女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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第41話 ニート、観光協会を味方につける

 目が覚めると、カーテンの隙間から朝の光が射しこんでいた。

 随分と長い間眠っていたみたいだが、不思議と頭はすっきりしていた。

 体を起こすとベッドから這い出る。女神の加護のおかげなのか、嘘のように体が軽い。

 

「まずは、身なりを整えないとな」

 

 俺は女神牧場の代表だ。ならやるべきことは遅れたスケジュールを取り戻すこと。

 そのためにも観光牧場の人達の協力は不可欠だ。

 温泉に入り、髭を剃って整髪料で髪を整える。服は営業用に買ってあったスーツがあったからそれを着る。

 

「ネイトさん、もう起きて大丈夫なんですか!?」

 

 俺が事務所で資料をまとめていると、エプロンを付けたままのエリシャが勢いよく事務所に入ってくる。

 

「心配かけてごめんな。もう大丈夫だ」

 

 俺は心配させないように笑顔を向けると事務所の扉を開けた。

 

「仕事を増やして悪いがコナーに俺の復帰を伝えておいてくれ。俺はこれから観光協会に顔を出してくる」

「ふふっ、本当にもう大丈夫みたいですね。わかりました。いってらっしゃい」

 

 エリシャはそういうと手を振り、笑顔で見送ってくれた。

 

「ああ、いってきます!」

 

 俺はスーツの裾を翻して、事務所を後にした。

 事務所を出ると太陽が元気よく顔を出しており、秋だというのに今日も一日暑くなりそうな天気だった。

 

 俺はロープウェイに乗りながら今後の対応を考える。

 ゴンさん達、観光協会の人達を今まで以上に巻き込む。収穫祭を成功させるにはそれしかない。

 元々彼らは、ほぼ独占的に利益を上げている女神牧場に少なからず不満があった。

 結果的には島の発展に繋がっているものの、それでは達成感が得られない。

 何もかも女神牧場のおかげで自分達はそのおこぼれに預かっているだけ。利益という結果でそれを突き付けられるのは気分のいいものじゃない。

 観光協会からすれば、女神牧場は女神の力を使ってよくわからないけど、自分達を差し置いてなんかいい感じに儲けている。そういう風に見えてしまうのだ。

 自分達が一枚も噛ませてもらえない。だから何をしているか具体的な現状がわからない。

 

 だから少しでも心配する要素があれば、日頃の不満からケチをつけたくなるのだ。

 これではどんなに正当な理由だったとしても、相手からしたらただの言い訳にしか聞こえない。それが自分の理解の及ばない範囲のことなら尚更のことだ。

 だから、まず俺がすべきことは謝罪だ。

 

「この度はご心配をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした!」

「まったく、代表者の君が倒れてしまっては本末転倒だろうに」

「返すお言葉もございません」

 

 観光協会の会合に顔を出すと、俺は真っ先に頭を下げた。

 

「女神牧場さんもまだまだ未熟ってことね」

「収穫祭はどうなるんだ」

「まあ、ネイト君もまだ若いからな」

 

 それと同時に呆れや失笑の声も聞こえてくる。それは甘んじて受ける。この人達の力だって必要なのだから。

 

「ご迷惑をおかけした上にこのような厚かましいことを申し上げるのは恐縮なのですが……」

 

 ゴンさん達は〝数字〟よりも〝情〟で動くタイプの人達だ。

 ならば、彼らの自尊心を満たしつつ、情に訴えかけるのが最も効果的だ。

 

「今の私の力では、収穫祭を成功させることは不可能です。ですから、どうか今以上のお力添えをお願いできないでしょうか。この島の発展のため、何卒お願い申し上げます!」

 

 今まで欠点ばかりを見てきたが、こんな無人島に流れ着いてから自分の持っていたコネを生かして商売をして、ここまで島を豊にしたのだ。

 本当に無能な人間ならば、無人島に流れ着いてから何も成すことは出来なかっただろう。

 現に今も観光協会のトップのような存在になっている。

 

「ネイト君。顔を上げなさい」

 

 だから、この人さえ落としてしまえば観光協会を落としたのと同義だ。

 

「やっと言えたじゃないか。君は若さ故に少々無茶をするところがあったからな。これからはもっと私達を頼りなさい」

「はい……!」

 

 ゴンさんが俺の肩に手を置いてなんかそれっぽいことを言っている。

 ここで重要なのはゴンさん並びに観光協会の人達から言質を取ることだ。

 

「さて、我々を本腰を入れて未来ある若者のために頑張るとしますかね」

「やれやれ仕方ないねぇ」

「忙しくなりますなぁ」

 

 鶴の一声とは、まさにこのこと。ゴンさんの発言から空気は女神牧場を助ける方向へと変わった。

 

「ありがとうございます! この島のため、女神様のため、収穫祭を絶対に成功させましょう!」

『おぉ!』

 

 全員が揃って声を上げる。その光景に俺は思わず笑みがこぼれる。これで容赦なく観光協会へ業務を投げることができる。

 

「はぁ……やっと茶番が終わった」

 

 安っぽい青春ドラマのような一幕を終え、俺はロープウェイ乗り場へと向かっていた。

 

「ネイト、もう動いて大丈夫なの?」

 

 その途中、ユイさんが俺の元へと駆け寄ってきた。

 

「ユイさんにも心配かけたな。もう大丈夫、すっかり元気だよ」

「なら、良かったけど」

 

 ユイさんは口ごもり、視線を逸らして頰をかいた。どこか気まずそうな様子だ。

 

「そうだ、ユイさんも女神牧場まで来てくれないか? これから観光協会へ投げる業務のまとめとか、いろいろ調整しなきゃいけないんだ」

「なるほど、橋渡し役ってことか。いいよ、今からついてく」

 

 俺の提案をユイさんは二つ返事で了承してくれた。

 それから準備を終えたユイさんと共にロープウェイのゴンドラへと乗り込む。

 

「……なんかごめん。この島に来てから父さんのせいで無理ばかりさせちゃって」

 

 しばし沈黙が続いた後、ユイさんが躊躇いがちに口を開いた。

 

「ずっと、ずっと謝ろうと思ってた。一番キツイ役目を押し付けたのに、みんなネイトのことなんて誰も気にしてなかった。真っ先にあんたに感謝すべきだったのに、ホントごめん」

 

 今にも泣き出しそうな声でユイさんは謝罪する。

 ユイさんの言う通り、俺はこの島に流されてから誰かに何かを押し付けられていた。

 

 ゴンさんからは野菜の栽培を。

 女神からは島の発展を。

 

 でも、俺だって面倒ごとはコナーに押し付け、身の回りの世話はエリシャに押し付け、建築や道具関連は全てカイジに押し付けていた。

 最初こそ、理不尽な要求に憤ったりもしたが、今はありがたいとさえ感じる。

 

「何かを頼むってことはさ。それだけその人に期待してるってことだと思うんだ」

「え?」

「この島に来る前、俺は親の脛を齧るだけのニートだったんだ」

 

 俺はロープウェイから見える夜景を眺めながら、ユイさんに自分のことを話し始めた。

 

「うちの親は塾も、習い事も、俺のためになるからってなんだってやらせてくれた。でも、俺は全部途中で投げ出した。尽くしてもらったのになんの成果も出せなくて、みんなに失望されるのが怖かったんだ。負けず嫌いで変にプライドが高かった俺はそれが嫌で、怠いから本気は出さない、なんて斜に構えて頑張ることから逃げていた。ずっと逃げ続けていたんだ」

 

 でも、この島に来て以前と同じような暮らしをしていて気がついたのだ。

 

「俺はもう逃げない。期待に応えたいんだ。こんな俺が頑張るきっかけをくれた女神のため、いろいろと協力してくれたコナーやユイさんのため、俺を信じてついてきてくれるエリシャやカイジ、メグミさんのため、何よりもう一度頑張ろうって決めた自分自身のためにも、俺はもう逃げない」

 

 頑張ることから逃げたところで、結局苦しいのは自分自身なんだ。

 

「だから、ユイさんも本当にもう気にしないでくれ。俺はみんなに感謝してるんだ」

「ネイト……ありがと。本当に変わったんだね。もしこの島に流れ着いたときに、その状態だったら惚れてたかも」

「ははっ、最高の誉め言葉だよ」

 

 俺達は互いに笑い合う。この島に流されたときは絶対に仲良くなれないと思ってたが、こんな形で笑い合えるだなんて不思議な気分だ。

 

 人は環境次第でいくらでも変わることができる。心からそう思えたのだった。

 

 

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