仕事で忙しいんだから、そこは勘弁してやれよ」

 

 食えればいい、という思考を持っていそうなクダイさんが作る食事はあまり食べたいとは思わない。それはそれとして、無人島を開拓するために日夜働いている彼においしい食事を要求するのも酷というものだ。

 

「「ごちそうさまでした」」

「はい、お粗末様でした。それではコナーさん達にも配ってきますね」

「おう、ありがとな」

 

 エリシャはミネストローネが入った鍋を持つと、農場の方へと歩いていった。

 

「じゃ、俺は鉱山に行ってくるわ」

 

 そして、俺は今日も今日とて安定の炭鉱夫生活である。

 

「あ、ネイト。できれば余った鉱石とかあれば欲しいんだが……」

「余ったのって、クズ鉄とか?」

「ああ、それで構わない」

「いいのかよ……」

 

 それから俺はひとしきり鉱山で採掘作業を繰り返し、カイジのリクエスト通りクズ鉄は捨てずに持って帰ってきた。

 

「本当にクズ鉄でいいのか?」

「これが結構使えるんだ」

 

 俺からすればゴミ同然のクズ鉄をカイジは喜んで受け取った。鍛冶に使えるというが、本当に使えるのだろうか。

 

「ネイト、そのツルハシ……」

 

 カイジは俺が担いでいるツルハシに目を向ける。

 

「ああ、これか。この島に漂着した時から使ってるから結構ガタがきてるんだよ」

 

 俺のツルハシはハイペースで鉱山を掘り進めていたせいか、そろそろ新しいの買わないといけないレベルでガタがきている。思い入れはあるが、元々ボロかったし仕方ないだろう。

 

「俺なら直せる」

「マジか、それなら修理を頼みたいんだが」

「任せてくれ、ネイトには世話になったからな」

 

 カイジは珍しく笑みを浮かべて俺のツルハシを受け取る。大工に鍛冶も出来るって万能マンかこいつは。

 なんでそんなに多才なのか気になった俺は、自分でも柄ではないと思いつつも、カイジに尋ねた。

 

「カイジって多彩だよな。クダイさんって大工一筋って感じだし、他のことはさせてくれなそうなイメージがあるんだが」

「そうなんだ!」

「どわっ!?」

 

 俺の言葉を聞いたカイジは突然大声を出して立ち上がる。その豹変ぶりに驚きのあまりずっこけてしまった。

 

「あ、すまない。急に大声出して……」

 

 バツが悪そうな表情を浮かべると、カイジは改めてイスに腰掛け直した。

 

「ネイトの言うとおり、親父は昔から頑固だった。俺を大工にすることしか考えてなかったからな。俺が何しても否定ばっかりだ。別に大工の仕事が嫌なわけじゃないが、俺はモノを作ること自体が好きだった」

「ということは、小さい頃に竹とんぼ作って遊んだりとかした感じか」

「ネイトもわかるか! 母さんを早くに亡くしたこともあって、ガキの頃は一人でおもちゃを作っては遊んでいた」

 

 工作は男のロマンの一つだ。俺も小さい頃は親父と一緒に竹とんぼ作って飛ばしたことがあるからその気持ちはわかる。

 

「だけど、俺が何作っても親父は褒めてくれたことは一度もなかった。ここがダメだからこう直せ、とかまだまだだなとか、ケチを付けてばかりだ。俺がでかくなると共にそれは顕著になった。終いには『くだらないもの作ってないで働け』だ。昔からなんでも勝手に自分で決めて本当に気にくわなかった」

「それで喧嘩になったのか」

「……ああ『親父にも作れないすげぇもん作るまで帰る気はない』って言ってやった」

 

 正直、両親は俺にかなり甘かったから厳しい親を持つ子供の気持ちはわからない。確かに進路をああしろ、こうしろ、と言われるのはイラッとくるが、その都度俺は事を荒立てないよう言われるがままに従ってきたからな。

 少しだけ、親と喧嘩できるほど自分の意思をもったカイジが羨ましくなった。

 カイジだって口ではこう言っているが、心の底からクダイさんのことが憎いわけではないだろう。このまま親子関係に亀裂が入ったままというもは……少し寂しい気がする。

 だからだろうか。俺はこの無口で頑固な父親似の男を応援したくなった。

 

「じゃあ、作ろうぜ。クダイさんが作れない〝すげぇもん〟」

「え?」

「それだけ啖呵切って飛び出したんだ。作る気はあるんだろ。俺も手伝うよ」

「いいのか?」

「今後のうちの経営発展のためになるからお前の力が必要なだけだ。やってやろうぜ?」

 

 頑固な技術者にぐうの音も出ないほどのものを見せつける。その様子を想像すると、不思議と胸が躍った。

 この世界より進んだ技術の知識を持つ俺と、物作りが得意なカイジが組めば凄いモノが作れる。そんな予感がしたのだ。

 せっかく牧場を作るのだ。どうせなら他の牧場にはない技術を取り入れたいと思っていたところに、カイジの存在は渡りに船だった。

 

「わかった。よろしく頼む」

「おう、よろしくな」

 

 こうして新たに、山の上の農場のメンバーにカイジが加わった。

 

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