女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第33話 ニート、新しいアイディアを思いつく

 街に着くと、俺とエリシャは真っ先に雑貨屋へと向かう。

 今日の収穫物を出荷するため、ユイさんの雑貨やまで来たわけだが。

 

「出荷、箱?」

「いえ、箱というより……」

 

 いつの間にか雑貨屋前の出荷箱が出荷倉庫にグレードアップしていた。

 

「ああ、ネイトにエリシャ。おはよ」

 

 俺とエリシャが出荷箱の劇的ビフォーアフターに唖然としていると、箒とちり取りを持ったユイさんが雑貨やから出てきた。

 

「ユイさん、それ……」

 

 エリシャは挨拶することも忘れて出荷箱の巨大化についてユイさんに聞いた。

 

「ああ、これ? ネイトんとこの出荷量が多いからカイジさんに改造してもらったの。すごいでしょ、この特大出荷箱」

「いや、箱っていうか、もはや倉庫だろ」

 

 いつの間にか出荷箱は雑貨屋と同じくらいの大きさの建築物へと変化していた。カイジの奴、いつの間にこんなものを……。

 

「てか、その馬どうしたの?」

「ゴンさんが取引先にサプライズで用意してもらった馬だよ」

「まったく、お父さんったらまた無茶なお願いして……」

 

 前にも同じようなことがあったのか、ユイさんは呆れたようにため息をついた。

 そういえば、俺がこの島に流れ着いた時もいきなり農場をやって欲しいと有無を言わさず頼んできたな。

 

「そうだ、あとで絞り終わった牛乳をミルク缶に詰めて出荷するから」

 

 牧場モノのゲームなどでは牛乳は搾ってすぐに缶に入った状態で出てくるが、実際は違う。

 搾乳し終わった牛乳は熱殺菌のため、加熱処理をしなければいけないのだ。

 八頭の牛の牛乳はとんでもない量になる。

 機械などの技術があまり発展していないこの世界でも乳搾りは、さすがに乳絞り器を使用している。

 うちの牧場ではカイジが発明した乳絞り器――というよりは搾乳システムと言っていいほど便利なものがあるため、一頭にかける搾乳時間が大幅に短縮できる。まだ試作段階ではあるが、ゆくゆくは特許を取ってもらう予定である。

 

「そっか、昨日からあんたは牧場主だもんね。楽しみにしてる」

「せっかくだし、観光資源として何か目玉商品とか作れればいいんだけどな」

 

 酪農品は一年中獲れるものが変わらない。

 ゆえに、いつでも販売できる目玉商品は酪農品からの方が作り易いのだ。

 ビニールハウスさえあれば、もっと農作の方も幅が広がるのだが、カイジも今は観光牧場の整備と酪農道具製作で手一杯なのだ。今以上に妖精の弟子を増やしてもらうしかなさそうだ。

 

「牛乳と卵があればいろいろ作れますよね」

「そうだな。コナー達がこだわり抜いた小麦も秋には収穫できるって言ったし、お土産用クッキーとか作ってもいいかもな」

 

 乳製品と卵と小麦があれば大抵の物は作れる。乳製品だけでも、牛乳、バター、チーズ、ヨーグルト、と幅広いのだ。お菓子ならば、かなりの種類を作れるはずだ。

 

「名物なら無難にアイスクリームとかだな。雑貨屋的にもふらっと寄った客がついでに買っていってくれるだろうし、売り上げにも貢献できると思うぞ」

「そだね。搾りたての濃厚な牛乳を使ったアイスなら人気商品になるだろうし」

 

 夏は特に売れるだろうし、早い段階で商品化する必要があるな。

 現状、この島の売りは綺麗な海だ。そのためダイビング目当ての観光客が少しずつではあるが増え始めている。

 行ったことはないが、港の方には取れたての海鮮をしようしたレストランも出来ているのだ。

 ここで新たな目玉として、山の上の牧場で獲れた酪農品で出来たスイーツを新たな観光資源にしてもっと観光客を呼び込みたいところだ。新鮮な野菜だけじゃパンチとしては弱いからな。

 

「帰ったら試作品を作るか。エリシャ、お前アイス好きだろ。頼んでもいいか?」

 

 料理に関して俺はからっきしなので、新商品開発に関してはエリシャに任せることにした。

 

「えっ、なんで私の好物知っているのですか?」

 

 俺がアイスの試作品製作を頼むと、エリシャはきょとんとした顔で首を傾げた。

 

「前に言ってたろ。マザーが偶の贅沢で作ってくれたジェラートが大好物だって」

「よく覚えてましたね」

「ま、たまたまな」

 

 エリシャの話していたマザーダリアに関する思い出は、やたらと記憶に残るのだ。エリシャの奴、マザーダリアの話をするときはやけに上機嫌になるからな。

 

「せっかく雑貨屋にいるんだし、材料も買っていくか」

「まいどありー! うちにも利益のある話だし、安くしとくよ」

「ありがとな、ユイさん」

 

 こうして俺とエリシャは早速、家に戻ってジェラート作りに取り掛かるのであった。

 

「ネイトさん、ジェラートとアイスクリームって何が違うのでしょう。同じアイスじゃないんですか?」

「確か空気の含有量だった気がするぞ。ジェラートの方が空気が少ないから濃厚で口当たり滑らかなんだとさ」

「お菓子作りの勉強もしたんですか?」

「正確には勉強中だ」

 

 俺は近くにおいてあるお菓子作りの本をエリシャに見せる。

 観光牧場といえばソフトクリームというイメージがある。だが、牧場でソフトクリームというのも安直すぎる気がしたので、ジェラートを目玉商品にすることにしたのだ。

 

「まずはバニラエッセンス以外の材料を火にかけて、っと」

「手慣れてるな」

「マザーダリアに教わりましたから」

 

 鍋に火をかけながらどこか楽し気にエリシャは笑う。

 

「なんだかこうして誰かと料理をしていると、昔を思い出します。孤児院のみんなが集まってマザーが作るジェラートを楽しみにしてたんです」

 

 昔を懐かしみながらも、エリシャは手を止めずに鍋をかき混ぜる。

 そういえば、この島に来たときにエリシャは「簡単な料理しか作れない」と言っていたが、ずっと俺の食事を作っていたからか、かなり料理上手になっている気がする。

 

「それで、私も作りたい! って我儘を言って自分で作ったんですけど、そのときは失敗しちゃいました」

「偶の贅沢で失敗って、結構微妙な思い出だな」

「そんなことないですよ。失敗してうまく固まらなかったドロドロのジェラートも食べたら意外とおいしかったんです。そのときは不思議だったんですけど、マザーに言われたんです。失敗したのにおいしいのは自分で作ったからだって」

 

 なるほど、エリシャの言うことも一理ある。失敗しても自分で頑張って作ったんだからおいしく感じる、か。

 ん? 何か面白そうなことができる気がする……。

 

「さあ、冷やしてミキサーにかけていきますよ!」

 

 何かを思いつきそうだったのだが、楽しそうなエリシャの声に思考を中断する。

 それからは、タッパーで冷やして凍ったらミキサーにかけ、再び凍らせるという作業を行った。あとは冷蔵庫から取り出したジェラートを器に盛りつけて完成だ。

 

「できました!」

「おっ、うまそうだな」

 

 器に盛りつけられたジェラートはシンプルな見た目をしているが、とてもおいしそうに見える。これも自分の手で作ったからだろうか。いや、俺がやったのはミキサーかけるくらいだったけども。

 

「ネイトさん、味見をお願いします!」

 

 好物だというのに、エリシャはためらうことなく俺に完成したジェラートを差し出してきた。

 

「エリシャが先に食えよ。好物なんだろ?」

「好物だからです。完成品はネイトさんに一番に食べてもらいたかったんです」

「お、おう」

 

 まったく男が照れるようなことを素でやってくるなこいつは。照れていることを気取られないように、平静を装いジェラートを口に入れる。

 

「うま!? めっちゃ濃厚だし、滑らかさやばいな、これ! エリシャも食ってみろよ!」

「はい、いただきます! んん――――っ、おいしいです! おいし過ぎます! はぁ……なんて幸せなんでしょう……」

 

 ジェラートを食べたエリシャは、今まで見たことがないくらいに目を輝かせて至福の表情を浮かべる。その表情は幸せのあまりジェラートより蕩けていると言っても過言ではない。

 さて、ジェラート作りは成功したが、引っかかっていることがある。

 俺はさっき何を思いつきかけたのだろうか。

 

「うーん……」

「あれ、ネイトさん。どうしたんですか?」

 

 ヘブン状態から復帰したエリシャは怪訝な表情で俺の顔を覗き込んでくる。

 

「いや、何か良いアイディアが浮かんだ気がするんだが……エリシャさっきの思い出話をもう一回してくれないか」

 

 確か、エリシャの昔話で何かを思いつきそうだったはずだ。

 俺はエリシャに頼んで、もう一度昔話をしてもらうことにした。

 

「は、はい。昔、マザーや孤児院のみんなでジェラートを作ったとき、うまく作れなかったんですけど、食べてみたらすごくおいしくて……」

「うんうん、それで?」

「マザーに『なんで失敗したのにおいしいの?』って聞いたら『それは自分の手で作ったからだよ』って言われて――」

「それだ!」

 

 失敗してもおいしいのは自分で作ったから。

 これだよ。俺がアイディアを思いついたきっかけは!

 

「自分で作るジェラート……は手間がかかるから、ソフトクリームにしよう! ソフトクリームマシンをセットして、自販機みたいにお金を入れたらアイスが出てきて自分でそれを巻くんだ! 作る手間どころか人件費もかからないし、最高じゃないか!」

 

 勝手に一人で盛り上がる俺を見て呆けていたエリシャだったが、俺のアイディアを理解したのか、再び目を輝かせ始めた。

 

「自分でソフトクリームを作る……それ、最高じゃないですか! 子供は絶対喜びますよ! なんなら私だってそんな機械があったらやってみたいです!」

 

 牧場の名物を二つも思いついてしまうなんて、今日は何ていい日なのだろうか。

 結局装置を作るのはカイジに任せることになってしまうだろうが、今日くらい素直に喜んでもバチは当てられないだろう。

 

「そういえば、牧場の名前はどうするんですか?」

 

 ひとしきり騒いだ後、エリシャが牧場の名前を聞いてきた。そういえば、まだ誰にも言っていなかったな。

 

「そんなの考えるまでもないだろ」

 

 まあ、そもそも言うまでもないことだと思ってはいたのだが。

 

「〝女神牧場〟一択だ」

 

 女神の加護を受けた島の牧場。そんな牧場の名前に、女神牧場以外にしっくりくる名前はないだろう。

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