女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第24話 ニート、友人ができる

「どう? 最高のご褒美だったでしょ」

「はっ倒すぞ」

 

 数日後、いつものように泉でのお供え物ついでに女神と話していると、先日のラッキースケベがこの駄女神のせいであることが判明した。

 どうりで湯気の濃さが不自然だったわけだよ。

 

「何よ! 好きな子の裸見れたんだから感謝しなさいよ!」

「好きとかそういうのじゃねぇから! というか、無駄なことに力使うなっての」

「無駄じゃないわよ! 私だってあんたには感謝してるのよ」

 

 ふんぞり返って偉そうに告げる女神の姿からは、微塵も感謝の気持ちが伝わってこない。なので、俺もその言葉を適当に流すことにした。

 

「そうか、じゃあこれからもキビキビ働いてくれ」

「あんたホントに私に対して冷たいわよね!?」

「お前のせいで、あれからエリシャが目を合わせてくれねぇんだよ! まあ、謝ったら許してくれたけどさ……とにかく! お供えしに来てるだけでも感謝しやがれ!」

 

 まったく、どうしてこいつはやることなすことズレているのだろうか。

 女神の加護で疲労は感じないはずなのに、どっと疲れたような気がする。

 相も変わらずギャーギャー喚き散らす女神をよそに、あの温浴施設をどう使うか考えながら、俺は女神の泉を後にした。

 

 家に戻ると、ロープウェイ建設の様子が見えた。

 よく見れば、もう既にロープウェイの支柱が山に立ち始めている。

 どうやってあんな大きなものをこの短期間で建てたか気になるところだ。

 山の中腹当たりで作業しているところが見えたので、山を下りてカイジ達の元へと向かった。

 

「カイジ、ロープウェイの建設はどうだ?」

 

 山の中腹に到着すると、三脚のような機械で測量しているカイジに声をかける。

 

「みんな飲み込みが早いおかげで順調だ」

 

 カイジの下につけた妖精は、鉱石に関する妖精や、元々コナーの下にいた土系統の妖精達だ。ほとんどがコナーの劣化版のような性能の妖精だが、コナーがあまり農作業から離れられない以上、仕方ないだろう。

 それにコナーも手が空いた時は手伝ってくれている。他の妖精が数時間かかる作業を一瞬で終わらせてしまう光景を見れば、彼を最上級妖精と疑う者はいないだろう。

 

「それに最近は力が沸いてきて、あまり疲れなくなってきたんだ」

「それは女神様の力の影響かもしれまセヌー」

 

 突然、俺とカイジの会話に妖精が作業を中断して割り込んできた。

 

「横から失礼しマス。最近はネイトのおかげで島中の女神様の力が活性化しておるんデス」

「それで住民であるカイジにも影響が出たというわけか」

 

 ゲームで言えば全体バフがかかっている状態というわけか。

 俺は直接女神の加護を体内に宿しているからわからないが、加護を宿せない人間に女神の力は、満遍なく作用するようだ。

 

「あの駄女神の力の影響だろうと、カイジの技術力が凄いのは変わらないけどな」

「……そんなことないさ」

 

 これだけのものを作っているというのに、カイジの表情はどこか暗い。

 

「図面を引いたり、こうして建設に携わってると嫌でもわかる。親父は凄いんだって」

 

 カイジは悔しそうに唇を噛むと、帽子を目深に被りなおす。

 

「もしネイトが親父にこの案を持っていってたら、もっと早く完成したんじゃないか。そう思ってしまうんだ」

「カイジ……」

「ネイトは俺の技術力を凄いと言ってくれた。思い返したら、全部親父に教わったことだったんだ。図面を引くのも、金槌を振るうのも、鉋をかけるのも、溶接をするのも、全部だ。結局、俺は自分の力じゃ何もできない奴だったんだ」

「いや、お前の力だろ」

 

 カイジのネガティブな発言を否定すると、カイジは弾かれたように顔を上げた。

 

「確かに、お前に技術を教えたのはクダイさんだ。だけど、教わったことを吸収して実践できる時点で、それは既にお前の技術だろ。世の中、教わっても碌に実践できない奴なんてゴロゴロいるぞ」

 

 俺なんてまさにその〝教わってもできない人間〟の典型的な例だった。勉強したことなんて、次の日には忘れていたくらいだ。

 

「俺の、力?」

「ああ、だから誇っていいと思うぞ。自分の技術力も、いい師匠の元で学べたこともさ」

 

 俺の言葉を噛み締めるように聞いていたカイジは、帽子を回してツバを後ろ向きにすると笑顔を浮かべた。

 

「ネイト、ありがとう……よし!」

 

 憑き物が落ちたように晴れやかな表情になったカイジは、両頬を叩いて気合を入れる。

 

「ロープウェイは俺と妖精に任せてくれ。ネイトは観光牧場の方を頼む」

「任せてくれ!」

 

 こうして、ロープウェイ建設と山の上の農場の観光牧場化はとんとん拍子に進んだ。

 ロープウェイ建設の方はケージやワイヤーの耐力テストや動作確認など、安全に関する点検は入念に行った。女神の加護を付与すれば劣化しないとのことだったが、いざというときのために安全に関する部分は妥協するべきではない。

 

 当初の予定通り、ロープウェイは一ヶ月ほどで完成した。

 距離で言えば千メートルは超えるであろうロープウェイが、たったの一ヶ月で完成するとはカイジと女神の力、恐るべし。

 

 ロープウェイとは対照的に、観光牧場の方は碌に計画が進んでいないというのが現状だ。

 そもそも動物に関しては、ゴンさん経由で注文しているところだし、牧場施設に関してもクダイさんが注文通りに作っているところだ。

 俺のやっていたことと言えば、いつの間にかできていたこの島の観光協会に顔を出して、観光牧場や温泉宿の建設について相談をしたり、温泉宿の従業員の募集をかけてもらったり、そういった事務的なことくらいだ。

 人との会話が苦手な俺にとっては、かなり精神を消耗するやり取りだったが、観光協会にとっても悪い話ではなかったので、なんとかなるだろう。

 

 まさか、一番やりたくないことを自分からするようになるとは思わなかった。ツルハシを無心で振っている方が楽だったのに、どうして俺は自らこんな苦労を……。

 

「ネイトくん、今日の作業は終わったよ」

 

 目の前に並ぶ書類を眺めて頭を抱えていると、今日の作業を終えたクダイさんがやってきた。

 

「ありがとうございます。あ、カイジの様子見ていきますか?」

「気を回さんでもいい。じゃあ、また明日」

 

 素っ気なくそれだけ言うと、クダイさんはそそくさと帰ろうとする。言外に親子の問題に立ち入るなと、言ったつもりなのだろう。

 そう言われては引き下がるしかない。引き下がるしかないのだが。

 

「ロープウェイ、耐久テストが終わって稼働するのは今日なんです!」

 

 気がつけば俺はクダイさんに向かって叫んでいた。

 

「あいつの作ったもの、評価してくれませんか?」

 

 このままこの二人がすれ違ったまま、というのはどうしても嫌だったのだ。

 俺の言葉を聞いたクダイさんは怪訝な表情を浮かべる。

 

「評価、だと?」

「ええ、あなたほどの職人なら問題点や改善点だって指摘できるはずです」

「わからんな。君は完成したばかりのものにケチをつけて欲しいというのか?」

 

 確かに、完成したばかりで達成感の方が勝る今、わざわざマイナスな情報を聞いても、達成感に水を差すだけかもしれない。

 

「俺もカイジも本気でやってるんです。完成して自己満足で終わりたくはないんですよ」

「……いいだろう」

 

 それでも、達成感よりも大切なものがある。そう思った俺は、第三者であるクダイさんにロープウェイの評価をお願いしたのだ。

 渋々といった様子で付いてくるクダイさんをロープウェイ乗り場に案内する。

 そこには、晴れやかな表情で汗を拭うカイジの姿があった。どうやら、耐力テストはばっちりだったようだ。

 クダイさんの姿が目に入ったのか、晴れやかな表情だったカイジは帽子を被り直し、どこか緊張した表情を浮かべた。

 

「親父……」

 

 二人の間に沈黙が流れる。そんな沈黙を破ったのは、クダイさんの方だった。

 

「図面を見させてもらったが、耐力計算が甘い」

 

 一言目から辛口評価。案の定、カイジは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「ある程度の強風には耐えられるが、俺達がこの島に流れ着いたときのような大嵐が来れば、ワイヤーは切れるだろうな。それに積雪荷重を加味していないだろう。まだこの島で冬を経験していないからと言って、このミスは致命的だ。ワイヤーはもっと頑丈なものに変える必要がある。それに加えて荷重を分散させるため、この位置にもう一本支柱を建設する必要もある。ほれ」

 

 いつの間にかクダイさんは図面に赤文字で訂正項目を書き加えていた。なんだよ、最初から評価する気満々だったじゃないか、この人。

 否定の言葉ばかり述べていたクダイさんだったが、カイジに図面をぶっきらぼうに渡すと、バツの悪い表情で言った。

 

「……だが、確かにこれは俺には作れない〝すげぇもん〟だな」

「親父?」

 

 今まで褒められたことなどなかったであろうカイジは、そんなクダイさんの言葉に目を見開いた。

 そんな息子の反応に気恥ずかしくなったのだろう。

 クダイさんはわざとらしく咳ばらいをすると、続けて言った。

 

「とにかく、これで満足しただろ。ロープウェイの改修工事が終わったら帰ってこい」

「俺は……俺は、帰らない!」

 

 クダイさんの言葉を聞いたカイジは、帽子を脱ぎ棄て地面に叩きつけて叫んだ。

 

「こんなのはまだまだ序の口だ! 俺とネイトはもっともっとすげぇもんを作るんだ! だから家には帰らない! 親父だけじゃない。この世界の誰にも作れないものを俺は――俺達は作ってみせる!」

「そう、か」

 

 カイジの宣言に、どこか誇らしげな表情を浮かべると、クダイさんは俺に向き直って頭を深々と下げた。

 

「ネイト君、うちの倅をよろしく頼む」

「もちろんです。カイジにはまだまだ働いてもらわないといけませんから」

 

 クダイさんは俺をまっすぐに見据えると、肩の力を抜いてつい先日見たばかりの誰かさんによく似た笑顔を浮かべた。

 

「ふっ、そうか。乗っていく、動かしてくれ」

「えっ、でも……」

「今日は風も吹いてなけりゃ雪も降ってないだろ」

「わ、わかった」

 

 こうして記念すべきロープウェイ最初の利用者はクダイさんとなった。

 カイジが稼働させたロープウェイに乗ったクダイさんの姿を見送っていると、カイジがポツリと呟く。

 

「ネイト、ありがとう」

「なんだよ、藪から棒に」

「お前がいなかったら、俺は親父のこと誤解したままだった」

 

 カイジも理解したのだろう。クダイさんのダメ出しは、ケチをつけていたのではなく、クダイさんなりの優しさだったのだ。

 これもダメ、あれもダメ。人は否定されることを恐れて、自分を否定する人間を嫌う。

 だけど、クダイさんは不器用なだけで「こうすればもっといいものができる」と教えてくれていただけなのだ。

 

「大したことはしてないって」

「そんなことはない。お前と会えて、俺は本当にやりたいことができるようになった」

 

 礼を言うのはこちらの方だ。

 俺はカイジのおかげで、誰かと一緒に何かを成し遂げる楽しさも、一時の達成感に満足するのではなく、その先を見据えて努力する大切さも知れた。それがどれだけ大切なものか、以前の俺なら理解することすらできなかっただろう。

 

「このくらい気にすんな。友達だろ?」

「ああ、そうだな……!」

 

 そして、何よりも心から信頼できる友人ができた。それはきっと、何物にも代えがたい宝物なのだから。

 




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