女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第21話 ニート、観光牧場を構想する

 それから俺はカイジに直してもらったツルハシで鉱山を掘り進めたり、新たに得たオノを使って気を伐採したり素材集めに努めた。

 カイジは自分で小屋を増築したりして、工房をどんどん進化させていった。

 

 そうして、二週間が経った。

 

「カイジ、例のモノはできたか?」

「ああ、バッチリだ」

 

 俺はいつものように鉱山帰りにカイジの工房へ寄っていた。

 カイジは製図台に乗っている図面と横に置いてある模型を見せてくれた。

 そこにはいくつもの滑車と錘、そして滑車付きの箱が描かれていた。

 

「ロープウェイは建築にかなり時間がかかりそうだな」

 

 それなりに巨大な建築物を建てるのだ。人員を考えれば年単位の工事になるだろう――普通ならな。

 こっちは女神の加護と従順な妖精という反則級の力があるのだ。女神の力もかなり回復しているし、ロープウェイだろうと一ヶ月あれば建築可能だろう。

 ちなみに、カイジには既に女神と妖精の存在についてはもう話してある。

 女神の存在を信じているカイジは最初こそ驚いていたが、今ではすっかり受け入れていた。

 

「これが完成すれば山頂への行き来が楽になる」

「そうすれば、一気に目標へと近づけるわけだ」

 

 そうロープウェイはあくまでも手段の一つでしかない。俺の目的はその先にある。

 

「観光牧場、か。ネイトはすごいな。俺には到底思いつかない」

 

 俺の目指すもの、それは観光牧場だ。

 観光牧場とは、観光客を呼び込むことを目的とした牧場だ。

 乳絞り体験など、酪農家の仕事の一部を体験できるということが目玉だ。

 こちらの世界には観光牧場という概念が存在しないため、物珍しさで人も集められるだろうし、うちの牧場にしかない目玉商品を作って、都会でアンテナショップを展開すればさらに人を呼び込めるだろう。

 

「大したことはないって」

 

 こちらの世界にないだけで、元の世界では割と普通にあるものだからな。

 それに、こちらの世界の農業は原始的で効率が悪いところがある。きっと観光に牧場を利用する余裕がないのだろう。

 その点、うちは女神の加護とカイジの技術力があればカバーできるから問題はない。

 

「そうだ、これから農作物と一緒にカイジの作ったアクセサリーとか出荷してくるけど一緒に来るか?」

 

 それにカイジには大工、鍛冶に加えてアクセサリーなどを作る装飾の技術もあった。ものづくりにおいて彼の右に出る者はいないのではないだろうか。

 

「ああ、女性の感想も聞きたいからな」

 

 カイジと一緒に山道を下って街へ降りると、ちょうど雑貨屋の前を掃除しているユイさんに会った。

 

「ユイさん、おはよう」

「おはよ、ネイト。いつもご苦労様」

 

 エリシャとのことがあったからか、ユイさんは営業スマイルだけではなく、普通に笑顔を向けてくれるようになった。エリシャには感謝だな。

 俺に挨拶をしていたユイさんだったが、俺の横に立つカイジを見て不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ、クダイさんとこの?」

「……どうも」

 

 人と話すのが苦手なカイジは、コミュニケーション能力の塊のようなユイさんが苦手のようだ。帽子のツバを抑えてやっと振り絞った言葉は「どうも」の三文字だった。

 そんな挙動不審なカイジのことなど歯牙にもかけず、ユイさんは会話を続行する。

 

「珍しい組み合わせだね」

「ちょっとカイジにうちの農場の手伝いをしてもらっててな」

 

 家出してるなんて、わざわざ言うことでもない。ここは適当にごまかしておこう。

 

「あ、ああ、そうなんだ」

 

 どもりながらも俺の言葉をカイジは肯定する。わかるぞ、その気持ち。俺は慣れたからもう大丈夫だが、最初はユイさんのこと苦手だったからな。

 

「今日はカイジが作ってくれたアクセサリーを売りにきたんだ。今、住み込みで手伝ってもらってるからな。道具とかあっという間に直してくれたり、凄いんだぞ?」

「へぇ、カイジさんって大工仕事以外も得意なんだ。凄いね!」

「い、いや、そんなことは、ない」

 

 ユイさんが感心したように褒めるもんだから、カイジはますます帽子を目深に被ってしまう。わかるぞ、人見知りの男が女の子に褒められるとそうなるよな、うん。

 

「立ち話もなんだから、店の中入って」

「わかった。野菜とかはいつもの出荷箱に入れておくよ」

「あいよー」

 

 俺は出荷箱を開けていつものように野菜を詰め込んでいく。そういえば、ラッピングとかは全部雑貨屋に丸投げしてたんだっけ。これからはもっと売り方も考えた方がいいのかもしれないな。

 

「この出荷箱……」

 

 俺が出荷箱に野菜を詰めていると、カイジが目を細めて出荷箱を眺めていた。

 

「どうしたんだ?」

「……いや、なんでもない」

 

 カイジの返事からするに、そんなに重要なことではなさそうだ。特に気にする必要もないだろう。

 

「それじゃお邪魔しまーす」

「はいはい、いらっしゃい」

 

 野菜を出荷し終えた俺とカイジが店内に入ると、ユイさんはカウンターの前に座って待っていた。

 

「それで、これがカイジの作ったアクセサリーなんだが、どうだろうか」

 

 カイジが作ったのは、シンプルなシルバーアクセサリーや、宝石を使ったブローチなどだ。その中でもシルバーペンダントについている装飾は、カイジの手によってさまざまな形のもの作られ、女性に人気が出そうな丸っこいものから、男性用のやけにトゲトゲしたものまで豊富に取り揃えている。

 

「えっ、何これ、超可愛いじゃん!」

「そ、そうか?」

 

 アクセサリーを見せた瞬間、ユイさんは目を輝かせて身を乗り出した。パーソナルスペースガン無視の距離感に、カイジの目が激しく泳ぎ始める。

 

「カイジさん、ホントに凄いんだね! 都会で売れば間違いなくバズるって!」

「ば、ばず?」

「超人気出るってこと。むしろあたしが欲しいくらい!」

 

 シンプルな形のペンダントをうっとりと見つめるユイさん。てっきりユイさんはもっと派手なものを好むと思ったが、意外とアクセサリーはシンプルなものの方が好きだったようだ。

 

「……それなら、今度作ってくる。希望があれば、聞く」

「オーダーメイドもオッケーなの!?」

「……ああ、問題ない」

 

 かろうじてユイさんの言葉に頷くと、カイジはまた帽子深く被ってしまった。帽子から出ている耳は真っ赤なところを見るに照れているのだろう。

 いつの間にかアクセサリーの発注までしているユイさんに、俺は気になっていることを聞くことにした。

 

「そうだユイさん。この島でお風呂ってどうしてるんだ?」

 

 この島を観光地にするには泊まる場所が必須だ。

 今ある宿泊施設も精々素泊まりの狭い民宿くらいしかない。そのため、もっと風呂などを完備した旅館を作る必要があるのだ。

 

「普通に家にあるやつに入ってるけど?」

 

 普通、と言われてふとこの世界の文明レベルを思い返す。

 一応、都会の方ではテレビなどはあるみたいだが、女神信仰の影響か、自然が豊かで環境問題とは無縁な代わりに、俺のいた世界よりは文明のレベルが低い。

 さらにここは元々無人島だ。風呂も原始的なものの可能性が高い。

 

「ドラム缶とかではなく?」

「……ネイトがどんな暮らしをしてきたかはわかったよ。たぶん、この島でドラム缶風呂に入ってるのはネイトくらいだと思うよ」

 

 俺の予想に反して新垣家の風呂は普通のバスタブだったようだ。ユイさん曰く、家の改装時にそこだけは譲れなかった部分だそうだ。

 

「じゃあ、都会に住んでた頃はどうだったんだ。銭湯とか温泉とかはあったか?」

「せんとう? 何と戦うの?」

「マジか……」

 

 驚くべきことにこの世界では銭湯という概念自体が存在していないようだ。いや、呼び方の問題で、公衆浴場くらいはあるのかもしれない。

 

「あ、でも温泉は知ってるよ。一部の金持ちの道楽だけどね」

 

 温泉があるということは、公衆浴場の概念自体はあるようだ。

 良かった。それなら俺の考えていることは無駄にはならなそうだ。

 

「温泉旅館とかないのか?」

「あることにはあるけど、わざわざ遠出してまで行きたいとは思わなかったかな。馬車での旅行って腰が痛くなるんだよね」

 

 そうか、車や電車などの交通機関がないこの世界だと長距離の移動が苦痛になるのか。

 

「なるほど……いけそうだな」

「へー、また面白そうなこと考えてるっぽいじゃん。一枚噛ませてよ」

「ま、一枚どころか何枚でも噛んでもらうことになるかもな」

 

 金儲けの匂いを嗅ぎつけたユイさんはニヤリと笑う。

 それに釣られるように俺も悪代官のように笑ってみせた。

 あれ、いつの間に俺って、こんな普通の友人同士のやり取りできるようになったんだ?

 前だったらへらへらと引き攣った愛想笑いしか浮かべられなかったのに。

 

「あ、あの!」

 

 俺が自分のコミュニケーション能力に疑問を持っていると、突然カイジが大声を出した。

 

「……もし、よかったら出荷箱、修理する、ぞ」

「出荷箱?」

 

 そういえば、カイジの奴、さっき出荷箱を見て何か考えこんでいたな。

 

「え、マジ! 超助かる! ちょうどガタがきてて困ってたんだよねぇ」

 

 ユイさん曰く、金具が外れたり、蓋がきちんと閉まらなくなっていて困っていたそうだ。

 よくわかったな。さすがはものづくりの天才。

 トンカチを自分の手足のように操り器用に出荷箱を補強するカイジを見ていると、本当に普段からこうして物を作ったり、修理したりするのが様になっていると思う。

 こうして間近で彼の作業風景を見るのは初めてだが、プロの作業というのはここまで手際良いものなのか。

 

「カイジは凄いな……」

 

 何もできない自分と比較してしまい、ついため息が出てしまう。

 

「このくらいできて当然だ」

「そっか、当たり前にできるくらい体に染みついてるってことか。相当クダイさんにしごかれたんだな」

 

 カイジがものづくりが好きなだけじゃない。クダイさんがしっかりと技術を叩き込んだからこそ、ここまでの領域に至ったのだろう。

 俺にはそんな経験なかった。俺の周りにいた人間は俺に甘かったが、興味を失うと黙って離れていった。特定の人間と親密になることもなく、広く浅い人間関係。

 そんな薄っぺらい人間関係しか持ったことのない俺にとって、お互いの気持ちをぶつけられるカイジとクダイさんの関係は羨ましかった。

 

「……そんな風に、考えたこともなかった」

「ま、どんな形にせよ。それがクダイさんの親心だってことじゃないのか?」

 

 つい親の気持ちなんてわかりもしない癖に、偉そうなことを言ってしまった。

 

「……そう、か」

 

 適当に言っただけだったのだが、カイジはどこか納得したように呟く。それから俺に父親のことについて聞いてきた。

 

「……ネイトの親父はどんな人だったんだ」

「うちの親父はどこかボケーっとしてて、物臭な人だったな」

 

 俺の親父はいわゆる普通のサラリーマンだった。家に帰ってもボーっとテレビを見てビールを飲んで会社の愚痴を言う。そんなどこの家庭にもいるような父親だ。

 俺の進路に口出ししてるのは主に母親の方で、親父は放任主義という感じだった。そのうえ、かなりの面倒臭がりで、幼い頃は「疲れてるから」という理由でねだってもどこにも連れて行ってくれなかったくらいだ。

 だからこそ、稀に連れて行ってくれる旅行が楽しかったというのもあるのだが。

 

「……俺もネイトも親父に似たのかもな」

「おい、それって俺がボケーっとしてるってことか」

「ふっ、自覚なかったのか?」

 

 カイジはニヒルな笑みを浮かべると滞りなく出荷箱を直していった。

 

「今日はホントにありがとね!」

「……このくらい大したことはない」

 

 満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を口にするユイさんに対し、カイジはまた帽子を深く被ってぶっきらぼうにその言葉を受け取った。

 

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