女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第23話 ニート、ラッキースケベを体験する

「これが本当の一夜城って奴か」

「コナーさん達、妖精のみんなにも手伝ってもらったからな」

 

 本当、カイジの建築技術はどうなっているんだ。これより凄いとか、クダイさんはバケモンだろ。女神の力の一部を行使できる妖精達はまだしも、カイジは普通の人間のはずなのだが。

 もしかしたら、この技術革新が遅れている世界において、大工の技術力はとても高水準なものなのではないだろうか。

 

「とりあえず、ネイトの注文通りに脱衣所は男女で分けて作ったぞ。入って感想を聞かせてくれ」

「カイジは入らないのか?」

 

 朝からずっと作業していたのだ。一番風呂は一番の功労者であるカイジが入るべきだろう。

 そんな俺の提案に対して、カイジ首を横に振った。

 

「俺はロープウェイの部品作りに戻りたいし後で入る。それに一番風呂はネイトに入って欲しいんだ」

「そっか。ありがたく入らせてもらうよ」

 

 しかし、せっかく男湯と女湯を用意してもらったのだ。全ての感想を伝えるためには女湯に入れる人間も用意するべきだろう。

 

「温泉、ですか」

 

 というわけでエリシャを呼んできた。シスターとはいえ、こいつも女の子だ。いつまでもお盆のお湯で体を拭くのは辛かろう。

 

「しかし、なんでまた温泉を?」

 

 いきなり呼ばれて困惑しているエリシャに、今回温泉旅館を作る目的を簡単に説明する。

 

「〝観光牧場〟それが次のプロジェクトだ」

「観光牧場?」

「ま、言ってみれば観光地として牧場を見て回れる牧場のことだ。乳しぼり体験や乗馬体験、ジェラート作り体験とかな」

「なるほど、実際に牧場でやっている仕事の一部を体験できるというわけですか。面白そうですね!」

「うちには畑も果樹園もあるからな。そこら辺も見て回れるようにするよ」

 

 俺が両親に連れて行ってもらった観光牧場は、動物だけでなく花や果物を楽しむ場所もあった。畑は元々あるため、有効活用するべきだろう。

 

「問題は宿泊施設だ。ここが島である以上、日帰りで来るのはキツイからな」

 

 この場所はただでさえ山の上にあるのだ。輸送馬車を出しても来ようと思う人は少ない。

 

「そこで、だ。温泉旅館を作れば観光ついでに泊まれて、ゆっくりと疲れを癒すことができる」

「なるほど、そういうことだったんですね。でも、温泉旅館って、温泉はどうするんですか?」

「もう既に掘削作業は始めてるよ。というか、コナーさえいれば温泉なんて簡単に沸かせるからな」

「相変わらず万能ですね、コナーさん」

 

 この島にやってきてからというもの、コナーの力の凄さを日々感じているエリシャは、彼の万能具合に苦笑した。

 立ち話をしていても仕方ないので、俺達はさっそくできあがった温浴施設に入ることにした。

 

「しっかし、簡素な掘っ立て小屋かと思ったら……」

 

 扉を開けてみればそこにあったのは、温浴施設の休憩所のような空間だ。ご丁寧に畳まである。これだけの設備をたった一日で建築するとはカイジ恐るべし。

 

「なんと……」

 

 エリシャに至ってはその場に立ち尽くして唖然としている。

 

「試しに作ってこれなら、温泉旅館も期待できそうだな」

「ええ、この島の目玉になりそうですね」

 

 エリシャの言う通り、立派な温泉旅館があれば集客効果は高そうだが、地方への交通手段が少ない現状では、島に訪れる人を増やすのは難しいだろう。

 こうなったら快適に移動できる馬車をカイジに開発してもらうしかない。

 考えなければいけないことは多いが、ひとまずは久しぶりの温泉を楽しむことにしよう。

 

「男女に分かれているから、女湯の方の感想を聞かせくれ」

「わかりました。では、また後で!」

 

 お風呂に入れるのが嬉しいのか、エリシャはうきうきで女湯の脱衣所へ入っていった。

 

「あ、ネイトさん」

「どうした?」

 

 脱衣所に入ったと思ったら、すぐに扉が開いてエリシャが戻ってきた。

 

「温泉って作法とかあるんですか?」

「そっか、エリシャはこういう風呂は初めてか」

 

 しまった。質素な暮らしをしていたエリシャが、風呂の入り方自体知らない可能性があったのを失念していた。

 

「ハーベスト王国では風呂はどうやって入るんだ?」

「湯浴み着という薄手の服を着て入りますね。まあ、私の場合はお金の余裕もありませんでしたし、基本はお盆でお湯をかけて体を洗う感じです」

「へぇ、じゃあタオル一枚で風呂に入るって珍しいのか」

「えっ、ネイトさんの故郷では何も身に着けないのですか?」

「ああ、裸の付き合いって言葉があってな。信頼関係を深めるのに一緒に風呂に入るのはコミュンケーションの一環としてあったぞ。だから、みんな全然気にせず裸で入ってるよ」

「み、見知らぬ人の前で裸とは考えられませんね」

 

 そう言ってエリシャは口元を引きつらせる。やっぱり文化の違いは大きいな。

 

「うーん、エリシャのこの反応からするに湯浴み着はあった方がいいのか?」

 

 シーサイドタウンには多くの外国人がいた。それは外国からの来訪者は船で来ることが多いからだ。

 となれば、船でこの島に外国人が訪れる可能性は高い。文化の違いで戸惑わない配慮はするべきである。

 

「いえ、郷に入っては郷に従えです! 幸い一人で入るわけですし、大丈夫です!」

 

 そう思ったのだが、エリシャは断固としてそのまま温泉に入るつもりのようだ。

 結構無理をしているように感じるが、実際に入れば慣れるだろう。

 

「じゃ、また後でな」

「はい!」

 

 こうして俺は男湯の脱衣所に入り、汗でべたべたの服を脱ぐ。

 期待に胸を膨らませて扉を開けると、そこには夢のような光景が広がっていた。

 

「洗い場も外にあるのか」

 

 本来、温浴施設の洗い場は室内にあることが多い。個人的には洗い場は室内の方が良かったが、〝お試し〟で作った温浴施設だ。内湯もないのに、わざわざ室内に作る必要もないだろう。

 設置されている洗い場にはイスと桶が置いてあり、それぞれ鏡とシャワーヘッドが設置されていた。

 このシャワーヘッドもカイジの作品の一つで、かなり水圧が高めに設定されている。これは完全に個人的なこだわりになるが、シャワーは勢いがないと気持ち良くないのだ。

 クダイさんの店に置いてあるシャワーも水圧は低めだったし、無理を言ってカイジに作ってもらったのだ。

 

「あー、気持ち良い……」

 

 やはりシャワーは高水圧に限るな。この頭皮のツボを刺激される感覚、癖になりそうだ。

 

「ネ、ネイトさーん! 聞こえますか?」

 

 久々のシャワーに感動していると、女湯の方からエリシャに呼ばれた。

 

「聞こえてるぞー! 何か問題でもあったか?」

「洗い場の使い方がわからないんです!」

 

 なるほど、カイジに作ってもらったのは温浴施設についているような形の蛇口だ。ほとんど公衆浴場を使ったことのないエリシャにはわかりづらかったかもしれない。

 外国人が来たときのために、簡単な説明は貼っておいた方がいいだろう。

 

「蛇口をひねればシャワーヘッドからお湯が出るぞ! あと、シャンプー&リンスって書いてあるのが髪を洗うやつで、体は石鹸で洗ってくれ!」

「わかりましたー!」

 

 石鹸やシャンプー、リンスは全て自作だ。もちろん実際に作ったのは妖精達である。

 頭を洗い、顔や体を洗い終えた俺は急いで露天風呂へと向かう。

 季節は春で、最近は結構暖かくなってきたが、山の上はまだまだ寒い。動きまる分には温かいくらいだが、外で裸でいるには寒いのだ。これが冬になるともっと寒くなるだろう。

 むしろ、温泉に入る気温としてはこれくらいがちょうど良いのかもしれない。

 

「あー……最高だ……」

 

 温泉に入ると、全身の疲れがお湯に溶けていくような気持ちの良い脱力感に襲われた。

 温泉には久しぶりに入ったが、やはりこの感覚は病みつきになる。

 漂う温泉特融の硫黄の匂い、露天風呂だからこそ味わえる涼しい夜風。

 ここには俺の求めていた癒しの全てが詰まっていた。

 これで風呂上がりにコーヒー牛乳を飲めたら最高である。

 なんとしてでも牧場建設は成功させなければいけないな、これは。

 

「それにしても、いい場所に作ったな……」

 

 コナーに頼んで温泉を沸かせた場所は、山の上から街、そして海を一望できる。今は夜だから常人には真っ暗な景色しか見えないが、夕方なら夕日が海に沈むところが見える場所である。

 まあ、夜は夜で月が綺麗に見えるという利点もある。ここで酒を持ち込んで一杯やるのもありかもしれない。

 

「それにしても湯気凄いな」

 

 もはや霧がかかっていると言われても違和感がないくらいに、湯気が温泉から立ち上っている。そんなに寒くはないはずなのに変だな……。

 

「ネイトさーん! 聞こえていますか!」

 

 すっかり自分の世界に浸っていると、女湯の方からエリシャの声がして現実へと引き戻された。

 

「どうしたー!」

「温泉、最っ高ですね!」

 

 感想なんて上がってから言えばいいのに、エリシャは大声を出して嬉しそうに感想を述べた。

 

「だろ!」

「はい! これなら成功間違いなしだと思います!」

 

 嬉しそうにしているエリシャの声を聞くと、自然とこちらも笑みが零れる。

 一体いつ以来だろうか。

 自分のやったことで誰かが喜び、それを幸せと感じることなど、もうないと思っていた。

 

「本当、最高だな……」

 

 エリシャはいつだって俺が忘れていた大切な感情を思い出させてくれる。

 この島に流れ着いたときは、理不尽な状況に憤ったものだが、今ならこう思える。

 俺はこの世界に、この島に流れ着いて良かった、と。

 

「さて、そろそろ上がる、かっ!?」

 

 カイジ達のおかげで、ゆったりと幸せな時間を堪能できた。名残惜しいが、俺にはまだやることがある。

 湯船から上がろうとしたとき、まるで何かに引っ張られるように感覚が俺を襲い、そのまま転んでしまった。

 

「ね、ネイトさん? 大きな音がしましたけど、大丈夫です、か……っ」

 

 水飛沫の音が聞こえて心配したエリシャが声をかけてくる。不思議とエリシャの声が近く聞こえる気がする。

 

「大丈夫、ちょっと転んだだけ、だ?」

 

 違和感を覚えて顔を起こしてみると、何故か俺の眼前にエリシャが呆けた顔で立っていた。

 先程まで立ち上っていた湯気はどこへやら。視界を遮るものは何もなく、俺の視線は一糸纏わぬ姿のエリシャに釘付けになっていた。

 

「………………なんでネイトさんがここに?」

 

 しばしの沈黙の後、エリシャが振り絞るように疑問を投げかけてきた。その声が震えているのは気のせいではないだろう。

 

「………………俺が聞きたいんだが」

 

 ふと、振り返ってみれば男湯と女湯を区切っていた仕切りが湯船にはなかった。ふむ、俺の説明が悪かったらしく、カイジが勘違いしてしまったようだ。

 カイジ、脱衣所を分けたのなら湯船も分けてくれよ……。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

 パァン! と、清々しいまでに綺麗な音を立てて俺の頬が叩かれる。この一撃の威力は凄まじく、女神の加護があるからと油断していた俺は、余裕で張り倒された。

 どうやら、ラッキースケベ後のおしおきは女神の加護の庇護対象だったようだ。

 

 

 

 

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