女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第25話 ニート、牧場主になる

 満開に咲き乱れていた春の花は散り、青々と生い茂る草木が目立つ季節になった。

 照りつける太陽が忌々しい季節、夏の到来である。

 

「そんな熱を吸収しまくる格好で暑くないのか?」

「……考えないようにしているんですから、言わないでください」

 

 季節が変わってもエリシャは相変わらず黒い修道服を身に纏ったままだった。ウィンプルまで被っているので、頭が物凄く蒸れていそうだ。

 修道服はボディラインが見えないようにぶかぶかで厚手の布で作っているあることもあって、この季節には向いていない恰好と言える。夏服とかないのだろうか。

 エリシャは寝るとき以外は基本的に修道服を着ているため、最近はいつも暑そうにしていた。

 室内とはいえ、エアコンのない俺の家は蒸し風呂のような暑さだろう。

 

「無理しなくても、白い修道服を作ればいい話だろ」

「私の一存でそんな勝手なことはできませんよ」

「どうしてあの女神を祀る宗教なのに、そんなにお堅いのかねぇ……」

 

 とりあえず、あの駄女神は信者全員の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいと思う。

 

「そういえば、今日ですよね」

「何がだ?」

「もう! なんで忘れてるんですか! 今日は女神様の紹介で、動物に詳しい方が来る日じゃないですか」

 

 エリシャに怒られ思い出した。

 これから牧場を始めるにあたって、動物に詳しい人材がいないと女神に愚痴を零したところ、ドヤ顔で「私が紹介するわ!」って言われたんだっけか。

 

「あー、そうだったな。女神の紹介だって聞いてたから話半分で聞いてたわ」

 

 あの駄女神の言うことだ。当然、期待などしていない。

 

「女神様にも、いらっしゃる方にも失礼ですよ!」

「いやいや、あの女神の紹介だぞ? 本当に来るかどうかも怪しいだろ」

 

 いつものように、女神教信者であるエリシャのお説教を聞き流していると、控えめなノックの音が聞こえた。

 

『すみませーん。女神の紹介で参りましたわ。どなたかいらっしゃいませんか?』

 

 驚いたことに、本当に女神の紹介で来たようだ。

 

「今開けます」

 

 扉を開けると、そこには翡翠色の髪が特徴的な糸目の清楚系美人が立っていた。

 

「はじめまして、神野恵と申します。気軽にメグミと呼んでください」

 

 どこぞの女神とは違い、礼儀正しく深々とお辞儀をするメグミさん。

 女神が紹介してくれた人材とは思えなかったので、注意深く彼女を観察してみる。

 こういう日本人っぽい名前は太陽の国出身なんだろうが、顔つきはどこか外国人っぽい。

 俺の怪訝な表情に気がついたのか、メグミさんは自己紹介に補足するように付け加えた。

 

「ああ、私はハーベスト王国と太陽の国のハーフなんですの。母がハーベスト王国の人で、昔はそっちで暮らしていました」

「ハーフだったんですか。どうりで……」

 

 純ハーベスト王国出身のエリシャとは違い、メグミさんはどこか太陽の国の人間の雰囲気を残している。

 そのせいか、メグミさんには初めて会ったとは思えないほどの親近感のようなものを抱いていた。

 

「ハーフということは、二ヶ国語をしゃべれるんですか?」

 

 言葉が通じる人間が珍しかったのか、エリシャは身を乗り出すように俺の前に割って入ってきた。

 最近はそこそこ日本語が上達したエリシャだが、まだ読み書きは厳しい。言葉が通じる人間はいるだけで心強いのだろう。

 

「一応、アラビアン王国、トロピカル王国、あと氷河の国の言葉もしゃべれますわ」

「ま、マルチリンガル、だと……」

 

 予想外にハイスペックな人材が派遣されてしまったようだ。あの女神、本気を出せば凄いのかもしれない。

 

「ネイトさん、やはり女神様は凄いでしょう?」

「今回はたまたまだろ。まあ、メグミさんが凄いのは認めるけど」

「た、大したことないですわ」

 

 メグミさんは右手を振って謙遜するが、その表情はとても嬉しそうに緩んでいた。この人、思ったよりも扱い易いタイプなのかもしれない。

 

「ちなみに、どうやって女神に紹介されたんですか?」

 

 この世界の連絡手段となると手紙か電話だが、電話線はまだ開通していないため、この島に電話は存在していない。現在、島の外から業者が工事にやってきているらしいが、開通するのはいつになることやら。

 

 とにもかくにも、この島は外との連絡手段に乏しい。

 そんな状況でどうやって女神はこの人を呼び寄せたのだろうか。

 

「夢ですわ」

「夢」

 

 メグミさんから返ってきた答えは予想の遥か上を行く答えだった。

 

「お告げがあったのです。『メグミ、あなたの力を求める人がいます。その人の元へと向かいなさい』と。場所は目が覚めたら、頭の中に思い浮かんでいましたわ」

 

 紹介の仕方がぶっ飛び過ぎててツッコミどころ満載であるが、女神の力の凄さはこの身で痛感している。指示が雑なところもあの駄女神らしいしな。

 

「そ、そうだったんですか。それで、メグミさんは動物に詳しいって話ですけど、仕事は何をしていたんですか?」

「様々種類の動物の面倒を見ながら獣医のようなことをやっておりました。酪農の方も少しばかり囓っておりましたわ」

 

 それは心強い。牧場を始めるにあたって怖いのは動物の病気だ。動物系の妖精がいない現状、女神の加護でなんとかするのは厳しいものがあったのだ。

 酪農の知識もあるとなれば、文句はない人材だ。

 

「ちなみに、以前はどのくらい稼いでましたか?」

 

 前職の給料は大事なことだ。これを聞いておかないと、どのくらい給料を払っていいかわかないからな。

 カイジもエリシャも衣食住とプラスαがあるから、仕事を手伝ってくれている。

 だが、動物の面倒を見てもらうメグミさんはそうもいかない。

 小屋は余っていないし、増築するにも牧場の整備で精一杯なのだ。俺から彼女へ提供できるものは正真正銘、現金しかないのだ。

 そんなわけでメグミさんに前職の給料を聞くと、彼女は苦笑を浮かべた。

 

「……実は居候のようなものでしたので、給料はいただいておりませんでしたわ。贅沢できる身分でもありませんでしたし。毎日食事にありつけるだけでも幸せでした」

「よし、採用」

 

 どうしてコナー達妖精といい、ブラックな労働環境の人が多いだ。この世界の労働基準法はどうなっているんだ。

 あ、そうか。そもそもそんな法律、この世界に存在してなかったわ。

 

「とりあえず、少なくて申し訳ないんですけど月十六万円からで大丈夫ですかね?」

「そ、そんなに!?」

 

 なんだろう、この感じ。とてつもなく既視感を覚えるの。いくら超が付くほどのド田舎だとしても、俺の提示した額は明らかに割に合っていないと思うのだが。

 

「……まさか、こんなにもらえるとは……一体、どういうことなの……」

 

 よっぽど以前の環境が酷かったのか、メグミさんは疑心暗鬼になり始めている。

 

「なるほどなぁ……女神教徒はみんな苦労の果てに行き着いた感じだったんだな」

 

 でなければ、あんなクソ女神を信仰するわけがない。

 

「勝手に人を人生のどん底にいた人間みたいに言わないでください」

 

 俺の呟きに対して、人生どん底認定されたエリシャが頬を不満げに膨らませて抗議してくる。

 

「いや、エリシャの人生も大概だと思うぞ」

 

 孤児だったところを人身売買目的で拾われ、使えないと判断されたあげく最後は放置。普通だったらなかなか味わえない程に波瀾万丈な人生である。

 

「私自身は幸せだったと感じているのでいいんです!」

「わかったわかった。落ち着けって。それで、メグミさんはどちらに住んでるんですか?」

 

 メグミさんを住み込みで働かせるには小屋が足りない。この場所は山の上にあるから出勤のたびに上ってくるのは大変だろう。

 

「あー……考えていませんでしたわ」

 

 新天地で働くのに住む場所を考えていなかったとは。メグミさんはちょっと抜けているところがあるのかもしれない。

 いや、そんなこと言ったらエリシャはかなり抜けていることになるな。

 

「な、なんですかその生暖かい目は」

「別になんでもない。メグミさん、とりあえずはエリシャの教会に泊まってください」

「いいんですの?」

「私は構いませんよ。困っている人に手を差し伸べるのは女神教のシスターとして当然のことですから」

「本当に何から何まで申し訳ございません」

 

 こうして新たな戦力であるメグミさんはエリシャの教会に下宿することになった。

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