女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第30話 ニート、女神に保証される

 その夜。

 俺は女神に詳しい話を聞くため、今日の残り物の野菜を携えて泉に来ていた。

 

「よっと」

「ちょっと! これ残り物じゃない!」

 

 残り物の野菜を泉にぶち込むと、怒れる女神が怒号と共に現れた。

 

「せっかく人が奮発してやったのになんだよ、その態度は」

「それはこっちの台詞よ! 残り物で奮発ってどういう神経してんのよ!」

 

 今日も女神はカルシウム不足のようだ。

 今度は魚でも釣って小骨だけお供えするとしよう。

 

「俺の故郷では〝残り物には福がある〟という言葉があるんだよ」

「……その言葉が絶対こういう時に使うものじゃないことだけは確かだわ」

「そんなことより、あんな優秀な人材どこで引っかけたんだよ」

 

 俺の質問に対して女神は何故か得意げな表情を浮かべると、胸を張って答えた。……こいつよく見ると、結構胸デカいな。

 

「ふふん、さすがのあんたも今回ばかりは認めざるを得ないようね。神野恵は私が知る限り最も優秀な存在なのよ」

「お前が威張ることでもないだろ」

「うっさいわね。私が呼んだんだから私の手柄でしょう」

「それは否定しないが」

 

 なんだろう。こいつを素直に褒めることに対して物凄く抵抗感を覚える。

 

「そういえば、ステーキは?」

「牧場を始めたばかりのうちにはまだ肉牛の肥育までやる余裕はないっての。まずは酪農で稼いで地盤を固めてから育成と繁殖に手を出さないとな。それに、肥育はコスト的にも手を出すかは迷ってる」

 

 牧場の種類にはいろいろあるが、大きくは〝牛乳を作る酪農牧場〟〝肉を作る肥育牧場〟の二つに分けられる。

 うちの場合、餌を農場から調達出来る分、ゆくゆくは育成と繁殖にも手を出すつもりだ。

 肥育に関しては、コスト的に手を出すのは厳しい。だから、他の牧場に餌を出荷して稼ぐ形に落ち着くだろう。

 コナーが丹精込めて育てた飼料は、今回動物達を仕入れた牧場にも出荷予定である。

 今回はゴンさんに紹介してもらったが、牧場同士の繋がりを作るには自分で取引相手を獲得していくしかない。

 

「ほんと、牧場はやることが多くて大変だよ」

「あんた、意外と牧場の知識あったのね」

「勉強したんだよ。これでも今日から牧場主だからな」

 

 本格的に調べるまで牧場経営が大変だとは思わなかった。もし施設や土地を先に作っていなかったら余裕で諦めていたレベルだ。

 

「勉強!? ニートのあんたが!?」

 

 女神は俺が勉強していたという事実に目を見開き、驚愕の表情で叫ぶ。

 

「うっせ。俺だって勉強なんてしたくなかったよ。それでも代表者が俺である以上、牧場の知識のないゴンさんに任せっきりにするわけにもいかない。妖精のコナー達はあまり表に出したくない。そうなると、俺が知識付けて取引先に舐められないようにするしかないだろ」

 

 動物に詳しい人間を求めたのは付け焼き刃の知識ではわからないところを補うためだ。

 社会人経験のない俺がまともな経営をできないことくらい理解している。

 たとえ優秀な人材を集め、あってないような元の世界の知識を振り絞ったところでたかが知れている。だから俺自身が勉強せざるを得なかったのだ。女神の加護で無双するのにも限界がある。

 

 大学なんて社会に出たくない人間のモラトリアムと考えていたが、今ならわかる。大学は義務教育じゃない。だからこそ、高い学費を払ってまで勉強したいことがあるから通うのだと。

 そんな貴重な勉強期間をただ過ごしていただけの俺は今必死になって勉強をしている。今になってあの時勉強していればと思うなんて本当に滑稽だ。

 だが、そんな俺の滑稽さを見て女神は腹を抱えて笑うどころか、感心したように笑顔を浮かべた。

 

「なーんだ。あんたやれば出来るじゃない」

「そういうお前こそ、本気出せば良い仕事するじゃないか」

「私は女神だから当然なの!」

 

 コホン、と咳払いをすると女神は今まで見たことがないような神秘的なオーラを出して語り始めた。

 

「岩井寧人さん、あなたは今更勉強したところで遅いと思っているみたいですが、人間遅過ぎるなんてことはありません。あなたがそうして努力していることは決して無駄にはなりません。たとえ望んだ結果を得られるにしろ、得られないにしろ、その経験はあなたを形作るかけがえないものになる」

 

 初めて会った時のように、言葉にも表情にも神々しさを感じるその人物は、他力本願をスローガンに生きているあの駄女神と同一人物とは到底思えなかった。

 

「大丈夫、女神たるこの私が保証するわ」

 

 女神は最後に口調をいつもの砕けたものに戻すと、ウィンクをした。

 その言葉に少しだけ救われた気分になる。俺はこれから頑張って結果が出なくても後悔することはない。そう思えたのだ。

 

 しかし、あのクソ女神に救われたと思うのは癪である。

 

「……けっ、女神っぽいこと言ってんじゃねぇよ」

「女神だから言ってんのよ!」

 

 俺は女神に悪態をつくと、未だ改装していないボロ屋に戻った。

 ……今後、運営する牧場の規模を考えれば自宅の改装は当分できなそうだな。

 

 

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